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はじめてのFRP – 樹脂の クリープ 破壊

2015-10-19

今日は、 はじめてのFRP として樹脂の クリープ 破壊についてご紹介します。


本テーマの参照データには私が所属している SPE (米国プラスチック技術者協会)の定期刊行誌である、 Plastics Engineering July/August 2015 を使いたいと思います。


以下のURLで電子データを見ることができます。

http://read.nxtbook.com/wiley/plasticsengineering/julyaugust2015/index.html?navItemNumber=11347

 

ご存じの通り、CFRPもGFRPもマトリックスは「樹脂」です。


FRPの日本語名称は「繊維強化プラスチック」。

つまり、強化繊維をプラスチックで賦形(ふけい)したものです。

賦形とは形を作ることを言います。

繊維強化プラスチックは、強化繊維とその繊維が形を保持するためのマトリックスとして用いられるマトリックス樹脂の組み合わせでできています。

 

そしてほとんどの場合、破壊はこのマトリックス樹脂を発端として生じます。


繊維が先に破断してそれから樹脂が破壊するということはほとんどありません。


そのため、マトリックス樹脂の破壊について理解しておくことはFRPの破壊を理解することにつながっていきます。

 


今日はこの樹脂の破壊のうち、


クリープ


という形態の破壊について述べてみたいと思います。

 

 

そもそも クリープ とは何でしょうか。

ウィキペディアには、


「クリープ ( creep ) は、物体に持続応力が作用すると、時間の経過とともに歪みが増大する現象」


と書かれています。

(引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%97


わかりやすい表現です。上記のイメージを持っていただければ十分です。

 

そして先述した SPE の Plastics Engineering の以下のページから樹脂の クリープ について述べられています。

http://read.nxtbook.com/wiley/plasticsengineering/julyaugust2015/consultantscorner.html?navItemNumber=11347


突然ですが、どのようなアプリケーションの時に クリープ を気にしなくてはならないのでしょうか。


上記の雑誌には、以下の3点の場合特にクリープに気を遣うべきだと書かれています。

 

– 梁や柱などの構造物


– パイプ、タンク、バルブなど流体に関連するもの


– プレスフィットやファスナーなど接合部分に関連するもの

 

すべてに共通するのは、


ある一定の力(荷重)がかかり続ける


ということです。


樹脂のようないわゆる高分子(ポリマー)についての常識として、


– 温度環境などと同様、一定荷重により物性は経時変化する


– 極低荷重の繰り返し疲労によって脆性破壊(バリっと割れるイメージ)する恐れがある


というのがあります。

 

つまり、繊維で強化しているとはいえFRPにおいても対岸の火事ではないわけです。


そしてこのようなクリープ破壊のキーワードとなるものが、樹脂のような高分子がもつ、


粘弾性 ( Viscoelasticity )


になります。

 

粘弾性というのは、ばねのように与えた力に対して時間差無く応答するいわゆる樹脂の成分と、ダッシュポットのように与えた力に対して時間差を持って応答するゴム成分の両方が共存している状態を言います。

この粘弾性は高分子であれば必ず存在する特性ですので、当然ながら樹脂にも粘弾性はあるということになります。


3次元架橋がメインの熱硬化性樹脂でも分子鎖の絡み合いがメインの熱可塑性樹脂でも当然ながら粘弾性は存在します。
(SPEの雑誌の中では粘弾性は熱可塑性樹脂固有と書かれていますが、程度の差があるだけで熱硬化でも粘弾性は存在します)


FRP業界に限らず、樹脂については射出成形やプレス成型の時の樹脂の流れを見る、という観点でしか粘弾性特性を評価しない傾向があり、長期的変形に対する評価は不十分であるというのが現状です。

 

しかしながら樹脂も粘弾性特性によりクリープ変形するということは知られています。

その一例を下図に示します。

長時間同一荷重にさらされた場合のポリエステル樹脂について、横軸が時間、縦軸が見かけの弾性率を示したグラフです。

polyester_creep

(The image above is referred from http://read.nxtbook.com/wiley/plasticsengineering/julyaugust2015/consultantscorner.html?navItemNumber=11347 .)


