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リチウムイオンバッテリーエンクロージャーへのFRP適用

2022-06-13

脱炭素、サステナビリティー、持続可能な社会、プラスチック資源循環促進法、SDG’s等。
環境問題解決に向けた取り組みに関するキーワードがここ数年で急に増えたと感じています。

業界誌の一つであるJEC Composite Magazine #145も読みましたが、
Sustainabilityばかりでした。

 

このようなトレンドは浮き沈みをしながら、
場合によっては一度沈んでもしばらく時間がたってから又来る、
ということもあります。

もちろん地球環境保全に対する動きに異論はありません。

ただ、技術的に見ていて視点が狭く、
過去の議論に終始している部分も多いのが懸念です。
技術的本質を見極めて本来の課題に取り組むというのは、
やはり難しいのだと改めて感じます。

 

今日はこのような時代の流れにおいて、
その基軸の一つとして位置づけられている「電動化」の肝、
リチウムイオンバッテリーの構造部材でFRP適用検討が進む、
エンクロージャーについて述べてみたいと思います。

 

 

研究開発が進むリチウムイオンバッテリー

リチウムイオンバッテリーのエンクロージャーに熱可塑性FRPの適用検討が進む

Photographed by Tyler Lastovich

 

リチウムイオンバッテリーは、身近なものではスマートフォンやノートパソコン、
ワイヤレスゲームコントローラーやヘッドフォン、
電動自転車や電動自動車にも使われ、今やインフラの一つになっています。

 

リチウムイオンバッテリーは各原子の有する電気化学ポテンシャルを活用

リチウムイオンバッテリーに限りませんが、
電池というのは電気化学ポテンシャルが高い原子の特性を活用します。

荷電粒子(イオンなど)の運動や反応に対する駆動力は、
電気化学ポテンシャルの勾配として示されます。

よって、電気化学ポテンシャルが高い方が、
荷電粒子となった場合に不安定とも言えます。

そしてリチウムイオンバッテリーに用いられるリチウムは、
イオンとなった時の電気化学ポテンシャルが高く、
電子を放出しやすいという性質があり、これが電池特性発現の原点です。

 

リチウムイオンバッテリーの基本構造と充放電の概要

イオンでは不安定ですがリチウムは酸化物では安定であるためこれをアルミの上に保持させ正極とし、
短絡を防ぐセパレーターと電解質を中間層としてその逆側にグラファイトを保持した銅の負極としたのが、
リチウムイオンバッテリーの基本構造です。

電解質はリチウムイオンが移動できる一方、
電子は通過できないものになっています。

この状態で外部電源で電圧をかけてリチウム原子から電子を引き抜くと、
電解質を通過できない電子は外部電源を通って負極側に移動し、
層状構造のグラファイト中に貯蔵されます。

同時に電子を放出してプラスに帯電したリチウムイオンがこの電子に引き寄せられて、
電解質を経由して負極側に移動することで、充電状態となります。

その後、外部電源に外部抵抗(スマホなどの電動機器)が接続されると、
電子が外部抵抗を経由して正極側に移動し、
リチウムイオンも安定したリチウム酸化物に戻ろうと、
電解質を通って正極側に移動する事象が起こります。

電子が流れたということはすなわち電流が流れたことであり、
これが放電ということになります。

 

リチウムイオンバッテリーの性能はエネルギー密度で決まる

リチウムイオンバッテリーの研究開発のトレンドは、
やはりエネルギー密度の向上。

今負極側に用いられているグラファイトの代わりに、
シリコンを用いようというが候補の一つようです。

比容量がポイントとなる数値で、
現行の主力であるグラファイトは約370 mAh/gであるのに対し、
シリコンは4,200 mAh/gに達するようです。

しかし、このシリコンを用いた負極材開発も言うほど簡単ではなく、
体積変化が大きいため寿命が短い、
かつSEI層(Solid Electrolyte Phase)が厚くなりエネルギー密度が低下する、
といった問題が生じるとのことです。

SEI層というのは初期充電で形成される層で、
これが電解質の電子による劣化を防止する絶縁層として機能する一方、
厚くなりすぎると電池の性能が低下します。

この対策として、体積変化に対する亀裂発生抑制のためにナノ構造にする、
グラフェン等の炭素との複合材料にするといったことも研究されています。

グラフェンについては、過去にも取り上げたことがあります。

・関連コラム

Graphene を熱可塑性発泡ポリウレタンに添加した 安全靴 の保護材へ適用

上記の研究に関しては、以下のようなページでその概要が述べられていますので、
興味のある方はご覧いただくと良いかと思います。

高性能リチウムイオン電池用シリコン負極材料の進展

 

