FRP業界での活躍を目指す企業のコンサルティングパートナー

FRPを使った3D printing製品の医療業界への適用

2022-10-03

人生100年時代とも呼ばれる昨今の日本。

本当にそこまで寿命が成長するのか、それともこれから逆の方向に行くのかは現段階で誰もわかりませんが、
重要なのは寿命ではなく「健康寿命である」というのは共通認識だと思います。

色々な定義がありますが、
日常生活を一人で不自由なく過ごせるという理解で、
概ね問題ないかと思います。

例えば、厚生労働省の情報によると平均寿命と健康寿命で、
9年から12年程度の差があることが触れられています。

この健康寿命の延長のキーの一つとなる可能性があるのは、

「医療技術の発展に加え、医療現場の負担低減」

であるというのが私の考えです。

医療現場の負担を下げれば、多くの人が適切な医療を受けやすくなるというのがその背景にあります。

今日は上記後半で述べた医療現場の負担低減ということに、
FRPが低減できる可能性があるということについてご紹介したいと思います。

 

 

医療業界で成長すると考えられている 3D printing

医療業界では3D printing 適用が進みその材料にはFRPが多用される

Photographed by Jonathan Borba

June 2019 Allied Market Research report によると、
3D-printed healthcare applicationsは2026年までに36億ドルの市場に成長するとされています。

特に外科や内科で手術を必要とする医療現場で注目されているようです。

 

その理由から考えてみたいと思います。

 

手術を行う医療現場で求められるのは、手術を必要とする箇所の高精度の理解

悪性腫瘍を取り除く、骨折した箇所にボルトで締結する等、
内科や外科で手術が必要となる治療は患者に大変な負担を与えるのが通常です。

そのため医者は高精度に必要な手術箇所を理解し、
治療不要箇所を切開する等の医療事故を防止するために大変な神経を使うと考えます。

その一方で病気やけがの箇所を外からすべて見ることは難しいことも多々あるため、
X線CT等の透過画像を用いるのが一般的です。

さらに一般的なX線CT画像は断面画像であるため、
高い空間認識能力が求められます。

X線CTの場合、ソフトウェア上で3次元立体画像にできますが、
一般的には画像化に時間がかかるうえ、
手に取れる立体構造ではないため手術に関する本格的な議論には制限が出ることも多いと考えます。

このような検証や議論は、医療現場に大なり小なりの負担を強いているのではないでしょうか

 

立体化と着色で議論をより具体的に

以下の動画をご覧ください。

これはシノプシスという回路設計などを生業とする北米企業が公開しているもので、
Simpleware ScanIP という医用画像用ソフトの紹介動画です。

これはX線CT画像からコンバートした心臓のモデルを用い、
短時間で必要なモデル修正とstlデータ等の造形に必要なデータ形式でアウトプットできる、
ということの主張をしています。

動画の最終場面で、各領域をモデル上で色分けした3D printing成形品が映っていると思います。
この3次元成形体を基本として実際の手術をどのように行うのかといった議論を行う、
というのが医療現場での活用法になります。

 

このソフトはセグメンテーションの自動化も可能であり、
以下のように手動との違いを作業時間として比較しています。

 

 

3D printing でもFRPは用いられる

3D printingで造形に使用する材料にFRPが用いられることもあります。

例えば、PALITRAという企業はその一例です。

 

元々はRIZE 3Dという企業だったようですが、
企業名が変更になって今の形となったようです。

この企業の概要は以下の動画を見るとわかりやすいと思います。

 

 

3D printingを見たことが無い方でも、何ができるかは理解しやすいのではないでしょうか。

3D printing の一つのトレンド既に言及した「着色」です。
上記の動画でもインキが映っており、
造形と同時にカラーリングが可能であることが示されています。

 

そして上記の造形に用いる主原料としていくつかのFRP製品が売られています。

 

 

PALITRAの3D printing 向けFRP材料の概要

FRP材料として、Palitra Carbon Fiber、Palitra Glass Fiberが販売されています。
前者の強化繊維が炭素繊維、後者は同ガラス繊維ということになります。

3D Printing は熱で素材を溶かしながら積層していくので、
マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂です。

この熱可塑性樹脂のガラス転移温度は78℃、荷重たわみ温度(HDT)は73℃、
難燃性としてUL94-HBの規格を満たす、疎水性高分子であると書かれています。

それぞれ、データシートも公開されています。

Palitra Carbon Fiber
Palitra Glass Fiber

 

