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環境製品宣言を行ったFRP適用バタフライ弁

2024-04-15

耐水性や耐腐食性の高さはFRPの強みの一つと言えます。

この強みを液体や気体の流量調節を担うバタフライ弁に適用し、
環境製品宣言を行った Butterfly Valve 565 についてご紹介したいと思います。

ディスク材にFRPを適用した butterfly valve 565は環境製品宣言の認証を取得した。

Photo Credit: GF Piping System

 

 

FRPを適用したバタフライ弁がライフサイクルで金属製の物より優れた評価結果を示した

参考にしたのは以下のプレスリリースです。

The first industrial butterfly valve with an Environmental Product Declaration (EPD)

 

主たる観点として以下の点が述べられています。

金属製のバタフライ弁とFRP製の弁を比較することで、
その違いを述べています。

 

– 製造(材料、輸送、生産)、設置(輸送、組み立て)、製品寿命(輸送、廃棄)の一連の工程において、
75%の温室効果ガス排出削減を実現した。

– 製造における気候変動への影響を33%低減できると見積もられた。

– 製品の製造から廃棄までの一連において、水の使用を21%削減すると予想された。

– 軽量化の効果により、輸送における温室効果ガス排出量を50%削減できると考えられた。

 

バタフライ弁をFRPにすることで、材料生産に必要なエネルギーや水を削減できたことに加え、
軽量化で輸送中のエネルギー消費低減、そして耐水性が上がってメンテナンス期間が延びたといった観点が、
上記の結果に影響を与えていると考えます。

 

 

環境製品宣言は評価を通じた製品のライフサイクル環境影響への主張を意味する

ここで理解しておきたいのが、EPDという単語です。

Environmental Product Declarationのことで、日本語だと環境製品宣言というようです。

環境製品宣言というのはグリーン主張の一種であることが、
環境省の委託調査結果でも触れられています。

※参考情報
環境フットプリント(EF)のパイロット段階におけるEU 製品環境フットプリント(PEF)の実施ガイダンス

 

Butterfly Valve 565 はこのEPDの認証を取得したということになります。

 

 

EPD認証のための評価概要

どのような評価を行ったのかについては、
以下のような公開データで見ることができます。

Environmental Product Declaration

 

今の時代、どのような製品であっても地球環境への影響を無視することはできません。

ここでは以下の評価軸で環境への影響を評価しています。

– Product stage

– Construction process stage

– End-of-life stage

– Beyond the system boundaries

製品のゆりかごから墓場までを見渡して、
各段階でどのような環境影響があるのかを評価しています。

一言でいえばライフサイクルアセスメント(LCA)ですね。

プレスリリースによると製品寿命は23年で評価しているようです。

 

評価対象パラメータは幅広い

二酸化炭素排出量はもちろん、消費するエネルギーや水、
急性毒性物質や有害/無害廃棄物の排出量、
更にはオゾン層を破壊する恐れのあるクロロフルオロカーボン類(CFC 類)の排出量等、
様々な観点から環境への影響を試算しています。

輸送項目では、FRP化による軽量化のメリットに触れられています。
この製品は金属製からFRP製にすることで60%の軽量化に成功していることから、
輸送時の二酸化炭素排出削減効果が大きいとの事。

今回ご紹介する製品がスイスで製造され、
ドイツ、中国、北米という主たる市場に輸送されるにあたって、
陸路、海路、空路でどのくらいの輸送距離になるかといった計算もなされています。

同様に製品の組付けや保守、そして製品最終廃棄が各地で行われる場合の試算も含まれており、
幅広い観点を細かいパラメータを導入していることがわかります。

 

その一方で廃棄においては金属製の従来品にやや見劣りする印象です。
FRPは20%しかリサイクルできず、80%が埋め立て処理という評価結果だからです。
事実その程度だと思います。ここはFRPの課題です。

 

また、人力作業による環境への影響は、
無視できるほど小さいという前提が興味深かったです。

正確には人間も食物や水を消費し、
動くことによる二酸化炭素排出や排せつなどの環境負荷を与えると考えると、
本当に無視して良いのかはわかっていません。

 

 

 

Butterfly Valve 565の概要

製品の概要を理解するにはButterfly Valve 565のオンラインカタログをご覧いただくのが一案です。

 

