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熱可塑性FRP製の高圧タンクに対する連続リサイクルプロセス

2023-07-10

Fraunhofer IPTが熱可塑性FRPをから連続工程で材料をリサイクルするプロセスを開発したとリリースを出しました。

Unwinding in high quality: Continuously detached and recycled thermoplastic carbon fiber tapes with a new recycling approach

 

ドイツの研究機関であるFraunhofer Instituteは多くの専門研究機関を有していますが、
量産製造工程に関する研究を行うのが Fraunhofer IPT です。

場所はドイツ中西部のAachen(アーヘン)という所にあります。

今回はFRPの高圧タンクへの適用の背景を解説した後、この技術についてご紹介したいと思います。

 

 

FRPは高圧タンクを作る材料として実績がある

まずはそもそも高圧タンクとFRPということが結びつかない方がいるかもしれませんので、
技術的な背景から解説してみたいと思います。

FRPというのは既に何度も述べている通り「異方性」の強い材料です。

異方性というのは特定の方向の材料特性が高い、または低い材料のことを言います。

FRPは材料特性が強化繊維の配向に依存しており、繊維が配向している方向に高い特性を発現する一方、
それと異なる方向に対しては当該特性が低下する傾向にあります。

この辺りは過去のコラムや連載でも述べたことがあります。

※関連コラム/関連情報

はじめてのFRP 異方性 に由来する面内と面外強度評価

「 機械設計 」連載 第三回 「 異方性 」FRPの最重要特性

この異方性を活用しようというのが高圧タンクに対するFRP適用の動機付けになっています。

 

高圧タンクの周方向に強化繊維を連続的に配向させることで耐圧性能が向上

高圧タンクは内部から常に圧力がかかる状態にあります。
その主な力の方向は外に広がろうとする力ですのでFRPでタンクを作る場合は、
円筒の周方向に強化繊維を連続的に配向させる、
すなわち巻き付けるということを一般的に行います。

これをフープ巻きともいいます。
対して角度がついたものをヘリカル巻きということはきいたことがある方もいるかもしれません。

そして高圧タンクの構造部材のうちどのくらいFRPを使うのかによってType分けされていることも知られています。

この辺りは過去のコラムでも述べたことがあります。

 

※関連コラム

水素貯蔵向け 高圧タンク における金属とCFRPの共存

 

FRPを用いたタンクのつくり方はFWからSW、そしてAFPに

円筒形状のものを作る方法として最も実績と歴史があるのはフィラメントワインディング、つまりFWです。

以下のような動画がFWの代表的なものの一例です。

上記では樹脂は熱硬化性樹脂、強化繊維はガラス繊維になっています。

こちらだと全体像が見えにくいということであれば、パイプ形状ですが以下の動画の前半部分でFWの工程をわかりやすく解説しています。

複数のガラスロービング(ガラス繊維が束になったもの)を引き出してマトリックス樹脂層を通過させて樹脂をしみこませ、
それを開繊(繊維束を広げる)したうえで余分な樹脂をしごいた後にマンドレルの上に巻き付けていきます。

 

この手法は実績がある一方で、FRPの特性が発現しきれないという課題もありました。
強化繊維が樹脂層を通過し、それをしごくという工程だけでは当該繊維への樹脂含浸が不十分であるためです。

そこでその課題を解決すべく開発されたのがシートワインディング(SW)です。

SWはFWよりも開繊を丁寧に行って繊維束を十分に広げた上で樹脂を含浸させて、広幅のシート状態にして積層します。
開繊をきちんと行えば行うほど繊維全体に樹脂が含浸しやすいため、
FRPとしての材料特性が発現されやすくなります。

そしてSWの材料コンセプトをベースにロボットによる多軸の積層を行おうというのがAutomated Fiber Placement(AFP)です。
また、同様の積層コンセプトで積層材料の幅が広く、平面積層を主に想定したものを中心にAutomated Tape Layup(ATL)と呼ばれることもあります。

AFPの特徴としては材料をSWのような形態でしかも予め樹脂を含浸してあるTape材料にすることに加え、
ロボットを用いた自動積層とすることで積層時の押し付け荷重を高めることで、
積層工程と積層材料品質の安定化を狙ったところに特徴があります。

どの工程もタンクなどの円筒形形状物の成形に適しているということはご理解いただけると思います。

尚、AFPは円筒だけでなく、凹面を有する三次元形状への積層も適用可能である積層形状に対する柔軟性の高いプロセスであることを加筆しておきます。

 

 

