熱可塑性CFRP(CF/PAEK)のAFPとIR技術を応用したRIB形状成型
今回は熱可塑性CFRP(CF/PAEK)のAFPとIR技術を応用したRIB形状成型について述べてみたいと思います。
以下、CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermoplastics)は熱可塑性CFRPのことを指すとします。
航空機の主翼のRIBを想定したCFRTP成型物でJEC Innovation Award 2026受賞
今回参考にしたのは以下の記事と動画です。
Dr. Levent Kirkayak at Paperjam 10×6 – Industry (Re)Invented / Paperjam English
用途は次世代航空機の主翼のRIB

Photo Credit: DAHER
参照動画の3’30″近辺に今回のRIBの用途に関する紹介があります。
航空機の主翼のRIBということで、一次構造部材の中でも主役の一つと言えます。
主翼のスキン材とSPARを締結する役割があります。
主翼は燃料を積載するインテグラルタンクやブラダータンクとしての役割もあるため、
RIBが燃料にさらされる可能性がある場合、
ケロシンのような燃料暴露に対する耐性が求められます。
用いられたのはCF/PAEK
今回用いられた材料はCF(炭素繊維)とPAEK(Polyaryletherketone)です。
PAEKは極めて高い性能を有する熱可塑性樹脂で、
スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)の一角を担っています。
PAEKといえばこの化合物と特定できると考える方もいらっしゃるかもしれませんが、
PAEKというのはあくまで総称にすぎません。
強いて言えばArylということで芳香環の水素の一部がアルキル基に置き換わったうえで、
ケトン基を有する分子構造が直鎖上に重合した化合物となります。
類似の樹脂としてFRPの世界でもよく耳にするPEEKもその”仲間”です。
後述しますが、この材料は融点が低い特徴があり、
分子構造に何かしらの工夫をしていることが示唆されています。
これを開示するとまずいので隠したい、しかし何者かは示したいということでPAEKという呼び方をしていると想像します。
PAEKを商品化しているVICTREXのLMPAEK(TM)については、
過去のコラムでもご紹介しました。
※関連コラム
RIBをCFRTP化することによる効果
これは参照動画と参照記事どちらでも触れられている内容で、
要点は以下の通りです。
- 従来RIBに用いられるAlに比べ22%軽量化
- ボルトを用いた組み立てに比べて15%のコストダウンと25%の工程時間短縮
- 当該RIBを採用した航空機が運用期間で削減できるCO2排出量12.5ton削減
それぞれについて補足します。
軽量化
こちらはほぼ純粋に密度差が効いてくるところです。
ここで理解すべきポイントは”純粋な密度差”だけではないということです。
本点についての考察は後述します。
FRPが得意とする一体成型が部品点数の削減に貢献
FRPは歴史の上でもその形状追従性が強みとして認識されてきました。
この特性をうまく活用できれば、従来複数の部品で構成されていたものを一体化することも可能になります。
FRPの特性としては押さえておきたい点の一つです。
CO2削減量は裏付けが難しい場合も
温室効果ガスの代表格として語られるCO2ですが、
温室効果を悪と見るのであればメタンの方が上手(うわて)です。
またこの手のアセスメントは妥当性の検証が難しく、
数字が独り歩きする傾向にあると感じています。
FRP関係であれば以下のようなツールを使うことが、
妥当性の疑義をゼロにできなくとも低減する効果は期待できると考えます。
※関連コラム
Composites Sustainability Report 2024 / JEC Composites Magazineの概要
Infraredを用いた融着
RIB形状を付与するにあたり、Infrared(赤外)を使った融着技術を採用したようです。
これにはLuxembourg Institute of Science and Technology (LIST)の技術が使われているようですが、
技術に関する詳細情報が見つけられていません。
私が見つけられていないか、そもそも開示していない可能性があります。
以下のLISTのリリースを見ると最大12mm厚みのCFRTPまで融着できるという記述はありました。
※参考情報
前出の参考動画の4’07″あたりにはLISTというロゴが付いた設備がCFRTPを加熱し、
融着する様子も見られます。
今入手できる情報を勘案すると、
最初L字形上に賦形し、その後LISTの技術を使って逆側にL字形上を付与することで、
断面がT形状のRIBを成型したという話だと考えます。
金属の様な深絞り成形ができないFRPの限界を、
このような二段階成型法で克服したと解釈できます。
成形体は1/1スケールで圧縮/せん断荷重試験を実施
参考動画では2026年3月に1/1スケールで試験を実施したと書かれています。
これに関する情報は以下の記事で概要が書かれていました。
※参考情報
この情報によると、RIBは64ply積層で厚みは12mmに達しているとのこと。