これを参考に概要を見てみます。

 

 

Butterfly Valve 565の基本構成

カタログのp.6に述べられています。
青く見えるレバーで弁の開閉をするようです。

弁の開閉状態を目視で判断できることに加え、
開閉状態を電気信号で送受信する機構も組み込まれていることから、
電動アクチュエータでの開閉制御が可能のようです。

スマートファクトリーでモニタリングや詳細制御を行うIoTが常識になりつつある今、
このような機能は不可欠ですね。

尚、空気圧アクチュエータ適用も可能とのことです。

これらについてはカタログのp.7に記載があります。

シーリング領域にはEPDMやFKM(フッ素ゴム)を使うのは、
一般的なバタフライ弁と同様です。

 

 

FRP製部品概要

注目すべきはディスクとウェハーの構成材料です。

これらの構成材料についてp.5で述べられています。

Wafer: fibre reinforced polyamide (PA6-60)
Disc: PVDF with fibre reinforced polyamide (PA6.12-GF60)

ウェハーというのは弁の締結方法でいうウェハー型であることを意味しており、
恐らく灰色をした外殻構造全体の事を指しているものと考えます。

ここに使われているのはPA6-60とのことで、
PA6(ポリアミド6)をマトリックス樹脂として重量で60%のガラス短繊維を含まれているもので、
射出成形によって成形しているようです。

ディスクは弁の構成材料で特に重要なものと考えます。
構成材料はPA6.12-GF60とのことでPA6とPA12をアロイ状態で射出成形したのかもしれません。
ガラス繊維は同様に重量で60%入っています。

PA12を使うのは剛性や耐吸水性がPA6だけでは不足すると判断している可能性もあります。

そして表層をPVDF(Poly Vinylidene Fluoride)で被覆していると考えます。
フッ素系の樹脂をディスクに使うのはバタフライ弁では一般的のようです。

PA系樹脂は親水性のアミド基を構造に有するため、
水にさらされる用途での吸水は不可避であることから、
撥水性材料による被覆対策が必要だと考えます。

 

※参考情報
バタフライ弁まるわかりガイド

 

量産性を念頭に射出成形を採用したというのは、
製造的観点から妥当だと私も考えます。

 

 

 

FRP適用の波及効果を考えるにあたり軽量化や耐久性だけでなく環境影響まで見据える必要がある

 

今回ご紹介した内容で考えるべきことは、

「FRP適用を検討するにあたっては軽量効果や耐水性、耐腐食性に加え、
製造から廃棄までを考えた場合の環境影響を考える必要がある」

ということでしょう。

 

研究開発の目線だと、機能性や生産性、原価抑制といった、
製品の初期段階のみを考えた視点にとどまりがちです。

しかしシミュレーション技術や試算理論が発展し、
かつ地球環境保全への関心が高まる昨今の風潮を踏まえれば、
今回のようにライフサイクルアセスメントをはじめとした多角的視点を持ち、

「製品の製造、使用、廃棄という一連の製品寿命を念頭に置いた際、
FRP化は環境影響評価でどのような効果があるのか」

について、

「定量的かつ客観的に評価する姿勢」

が求められていると考えます。

 

技術的観点だけでなく社会的観点を持ちながら、
製品開発を行うという姿勢がますます重要になっているのではないでしょうか。

 

 

 

まとめ

バタフライ弁のディスクとウェハーをFRP化することにより、
環境への悪影響を抑制したというEPD認証取得の事例を紹介しました。

金属製からFRP製に主要部品を変更する主たる目的は、
軽量化と耐水性/耐腐食性向上にあります。

しかしこれらの目的を技術的強みとして述べるだけでは、
受け入れられない時代となっていると感じます。

製品寿命の総合的評価であるライフサイクルアセスメントを実施し、
製品が生まれてから廃棄されるまでのトータルで見た時、
地球環境への影響が抑制されているのかを評価する視点が必要だと思います。

そしてFRPの強みである形状追従性を活かし、
補修によってより長く使うという観点も合わせて重要です。

バタフライ弁の寿命は23年として評価していますが、
FRP補修によりこれが30年や40年、もしくはそれ以上にすることができれば、
環境影響がさらに抑制できる可能性もあります。

 

製品開発戦略のご参考になれば幸いです。

 

 

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