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水素浸透を防止するBarrier Coatingの概要とFRPへの適用検討

2026-09-14

水素浸透は水素タンクに使用されるFRPにとっても乗り越えるべき代表的課題といえます。
その課題解決に向けた取り組みの一つがBarrier Coatingです。

今回は水素浸透を防止するBarrier Coatingの概要に加え、
FRPへの適用検討について述べたいと思います。

以下で述べる水素タンクは通常の気体の水素を充填するものに加え、
極低温の液体水素を充填するものも含むとします。

 

 

水素タンクはCFRPの主用途一つ

昨今注目が集まるエネルギー源の一つである水素を保管するタンクは、
移動するのものを中心にCFRPが多く使われています。

CFRPが選定される主たる理由は高い内圧に耐えられる強度はもちろん、
卓越した剛性で変形しないことにあります。

このような背景もあり、過去にも何度か水素関連のトピックスをコラムで述べたことがあります。

 

※関連コラム

BMW iX5 に搭載された薄型の水素タンク

熱可塑性FRPを用いた水素輸送用パイプ

はじめてのFRP FRP製水素タンクの技術的なポイント

 

水素保管タンクの技術トレンドの一つがライナーレスのType V

高圧タンクには、

  • 全体が金属のもの
  • 口金とライナーが金属で円柱形部分の外側がFRPのもの
  • 口金とライナーが金属でタンク全体をFRPで被覆したもの
  • 口金だけが金属で樹脂ライナーの上にFRPで全体積層したもの

の主に4つの形態があり、上からそれぞれType I、II、III、IVと呼ばれます。
Type IV以降でGFRPは耐衝撃性のために最外層に使われることはあるものの、
主構造はCFRPが用いられるというのが自分の理解です。

ここで最近登場したのがほぼすべての構造をFRP化したType Vです。
過去のコラムでも取り上げたことがあります。

 

※関連コラム

Type VのFRP高圧タンクの登場

 

Type IVとの違いはライナーレス構造にあり、
構造部材であるCFRPで水素浸透防止まで実現するのがコンセプトです。

 

 

FRPで水素浸透防止まで実現するための要素技術の一つがBarrier Coating

水素を保管するタンクは数百気圧を超える内圧に耐えるだけでなく、
水素のタンク壁面への浸透を防ぐ機能が求められます。

ライナーを使う理由はこの浸透を防ぐことにあります。

しかし浸透を防ぐ一方で、ライナーは金属だと重くなるうえに水素脆化の恐れもあり、
樹脂だと構造部材としての性能はあまりないため、同外径の場合に内容積が小さくなるデメリットがあります。

よって、できれば構造部材であるFRP自体に水素浸透を防ぐ機能を持たせたいとなります。

この際に用いられる技術の一つがBarrier Coatingです。

 

当該技術ついて概要を抜粋の上でご紹介します。

 

 

Barrier Coatingの概要

以下のReview論文を参考にしました。

G.D.Tolstolutska et al, Hydrogen Barrier Coatings and Their Permeation Resistance, Problems of Atomic Science and Technology, 2024, 4, 152, p.p.100

 

以下、抜粋して述べます。

 

水素浸透現象のメカニズム

参照論文のFig.2に描写されています。

水素浸透によって最終的に外側に放出するまでには

  • 吸収
  • 分離
  • 拡散
  • 再結合
  • 放出

という工程を経るとのこと。

水素浸透を防ぐには最初の段階である”吸収”をさせないことがキーになると考えられ、
Barrier Coatingがそれを具現化する技術の一つとなります。

 

主たるCoating技術

参照論文の表2に主たるCoating技術に加え、
それぞれの強みと課題が述べられています。

PVD、CVD、Calvanic Deposition、Hot-dipping、Thermal Spraying、Pack Cementation、Sol-gelの7種です。

主たる評価要素としては積層効率、Coatingの耐久性、複雑形状への適用性、コストなどです。

この中でCVDについては、過去のコラムでGrapheneの積層法として取り上げています。

 

※関連コラム

応用物理学会の聴講内容概要とFRPへの応用の可能性

 

主たるCoating材

水素浸透に対応するBarrier Coatingの素材としては、
クロム、窒化物、酸化物、炭素、MAX相です。

MAX相というのは、遷移金属、III族またはIVA族の元素、炭素/窒素/ホウ素を組み合わせたセラミックスで、層状構造を示すのが特徴のようです。

層状構造のため亀裂に対する靭性が高く加工もしやすいなど、
セラミックスが有するであろう課題を解決できるポテンシャルを持つと考えられています。

 

※参考情報

MAX相セラミックスの解説:構造、特性、応用/STANFORD ADVANCED MATERIALS

 

これ以外にもひずみによるBarrier層破壊を防ぐための基材との間の中間層形成や複合材料化、
微小材料構造がBarrier Coating性能へ与える影響など、興味深い情報が盛り込まれています。

詳細については参照論文をご覧ください。

 

 

次にFRP製水素タンクに関するBarrier Coatingの状況について述べます。

 

 