AFPは熱可塑性FRPの適用拡大を後押しした

今となってはAFPも決して新しい技術ではありませんが、この技術の一番大きな功績としては

「熱可塑性FPRのタンク形状への適用を可能にした」

ということでしょう。

AFPの一例を冒頭紹介したFraunhofer IPTの動画からご紹介します。

動画ではこの積層工程の事をlaser-assisted tape windingと呼んでいますが、総称でいえばAFPの一種とみて問題ありません。

ロボットアームで材料が積層されている様子を確認できますが、
そのヘッドの付近が紫色に発光しているのがわかるかと思います。

これはレーザです。

AFPのヘッドにはコンパクションローラによって材料を型に押し付けると同時に、
積層直前の材料層間を加熱するということを行います。

従来の熱源はトーチでしたが、レーザ制御技術の進化により今はレーザによって瞬間的かつ局所的に熱をかけることで、
FRP材料のマトリックス樹脂を溶融させて融着させたそばから圧着させるというのが主流となっています。

この局所加熱技術が適用できたことで、タック性のある熱硬化性樹脂にこだわらず、
熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂としたFRPの連続積層も可能になりました。

PA(ポリアミド)等の吸水性のある熱可塑性樹脂だと、
この局所加熱の際に水分蒸発現象による発泡が起こる等の課題もありますが、
AFPが無ければそもそも熱可塑性FRPをタンク材料にするということは難しかったでしょう。

そして熱可塑性FRPを用いたタンクが無ければ、今回ご紹介した連続リサイクルプロセスも実現しませんでした。

 

 

Fraunhofer IPTが狙うのはタンク形状に成形された熱可塑性FRPの連続工程による再利用

前置きが長くなってしまいましたがここからが本題です。

Fraunhofer IPTが狙うのは、熱可塑性FRPで成形された高圧タンクから材料を引きはがし、
それをテープ材料として巻き取って再利用するというものです。

しかもこの工程を連続的に行うということを強みとしており、
熱可塑性FRP故に再利用しても材料特性がリサイクル前後で90%維持できたということを特徴としています。

概要については冒頭のプレスリリースに加え、以下のような動画が公開されています。

見本として出てきているのは熱可塑性FRPで成形された高圧水素タンクです。

上記動画の26秒付近から具体的な設備の説明が始まっています。

恐らく話をしている方が示しているのがタンクをはめる締結部品です。
これ自体が回転すると考えます。

その右側に2つ見えている装置が加熱機(プラジェットのようなもの)でタンク外層を熱してマトリックス樹脂を溶融させてFRPをタンクから引きはがし、
それを動画の画面に向かって右方向にテープ材として送り出します。

途中で再度加熱をするようですが、これはタンク成形のためにFRPをかなりの曲率で成形しているためそれを加熱することで一旦ならして、
後工程でレコード巻きにて引きはがされたFRPを巻き取れるようにすることが狙いだと想像します。

動画の44秒付近からは実際に巻き取られたテープ材が映っています。

 

そして上記の通りこの工程は連続的に進行するということから、
AFP等の工程で連続的に巻き付けたことと逆のことを行うということになります。

 

 

材料特性維持については注意が必要

一点だけ注意すべきことを書いておきます。

リサイクル後の材料特性は90%以上の数値を維持したという部分です。

 

個人的にはこの妥当性がわかっていません。

例えば繊維方向の引張強度(T11)や引張弾性率(E11)は間違いなく90%以上維持できるでしょう。
特性のほとんどは強化繊維に依存しているからです。

例えば炭素繊維であれば4桁温度まで耐えられる事を考えれば、スーパーエンプラがマトリックス樹脂であったとしても500-600℃に満たない瞬時の熱履歴によって、当該繊維の特性は影響を受けないでしょう。

しかし、これが面内せん断、層間せん断、圧縮といった特性になったらどうでしょうか。

もしかすると弾性率は90%以上維持できるかもしれません。

その一方で引きはがせるほどの空気中で強熱にさらされた熱可塑性樹脂は、
ほぼ間違いなく酸化分解を起こしていると考えられ、結果として分子鎖が切れて脆化が進むはずです。

上記で述べたような引張以外の特性では強度においてマトリックス樹脂が担う割合が引張特性のそれよりも高いため、
脆化が進んだ樹脂では熱履歴が無いものに比べて破壊が早期に進展する恐れがあります。

結果として強度は低下することになるでしょう。

 

リサイクル材料についてもやはり異方性を考えなくてはいけないのです。

このような観点も忘れず、今回のようなリサイクル技術が良い形でFRP業界で適用されることを期待したいと思います。

 

 

 

脱炭素という掛け声のもと、水素もエネルギー源として注目されています。

水素についてはその製造時の環境負荷等まだ課題も多いですが、
FRPが自動車や航空機だけでなく、
ステーションにおける保管容器として実用化されているのも事実です。

本当の意味でグリーン水素、すなわち原料から製造に至る全行程での温室効果ガス排出が無い水素が本格的に流通し始めると、今以上に水素が基本エネルギー源になる可能性もあります。

 

しかし実際にこのような新エネルギー源が一般的になった時に、
それをしっかりと活用できるパイプや貯蔵タンク等の構造物のインフラが成立していなくては、
無用の長物となりかねません。

トレンドワードに惑わされず、今は地味さが目立ってしまっている構造部材についても継続的な研究開発が求められる世の中になっていると考えます。

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