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船舶の燃費改善に効果があると期待されるFRP製 Rotor Sail

2025-03-03

船舶の燃費改善に効果があると期待されるFRP製 Rotor Sailはこれからタンカーなどの海上輸送船に搭載されていく可能性がある

船舶の燃費改善に効果があると期待されるFRP製 Rotor Sail について述べたいと思います。

今回参考にしたのは以下の記事になります。


Anemoi installs 35-meter-tall composite rotor sails on Sohar Max maritime vessel

 

 

 

Rotor Sail は Magnus effect で推進力を得る

船舶の船体にFRPが使われるのは有名な話ですが、
それ以外にも船舶向けのFRP用途が存在します。

固定翼は一例です。

 

※固定翼の例

Telescopic hard sail concept for bulk carrier


これはその名の通り、風を受ける帆をFRPで剛直なものとして、
風受けとして使用するというものです。

 

 

Magnus effect とは

これに対し、Rotor SailはMagnus effect(マグヌス効果)により推進力を得ます。

Magnus effectについては以下の動画が分かりやすいです。


円形断面が例えば時計回りに回転している際、
その断面の右側から流体(例:気体など)が流れてきた場合、
断面向かって上側では回転の方向と流速の方向が衝突するイメージになるため流れが遅くなる、
つまり圧力が高くなります。

一方で断面向かって下側は前述した2つの方向が同じになるため、
流速が増して圧力が低くなります。

すると圧力が高いほうから低いほうに物体が移動する力が発生するという仕組みです。

この力は流体の密度と流速に比例します。

 

 

Rotor SailではMagnus effectによる推力の最大化を目的に回転数を制御

Magnus effectを活用して船舶の推力にするためには、
推進方向を正面に見た場合、
左から右に風がふく場合は上から見た際はRotor sailを時計回りに回転させ、
逆の方向の場合は反時計回りにする必要があります。

また、それ以外の方向から風がふく場合、
Rotor sailの回転数を変更する、
場合によっては回転を止めるといった対応も必要です。

動画で紹介した例だと、
この辺りを自動制御しているのが分かります。

 

 

 

Rotor Sailにより燃費を最大6%改善

冒頭紹介した記事の内容に戻ります。

Rotor Sailの設計を担当したのは、イギリスのAnemoi Marine Technologiesです。

 

このRotor Sailを搭載したのは400,000dwtのVery Large Ore Carrier(VROC)、
つまり超大型の鉱石運搬船で、3本のRotor Sailを搭載したのがわかります。

これにより6%の燃費改善を実現したようです。

概要については以下の動画で見ることができます。

 

 

Rotor Sailの概要

Anemoi Marine TechnologiesのRotor Sailについてみていきます。

 

形状

直径5m、高さは35mです。
最上部に後述する直径9mの円盤が取り付けられています。

この円盤はRotorの上を通って高圧流体が低圧流体側に流入してしまうことで、
Magnum effectが薄れることを抑制しているようです。
航空機の主翼の先端にあるウィングレットと同じような役割と推測します。

動画にもあるようにRotor Sail自体が回転する機構となっています。

 

材料構成

金属製の骨格の上に外殻としてFRPが巻き付けられています。

強化繊維はガラス繊維、マトリックス樹脂はエポキシです。
Rotor Sail最上部の円盤はPETリサイクル材を用いた発泡材をコア材とした、
明記されていませんが恐らくスキンがGFRPのサンドイッチ構造と考えます。

 

成型法

Rotor Sailのスキン材は、
引抜成型とフィラメントワインディング(FW)を組み合わせて成型しています。

最上部の円盤はインフュージョンによって成型したとのことです。

 

※関連コラム

熱可塑性FRP製の高圧タンクに対する連続リサイクルプロセス(フィラメントワインディングの概要)

インフュージョン成形の効率化に貢献するメディア G-FLOW

 

Rotor Sailが耐えるべき圧力係数の数値は10以上

冒頭引用した記事によると、

”it acts as a large beam to withstand pressure coefficients of 10 or more, and as it rotates”

とのことで、圧力係数という数値で10以上、
さらに遠心力に耐える設計にする必要があると述べられています。

情報の確からしさは不明ながら、
この設計要件は風力発電のブレード以上に厳しいとの記述が記事内にあります。

 

圧力係数とは

圧力係数について少し見てみます。

基本となるのはベルヌーイの定理です。

流体の圧力をp、密度をρ、流速をvとすると、
例えば円筒内を流れる流体の断面積が異なる2つの条件において、

ベルヌーイの定理

という関係が成り立ちます(位置エネルギーは無視しています)。

両辺の第一項が静圧、運動エネルギーを示す第二項が動圧といいます。

 

