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無撚と真直性を両立させた天然繊維の加工技術

2026-08-18

信州大学の新技術説明会を見逃し配信で聴講しました。
無撚と真直性を両立させた天然繊維の加工技術という興味深い内容のテーマです。

今回はその概要と技術的なポイントをご紹介したいと思います。

 

 

聴講した発表

聴講したのは以下のテーマとなります。
オンラインで配信し、見逃し配信もしてくれていました。

信州大学 新技術説明会:長繊維無撚りスライバによるFRP基材

発表されていたのは繊維をご専門とされる先生のようです。

長くとも200mm程度の繊維を撚らずに連続繊維に加工する、
長繊維スライバ細化技術など、私はあまりなじみのない技術も紹介されており勉強になりました。

スライバとは、紡績工程の中間基材とのことです。

 

※参考情報

繊維用語集

 

発表中の技術的ポイント

聴講した発表内容でポイントとなる部分を抜粋して述べます。

 

対象は天然繊維

対象としているのは天然繊維(亜麻等)です。
天然繊維は人工的に作るガラス繊維や炭素繊維等とは異なり、
連続繊維ではありません。

長さにばらつきがあるため、撚って使います。

日本でも昔からある紡績技術はこれに該当します。
短い繊維でも撚ることで長く、強くします。

 

熱可塑性樹脂をバインダーとして局所接着させる

最大のポイントはここだと思います。

繊維を撚らずに連続繊維形態にするのは非常に難しい。
それを、繊維間に熱可塑性樹脂のバインダを用いて真直性と連続性を発現させています。

バインダに用いる樹脂を局所的にすることでドレープ性を維持させ、
織る、編むといった後加工を可能にしているのも特徴です。

バインダの繊維への含浸度合いはプリプレグ(完全含浸)やセミプレグ(半含浸)と比較し、
かなり局所的である印象です。

なお、バインダを適用する前の繊維は長繊維スライバ細化技術とよばれる手法で加工しているようです。

 

バインダの効果により素抜けを防止

長くても数百mm程度の繊維では撚っていない場合、
軽い力で部分的に引き抜けて切れる、
いわゆる発表で述べられていた”素抜け”と呼ばれる事象が発生しやすいと考えます。

前出のバインダ適用と溶融による局所融着の結果、
通常の織り、編みの加工に必要な引張荷重に耐えられるようになるという結果も示されていました。

 

天然繊維由来のFRP向け強化繊維としての活用を想定

ドレープ性のある繊維基材になるため、
既述の通り織物や編み物といった様々な基材形態への加工が可能とのこと。

これらの特性を活かしてFRP向けの強化繊維に活用できるのではないか、
ということが述べられていました。

 

基材設計の選択肢は多い

発表で示された基材構成のはあくまで一例であり、
繊維長、バインダ種などの変更は可能と述べられていました。

このような選択肢を維持するのは、
使いたいと思うユーザにとって前向きな情報と言えるでしょう。

 

以下、今回の発表に関連する技術的なポイントを述べたいと思います。

 

 

天然繊維を強化繊維に用いる取り組みは当然になってきている

天然繊維を強化繊維に用いる等、
環境を意識した取り組みはFRP業界でも当たり前になりつつあります。

実際にどのレベルで環境負荷低減の効果が得られているかはまだ検証が継続している最中ですが、
そのような取り組みを行わないと企業イメージ向上につながらない、
といった事情も垣間見えます。

ざっと挙げただけでも、環境関連だと以下の様なコラムで取り上げています。

個人的には関連コラムの中で、特にパイナップルの葉を活用した取り組みにおいて、
農業従事者の所得を増やすことにつなげるというコンセプトは興味深かったです。

従事する人に経済的な恩恵をもたらすことは、
持続可能な取り組みにするには不可欠な要素と考えています。

 

※関連コラム

Bcompの天然繊維強化FRPがQuintessenza(R)のコンセプト電動車に採用

天然繊維を用いたBPREGの熱可塑性プリプレグ

天然繊維複合材料の 回転成形

Composite Evolution 社の Flax と Carbon fiber の hybrid材料

パイナップルの葉を 3D printing 向けの強化繊維に適用

 

