高耐熱で低融点の熱可塑性樹脂PAEK概況と研究事例
2024-11-11
PAEKはPolyaryletherketoneの略です。
VictrexがLMPAEK(TM)という名称で高耐熱、かつ低融点PAEKの展開を進めているという記事が、
Composite Worldで掲載されました。
今回はこの材料の概要と、PAEKに関する研究事例をご紹介します。
PAEKとは
Polyaryletherketoneを日本語でいえば、
「芳香族を主骨格に含み、エーテル、並びにケトン結合から形成される高分子量体」
でしょうか。
Aryl(アリール)は芳香族、すなわちベンゼン環中の水素がアルキル基などに置き換わった誘導体の総称です。
CH2=CH-CH2-で示されるアリル基(Allyl)と似ていることには注意が必要です。
エーテルは-O-の結合、カルボニル(ケトン結合)は-CO-の結合で示される官能基(反応性で分類される化学構造単位のこと)です。
つまり、PAEKといわれても具体的な化合物が何かはわかりません。
あくまで総称です。
なお、高性能のCFRTP(熱可塑性CFRP)のマトリックス樹脂として知名度の高いPEEKやPEKKもPAEKの一種です。
PAEKは分子構造中に芳香環を有することで優れた物性値と耐熱性を示す
これはあくまで一般論ですが、
分子構造中に芳香環を有するようなものは剛直になるため、
耐熱性や耐薬品性が高まる傾向にあります。
熱可塑に限らず、熱硬化でも耐熱性や耐薬品性を上げる場合、
芳香環を積極的に導入するのにはそのような理由があります。
分子設計鉄板技術の一つです。
FRPの熱硬化性マトリックス樹脂の代表例であるビニルエステル、
エポキシの主剤であるビスフェノール、
当該エポキシの硬化剤の芳香族アミンなどはすべてこのコンセプトに合致したものになります。
熱可塑でいえばPPSやPEEKなどがそれに該当します。
スーパーエンプラの多くには芳香族化合物がその構造に含まれているのも、
耐熱性と耐薬品性を高めたいという狙い故です。
剛直な分子構造を有する熱可塑性樹脂の融点は高くなる
当然と言われれば当然ですが、
耐熱性を求めればその熱可塑性樹脂の融点(以下、Tm)も高くなります。
高分子間の架橋点を有さない熱可塑性樹脂は、
ガラス状態から熱をかけられることによってゴム状態を経て、
最終的には溶融状態となります。
ガラス状態からゴム状態に変化する一指標を示すのにガラス転移温度(以下、Tg)が用いられますが、
この温度は樹脂の分子、つまり高分子の分子運動エネルギーと、
分子間の分子間力が釣り合った状態として定義されます。
耐熱性を高めたいということはこのTgを高めることとイコールになるので、
Tmも高くなるのは不可避といえます。
FRPとして適用可能温度判断ではTgに頼らない
FRPのマトリックス樹脂のTg以下であれば、
構造材として用いて大丈夫だ、またはその逆の考えの方もいます。
しかしながらTg前後でいきなり特性が大きく変化するわけではなく、
場合によってはその手前から特性が変化する場合もあり、
特にFRPの場合、強化繊維の補強効果が引張に対してやや低下する圧縮特性が顕著に低下します。
当然温度だけでなく、湿度や暴露溶媒(燃料、オイル、薬液など)によっても大きく状況は変わります。
逆に一次構造材のような使われ方ではなく、
それほど荷重がかからない環境であれば、
Tgを超えたところでも機能を維持する場合もあるのです。
試験片ベースでいいので、
暴露される環境での材料特性値を把握することは不可避といえます。
FRPを使用する設計者をはじめとしたユーザは、
本点も押さえておく必要があるでしょう。
Victrexが提案するLMPAEK(TM)の狙いは耐熱性を犠牲にせずに融点を下げることにある
話をPAEKに戻します。
前述の原理原則(剛直高分子はTg、Tmともに高くなる)に挑んだというのがLMPAEK(TM)になります。
コンセプトの概要を示した動画を以下で見ることができます(限定公開なので、突然見られなくなるかもしれません)。
PEEK相当の耐熱性を有しながら、
Tmを下げることが可能なPAEKを提案しています。
概要を見てみます。
材料データ概要
材料はVICTREX LMPAEK(TM) POLYMER 101と同103の2種類です。