それぞれの材料特性を併記して見てみます。

Palitra Carbon Fiber / Palitra Glass Fiber

Flexural Strength
85 MPa / 87 MPa

Flexural Modulus
4.8 GPa / 2.9 GPa

Tensile Strength
56 MPa / 57 MPa

Tensile Modulus
6.7 GPa / 3.6 GPa

Tensile Elongation
1.1% / 1.9%

IZOD Impact,unnotched
225 J/m / 230 J/m

IZOD Impact,notched
75 J/m / 83 J/m

 

炭素繊維強化とガラス繊維強化で比較すると、
前者は弾性率が高く、後者は耐衝撃性や破断伸びが高い、
という傾向を示しています。

炭素繊維で強化した方が強くなるのでは、
と感じる方もいらっしゃるかと思いますが、
そもそも添加している繊維の量(繊維体積含有率)が炭素繊維とガラス繊維で同等か否か不明なのと、
マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であるため、
エポキシを主としたサイジング剤である炭素繊維とは相性があまり良くないのが、
炭素繊維強化のPalitra Carbon Fiberの機械特性があまり高くない原因かもしれません。

 

 

3D printingの材料にFRPを用いる理由

第一の理由は、

「3D成形体の強度と剛性を高める」

ということにあります。

 

例えば上記で紹介した心臓のモデル作成時に、
複数のセグメントに分かれるためそれをつなぎとめる形状部品を追加しているのがわかります。

ここで素材である樹脂の強度や剛性が低いと、
持ち上げた時に変形する、壊れるといったリスクが高まります。

そのため成形体の素材そのものに強化繊維を添加することで、
上述のリスクを低減させます。

 

もう一つが、

「積層方向の強度と剛性を上げる」

というものです。

3D printing では厚み方向に材料を重ね合わせるということで、
形を作っていきます。

その為、積層が形状物成形の基本となっているFRPと同様、
積層方向の強度や剛性は低いことは不可避といえます。

PALITRAはこの対策として、積層方向に強化繊維を加えるという工程が入るようで、
それにより積層物の強度や剛性が高まると期待されると述べられています。

※参照情報/ [ 04 ] STRENGTH IN THE Z-AXIS

 

 

3D printing の Warping という課題

これは推測の域を出ていないのですが、
強化繊維の適用でWarpingという現象を抑制する効果があるかもしれません。

Warpingについては、以下の動画が大変わかりやすいです。

3D printing では熱可塑性樹脂を一度高熱をかけて溶融させ、
それを積層することで冷却し、成形体とします。

そのため、温度変化が大きいため冷却時の引けが起こり、
それがWarpingのような現象につながります。

熱可塑性樹脂の線膨張係数は大変大きく、
例えば3D printingに用いられるスーパーエンプラのPEEKの線膨張係数は、
約50X10E-6[/℃]なのに対し、
ガラス繊維は約5X10E-6[/℃]、炭素繊維は限りなくゼロもしくはマイナスの値を示します。

つまり強化繊維の温度変化時の変形は熱可塑性樹脂と比べて低いのが一般的である上、剛性も高いことから、
Warpingの現象を低減させる可能性を感じています。

当然材料だけでWarpingの課題を乗り越えるのは難しいでしょうから、
ベースとなる台の剛性を上げる、最初は当該台と積層材料を接着させる、
もしくは土台となる低層領域の形状を断面剛性の高い設計にする等の対応が不可避だと思います。

 

 

3D printingをどのように活用するか

3D printing は一時期ブームとなり盛んに情報が飛び交いましたが、
今はある程度適材適所を見出されて活用されていると感じます。

今回ご紹介した医療現場もさることながら、
工場等の生産現場にて試作用治具や設備の特注部品を成形する等にも用いられています。

設備の特注部品については樹脂製だけでなく金属製部品も多く、
元々はラピッドプロトタイプという名称で金属粉体を焼結させることを指していました。

金属粉体が平面になったところにレーザを照射し、断面形状ができたら少しだけ全体を下げ、
上から一層分の金属粉体をかぶせるという工程で進んでいきます。

以下の動画は一例です。

この技術について、元々は日本が牽引していたとも聞いたことがあります。

 

大量生産には不向きですが、複雑な形状も成形可能で内作に切り替えやすい。

 

上記のようなポイントを抑えながら、3D printingをどのように産業界で活用していくのか、
という戦略の検討が不可欠なのかもしれません。

Copyright(c) 2024 FRP consultant corporation All Rights Reserved.
-->