環境負荷低減効果の定量評価が重要

個人的には何をもって環境負荷が低減したのかを、
適切かつ定量的に評価する指標が重要と考えています。

環境負荷低減効果において温室効果ガスが基軸になる傾向があるものの、
本当にそれだけでいいのかはよくわかっていません。

廃棄物の削減量、有害物質の放出抑制、対応する人的負荷の考慮など、
恐らく様々な視点があるものと感じています。

今のところFRPに関連した環境負荷評価は、
EuCIAによる環境アセスメント評価手法のEco Impact Calculatorなど、
限られたものしかありません。

 

※関連コラム

Composites Sustainability Report 2024 / JEC Composites Magazineの概要

 

FRPは複合材料という材料だけ見ても複雑なうえ、
作り方や加工方法、使用期間などもまちまちで統一見解を持つことが難しいことから、
それらを幅広く網羅する世界共通の評価手法が必要であると考えます。

 

 

天然繊維を無撚で使えるのは大きな前進だが品質と収穫量のばらつきが課題

今回の発表では天然繊維の真直性を維持できるという意味でFRP設計の観点でも意義があります。

これは発表中でも述べられていたことですが、
繊維の配向をそろえ、繊維長を長くするほど、
その方向のFRPとしての機械特性、物理特性は向上します。

ここは大きな前進と言うべきですが、天然繊維の別の課題として

「品質と収穫量の変動」

を無視できません。

 

天然物は品質の変化による特性値の変動が大きい傾向にあります。

繊維径や繊維長の変動による強度などの機械特性は代表例です。

加えて生息域によっては近年の気候変動や異常気象の影響もあって、
収穫量が大きく変化する可能性があります。

 

FRPのばらつきは川下に行くほど大きくなる

今述べているのはFRPの材料のうち、さらに川上にある繊維の話にすぎません。

この後、FRPにする樹脂との含浸があり、成型、加工といった後工程に進みます。

成型や加工は単純な平板であることは少なく、
その多くが三次元形状をしています。

FRPの上流で生じた材料変動は、川下に行くほど増長されます。

例えば含浸工程だと繊維配向を維持するのであればある程度テンションをかけるはずで、
そのテンションが繊維の反物の幅の位置によって異なればFRPの特性のばらつきに直結します。

樹脂の含浸もきちんと含浸できているのとそうでないのでは中間基材の状態は異なり、
この変動が実際の成型時の樹脂の流動に影響を与え、
想定しない繊維配向変化や空隙の発生につながりかねません。

こうして生じた変動は加工時、例えばNC加工だとするとスラストやトルクに変化を生じさせることで加工ラインが変化し、
また空隙があればそれが起点となって層間剥離が生じることもあり得ます。

 

従って量産を見据えるのであれば、本来川上側に行くほど厳しい品質管理が求められます。

上記の通り川上で生じた変化は川下に行くほど大きくなるからです。

その一方で一見するとわかりにくい化学的な要素の強い材料に、
すべての管理要素を担わせるという短絡的なアプローチも間違いです。

問題や課題が起こった際、本当に材料が原因なのかを川中、川下側で検証し、
本質的な原意究明を行ったうえで、それを品質管理に反映させるという姿勢が肝要です。

 

量産を見据えた品質管理の観点で見た場合、
天然繊維の位置づけと何を求めるべきか、求められるべきかを今一度考える必要があるかもしれません。

 

 

バインダの方法としてステッチもあり得るか

繊維加工は門外漢ではありますが、
今回の様な熱可塑性樹脂を基本としたバインダに加え、
ステッチ糸を使った固定も一案かもしれません。

繊維に仮止めの縫い付けを行うイメージです。

化学品は前出の品質のばらつきの一因になるため削減する、
という意味合いもあります。

この辺りは基材加工の専門家の方々の意見も聴いてみたいところです。

長手方向の素抜けは垂直方向だけのステッチでは抑制できない、
または繊維加工の工程の成立性が困難、
といった意見を聴けるような気がしています。

チェーンステッチ、トリコットステッチなど、
ステッチの設定によってこのような経糸(たていと)の素抜けを防ぐやり方はあるのかは個人的に興味あります。

 

 

天然繊維の強みは伸びであることを念頭に耐衝撃吸収用途を考える

FRPに求められるのは強度と剛性です。

冒頭の先生の発言の中でFRPとしてガラス繊維と同等の弾性率を示すという話があったことを踏まえると、
炭素繊維のT300を強化繊維に用いたFRPに匹敵する弾性率が発現するものと推測します。