粉体とペレットがあり、前者は製品名の最後にPWD、後者はGRAが付きます。
101と103のペレットのデータを比較します。
また、参照比較としてPEEKであるVICTREX 450G(TM)のデータも記載しました。
※参照元
物性比較表
Property [unit] | VICTREX LMPAEK(TM)
POLYMER 101 GRA |
VICTREX LMPAEK(TM)
POLYMER 103 GRA |
VICTREX 450G(TM) |
Density [g/cm3] | 1.25 | 1.27 | 1.3 |
Tensile Modulus [MPa]@23℃ | 3700 | 3800 | 4000 |
Tensile Yield Strength [MPa]@23℃ | 91 | 91 | 98 |
Tensile Break Strain [%]@23℃ | 8.2 * | 62 | 45 |
Flexural Modulus [MPa]@23℃ | 3400 | 3200 | 3800 |
Flexural 3.5% Strain Stress [MPa]@23℃ | 110 | 106 | 125 |
Flexural Yield Stress [MPa]@23℃ | 152 | 146 | N/A |
Notched Izod Impact Strength [KJ/m2]@23℃ | N/A | 7.6 | 8.0 |
Tg [℃] @DSC (Midpoint) | 153 | 156 | 150 |
Tm [℃] | 305 | 303 | 343 |
Shear Viscosity [Pa・s]@400℃ | 141 | 277 | 350 |
*注
引張り破断ひずみについて、参照元ではVICTREX LMPAEK(TM) POLYMER 101は同103や450Gと比べ、極端に低い8.2%となっています。
注釈にもあるように、結晶性高分子であるPAEKは溶融後の冷却工程などによっても特性が異なるため、数値は温度プロファイルによって変化するとご理解ください。
これらのデータについてポイントを述べたいと思います。
LMPAEK(TM) とPEEKの違いについて
強度をはじめとした機械特性はPEEKの方が高い傾向にあります。
物理特性である弾性率は引張より曲げの場合、PEEKが高い傾向がより顕著になります。
破断伸びはどれもばらつきが大きすぎて何とも言えません。
既に述べた通り冷却工程によって結晶化度が大きく変わることが要因と考えます。
同様に物理特性であるTgも概ね同等ですが、LMPAEK(TM)の方が売りであるTmに加え、400℃における粘度もPEEKと比べて低いことが分かります。
本来であれば上記の特性以外にも、
PEEKでは記載のある比誘電率などの電気特性や、
熱変形に関係する線膨張係数や熱伝導率、
そして相対温度指数(RTI:Relative Thermal Index)といった熱特性や熱劣化特性も比較する必要があります。
実際にLMPAEK(TM) の使用を検討する場合は、
用途に応じてこれらの特性値についてもVictrexに要求するか、
自身でデータを取得することを推奨します。
低融点PAEK誕生の経緯に目を向けることで技術的視野狭窄を防ぐ
ここまで述べてきたことは、Web上で入手できる情報をベースにしています。
ユーザとしては十分な情報であるという考え方もありますが、
そもそもどのようにして低融点PAEKが生み出されたのか、
という点について技術的な推測をすることが研究者、技術者として重要な姿勢です。
川上、川中、川下という分類の垣根を超える
売り物を買って使うという川下企業にありがちな視点だけでは、
技術の進歩が望めないのはもちろん、上市した後の最終製品に何か問題が生じた際、
その解決法の検討選択肢が狭まることで”原因究明をやる”という掛け声だけで川上に遡上し、
ブラックボックスになりがちな材料や素材を疑うという”決めつけ”の手法に陥りがちです。
FRPを例とした場合、形状設計や積層設計に問題があるのかもしれません。
もしくは成形金型の精度不足や成形時の可動部の存在による成形形状ばらつきによって、
周りに存在する部品との干渉で過大な応力が発生していることもあるでしょう。
はたまた成形時の温度プロファイル設計が不適切で、
