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3D printing 成形品への機械学習を応用したX線CTの適用開始

2023-09-04

北米のエネルギー省管轄下で主としてエネルギーに関する基礎、並びに応用研究を行うOak Ridge National Laboratoryと、検査機器メーカであるZeissの産業品質に関する取り組みを行う部門が、X線CTを用いた3D printing成形品向けの検査技術を発表しました。

以下がリリースの内容になります。

ZEISS, ORNL sign licensing agreement for inspection of 3D-printed parts

これに関連する動画も公開されています。

発電後の廃棄物の処理方法が確立されておらず、燃料が軍事転用可能等の課題が多いことから、
色々と議論がある原子力発電の燃料のケースの一部であるブラケットを3D printingで製作した製品です。

材質はTruForm(TM)316-3とのことなので、316L(Fe-18Ni-9Co-5Mo-1Ti)であると考えますす。

※参照情報

Xact Metal Materials

動画では3D printingの工程概要も映っています。

見ていただくとわかるように3D printingでは一層ずつ積層していくため、
FRP同様層状構成を有しているということができます。

このような積層形態を有することから、
ブルーレーザのスキャニングにより表層の凹凸から積層形状を明らかにし、
欠陥位置を明確化した上で、機械学習と組み合わせながらどこに欠陥が出やすいかの傾向を把握する、
といった取り組みが動画の2分10秒以辺りから述べられています。

動画1分10秒近辺の”Characterization Process”で一瞬だけX線CTが言及されます。
それに加え、断面観察やX線回折による金属組成や構造を原子レベルで調べる等、
従来製法(鍛造、削り出し等)との品質の違いを調べているとのことです。

今日はこの取り組みをご紹介した後、X線CTを軸にFRPへの展開について考えてみたいと思います。

 

 

3D printingの概況

3D printingは一時期技術トレンドの一つになり騒がれた時期もありましたが、
今は少し落ち着いた印象です。

下火になったわけではなく、しかるべきところに使われ始めたという認識が正しいかと思います。

少量多品種でできるだけ迅速に準備したい設備の部品や治具等がその一例です。

3D printingは Additive Manufacturing とも呼ばれていましたが、
それ以前、ラピッドプロトタイプという名称で日本がその前線を走っていました。

また、強化繊維を入れた熱可塑性樹脂(FRTP)は3D printingの材料として適正があると考えられており、
医療関係でも活用されています。

医療関係では実際の手術前に臓器を三次元的に理解し、
患者に負担をかけない医療行為計画を立案するのに活用することが主目的で、
検査から臓器の3D printingによる造形の高速化にはモデリング技術の進化が大きく寄与していること

これらのことは何度か過去に取り上げたことがあります。

 

※関連コラム

FRPを使った3D printing製品の医療業界への適用

3Dプリンタ向け 熱可塑性エラストマー

COVID 19 の緊急対応に向けた 3D Printing の活用

Conair の 3D printing Filament

 

 

X線CT検査は積層が中心の3D printing向け成形体の検査に有用

まずX線CTについて概況を述べてみたいと思います。

 

X線CTの概況

今回ご紹介する内容であるOak Ridge National LaboratoryとZeissの共同での取り組みは、
3D printing成形体(造形体)の検査に用いるX線CTです。

X線CTそのものは決して真新しいものではありませんが、
センシング技術の向上に伴う解像度の改善や計算処理速度の向上による解析時間の圧縮等、
基本技術の進化は目覚ましいものがあるようです。

X線CTそのものはいわゆるX線が主となっているので、
密度の違いによる透過度の差異をコントラストとして表現することが基本です。

検査対象を360°回転させることによるX線透過画像を立体画像として再構成することで、
被検査対象を三次元形状体として表現するのがX線CTになります。

考え方の基本は線源、被写体、検出器という一直線上に並んだものの距離をそれぞれ定義し、
幾何学の考え方を用いながら画像を再構成することにあります。

この再構成のうち三次元再構成を行うアルゴリズムはいくつか存在し
Feldkampは代表的なものの一つです。詳細については以下の参照情報をご覧ください。

※参照情報
3次元コーンビームの投影と画像再構成

 

層状構造である3D printing成形体のX線CT検査に機械学習を取り入れることで検査工程を効率化

今回特徴といえるのはX線CTに機械学習を入れたことだと思います。

何故検査に機械学習かと思う方もいるかもしれません。

冒頭の記事や動画でも機械学習が検査工程の効率化に効果があると述べられていますが、
表現が抽象的で詳細は分かりにくいかと思います。

詳細が公開されているわけではないのですが、例えば以下のような情報はイメージを理解するには有益かもしれません。

Integrating Machine Learning with Microscope Control using INTERSECT

 