※参照情報

ベルヌーイの定理

 

流体の静圧(流体自身の圧力)をp0
速度ベクトルが一定の流れである一様流の静圧、密度、速度をそれぞれ、
p、ρ、Vとすると、圧力係数Cpは下式のように示されます。

圧力係数は一様流の静圧の変化分を一様流の動圧で割って算出する。

一様流の静圧の変化分を一様流の動圧で割って算出しています。


このCpは流体の静圧が一様流動圧の何倍増減したかを示す指標であり、
ご紹介したRotor Sailではそれが10に相当するということを意味しています。

 

回転させずに風が水平方向に通過するときと比べ、
Rotor Sailを高速回転させることにより、
船舶の推進方向側にその10倍の動圧由来の負圧、
つまり圧力低下を起こさせて推進力に換えていると解釈できます。

Rotor Sailが回転により負圧を発生させる際、
構造物に強い遠心力と片持ちの繰り返し曲げ荷重がかかることと同等になるため、
動的疲労に加え、クリープのような静的疲労に対する材料耐性が重要となります。

以下の参照情報を参考に記述しましたが、
当該サイトの”圧力係数の値が表す意味”という項のイメージ図をご覧いただくと、
圧力係数について、よりイメージがわきやすいかもしれません。

 

※参照情報

圧力係数 ー 流体の圧力の無次元化

 

※関連コラム/連載

はじめてのFRP – 樹脂の クリープ 破壊

「 機械設計 」連載 第三十四回 FRP動的疲労試験結果分析の基本となる相関分析と回帰分析概要

CFRP、GFRPの設計に重要な 疲労限度線図

 

FRPの密度の低さは回転を担う据え付け土台の簡素化と船舶輸送能力維持に重要

考えてみれば当然ですが、Rotor Sailは船舶にとって追加設備です。

この構造材が重ければその土台も頑丈にする必要があり、
結果的に全体重量が大きくなります。

船舶によって得られる最大浮力は決まっているため、
この追加設備の重量分、輸送能力が削減されることになってしまいます。

よってFRPを適用することによる軽量化はRotor Sailにとって大きなメリットになります。

 

FRPの耐腐食性の高さもRotor Sail具現化に貢献

もう一つFRP適用動機として理解しておきたいのが、
耐腐食性の高さです。

潮風にあたり続けるRotor Sailは腐食しやすい環境にあります。

FRPが塩分などの電解質と接触しても腐食しないことは、
長寿命化に大きく貢献します。

前述の疲労特性を考慮した材料データも踏まえ、
25年間使用できる設計にできたのも、
FRPの耐腐食性の高さが大きかったといえるでしょう。

 

※関連コラム

環境製品宣言を行ったFRP適用バタフライ弁

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Magnus effectを応用した風力発電システム

今回ご紹介したRotor Sailの機能発現の基本であるMagnus effectは、
垂直軸型の風力発電にも応用されています。

Magnus effectで回転起動する様子が、
風洞実験で示されています。

この動画はチャレナジーという企業のものですが、
Rotorに加えて翼をつけたのがポイントで、
台風に匹敵するような風速でも安定して発電が可能とのことです。

最近は垂直軸型の風力発電機の増加に備え、
猛禽類の視認性確認を行う実験も行われているようです。
これは猛禽類が発電機に衝突することを回避する手法開発が目的です。

Magnus effectを調べていた際、垂直軸型の発電機と一緒に出てきたのが、
縦渦リニアドライブという新しい形式の発電機。

今回ご紹介した内容と直接は関係ありませんが、
大変興味深かったので動画を参考までにご紹介します。

 

 

 

まとめ

FRPをスキン材に用いた船舶に搭載するRotor Sailと成型法を含む概要、
そしてこの構造物によってもたらされる推進力向上の原理であるMagnus effect、
さらには当該効果を評価する一指標である圧力係数についてご紹介しました。

Magnus effectを応用した垂直軸型の発電機も興味深かったです。

FRPがRotor Sailに用いられた動機は軽量化への貢献と耐腐食性の高さ。
海上輸送は国をまたいだ物流の基本の一つであり、
そこにFRPが構造部材として貢献できていることは喜ばしいことです。

技術そのものは決して目新しいものではありませんが、
最新の制御技術と組み合わせることで、
その効果を最大化できれば今以上に適用が拡大していくと考えます。

 

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