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Advanced Air Mobility と Unmanned Aircraft Systems に関連するFRP材料と工程の概況

2022-11-14

今回は「Advanced Air Mobility と Unmanned Aircraft Systems に関連するFRP材料と工程の概況」ということについて述べてみたいと思います。

Wayne Huberty and Christopher Bounds of Mississippi State University’s (MSU, Oktibbeha County) Advanced Composites Instituteと、Wichita State University’s (WSU) National Institute for Aviation Research (NIAR)の研究者が執筆した、

Advanced Materials and Processes Survey for AAM and UAS Aircraftという報告書

が公開されました。

 

今回はこの報告書の内容を参考に、
FRPの新たな適用先として期待されるAdvanced Air Mobility と Unmanned Aircraft Systems について、
材料や工程に関する取り組みの課題や技術トレンドを中心に概要を見ていきたいと思います。

 

 

Advanced Air Mobility と Unmanned Aircraft Systems とは

Advanced Air Mobility と Unmanned Aircraft Systems に関連するFRP材料と工程の概況

Advanced Air Mobility(AAM)は次世代空モビリティ、
Unmanned Aircraft Systems(UAS)は無人航空機システムと呼ばれます。

AAMについて、日本は比較的熱心に取り組みをしている国の一つで、
経産省や国交省等が主体となって「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げており、
様々な議論が始まっているようです。

・関連情報
Advanced Air Mobility in JAPAN 2021_JPN – 国土交通省

UASはAAMの一つともいえるかもしれません。
UASの具体的なものの例としてはUAV(Unmanned Aerial Vehicle)があり、
調査、物流、救助、観測などの用途に加え、昨今の戦争で言われる無人機もこれに該当します。

最近ニュースになったAmazonのドローン宅配は、
上記物流のUAVの一例といえます。

・参考情報
Amazon、米国でドローン宅配 10年内に年5億個を空輸(日経 2022年11月11日)

 

AAMやUASに関連する内容は過去にも取り上げたことがあります。

・関連コラム

CityAirbus NextGenの本格始動とeVTOL型式認証の概況

農業向けドローン へのFRP適用

 

このように上空を飛行するものは、
人が乗る、乗らないに関わらず軽量化が生命線となります。

そのため、軽量材料の代表格の一つであるFRPも多く使われます。
空を飛ぶものとしてFRPが適用された事例として航空機がありますが、
AAMやUAMはそれとは用途や要件が異なるため、一度現況をまとめようというのが冒頭の報告書作成の背景にあります。

例えばUAMはその名の通り人が乗らないということを考えれば求められる要件も変化することは容易に想像できるため、上記の背景はわかりやすいかもしれません。

 

 

AAM、UASで用いられるFRP関係のトレンドとは

FRPが多く使われるAAMやUASですが、
トレンドとしてはどのようなものがあるのでしょうか。

概要を取り上げてみたいと思います。

適用する材料は航空機業界で実績のある材料が主力

まず材料に関しては新しいものを使うというよりも、
航空機業界で実績のある材料、
例えばエポキシを中心とした熱硬化性マトリックス樹脂と、
連続繊維の炭素繊維を強化繊維としたものが多いようです。

その主な理由として述べられているのが、

「型式認証が取るのに有利であるため」

とのことです。

航空機業界らしい考え方です。

 

一例として挙げられている材料が NCAMP(National Center for Advanced Materials Performance)。

概要はNCAMPのHPで見ることができます。

基本的に公的規格の存在しないFRPですが、
数は少ないですが唯一といっていい「公的に認められているFRP材料規格」がNCAMPです。

これはアメリカの連邦航空局であるFAAやヨーロッパの欧州航空安全局であるEASA等が、
この材料であれば型式認証に必要な材料データが担保されている、
と認識している材料になります。

例えばStratasys ULTEM 9085を例にすると、NCAMPのページに当該材料基礎データが公開されています。

上記で公開されているデータの中身を見ると、
材料の概要、どのように試験片(試験片平板がある場合はそれを含む)を製作するか、
n数やロット数はいくつか、どのような評価条件でデータを取得するか、
といったことが細かく書かれています。

これこそが材料規格、いわゆるMaterial specであり材料の仕様を規定するものです。

実際の型式認証の工程において材料規格内のデータを取得する場合は、
ここで示されているような平均値や最小、最大値、CV値だけでなく、
信頼性を担保するために必要な統計分析が必要となります(正確にはそのように認証を行う組織から要求される可能性が高い)。