これはOak Ridge National Laboratoryが電子顕微鏡観察作業向けに機械学習を実装したことに関する研究の概要になります。

Graphical User Interface / グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)と呼ばれる、
図形を基本とした多くの操作を行える表示方法を取り入れ、
そのアイコンで行った電子顕微鏡に関する各作業とその結果を機械学習で学習するというもののようです。

この学習の結果を踏まえ、次にどのような観察を行うべきかといった提案を行うイメージだと理解しています。

電子顕微鏡観察について機械学習が進めば、ある程度自動で必要な条件設定から、
観察/撮影すべき箇所の選定まで行うことができるようになるものだと想像します。

 

この考え方をX線CTの検査にも応用したのが冒頭のリリースに関連する内容だと考えます。

X線CTも電圧や電流値の設定により見え方が大きく変わります。
また、金属とFRPのように密度が大きく異なるものの界面を見ようとする場合、
ハレーションが起こらないような設定をするなどの配慮も必要になります。

この辺りを機械学習を経て自動で最適化できるようになれば、
検査時間の圧縮は可能になると考えられます。

検査工程では条件設定が重要であり、かつ時間を要する工程であるということを踏まえ、
機械学習を取り入れたというのは興味深い取り組みです。

 

以下では、非破壊検査の一つであるX線CTのFRPへの展開について考えてみます。

 

 

FRPでは極めて重要な非破壊検査

FRPの検査の中で最も重要といわれる非破壊検査。

上記のように述べられる理由は、
FRPが層間という内部で静かに進展する破壊が最終破壊に直結するというFRPの特異性によります。

この破壊はトランスバースクラックを含む層間破壊として認識されますが、
これらのリスクは外観からでは判断できないため、
事前に把握するには内部を評価できる非破壊検査しかありません。

これが過去に何度も非破壊検査を取り上げた背景になります。

※関連コラム

レーザー 励起超音波によるFRPの非破壊検査

Infrared (IR) によるFRPの非破壊検査

FRP戦略コラム – 日本の 航空業界 発展に必要な非破壊検査と補修事業

Computed Laminography (CL)によるFRPの非破壊検査

 

 

外観が重要な金属と内部状態が重要なFRP

ここはひとつの大きな文化の違いとも考えていますが、
金属では外観欠陥が重要である一方、
極論を言ってしまえばFRPでは外観の異常はそれほど問題ではありません。

結晶粒界で亀裂などの破壊が進展する金属では表層の欠陥がその起点となることが多い一方、
FRPは既に述べた通り内部で破壊が進展するためです。

例えば浸透探傷等の外部欠陥に関する検査手法が、
FRPではあまり求められていない理由はこのようなところにあります。

 

 

X線CTは卓越した計測精度と欠陥位置を三次元で明確化できる強みがある

量産まで含めた観点でいえば、やはり非破壊検査の本命は超音波です。

しかし、超音波はエコー高さを調整するゲイン調整、
プローブの被検査対象への設置方法、
A scanでキズ(超音波の世界では欠陥という言葉は使いません)か否かを判断する閾値の設定など、
ノウハウに依存する部分が大きいのが実情です。

フェーズドアレイでまず全体を見た後、
詳細確認が必要な箇所を単眼で見るといった考え方は検査技術の本質である一方、
効率重視が叫ばれる昨今では理解されることが少ないと感じます。

しかも単眼を使って丁寧に評価したとしても、
超音波の周波数にもよりますが、その計測精度はX線CTのそれに到達することは至難の業です。

インピーダンスの違いによる反射エコー有無で判断している以上、
超音波の減衰や拡散が不可避の当該検査技術ではある程度の誤差の含有は避けられず、
キズの境界線を単眼A-Scanを使わずに明確化することは困難なのです。

手動が基本の単眼A-Scanでは、
0.1mm以下の位置を明確化することはかなりの技術が必要であることを踏まえれば当然といえます。

さらにX線CTはスキャンした画像が三次元画像として表示されるため、
どこに欠陥が存在するかを理解しやすく、
最近の解像度の向上により欠陥の解像度は向上の傾向にあります。

そしてX線CTで取得したデータはSTLデータという点群データとして出力できるため、
過去に触れたように3D printingを使えば目の前の成形体という「実物」として出力も可能です。

 

高解像度に加え、空間を視覚的にとらえやすいという意味でもX線CTは強みがあるといえるでしょう。

 

放射線がでるため遮蔽室が必要等の制限もありますが、
X線CTは非破壊検査技術としてFRPに対しても有効な検査手段と考えます。

 

 

今回は3D printing向けのX線CT検査を題材に、FRPへの展開について述べました。

ご参考になれば幸いです。

 

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