硬化(熱硬化の場合)や結晶化度(結晶性高分子の場合)が不十分だったかもしれないのです。
狭い範囲で物事を見ていると本質を見失う可能性があります。
同様に川上企業が売れば終わり、川中企業が入ってきたものに手を加えて川下企業に流せば終わり、
という考えも問題が多いでしょう。
よって今回は、川上の化学メーカ以外ではあまり視野に入ってこないであろう、
低融点PAEK誕生経緯の理解の一助になる論文を紹介したいと思います。
PAEKの分子設計と得られた特性評価に関する論文
参考にしたのは以下の論文です。
この年代の論文は、技術的な本質を理解するという意味で質の高いものが多い印象です。
本論文中について理解すべきポイントを述べます。
研究の主目的はPAEKの分子量を上げること
樹脂が身の回りにあることが当然と思っている方にとっては不思議な感覚かもしれませんが、
PAEKを構成する原材料(モノマー)を選定して重合させたとしても、
必ずしも樹脂になるとは限りません。
この文献はPEEK以外のPAEK樹脂を安定的に合成するため、
どのような原料を選び、どのような条件で反応させるのが適切か、
ということを合成物の分析を行いながら検証を進めたというのが趣旨になります。
分子量の推定は粘度法を採用
分子量の推定には固有粘度(Intrinsic Viscosity)をもとにした粘度法を採用しています。
極限粘度数とも呼ばれる固有粘度は、下式で示されます。
式中での求めたい極限値はC→0の場合で、ηは濃度Cの高分子溶液の粘性率、
ηsは溶媒の粘性率となります。
この固有粘度[η]はMark-Houwink-桜田の式と呼ばれる下式によって、
分子量Mと相関があることが示されています。
K、aはどちらも高分子溶媒に関する定数であり、aは分子形状が考慮された定数です。
上式より、基本的には固有粘度が高いほうが分子量が高くなることが分かります。
高分子合成の基本は重縮合反応
反応の基本はパラ位(芳香環で180°の位置関係)の両端にハロゲンが結合した芳香族ケトン、
もしくはハロゲンの代わりに水酸基OHのHがカリウムなどの金属で置換されたアルコキシドを組み合わせ、溶媒に溶解させた状態で熱をかけて重縮合反応を進めています。
芳香族化合物の構造については、以下のコラムでも触れたことがあります。
※関連コラム
ここで組み合わせる芳香族ケトンによって分子構造が決まり、
また配合比によって共重合体としての特性値が変化します。
ここでいう”変化する特性値”の中に、低融点PAEKの話題で触れた”融点”も含まれます。
ポイントとなったのは重縮合溶媒の選定
重縮合反応を行うにあたり、
ポイントとなったのは溶媒の選定だったようです。
当該反応の概要については後述します。
選定された双極性非プロトン溶媒とは
重縮合反応が進行する溶媒は双極性非プロトン溶媒が基本で、
その中でジフェニルスルホンをはじめとしたジアリールスルホン系溶媒を用いた場合、
固有粘度が高くなる、すなわち分子量が大きくなることが明らかとなっています。
加えて重縮合反応中、水以外の揮発物の発生が抑えられることもメリットのようです。
双極性とは、例えば分子全体では電気的に中性であるものの、
個々の原子が正と負の電荷をもつ性質のことを言い、
非プロトン性溶媒とはプロトンすなわちH+を供与せず、
水素結合を形成しない溶媒を言います。
上記の特性故、それ自身が安定である一方、
溶解性が高いことから溶媒として用いられます。
この結果は論文中のTable 1に示されています。
なお、表中のRVは固有粘度を示しています。
重合反応
単分子であるモノマーから出発し、
高分子になるまで分子をつなぎ合わせることを重合といいます。
重合の結果、副生成物が離脱するものを”重縮合”といいます。
反応の一例としては、
溶媒であるジフェニルスルホン中に、
fluorophenoxideと両端がフッ素とアルコキシドの芳香族ケトンである少量のbis-4-fluorophenyl ketoneを入れ、窒素雰囲気、335℃で2から3時間程度還流(加熱)するというシンプルなものです。
後者のbis-4-fluorophenyl ketoneの添加量によって、
得られる高分子の分子量が変化します。
冷却後は固体状態となった反応物を粉砕し、
沸騰したメタノールと沸騰水でそれぞれ洗浄して未反応物や分子量の小さいオリゴマーを除去し、