NCAMPに掲載されている材料については実績があるため、
上記のようなデータを信頼あるものとして仕様数値として用いて問題ないという判断が下されていると考えます。

ただし、NCAMPに掲載されている材料であっても実際にFRP成形体の認証を取るには、用途に応じた何かしらの安全性を証明できるデータ(例えば上記の統計解析など)を求められる可能性もあることには注意が必要です。

尚、実際に統計学などを使って材料データを解析する方法については、
過去に執筆していた連載で紹介したことがあります。

・関連情報

「 機械設計 」連載 第三十三回 FRP動的疲労試験分析手順 回帰モデル選択と設計許容線図

「 機械設計 」連載 第三十四回 FRP動的疲労試験結果分析の基本となる相関分析と回帰分析概要

「 機械設計 」連載 第三十五回 FRP設計許容線図の回帰モデルの適合度検定と外れ値の検出

「 機械設計 」連載 第三十六回 線形回帰分析である Ordinary Least Square と Total Least Square によるFRP設計許容線図作成とその比較

 

型式認証への取り組みにおいて、NCAMPに記載された材料については上記のような材料データ取得や解析の工程がある程度省略できる可能性が高いため、AAM等ではこれらの材料を適用したいと考えるのは自然かもしれません。

 

一点追記すべき点として、
航空業界においては”材料だけ”で認証を取るということは一般的にはないということがあります。

航空機業界における認証は一般的に型式認証と呼ばれ、
材料に加え、設計(図面)と工程がワンセットになります。

空を飛ぶ「製品」が十分な安全性を担保できているかを判断するのが認証の目的である、
と考えれば材料だけで認証を与えるというのは不十分だと感じていただけるのではないでしょうか。

 

FRP成形工程はAFPやATL等のFRP自動積層システム、成形にはRTMの適用が多い

Advanced Materials and Processes Survey for AAM and UAS Aircraft中の、
Table 1. Summary of Materials & Processes Mentioned by AAM OEMsという表を見てください。

AFPやATLという単語がProcessという行に記載されているケースが比較的多いと思います。

これらは、Automated Fiber Placement、Automated Tale Layupと呼ばれる

「FRPの自動積層」

のことを言っています。主にはロボットを用いた積層になります。

門型やロボットアームがマンドレルに材料を積層する、
設備内の回転テーブルに材料を押し付ける等の形態がありますが、
手で積層する部分を自動化することで品質的なばらつきを低減し、
生産性を上げたいというのが狙いにあります。

自動積層については過去のコラムでも取り上げたことがあります。

・関連コラム

MTorres のFRPの 自動積層

Automated Dynamics 社が レーザー 加熱の Fiber placement 自動積層 装置発表

この技術自体は決して真新しいものではありませんが、
10年ほど前まで試作などで限定的に用いられていた状況を考慮すると、
実際の量産で適用しようとなっている時点で前進があったという印象があります。

 

積層の後工程である成形工程では、
強化繊維を入れた型内にマトリックス樹脂を注入するRTMが比較的多いようです。

個人的にはオープンモールド等の金型プレスが多いと思っていましたが、
恐らくRTMの方が成形体の寸法精度が良く、
成形後のトリミングが比較的楽であることからRTMの方が好まれているのかもしれません。

工程時間だけという話ではなく、全体を見てのバランスから判断していると考えます。

 

 

AAM、UASでFRP適用における課題とその解決に向けた取り組みとは

次に課題について触れていきます。

 

課題の筆頭にあげられているのは量産性

今回参照している報告書で以下のように書かれていますが、
これこそが最大の課題と認識されていると思います。

——————
The AAM market is projected to outpace the traditional aerospace production rates, which have
traditionally varied between 1000 to 2000 units a year and evolve into total production of 15,000
to 200,000 units by 2035 (Toray, From 200 to 200,000 : Challenges in Advanced Air Mobility
Market Scaling, 2022).
——————
ref: Advanced Materials and Processes Survey for AAM and UAS Aircraft

要は、一般的な航空機はせいぜい多くても年間1,000から2,000機程度だが、
AAMは2035年までに年間15,000から最大200,000機程度の桁の異なる生産が必要になるということです。

量が少なければ航空機のペースで良いが、
AAMに想定されるボリュームに対応するためには航空機と同じ材料を用いるにしても、
工程を変更、修正することで生産性を上げなくてはいけないという危機感が感じられます。

高品質であり、設備を大型にすれば場合によっては一度に多くのFRP成形を行うことも可能であるものの、
設備がそもそも高価で副資材も都度必要なオートクレーブも上記のようなボリュームに対しての対応は難しい状況になっています。