 

リチウムイオンバッテリーへのFRP製エンクロージャー適用動機

エンクロージャーの話に戻ります。

FRPのバッテリーエンクロージャーへの適用については、
以下の記事を参考に見ていきたいと思います。

Troubleshooting thermal design of composite battery enclosures

 

エンクロージャーというのはケーシングの一種といえそうですが、
バッテリーセルに加え、各種コンポーネント、センサ、コネクタが収納されているシステムボックスで、
衝撃、熱、水等から内部を保護する役割を担う構造物です。

このエンクロージャーへのFRP適用動機は「軽量化」であると、
上記の記事では結論付けられています。

その理由として、走行距離の増加といった要求の高度化に伴い、
電気自動車の重量のうちバッテリー重量が全車重の50%にまで到達する、
という予測が挙げられています。

一例として、Bold Valuable Technology というスペインの企業が、
CFRP製のバッテリーのエンクロージャーを開発した結果、
従来のアルミ製が6.7kgだったのに対し、
CFRP製では0.616kgと91%の軽量化を達成したとのこと。

軽量化へのずば抜けた貢献が、FRPを適用する動機の根幹にあり、
それ故、FRP材料固有の課題解決や評価に取り組んだと考えられます。

何より、エンクロージャーを含むバッテリー重量が軽量化できれば、
重量エネルギー密度の向上に直結します。

バッテリーの性能は、重量エネルギー密度で評価される、
という評価指標が軽量化の価値を押し上げているといえます。

 

 

リチウムイオンバッテリーで最も恐ろしいのは熱暴走

電流が流れる、つまり電子が流れるという動作には必ず熱が発生します。

定常利用に限らず、外部衝撃/振動、強制充電、気圧低下、短絡といった、
非定常の事象によっても発熱します。

上記の通り、リチウムイオンバッテリーの正極/負極間には絶縁層を形成するセパレータが設置されているため、
発熱によって電解質が仮に無くなっても溶融したセパレータにより、
短絡が起こりにくい構造にはなっています。

しかしながら、そのようなリスク事象につながる可能性のある熱暴走(thermal runaway)を予め回避することは重要です。

熱暴走を避けるため、当然ながら冷却システム等は設置されますが、
リチウムイオンバッテリーエンクロージャーで重要な最後の砦としての役割は、

「熱暴走を他のリチウムイオンバッテリーに広げない」

とのこと。よって、断熱性を有し、発生する熱に耐える耐熱性の両方が必要のようです。

そして、この熱暴走を食い止める部品の一つとして、
エンクロージャーには Compression Pads が備え付けられており、
リチウムイオンバッテリーセル間に設置されているようです。

熱暴走が起こった時のセルの膨張を抑制する役割があると想像します。

この Compression Pads はシリコーンやポリウレタンが用いられているようです。

※参考情報

Compression Pads for EV Batteries

 

 

リチウムイオンバッテリーエンクロージャーとしての評価

当然ながら取り扱い方法を間違えると危険である以上、
安全に対する評価が複数あります。

今回の記事で紹介されている安全規格は以下の通りです。

・UN38.8:動くものに搭載される電池への要件

・ECE R100 REV2:電動の4輪自動車に搭載されるリチウムイオンバッテリーの要件

・DO311A/DO160G:飛行するものに搭載される電池への要件

・UL94:難燃規格

各規格については様々な情報が出ているようですので、
ここで詳細は紹介しませんが、
例えばUN38.8だと以下のような要求事項があります。

Test T.1: Altitude Simulation (38.3.4.1)
Test T.2: Thermal Test (38.3.4.2)
Test T.3: Vibration (38.3.4.3)
Test T.4: Shock (38.3.4.4)
Test T.5: External Short Circuit (38.3.4.5)
Test T.6: Impact/Crush (38.3.4.6)
Test T.7: Overcharge (38.3.4.7)
Test T.8: Forced Discharge (38.3.4.8)

T1~T5は同一電池で実施、T7は組電池、T8は単電池での評価になるようです。

多くの安全性評価が必要なのは感じていただけるかと思います。

 

 

エンクロージャーに用いるFRPは熱硬化か熱可塑か

これはFRP材料選定において大きな分かれ道です。

熱硬化は優れた耐熱性を有する一方、
高速硬化システムが増えたといっても成形効率の向上にはまだ課題がある、
というのが今回参考にしている記事中での主張です。

これに対応するため、熱可塑性樹脂に着眼した展開となっています。

そして、Bold Valuable Technology が候補の一つとして選定したのは、

「ガラス繊維とポリカーボネート(PC)」

を材料として用いた

「射出成形」

で成形したものとのこと。

 

