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はじめてのFRP FRP製水素タンクの技術的なポイント

2021-03-15

今日は最近脱炭素の観点からも注目される水素に関連し、
FRP製の水素タンクについて技術的なポイントを考えてみたいと思います。

 

水素の特徴

FRP製水素タンク の技術的要点は明らかになりつつある

改めて水素の特徴についてみてみたいと思います。

理化学辞典(第5版 岩波書店)に記載されていることを抜粋してみます。

・遊離の状態で火山ガス、天然ガス等に含まれ、水を始め多くの化合物の成分として広く存在。

・融点:-259.1℃、沸点:-252.9℃、臨界温度:-240℃、臨界圧:13.0atm、密度0.0899g/dm3

・常温では不活。ただし、フッ素とは反応。高温では様々なものと反応し、水酸化物をつくる。特に光化学的に活性化された塩素とは爆発的な反応をする。

・水素分子はスピン状態によってオルト水素とパラ水素に分けられ、常温での存在比率は3:1。

・空気との混合気体はその混合比によって爆発する。

水素はやはり特殊といえば特殊ですね。

以前、水素社会を目指した取り組みとFRP適用の可能性という題目のコラムでも述べたように、
水素は「爆発する危険なものだ」というイメージが強いため、
普及には水素に対する正しい取り扱いの知識が必要というのが、
専門家の見解のようです。

また、水素は貯蔵や輸送が難しいことから、
一旦安定的な有機ハイドライドと反応させた液体とし、
使うときに水素に戻すという取り組みもあります。

トルエンに水素を反応させてメチルシクロヘキサンとし、
それを再度触媒反応で脱水素反応を起こさせて水素を取り出すということも、
以前のコラムでご紹介しました。

 

上記に加え、エネルギー戦略や、再生エネルギーの課題、FRP適用の可能性等について、
以下のコラムで述べています。

※ 水素社会 を目指した取り組みとFRP適用の可能性 1

※ 水素社会 を目指した取り組みと FRP適用の可能性 2

一番注目すべきはその密度の低さと、沸点の低さ。

密度が低いということは、分子そのものが小さい。
つまり閉じ込めるのが大変難しい。

さらに輪をかけて水素の取り扱いを困難としているのが沸点の低さ。

これらの対応として上記のコラムでも紹介したように、一度安定的な化合物に変換するという技術が取り入れられています。

 

水素を貯蔵するタンクは Type で分けられる

次にこの水素を貯蔵するタンクについてみていきたいと思います。

タンクはすべての構造材料が金属の Type I、
金属(低合金鋼)ライナーのフープラップ複合容器で側面のフープにCFRPが使われる Type II、
アルミ合金ライナーのフルラップ複合容器で外殻全面にCFRPが使われる Type III、
高分子ライナーと外殻すべてをCFRPとした Type IVがあります。

この辺りは以下のコラムで述べたことがあります。

※ 水素貯蔵向け 高圧タンク における金属とCFRPの共存

 

水素貯蔵タンクに金属を用いると水素脆化が起こるため、
FRPを使うという動機が比較的明確であると考えられています。

最近は軽量化の観点からも Type IV が普通に市販商品に搭載されるようになっています。

 

水素貯蔵に向けたFRPへの課題

実際に水素貯蔵タンクとしてFRPは用いられていますが、
どのような課題があるのかについて改めて考えてみたいと思います。

 

貯蔵方法は圧縮法が主であるため一時的に内壁が高温になる

冒頭述べた通り水素の沸点は -252.9℃。

この液体状態を維持する保温性を担保するのは大変難しい。
そもそもその温度にすること自体が大変なエネルギーが必要です。

昨今、COVID-19のワクチン輸送に必要な低温保管が難しいという話を聴いたことがないでしょうか。

これらのワクチンは-70℃という日常生活からは程遠い低温で保管が必要との事ですが、
水素の液化に必要な温度と比べれば段違いに高い。

人類は古代から火というものを手に入れ、
高温域については取り扱う歴史を有しています。

その一方で、低温化というのはまだまだ歴史が浅く、
人類にとっても難しい技術の一つといえます。

原子力発電所の暴走を止める唯一の方法だった冷却が破綻したことによる甚大な被害と、未だに冷却に苦労している実情は身近な教訓とも言えます。

そのため、水素貯蔵タンクに水素を入れる場合は冷却して液体にするのではなく、高圧で封入する「圧縮法」が主体です。

この辺りは以下のHPの冒頭にも書かれています。

https://www.fdma.go.jp/relocation/nenryo_denchi/chapter0202.pdf

 

