FRP業界での活躍を目指す企業のコンサルティングパートナー

CF/EP廃棄物のエアロゲルへのアップサイクルに関する研究

2026-08-31

FRPもその廃棄物の処理について課題提起をされることが増えたと感じます。
今回はCF(炭素繊維)/EP(エポキシ)のCFRP廃棄物処理法として、
エアロゲルへのアップサイクルを狙った取り組みをご紹介します。

 

FRP廃棄に関する取り組み

FRP廃棄に関する取り組みについては、過去に何度かご紹介しています。

改めて振り返るとFRPの廃棄物として風力発電ブレード由来のものが多いのがわかります。
大型構造物のため一度に使用する材料量が多いことがその理由の一つかもしれません。

※関連コラム

FRP廃棄処理 の現状と必要な姿勢について

Vestas が2040年までに廃棄物ゼロの風力発電ブレードをリリースすることを発表

FRP製風力発電ブレード驚きの廃棄量予想と求められる取り組み

廃棄された風力発電ブレードの靴底材料適用によるリサイクル

風力発電ブレード基本構造と廃棄されるFRP製風力発電ブレードの筏(いかだ)へ再利用

 

今回は風力発電ブレードに主として用いられるGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)ではなく、
エポキシ樹脂をマトリックス樹脂としたCFRP(炭素繊維強化プラスチック)のアップサイクルに関する内容になります。

 

 

CF/EPをエアロゲルにアップサイクル

参考にしたのは以下の文献です。

Quang M.N. Phan et al, Full-material upcycling of carbon Fiber/Epoxy waste into cytocompatible Multi-functional aerogels for thermal and acoustic Insulation, and oil spill cleaning, Waste Management, 2026, 223, 115701

本文は入手できていないのでAbstractとIntroductionの内容を中心にご紹介します。

軸となっているのは、エアロゲルへの”アップサイクル”です。

CFRPの廃棄物をより”高付加価値化”して再利用するというのがコンセプトとなります。

 

エアロゲルとは

一言でいえば微細多孔質構造を持つもので、
吸音材、吸収剤、断熱材などに活用できる機能材料です。

以下のサイトは参考になりました。

※参考情報

エアロゲルとは?/産総研マガジン

 

ゲルという名称がついていますが、これは元々ゲル内部の液体を気体に置き換えたことで作られた、
という由来によるもので、現在の出発原料はゲルに限らないようです。

空隙率は50から90%に達すると言われており、
単位体積当たりに対して非常に大きい表面積を有します。

 

エアロゲルの欠点は脆さ

エアロゲルの欠点は脆さにあるようです。
多くの空隙があることを考えれば当然です。

そこで重要になるのが材料構成であり、複合材料化はその一例といえます。

今回参照した文献でエアロゲルの原材料にCFRPを使用し、
carboxymethyl celluloseを併用したのもこのような材料特性限界を克服することに狙いがあります。

 

安定した多孔体を作るには複数の手法がある

参考情報によるとエアロゲルの基本製造法は超臨界乾燥法とのこと。
表面張力の影響のない超臨界流体をゲル内部の含有物とし、
後工程で期待にすることで多孔体とするようです。

これ以外にも常圧乾燥法、凍結乾燥法などがあり、
そのうち凍結乾燥法は気体、液体、固体が共存する三重点を避けて固体を昇華させます。

孔が大きくなるためアエロゲルと呼べないものもあるようですが、
今回ご紹介する文献のエアロゲル製作法は凍結乾燥法であることが述べられています。

 

CF/EP由来のエアロゲルの製作法

Wet ball millにより廃棄物のCF/EPを粉体にした後、
バインダーとなるcarboxymethyl celluloseを添加して凍結乾燥法によってエアロゲルにするとのこと。

文献の本文を読めていないため実験の詳細条件は不明ですが、
工程自体は比較的シンプルな印象です。

 

CF/EPから再生したエアロゲルの特性

文献のハイライトでは、特性に関して4点ほど記載があります。
それぞれについて文献の文章を引用したうえでポイントを述べます。

断熱性

  • Aligned lamellar pores enable 0.042-0.049 W/m・K conductivity; FEA validated.

高い断熱性を示しています。有限要素法解析でもその妥当性が示されているとのことです。

この熱伝導率は一般的なVfのCFRP(CF/EP)と比べても10分の1以下であり、
優れた断熱性を示しているといえます。

建築資材としての応用はその一例です。

FRPの熱伝導率については以下のコラムでも述べたことがあります。

 

※関連コラム

はじめてのFRP FRPの 熱伝導率

 

吸音性

  • Inverse JCA model accurately predicts acoustic absorption with NRC up to 0.51.

NRC(Noise Reduction Coefficient)と呼ばれる係数で0.51という吸音特性を示すと書かれています。

以下の参考情報によると、NRCは4つの周波数帯(250/500/1000/2000 Hz)における吸音率の平均値のことで、
音を完全に反射する0から高い吸音性である1までの間の数値を取るようです。

限られた周波数帯の吸音性能である上に平均化しているため、
各周波数帯での吸音率を分けて考えるというやり方も有りそうです。

この評価はASTM C423で実施するとのことです。

0.51が吸音性能としてどの程度なのかはわかっていませんが、
感覚論的には音の半分程度を吸収できるとのことで、
最低限の吸音材としての機能を果たせると感じています。

※参考情報

用語集 NRC/ResonAia

Standard Test Method for Sound Absorption and Sound Absorption Coefficients by the Reverberation Room Method/ASTM C423-22

 

疎水性

  • Hydrophobic aerogels show high oil uptake of 14.39 g/g with rapid kinetics.