射出成形は樹脂系の成形方法で、唯一量産と呼ばれるものに耐えうる工程です。

この判断は賢明といえるでしょう。

また、強化繊維にガラスを用いたというのも、
コストや後述する絶縁性もさることながら、
グローバルでの生産量が炭素繊維の100倍近くあるガラス繊維の調達安定性も、
判断指標に入っているかもしれません。

加えて今回紹介する開発プロジェクトでは、
FRPの異方性を考慮した設計を行っていることからも、
繊維配向を綿密に検討することで、
炭素繊維を用いなくとも高い剛性と強度を達成したものと考えられます。

 

ポリカーボネートは、高靭性化や難燃化に関する研究もおこなわれています。
このような材料が検討の候補に入っている可能性もあります。

・関連コラム
PC( ポリカーボネート )をマトリックスとしたGFRPの高靭性化と難燃化

 

 

繊維配向が設計時の要点であることを明言

今回参考にしている記事の中で、
ようやくこのような考え方が浸透してきたと感じた文言がありました。

それが、

「繊維配向を制御することで、軽量化を維持しながら必要な剛性と強度を達成する」

という文言です。

 

FRPが異方性を有するということを理解した上での議論内容です。

もちろん、均質材である金属の方が向いている部品はまだあるようですが、
これは適材適所で残すと書かれています。

少なくともエンクロージャーの主たる構造部材にはFRPを適用する、
ということの方針に変わりは無いようです。

いずれにしても、上記のようなFRPの材料としての特性に向き合った、
という本質を見据える開発思想が、
ガラス繊維をFRPの強化材候補として見定めた背景にあることを、
理解する必要があります。

 

 

絶縁性の評価

リチウムイオンバッテリーのエンクロージャーには絶縁性も求められます。

この絶縁性達成に向けて考えたのが、

「炭素繊維とガラス繊維の組み合わせ」

とのこと。

ガラス繊維は絶縁性があるということを踏まえての対応です。

 

ガラス繊維に加え、ケブラー(アラミド)、ザイロン(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)、
ダイニーマ(超高分子量ポリエチレン)等の有機繊維での絶縁性評価も行われたとのこと。

結論としては、ガラス繊維が選定され、しかもガラス繊維層を炭素繊維の層の中に、
数層入れるだけで必要な絶縁性を達成したようです。

導電性があると言っても、炭素繊維の電気抵抗は金属のそれより大きいことが一因と考えます。

導電性については、過去には以下の記事で述べたことがあります。

・関連コラム

はじめてのFRP-炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の 導電性 について

このような評価が行われていることからも、
炭素繊維を(一部)強化繊維として用いる、
という選択肢は残っているものと考えます。

 

[設計や評価にはシミュレーションも積極的に活用]

構造設計に異方性を考慮したFEM(有限要素法)を用いるということは、
今回でも当然ながら行われています。

加えて注目すべきは、

「熱暴走評価には試験片を使い、得られた結果をシミュレーションにインプットし予測精度を上げた」

という両輪での取り組みでしょう。

 

例えば近年のシミュレーションソフトを用いると、
衝撃の加わったバッテリーがどのような損傷を受け、
それによって生じた短絡でどのように熱が発生するか、
という電気化学の観点からの予測までが一気通貫でできるようになっています。

以下の動画は、球体がバッテリーのセルに衝突した後、
短絡の発生有無と発生した場合の熱発生を予測した一例です。

短絡発生有無の予測には、接触抵抗等の数値が必要ということも述べられています。

しかし、あくまで大切なのは、

「実測とシミュレーションを常に合わせ込むという真摯な姿勢」

という部分です。シミュレーションに溺れないようにする、
地に足の着いた取り組みが重要なのは言うまでもありません。

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

モビリティーの電動化は、
トレンドの一つとして進行していくものと考えます。

一般的には、電動化というとバッテリー、モータ、センサ、制御といったところに目が行きがちで、
構造設計に目が向けられることが少ないと感じます。

しかし、上記のように構造設計は電動化の流れの中でも必要なのは事実です。

 

最後は構造部材という箱が無いと、
ものが成立しないからです。

 

自動車に限らず、中身が大きく変わるモビリティーの世界。

今回紹介した記事のように、
モジュールベースでも構造設計をしっかりやる、
という企業が成長と成功の道を歩んでいくものと考えます。

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