RIB成型体に25トンの圧縮とせん断荷重を同時にかけた結果から、
航空機部品用途に十分使用できるという結果を得られたと書かれています。
評価はAirbusのおひざ元のCetimで実施されました。
使用された材料はVICTREX AE(TM) 250 UDT
前出の記事によると使用された材料がVICTREX AE(TM) 250 UDTであると書かれています。
この材料について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。
参考にしたのは以下の技術資料です。
VICTREX AE(TM) 250 UDT – UNIQUE PAEK PREPREG ALLOWS FAST & EFFICIENT COMPOSITE PARTS MANUFACTURE
資料で述べられているのは主に積層工程
前出の技術資料で述べられているのは積層工程に関するものです。
AFP(Automated Fiber Placement)の設備メーカであるCoriolisとの共同開発の取り組みが軸となっています。
積層時のヘッドのレーザ出力による材料や型の温度設定により、
積層体のボイドなどがどのように変動するかを評価しています。
VICTREX AE(TM) 250 UDTはPAEKを完全含浸させた一方向材の6.35mm幅のテープ
材料を確認します。
VICTREX AE(TM) 250 UDTはPAEKを完全含浸させた一方向材、
すなわち繊維が一方向に引きそろえられた材料です。
材料の幅は6.35±0.127mmです。
材料の目付は192g/m2、Vfは58%、RCは34%です。
マトリックス樹脂の融点は303℃とのことで、
前出の関連コラムでも述べたVictrexの樹脂のうち、
VICTREX LMPAEK(TM) POLYMER 103 GRAだと考えます。
炭素繊維のグレードについては記述が無いため不明ですが、
想定用途を考えればIM(中弾性)クラスであると考えて問題ないと思います。
積層型を140℃に設定すれば積層温度を必要以上に高める必要はない
様々な検証結果が示されていますが、
積層型の温度を140℃に加熱したうえでどの程度までAFPヘッドのレーザ出力を抑制、
すなわち積層温度を低減することが可能かを、
平面形状の積層材のボイド率で評価しています。
積層スピードは3m/minで固定しています。
以下の条件は他の評価でも不変のようです。
- 積層数:16 Ply
- 積層構成:UD疑似等方
- ヘッド搭載テープ数:8本
結果は技術資料のTable 1に示されています。
結果を見るとレーザ出力を1700W、温度でいうと380℃程度で空隙はほぼなくなるとのこと。
同1600W、345℃にしても0.53%程度とのことで、
従来常識とされた450℃(2100W)で積層した場合のボイド率4.6%よりは改善の傾向が示されています。
また、あまり高温すぎる状態で積層すると残留応力が発生し、
Warping等の変形が生じるといった問題につながるとの記述もあります。
Warpingについては過去のコラムでも触れたことがあります。
※関連コラム
積層型を加温すれば積層温度を上げることで積層スピードを高めてもボイド率の顕著な上昇は無い
類似の評価として、成形型を140℃保温の状態で積層スピードと積層温度を高めた条件での結果が示されています。
積層スピードを6m/minから最大20m/minまで高めていますが、
積層温度/レーザ出力をそれぞれ395℃/2450W、420℃/5000Wに設定すれば、
ボイド率は1.7%程度に抑えられるとの結果が出ています。
前出の通常条件でのボイド率4.5%より低い結果であり、
高速積層実現の可能性が示されています。
詳細は技術資料Table 2をご参照ください。
後含浸工程を取り入れれば積層スピードは60m/minまで高められる
さらに積層スピードを上げるにはどうすればいいかという検討も行われています。
この条件では成形型は室温環境でヘッドのレーザ出力を3400Wに設定し、
積層部の温度が345℃となる場合の結果が技術資料中のTable 3に示されています。
この場合にポイントとなるのは”後含浸工程”の追加です。
より具体的には真空バックで減圧し、
それを350から380℃のオーブン中で15から30min程度放置するというもの。
これは厚み5mmを想定した場合の工程と書かれています。
本工程の追加により積層板のボイド率は検知できないレベルまで低減したと書かれています。
後工程の追加は工程時間の延長という負の側面もありますが、
オートクレーブなどの例えば6気圧以上の圧力が必要なケースと比べれば、
圧倒的に簡略化できた工程と言えます。
結晶化度の制御は無視できない
PAEKは結晶性ポリマーです。
そのため、熱履歴に加えて冷却履歴によって結晶化度が変化します。
物理特性、機械特性だけを考えれば結晶化度は高いほうが優れているのが一般的です。
VICTREX AE(TM) 250 UDTについては最大で50℃/minという冷却速度で、
結晶化度は最大25から30%になると技術資料に書かれています。
AFPによる積層の場合、積層の瞬間は結晶がすべて融解すると想定される420℃という高温になれば、
その下層や次に積層される上層の残留熱により冷却速度がゆっくりになると期待できます。