圧縮法においては、水素充填時にその圧力によって温度が上昇するという課題があります。

本課題を予測を踏まえ検証している論文の一例が以下のものになります。

※ 高圧水素充てん中の容器内水素温度と容器壁温度特性

本論文では1次元非定常熱伝導で近似した解析モデルにより、
水素を充填されたタンクの壁面温度変化を予測しています。

Type III のタンクについて、
最大充填圧力70MPa、体積0.074から0.205m3、表面積1.118から2.33m2
ライナーの厚みは4.25から5.25mm、FRP厚みは17から43.5mmという3水準で予測しています。

上記のシミュレーションの結果、充填圧力が70MPaの場合、水素は最高で120℃に到達すると予想されています。

これらの結果は体積と表面積の比率、ライナーの種類や厚みによっても変動がありますが、
充填時にこのような高温になることは知っておく必要があります。

同時に供給する側では水素の減圧による温度低下が起こることから、
条件によっては水素充填時の最高温度は上記シミュレーションより20℃程度上記の予想より低くなるとも述べられています。

 

外壁であるCFRPへの熱伝導には時間がかかることから、
CFRPへはそれほど熱がかからないとの結論ですが、
Type IV などのFRPが多く使われるタイプでは特に、
内壁側のFRPがそれなりの高温にさらされることを想定しておく必要があります。

 

高圧タンクに使用されるFRPに求められるのは欠陥が少ないことと高強度

高圧タンクに用いられるCFRPについて別の観点で検証している論文もあります。

高圧水素用CFRP容器の開発
https://www.eneos.co.jp/company/rd/technical_review/pdf/vol55_no02_07.pdf

この中で最も注目すべき部分を抜粋してみます。

マトリックス樹脂の粘度、FRP強度、靭性値(恐らく Mode Iのこと)のことなるFRP材料を用い、
ステーション用蓄圧容器を想定して55L容量のCFRPタンクを製造し、
大気圧と100MPaの繰り返し水圧をかけるという耐久性評価を行っています。

この結果、

「強度は高いが破壊靭性値の低いTPP-Cという仕様が、
強度は劣るもののより高靭性のものより若干高い繰り返し疲労特性を示した」

という結果です。

当然ながら実際に高圧タンクが受ける主な荷重モードは開口の Mode I ではなく、
せん断のMode II がメインですので今回の結果から破壊靭性がそれほど繰り返し疲労特性にあまり影響がない、
というのは判断できませんが、興味深い結果であることは間違いないでしょう。

破壊靭性については以下のコラムでも述べたことがあります。

※ FRP層間破壊靭性特性評価の現状と 破壊力学

※ はじめてのFRP 靭性評価で扱う エネルギー開放率 とは

 

そして、マトリックス樹脂の粘度を低下させることに着眼し、
層間欠陥(主に空隙)をできる限り減少させることに尽力したという観点も重要でしょう。

上記の論文では「加熱FW(フィラメントワインディング)」という、
FWで積層中に加熱することで樹脂粘度を下げるということに取り組み、
これが結果的に層間欠陥の減少とそれによるFRP強度向上につながったと考察しています。

 

今回の情報から考えるべきこと

ご紹介した技術的結果を踏まえ、高圧水素タンクに用いられるFRPへの要求性能として、

– 数時間程度の100℃暴露に耐えられる耐熱性

– 低粘度による空隙の徹底低減

という2点が浮かび上がってきたと考えられます。

 

当然ながら積層方向とその精度、そして積層時の圧力(テンション)、
材料をストランドを使うのか、紹介論文にもあったトウプリプレグを使うのか、
それとも開繊したシートワインディングにするのか等、
他にも要因があるのは事実です。

しかしFRP材料に対する大まかな要求性能の方向性として上述の2点がわかってきているという事実に対しては、常に念頭において各研究科発業務をすすめるという考えが必要かと思います。

近年はライナーを使わないタイプの高圧水素タンクも出てきているなど、
この辺りの技術は日進月歩です。

 

脱炭素という世界中の動きを見た場合、
水素エネルギーは選択肢の一つとなっています。

現状は水素製造中に二酸化炭素を排出する「グレー水素」ではありますが、
今後「グリーン水素」への取り組みも加速していくと思います。

グレー水素、グリーン水素について
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01510/121800004/

 

ここにおいてFRPは活躍できる領域の一つと考えられます。

持続可能な地球を次世代に渡すための本取り組みにも、
FRPが今以上に適用されることを期待したいと思います。

 

 

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