FRPに対する水素浸透防止目的のBarrier Coating

参照論文においてもFRP向けのBarrier Coatingについて明確な記載は有りませんでした。
恐らく課題となるのは基材としての耐熱性だと思います。

Barrier Coatingの主たる素材はセラミックスのような無機材料であるため、
Coating層を形成させるには相応の熱が必要です。

基材が金属であれば全く問題ないこの熱も、
マトリックスが樹脂であるFRPでは非常に大きなハードルとなるでしょう。

しかしType Vが出始めてもう数年経過したことを考えれば、
FRPにも適用できるBarrier Coatingが存在するとみるべきと思います。

 

 

FRP向けをうたうBarrier Coatingの例

水素浸透防止を目的としたFRP向けのBarrier Coatingについて、
参考になる情報の一例は以下になります。

 

※参考情報

Reduction of hydrogen permeation/Fraunhofer Institute(IFAM)

Barrier CoatingをFRP向けに適用可能と明記されています。

 

層状形態を有する顔料が主たる材料

前出の参考情報内では、詳細についての記述は有りません。

基本的にはCryoCoatと呼ばれるプロジェクトの一部であり、

”a polymeric binder containing platelet-shaped pigments”

と書いてあることから、層状形態を有する顔料を主とするバインダーが主たる材料のようです。

 

層状構造によって水素拡散を抑制するとのことから、
概要のところで述べたMAX相に近いコンセプトと考えられます。

層状にすると靭性が向上するという既述の内容に加えて、
層間方向への拡散速度が抑制できるのが水素拡散抑止効果発現の理由です。

 

適用方法はPaintかSpray

適用方法はPaintかSprayと書かれています。
大きな構造物はSprayのようです。

既に述べた通り主たる材料が顔料ですので、
適用技術の基本は印刷業界から来ています。

 

まだ研究段階の要素も含まれているようですが、
水素拡散抑止効果の評価は既に可能な状況にあると書かれています。

 

 

今回の内容から考えるべきポイントについて述べます。

 

 

FRP表層にBarrier Coating適用する技術

前出のFraunhofer InsituteのBarrier Coatingの適用技術についてです。

顔料ベースのためPaintやSprayといった印刷技術が適用されるとの記述がありました。

勝手な想像ではありますがPaintといっても平面印刷を想定した凸版印刷やグラビア印刷ではなく、
インクジェット形式ではないかと考えています。

例えば今回想定されるのも水素タンクであり、平面形状はほとんどないと考えるのが自然です。

そこに対して均一膜厚でCoatingするには吹き付けるという、
非接触での塗布が前提になると考えます。

 

 

層状材料について

FRPの耐熱性を考えると、
金属基材を基本としたコンセプトの”まま”でCoating適用後に焼成していないのではと感じています。

無機材料による層状形態発現はBarrier Coatingの前提になると推測されるため、
顔料をマトリックスとした材料をFRP表面に塗布後、
冒頭の参照論文にも記述にあったSol-gel反応によって層状形態を形成させていると推測します。

ただSol-gel反応は錯体を用いる上にそのキレート構造によって重合反応の進み具合が変わるなど、
分子並びに反応設計が非常に難しいという印象を持っています。

さらに何かしらの形で熱をかけて有機物を飛ばさないとセラミックスの様な無機物にはならないため、
できるだけ温度をかけずにセラミックスにしていると思います。

例えばTiO2の様なルチル構造まで焼成するのは無理であればアナターゼ型にする、
といった加熱管理をしているかもしれません。

このような細かい条件が必要であることも、
Fraunhofer Instituteが詳細開示しない理由である可能性もあります。

錯体については過去にもPOSSを例にご紹介したことがあります。

 

※関連コラム

かご型シルセスキオキサン(POSS)で表面処理したGrapheneのFRP製スキー板への適用

 

若しくはもっとシンプルに層状のセラミックスが既に充填材として入った顔料を吹き付ける、
という形を取っているかもしれません。

 

 

極低温の繰り返し疲労

Fraunhofer Instituteの記事には何も書かれていませんが、
水素タンクが極低温の液体水素を充填するものである場合に避けられない議論です。

殆どの分子運動が無くなると考えられる液体水素存在下の極低温領域では、
粘弾性特性が無くなることで高分子もガラス状態になると推測されます。

最大の課題は靭性の低下でしょう。

損失弾性率に代表されるゴム特性が失われた樹脂はガラス状の脆性材料になります。

しかも水素タンクは充填や放出の繰り返しによる荷重が付加され、
それが繰り返されます。

 

ゴム特性が生きていれば微小変形により生じる応力を緩和できますが、
ガラス状態ではほとんど変形できず、まともにその荷重をFRPで担う可能性もあります。

この繰り返し疲労はFRPにとって極めて酷なことに加え、
今回対象となるBarrier Coatingにとっても厳しいものになります。

長期耐久性に関する評価として、
極低温の繰り返し疲労があることを忘れてはいけません。

 

 

最後に

Coating技術はFRPに新たな機能を付与させる手法の一つとして重要です。

今回取り上げたような水素浸透防止を目的としたBarrier Coatingでは、
その材料としてセラミックスの存在が必要です。

今の限られた情報だけでは加熱有無含めてよくわかっていませんが、
基材がFRPのような樹脂が含まれることで、
金属では当たり前のことに様々な制限がつくのも事実です。

技術的な課題を乗り越えるにあたっては、
前提が異なるなかでもこのような応用時の修正という柔軟姿勢が必要になると思います。

 

ご参考になれば幸いです。

 

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