OOA、Out of Autoclave という単語は脱オートクレーブの意味ですが、
報告書内でみられるこの単語はオートクレーブ以外の設備でFRPを成形する手段を見出すことが必要だ、
という意図として理解いただければと思います。

・関連コラム

はじめてのFRP オートクレーブ での成形方法の基礎

 

[量産性という課題解決に向けた方向性の一つは高速硬化の熱硬化性マトリックス樹脂の採用]

そのような中で、現在AAM関係のサプライヤやOEMで検討されているのは

「高速硬化する熱硬化性マトリックス樹脂のFRP」

とのことです。snap cure というのはこの高速硬化に該当します。

高速硬化するFRPについては過去にも取り上げたことがあります。

・関連コラム

BMW 7 series への 高速硬化CFRP の適用

 

実際にFRPを扱われた方であればイメージできるかと思いますが、
高速硬化するFRPは反応活性の高い硬化システムを用いていることから、
保管寿命が短い傾向にあります。

しかし上記のM77という材料を一例とすると、
160℃という環境下で1.5分で硬化する一方、
室温でも6週間保管可能です。

航空機で実績のあるようなFRPの多くが硬化には数時間かかる一方で、
室温寿命が2週間であることを踏まえると、
上記の意図は理解いただけるのではないでしょうか。

今はこの手の材料は複数開発されてきており、
熱硬化性マトリックス樹脂のFRPは硬化が遅い、
というのは過去のものになりつつあるといえます。

 

熱可塑性FRPに対する誘導溶着も生産性向上の取り組みの一つ

AAMは構造上、中空のパイプ形状のような部材が多くなります。

これを熱可塑性マトリックス樹脂のFRPについては、
誘導溶着で対応しようという動きもあるようです。

金属の場合は誘導溶接となりますが、どのようなものなのかは以下をご覧いただくとイメージがわかるかと思います。

例えば Jaunt Air Mobility は誘導融着を取り入れることで、
リベットやボルトを減らして軽量化し、
更に工程を連続的にすることで生産性を高めることを狙おうとしているようです。

——————
The company intends to use induction welding processes to eliminate the need for
fasteners resulting in weight reduction. This would also aid with the high production rate
requirements.
——————
ref: Advanced Materials and Processes Survey for AAM and UAS Aircraft

ただ誘導溶接は肉厚なものには向いていないため、
断面係数を考慮した適切な肉厚設計が不可欠といえます。

 

 

将来に向けた技術的なトレンドについて

今後AAMに適用されそうな技術トレンドについても紹介します。

 

高効率プロペラ設計

AAMは飛行動力にプロペラを用いるケースが多いといえます。

European Fund for Regional Developmentが主導するSmart Rotorsというプロジェクトにおいて、AAM向けのプロペラに関して空力性能と低騒音を実現し、かつ製造をより効率的に行うということを目指しています。

ここでは基材設計、つまり強化繊維の形態から設計を行っているようです。
概要としては以下で述べられている通り、3次元織物を適用するようです。

FRPの構造設計の根底の一つである基材設計を行い、
異方性を活用した設計をしている好例といえるでしょう。

空力性能や静音性能を高めるには不可欠なアプローチです。

——————
Digital Propulsion, is led by Dowty Propellers and aims to explore the
design, manufacture, and test of composite propeller systems (中略) One of the
program’s outcomes includes implementing triaxial braiding for complex structural geometries at
an industrial scale.
——————
ref: Advanced Materials and Processes Survey for AAM and UAS Aircraft

AAMでは多くのプロペラが必要になるため、
このような取り組みは不可欠というのが共通認識のようです。

・関連コラム

三次元織物のファンブレード

 

CMCをバッテリーエンクロージャーに適用

意外かもしれませんが、CMCも検討が行われているようです。

CMCというのはマトリックスに樹脂ではなくセラミックスを適用した、
超高耐熱の複合材料で、超耐熱性が必要な部品の軽量化の切り札の一つといわれています。

CMCについても過去に何度か取り上げたことがあります。

・関連コラム
高耐熱複合材料の CMC ( Ceramics Matrix Composites )

GE aviation が CMC 向け SiC 製造工場設立

DLR が MultiMech を用いた CMC の亀裂進展予想技術を開発推進

 

電動が主体と考えられ、それほど耐熱性が必要ないMMAに何故CMCが検討されているのかと感じた方もいるかもしれませんが、
CMCを使う用途はAAMの構造部材ではなく、バッテリーエンクロージャーのようです。

バッテリーエンクロージャーというのは、
バッテリーケースとケーブルや冷却システムなどのコンポーネントが一体となったものになります。

AAMで致命的なのは火災であるため、
リチウムイオンが主体であるバッテリーが万が一発火した際、
それを抑え込むことを目的としてCMCを用いることを想定しているようです。