最後に常温のメタノールで洗浄後、140℃環境で乾燥させます。
このようにして得られたのが共重合体であるPAEKです。
上記は一例であり、基本工程は同じですが用いる溶媒によって還流温度は変わります。
重合した高分子溶液は着色する
一例として、両端がフッ素とアルコキシド(金属種はカリウム)の芳香族ケトン(それぞれ下図中(a)、および(b))の2種の化合物を原料としたPAEKと、片側をアルコキシド、反対側をフッ素にした1種原料を出発とするPAEK(同(d))を合成したところ、これらの硫酸による希釈溶解液は呈色したとのことです。
前者が黄色、後者が赤色とのことです。
Chemical reaction flow above was drawn by FRP Consultant
芳香環を有していることから可視光領域で呈色するのは自然とも言えますが、
その吸収波長帯にどのくらいの違いがあるのか定量的に見るため、
分光法で評価しています。
結果、カルボニル基由来の波長550 nmの吸収帯において、片側をアルコキシド、反対側をフッ素にした1種原料出発のPAEK溶液が強い吸収を示したとのことです。
重合不良の一因は分岐
熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂と異なり、
直鎖状、つまり真っすぐに分子が連なる形状をしています。
これが仮にどこかで分岐、すなわち部分的に枝分かれして三次元架橋のような状態になると生じるのが、いわゆる”ゲル”です。
溶媒に不溶な高分子で、分子中に溶媒などの液体を抱え込んだ状態のものを言います。
重縮合を行う際の原材料の組み合わせによっては前述のゲルが生じることから、強制的に分岐させる材料を添加した際、生成すると予想され、かつ強い着色を示すと知られるtriphenylcarboniumイオンによって、前述した可視光帯の吸収に顕著な傾向が生じるかを評価しています。
triphenylcarboniumイオン(下図中(e))が発生する反応式は下図のようになります。
Chemical reaction flow above was drawn by FRP Consultant
結果はTable 5に示されていますが、
強制的に分岐させても吸光度に大きな違いは見られず、
分岐の状態を分光法で評価するのは難しいと記載されています。
ここで生じさせている分岐は、計算上100分子ごとに1回程度とのことですが、
もう少し高密度に分岐が起こらないと、
可視光の波長帯で評価するのは難しかったのかもしれません。
狙い通りに重縮合反応が進んでいるかを評価するには、
このような分光技術を使うことがあります。
Tm、Tg、結晶化度と分子構造の関係
様々な分子構造の組み合わせからわかってきたこととして、
芳香環をつなぐカルボニル基の数が増えるほど、
Tm、Tgともに向上する傾向にあることが論文中のTable 8で示されています。
エーテル交換反応によるランダム重合は発生しなかった
PAEKの分子設計をする際に重要な知見の一つが述べられています。
PAEKとポリエーテルスルホンを共重合させた場合、
エーテル交換反応、つまりエーテル基で結合する分子構造が、
もう一方の化合物と入れ替わる反応が起こらなかったとのことです。
これは何を示唆しているかというと、
すべての材料を一気に入れて反応させても、
分子構造が不規則になるランダム共重合体にはならないことを意味していると述べられています。
この事実を示す裏付け実験結果も述べられています。
論文中で”I”、前出の構造式(d)で示したPAEKにポリエーテルスルホンを直接添加して共重合体を生成させた場合、後者の濃度が5 mol%、15 mol%の場合でそれぞれTmが350℃、316℃を示したとのこと。
この反応は前述のPAEKとポリエーテルスルホンが仮にランダムではなく、
理想的な共重合体を生成した際に示すTmと概ね合致したの記述があります。
すなわち、エーテル交換反応が起こらないという安定性故、
共重合体を生成してTmを調整することが可能であることを示唆しています。
このように、”原料添加のタイミングに制限がない”といった、
「反応系を設計しやすいこと」
が低融点PAEK誕生のポイントになるといえます。
共重合体の組み合わせによって生じた”分子間距離の変化”が”結晶構造の変化”につながる