このようなAFP工程固有の現象に伴う副次的な効果によって結晶化度を上げることが可能になる、
という観点を持っておくことも必要な観点です。
ここまでの内容を踏まえ、追加で考えておきたい技術的ポイントを以下に述べます。
軽量化の効果は”材料置換”という一方向の考えで議論してはならない
FRPが自動車をはじめとした様々な使ってみようという潮流のあった時代によく聞いた話が、
「材料を置換して軽量化したい」
というものでした。
ここには暗に、
「形状はそのままで」
という前提が付いていたことは言うまでもありません。
前出のRIBのAlからCFRTPへの変更に伴う重量削減割合は22%でした。
CFRTPの密度はVfなどにもよるので一概には言えませんが、
仮に1.6g/sqcm程度だとするとアルミに対しては40%程度の重量削減になります。
これは”形状が同一”と言う前提の話です。
実際には22%であることから”形状を変更している”ことが強く示唆されます。
CFRTP(熱硬化のCFRPも同じ)が持つ異方性をはじめとした、
材料特性を考慮すると同じ形状では設計が成立しないのです。
今も継続してCFRTPやCFRPを構造材に適用しようとする企業は、
FRP向けに形状から再設計しているところに限られているという印象です。
構造材が前提となった場合、材料変更は形状再設計とセットになると私が主張してきたことの妥当性を示唆している結果と感じています。
スーパーエンプラをマトリックスとしたCFRTPは優れたせん断特性を示す
これは最近顧問先での評価結果でも知ったことですが、
はっきり言ってしまうとスーパーエンプラをマトリックスとしたCFRTPのせん断特性は、
熱硬化のそれとは別物です。
粘り強い上に弾性率も高く、簡単に壊れる要素がありません。
その素晴らしい挙動に思わず唸った自分がいました。
私自身も引張の経験はありましたが、
せん断特性は輪をかけて異次元に高い性能を発現していました。
FRPの主たる応力伝達モードがせん断であるShear Lag Modelを明確に否定する理論が不在の今、
熱可塑性樹脂、特にスーパーエンプラの存在は今後のFRP材料のブレークスルーの一要素になる可能性はあると考えています。
※関連コラム
プレスで成形した試験片との材料試験データ比較
AFPで積層後、大気圧で加熱する後工程で含浸させた平板を用いて評価した材料試験結果と、
プレス成型した平板をベースとした同結果との比較が行われており、
両者の数値が概ね同等であることが技術資料中のTable 4に示されています。
特にOHC(有孔圧縮)やFHC、Bearing等の孔部にボルトやリベットを締結させた評価で、
AFPと大気圧含浸をさせたものの方が2、3%ですが高い数値を示しており、
応力集中部があってもせん断荷重モードによる応力伝達が適切に行われたことが示唆されています。
※参考コラム
三次元織物を強化繊維としたFRPのBearing特性と設計許容値(A、B値)算出法
一方でMode 1の破壊靭性試験ではプレス成型のデータと比べて17%程度低い結果となっており、
面外変形を伴う亀裂進展に対してはプレス成型の方が高い特性が出やすいことも事実のようです。
想定される破壊モードを念頭に、
どのような積層、成型方法を選択するかという視点が重要だと考えます。
積層時の押し付け圧力(荷重)はFRP成型体特性と安定性向上の鍵
今回の評価ではあえて触れられていないのかもしれませんが、
積層スピードを上げる、積層温度を上げるということも重要な工程パラメータである一方、
FRPの基本を考えれば
「積層時の押し付け圧力(荷重)」
が極めて重要です。
押し付ける力により積層材料間に気泡を抱き込むリスクが減ることに加え、
繊維配向が変化することもありますが、
マトリックス樹脂の粘度が十分に低ければ強化繊維が開繊してマトリックス樹脂から強化繊維への応力伝達効率向上の効果を得られる可能性もあります。
昔ながらのハンドレイアップでも特性値を上げるには積層時の圧力(荷重)を上げることは、
無意識の常識として浸透しています。
温故知新ではありませんが、どれだけ最新の設備を用いたとしても技術の普遍的要素に留意することを忘れてはいけません。
今回の評価のパートナーはCoriolisですので、
機械的な押し付け荷重については設備的に十分な余力があるでしょう。
上記でいう押し付け荷重には単なる力だけでなく、
押し付けられる側の材料状態や形状、
さらに言えば積層する材料の目付の均一性を考慮した、
きめ細かい配慮が重要となります。
AFPの場合、押し付けに使用するコンパクションローラの材質や形状も大きな要因となりえます。
最後に
スーパーエンプラをマトリックス樹脂としたCFのUDテープを用いたRIB成型体について、
AFPを中心とした積層工程も含めた評価結果をご紹介しました。
技術資料中にも書かれているようにAFPによる積層工程には最適化の余地はまだあると考えられますが、
このレベルでCFRTPの大型成型ができつつあることには技術の進歩を感じます。
今回は材料の川下にある積層を評価対象としている点が興味深く、
従来は”ノウハウのため門外不出”と言われた部分をあえて公開している点は注目に値します。
隠してばかりでは課題を解決できず、
用途が広がらないという材料メーカの危機感によるものかもしれません。