バッテリーエンクロージャーについては以下のコラムをご参照ください。

・関連コラム

リチウムイオンバッテリーエンクロージャーへのFRP適用

 

このように技術的なポイントもいくつか押さえておくと、
AAMをFRPに適用することを検討するにあたり参考になるかもしれません。

 

 

上記以外に気になったポイントについて触れてみたいと思います。

 

小型に分類される Small UAS では要件が低いため実績のある材料にこだわらない

重量が55ボンド(約25kg)以下に分類される Small UAS はより大型のUASと比べて要件が低くなるとのこと。
このクラスは 14 CFR parts Part 107 に分類されます。

CFRはCode of Federal Regulationsの略で連邦規則集というものになります。

14 CFRではそれ以外にも以下のようなカテゴリーが存在します。

Part 23 – Airworthiness Standards: Normal, Utility, Acrobatic, and Commuter Category Airplanes
Part 25 – Airworthiness Standards: Transport Category Airplanes
Part 27 – Airworthiness Standards: Normal Category Rotorcraft
Part 29 – Airworthiness Standards: Transport Category Rotorcraft

Airworthinessというのは耐空証明といって、空を飛ぶことに対する認証になります。

このようにカテゴリーごとに要件が決まってきているため、
最も要件が緩い Small UAS は比較的早い段階で空を飛び始める可能性もあります。

 

 

熱可塑性のFRPや3D printingは積極的に使おうというAAM関連企業は少数派

上記では誘導融着についてご紹介し、
熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂としたFRPの検討も進んでいる事に触れました。

しかし、全体としては熱可塑性FRPの適用については慎重な姿勢を示す企業が多いようです。

これに付随する形で熱可塑性マトリックス樹脂が基本となる3D printingも、
今のところ積極的な適用というところまでは至っていない模様です。

その理由としては以下のように述べられています。
——————
Thermoplastics are an easy choice if the rate is the only deciding factor, but their limitations come
from having high raw material costs and high processing temperatures which lead to greater costs.
Thermoplastics also have not been certified to use in primary structures.
——————
ref: Advanced Materials and Processes Survey for AAM and UAS Aircraft

熱可塑性樹脂は何かしらの形に成形するためには一度溶融する必要があります。
溶融には基本的に高温が必要となるため、それが一つのネックというわけです。

更に構造部材への適用について、航空の認証でも慎重な姿勢が維持されており、
一部熱可塑性FRPも構造部材への適用が始まっている一方、
そのマトリックス樹脂はPEEK等のスーパーエンプラに限定され、
400℃を超える溶融成形温度の高さに加え、原材料の価格が高くなることは不可避といえます。

射出成形という樹脂系で群を抜く成形手法をFRP成形に適用するには、
繊維長を短く、また繊維量を少なくしたうえで樹脂の耐熱性を低くすることが不可避となり、
結局のところAAMで求められる材料特性とは逆方向に向かうことになります。

FRPを活用するということは、
繊維長を長くし、かつ繊維量を増やすことによる強度や剛性をはじめとした性能発現が前提条件になるためです。

 

尚、報告書中で上記の通り一次構造部材への適用は認められていないと書かれていますが、
これは断定される話ではなく、一部実績も出始めていることは加筆しておきます。

・関連コラム

A350の一次構造材に適用された 熱可塑性CFRP (CRRTP)とその概況

同じように熱可塑性樹脂や同FRPが主体である3D printingの強みは、
量産性というよりも複雑形状への柔軟適用性にあることを考えれば、
AAMに求められる要件には合致しないと考えて概ね問題ないかと思います。

 

 

 

仮にAAMやUASが一般的になってくると、
社会は大きな転換期を迎えることになると思います。

物流もさることながら、様々な調査や救助活動も変わってくるでしょう。

技術的にはもちろんですが、人が乗っていないものの色々なものが空を飛ぶことによる課題への対応など、
社会システムの整備が不可欠になってくるかと思います。

 

安全性や利便性に対する人の欲求はとどまることを知りませんが、
今回紹介したようなAAMがその欲求を満たす一つの選択肢となるのかもしれません。

 

恐らくこれらのアプリケーションでの話題の主役は今回のような構造部材ではなく、
モーター、バッテリー、カメラ、センサ、制御等の搭載機器や動力になると思います。

それでも構造部材を軽視していては実用化は難しいことも事実です。

このように製品の特定の箇所だけに視野を限定しないことはもちろん、
社会システムまで目を向けた俯瞰的視野が重要だと考えます。

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