PAEKをはじめ、高分子は同じ分子構造の繰り返しです。
この場合、結合間の距離は高分子構造を明らかにするにあたり重要です。
例えば論文中でIIIとして定義されるPAEKの分子構造は、
-O-Ph-CO*-Ph-O-Ph-O*-Ph-CO-Ph-O*-Ph-
の繰り返しです(Phは芳香環です)。
-O-Ph-CO-Ph-O-というユニット間の距離は10オングストロームであることが、
X線解析から明らかになったとのこと。
この結果は、上記構造式の*を付けた原子を頂点として最大124°の角度を有することになるそうです。
高分子の世界では結晶構造を支配する形態のことをコンフォメーションといいますが、当該形態を有する結晶性高分子が相互作用をすることで、
- 折りたたみ鎖結晶
- 伸び切り鎖結晶
- 房状ミセル構造
- 球晶
といった結晶構造を取ることが知られています。
一般的には折りたたみ鎖結晶ですが、
今回は比較的濃度の高い状態から結晶化させているため球晶かもしれません。
高分子間の芳香環間の直接的な相互作用で結晶構造を形成した
ここで類似の構造を持つ論文中のVIIIで示されるPAEKは、
-O-Ph-O-Ph-Ph-CO-Ph-
ですが、上述のIIIと概ね同じ構造にもかかわらず結晶構造は異なるとのことです。
その理由として、芳香環の間で直接的な相互作用が生じたことによるとのこと。
なお、コンフォメーションは分子構造の多少の違いによっても変化します。
論文中では例としてポリエーテルスルホンが分子構造中に導入されることで結晶構造が変化し、
構造式中の繰り返し化学構造中の角度が105°になった結果、
高分子が結晶にならなかったとのことです。
構造式中の繰り返し化学構造中の角度が105°になった結果、
高分子が結晶にならなかったとのことです。
このように結晶化するはずの材料を組み合わせたとしても、
必ずしも結晶化しないというのは材料設計の難しいところです。
ポリマーユニットの組み合わせによりTmとTgが変化
ここまで述べてきたように、
実際に結晶性高分子を得ることは簡単なことではありませんが、
試行錯誤の結果として論文中のTable 8に示された分子構造だと結晶性高分子が得られたようです。
表中ではそれぞれのTm、Tgが一覧として示されています。
分子構造によって、Tgは144から167℃、Tmは335から416℃で変動しています。
VICTREX LMPAEK(TM) POLYMERの150℃を超えるTgと、
300℃程度という比較的低温のTmを両立させていることから、
分子設計は難しかったのではないかという想像ができます。
もしかすると論文中で示されたようなジアリールスルホン、または類似のTmを低下させる効果のあるユニットをVICTREX LMPAEK(TM) POLYMERでは導入しているかもしれません。
PAEKという名称で構造式の詳細を示さないのは、
上述のような分子設計の詳細を明かしたくないという意思を感じます。
まとめ
低融点のPAEKの材料概要と、
当該材料の分子設計に関する取り組みの研究例をご紹介しました。
PAEKというスーパーエンプラのTmが300℃程度まで低下したことは画期的でしょう。
しかしながらFRPのマトリックス樹脂に用いた場合、
成形工程を考えれば成形温度はやはり350℃程度が必要になります。
このレベルの温度で、例えばオープンモールド成形をした経験のある方であれば、
それが設備はもちろん、人にとってもどれほど過酷かは理解いただけるでしょう。
目の前の空気が揺らぐのは、個人的にはもうあまり見たくありません。
しかしカルボニルとエーテルで結合された芳香環から構成されるPAEKは、
それだけの魅力があるのも事実です。
特に熱硬化性FRPが苦手とする靭性に関し、
スーパーエンプラのFRTPは次元の違う数値を示します。
この熱可塑性樹脂の良さを最大限に高めながらも、
今回ご紹介したような分子設計により、
より扱いやすい樹脂材料を開発するという取り組みは今後も続くものと考えます。
同時に材料のユーザも今回ご紹介したような内容の話に対し、
専門外だからという理由だけで締め出さず、
少しずつでも向き合うという異業種技術に対する柔軟性も必要だと考えます。
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