その確からしさは実データを見なければ何とも言えませんが、
もし天然繊維を用いるのであれば炭素繊維やガラス繊維と歩調を合わせるのではなく、

「天然繊維が持っているであろう”伸び”を活かす」

方向性が望ましいのではないかと感じています。

特に今回紹介されたように最長でも200mm程度の繊維を、
真直性を維持させながら熱可塑性バインダで繊維配向の垂直方向にブリッジさせた形態は、
破断するまでの”伸び”が炭素繊維やガラス繊維より大きいのではないかと考えられます。

 

天然繊維の伸びを活かすのであれば熱可塑性樹脂やゴムと合わせるのが妥当

前述の理由からFRPの形態にするのであれば、
脆性である熱硬化性樹脂ではなく熱可塑性樹脂と組み合わせる方が繊維の伸びに関する特性が活かしやすいはずです。

同じ理由でゴムのようなエラストマーとの組み合わせもいいかもしれません。

複合材料と言っても樹脂をベースとしたFRPではなく、ゴムをマトリックスとした複合材料にするイメージです。

ある程度の変形ができる用途なのであれば、
剛性が求められる構造部材用途よりも、

「大変形による衝撃吸収が求められる衝撃吸収材」

の方が力を発揮しやすいかもしれません。

 

<高温含浸が必要な熱可塑性樹脂だと天然繊維が変質する可能性>

天然繊維に組み合わせるマトリックスとして熱可塑性樹脂を述べましたが、
熱可塑性樹脂は含浸に高温が必要になるため、
その熱で繊維自体が変質する可能性もあります。

若しくは天然繊維が含有する水分で内部に気泡が発生する可能性も否定できません。

繊維自体の耐熱温度に気を配る必要があるというのも留意すべき観点の一つと言えるでしょう。

 

 

繊維の真直性維持はマトリックス樹脂含浸で有利

天然繊維の真直性を維持できる理由として主に機械特性が述べられていましたが、
個人的にはマトリックス樹脂の含浸にも有利である点も重要だと思います。

繊維が一定の方向に配向していれば、
繊維間の空間、いわゆるチャンネルに近いものができ、
毛細管現象で繊維配向に沿って樹脂を含浸させやすいと考えられます。

このような意味でも繊維の真直性維持は重要でしょう。

またプリプレグを製造するにあたり撚った繊維は開繊できないというデメリットもあります。
局所融着が開繊によって離脱するという柔軟性があると、
薄目付のプリプレグ製造にも使えるといったメリットが期待できそうです。

 

 

天然繊維は超音波の減衰が大きい

これは経験則的な部分でもありますが、
FRPの代表的な非破壊検査手法である超音波探傷において、
天然繊維のFRPは減衰が大きい傾向にあります。

繊維の弾性率の低さがその一因であると考えています。

減衰が大きくなれば深部を探傷することが難しくなります。

超音波探傷プローブの周波数を落とす、超音波の出力を上げる(プローブ径を大きくする)のも一案ですが、
前者は探傷精度の低下、後者は凹凸形状追従性の低下という副作用があります。

非破壊検査ができないことは、
FRPの構造部材としての安全利用に一定の制限が付くことになります。

トランスバースクラックや層間剥離の形で進展するFRPの破壊を外観から判断するのは難しいことがその理由です。

 

FRPとしての本格適用を考えるのであれば、
非破壊検査の話は不可避であることを改めて強調しておきます。

 

※関連コラム

はじめてのFRP FRPの非破壊検査に応用される超音波探傷

 

 

 

最後に

今回は無撚天然繊維の真直性を維持させた基材加工技術と、
それに関連した技術的ポイントを述べました。

FRPに限らないかもしれませんが、
既存材料の置き換えという考えだけだと、
新しい材料の良さが活きないかもしれません。

天然繊維は品質や供給量のばらつきという課題はあるものの、
取り上げた繊維加工技術は様々な可能性を秘めており、
それを強みにするには既存材の考えから”少しだけ”変更するという、
柔軟な戦略が必要だと考えます。

FRPにこだわらずより広い複合材料という観点で、
ご紹介した技術に由来する天然繊維を活かせないか。

既成概念にとらわれなずに既存の課題を一つひとつ解決することが、
今の時代に求められる思考法だと思います。

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