1万時間の低荷重負荷により見かけの弾性率が半分程度に低下していることがわかります。


このような見かけ弾性率の低下はどのようなメカニズムで起こっているのでしょうか。


基本的には、降伏点以下の応力では分子鎖のからみがほどけるということにより、
分子の再配列が進むことで弾性率の変化、ここでいうと剛性の低下が起こります。


そして、この粘弾性へ影響を与える2つの重要な要素があります。


それは、


1.温度


2.ひずみ速度


です。

粘弾性に影響があるということは、
クリープ破断の形態にも影響を与えることとなります。


上記のうち2.ひずみ速度による破壊形態の差異を視覚的にわかりやすくまとめてくれているのが以下の図です。

縦軸が負荷応力、横軸がひずみ速度です。

strain_rate_impact
(The image above is referred from http://read.nxtbook.com/wiley/plasticsengineering/julyaugust2015/consultantscorner.html?navItemNumber=11347 .)


上図から早いひずみ速度の場合は延性破壊( Ductile Failure )、ひずみ速度が遅い場合は( Brittle Failure )となっていると示されています。

 

また応力が破壊形態に与える影響の概略は下図で示されています。

縦軸が負荷応力、横軸が破断までの経過時間です。

stress_impact
(The image above is referred from http://read.nxtbook.com/wiley/plasticsengineering/julyaugust2015/consultantscorner.html?navItemNumber=11347 .)

応力が高いほど延性破壊、低いほど脆性破壊になり、当然ながら破断に至るまでの時間は低応力の方が長いことなどが概略的に示されています。

 


延性破壊と脆性破壊が起こるときに、材料の内部ではどのようなことが起こっているのでしょうか。

プラスチックの破壊というのは、基本的に高分子鎖がほどけるという事象を通じた応力解放がきっかけとなるのが一般的とのこと。

この高分子鎖がほどけるというのは、分子間力であるいわゆる Van der Waals 力や水素結合の力よりも外力による変形荷重が上回った時に起こると考えられています。

延性破壊の場合は高分子鎖のマクロ的な再組織化、脆性破壊は局所的な高分子鎖の”ほどけ”がきっかけとなって起こるものである、と上記雑誌中では述べられています。

このような観点から分子が基本的に剛直な熱硬化性樹脂の方がクリープ特性が優れている、ということが言えます。


そして長時間荷重負荷による Creep 応答が高温での応答と類似の傾向を示す、
ということからクリープ寿命を予測しようということが試みられているそうです。

Time – temperature superposition ( TTS )と呼ばれるこの手法は DMA ( Dynamic mechanical analysis )と引張試験を組み合わせて行う評価のようです。


まずはDMAにて樹脂の弾性率の温度依存性を調べます。

下図はPC(ポリカーボネート)の一例です。

DMA_PC
(The image above is referred from http://read.nxtbook.com/wiley/plasticsengineering/julyaugust2015/consultantscorner.html?navItemNumber=11347 .)


縦軸は貯蔵弾性率(左軸)と損失弾性率(右軸)、横軸は温度ですので、
本データにより各温度域での弾性率を理解することが可能となります。

 

さらに一般的な静的試験で弾性率と降伏強度を求めます。

一例としてPCの計測結果を示します。

PC_S-S_line

(The image above is referred from http://read.nxtbook.com/wiley/plasticsengineering/julyaugust2015/consultantscorner.html?navItemNumber=11347 .)

 


これらの結果を踏まえ、TTSの技術を用いて以下のようなマスターカーブを作成し、
経過時間に対するクリープ変形を調べることができるとのことです。

master_curve

(The image above is referred from http://read.nxtbook.com/wiley/plasticsengineering/julyaugust2015/consultantscorner.html?navItemNumber=11347 .)


TTSに関する詳細情報は不明ですが、来月筆者のWebinarがあるようですので本技術理解のため都合がつくようであれば参加してみたいと思っています。


本日はクリープについてご紹介しましたが、FRPではまだあまり評価が進んでいないというのが現状です。


静的試験や疲労試験も重要ですが、熱可塑性FRPである FRTP などを使用を拡大することを考えているのであれば、クリープ特性についてもきちんと評価しておくことが重要だと思います。

 

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