エアロゲルは疎水性のため、1gあたり14.39gもの油を吸収できるとのこと。
多孔性であることがこの吸収力の基本となっていることは言うまでもありません。

このため、本材料は油汚染が発生した際の油除去材に使用できるのでは、
といった言及が認められます。

 

細胞適合性

  • CFE aerogels are cytocompatible with > 88 % cell viability at all concentrations.

線維芽細胞の88%が残存したという結果が得られたようです。
これは人体適合性が求められる医療系材料にも使用できる可能性を示しています。

線維芽細胞とは真皮に存在する細胞のようです。

 

※参考情報

線維芽細胞:薬学用語解説/日本薬学会

 

今回の内容から考えるべきポイントは何でしょうか。

 

 

廃棄物の再利用を考えるのであればGFRPが優先

一番のポイントはここです。

世の中に出回っているFRPのうち、そのほとんどがGFRPです。
例えばガラス繊維の繊維生産量は炭素繊維のそれよりも桁が2つ大きいです。

廃棄物の再利用に対する取り組みが重要であることに異存ありませんが、
わずかにしか出回らないCFRPよりもGFRPを何とかすべきというのが私の考えです。

ご紹介した技術はアップサイクルの可能性もあるとのことで、
GFRPにこれが活用できれば大変面白い取り組みになると考えます。

加えて熱伝導率についてはCFRPよりもGFRPの方がより優れた数値を示す可能性もあります。
ガラス繊維の方が炭素繊維よりも熱伝導率が低いことが念頭にあります。

 

 

アップサイクルであることに違いないが既存材との差別化戦略は必須

アップサイクルを狙いエアロゲルに着眼した進め方は興味深かったです。

しかしながら断熱性、吸音性、油吸着性などが既存材と比べ、
その特性に明らかな優位性があるとは考えにくく、
結局のところコスト競争になると考えられます。

吸音材を例にすれば発泡ウレタンなどの安価で優れた材料があります。
廃棄物をアップサイクルを念頭に再利用法を開発することは素晴らしいことではありますが、
既存材がある、つまり競争が生じてしまう領域以外を狙うという戦略も必須ではないでしょうか。

個人的には過去にも述べている通り、
材料を処理せず、できる限りそのまま使用する戦略が最重要との理解です。

コストだけでなく、工程が増えれば増えるほど工程管理が難しくなり、
製品としての品質が安定しなくなるリスクが高まるからです。

もう少しシンプルな再利用法というものが、
今以上に増えてくることに期待したいです。

何より、物を作った段階でそのまま再利用を想定しておくという、
設計者の広い視点が重要ではないでしょうか。

 

 

エアロゲル製作方法の安定化

既に触れた通りエアロゲルの製作法には、
今回文献で採用された凍結乾燥法に加えて超臨界乾燥法や常圧乾燥法があります。

常圧乾燥法は孔を形成する溶媒の液体/気体の変化が生じるのが一般的であるため、
その際の気液界面での表面張力が多孔構造の破壊につながるようです。

よって現在の文献の手法である凍結乾燥法ではエアロゲルの孔構造は安定していない可能性もあり、
ここを適切に制御する取り組みも必要だと推測されます。

この辺りの技術については少し調べましたが、かなり細かい調整が必要のようです。

最も安定した構造のエアロゲルができる超臨界乾燥法も多くの複雑な工程が必要であることが知られており、
さらに常圧乾燥法も表面張力の小さな溶媒への置換とゲル側の疎水化処理を組み合わせる、
凍結乾燥法の場合は凍結時の結晶成長を抑制するために急冷を行うなど、
どの手法を選ぶにしても工程を安定的なものにすることは簡単ではないようです。

既に発表から10年たっているとはいえ、以下の様な文献が存在することを考えれば、
エアロゲル製作方法の安定化という観点から、産業化への道筋はまだ半ばとみたほうがいいかもしれません。

逆に言うとだからこそ今から着実に研究を進めるべきでしょう。

 

※参考情報

王 嘉墨 他, 種々の乾燥法を用いたシリカエアロゲルの作製, 2016, 先進セラミックス研究センター年報, 5, p.p.12

 

 

最後に

今回はCFRPのアップサイクルとしてエアロゲルへの適用をご紹介しました。

この手の研究テーマは必ずと言っていいほど産業化に向けての課題、
特にコストや品質安定を言われがちです。

しかし重要なのは基礎研究を続けることで、
想定していたものと異なる結果が得られる、応用例が提示される、
といった”想定外”のことに出会う可能性があることです。

分かりやすい議論で新しい取り組みを下火にするのではなく、
何か特徴は無いか、他にやり方は無いか、
もっと異なる展開例は無いかといった試行錯誤が重要である、
というのが私の考えです。

 

今後の進展に期待したいと思います。

Copyright(c) 2025 FRP consultant corporation All Rights Reserved.
-->