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FRP層間破壊靭性特性評価の現状と 破壊力学 Vol.147

2020-05-18

FRPの設計には、 破壊力学 に関する知見が不可欠

( The image above was referred from https://www.researchgate.net/figure/Defected-plates-weakened-by-a-U-notch-and-b-blunt-V-notch-Contours-of-normalized_fig4_283825523

今日は 破壊力学 に立ち返り、FRP層間破壊靭性特性評価の事例も紹介しながら現状について述べてみたいと思います。

 

構造設計には材料力学に加え破壊力学の知見が不可欠

構造設計というと、多くの方が「材料力学」という学問を中心とした、
弾性率、ポアソン比、強度のような特性を基本としたものをイメージされるかもしれません。

多くの場合がこのような考え方で問題なく進みますが、
材料力学において形状由来の応力場の変化は応力集中係数といった、
その応力集中先端部がある程度鈍角のものを想定しています。

成形品の角R等はその一例といえます。

その一方でシャープエッジについて、応力集中係数を算出しようとすると、
当該係数は無限大になってしまうのです。

しかし実際の挙動は異なることも多いと思います。
(例:応力集中係数が無限大の場所に力をかけても簡単に破壊しない等)

つまり材料力学だけではすべての事象を説明しきれていないのです。

これが材料力学の限界の一つではないか、
というのが私の考えです。

そしてこのような難題に立ち向かうため、
50年ほど前から急激に発展したのが、

「破壊力学」

という学問です。

 

破壊力学 の概要とコメットの空中分解事象解明

破壊力学を応用する事象として代表的なものは、

「亀裂の進展」

です。

 

これは繰り返し疲労等により、小さかった初期欠陥や亀裂が、
突然進展を始め最終破断にいたるという恐ろしい事象です。

本事象が注目された代表的な事故と言えば、

旅客機コメットの空中分解

でしょう。

客室内と外圧の差圧に対する胴体の繰り返し疲労が、
SN線図上では18,000サイクル(18,000フライト)は問題ないという設計指標を無視するかのように、
1290サイクル、900サイクルという極めて短時間サイクルで立て続けに空中分解し、
合計56名もの方が亡くなるという1954年の大事故です。

実際にはその前年の1953年にカルカッタ(現コルカタ)で類似の問題による墜落事故が発生しており、
48人の方が亡くなっています。
(事故原因として、当時は操縦士のエラー、砂嵐または旋風によるものという判断をされてしまったようです)

これらの事故を引き起こしてしまった最大の原因は、
破壊力学に基づく亀裂進展の考え方の欠落でした。

SN線図のみを主体としたいわゆる材料力学ベースの設計寿命設定だけでは、
本当の疲労寿命を予測できていないということを示した極めて重大な局面といえます。

本評価結果の違いの原因として特定されているのは、

・当時の評価は実機胴体から切り出したものを評価したため、実体の場合よりも評価試験における「ひずみ」が小さかった

・耐圧試験の際、当時の高圧試験規格に基づき、定期的に過大荷重を負荷していたため、「き裂閉口」が起こった
(実際のフライトではこのような過大荷重は無く、あくまで地上における高圧試験規格によるものだったようです)

ということのようです。

上記のうち、特に2つ目については以下のような結果が示されています。

(The image above was referred from http://www.shippai.org/fkd/mf/MB0071012_07.jpg)

繰り返し数が横軸、縦軸に亀裂進展の結果を示していますが、
定荷重で疲労を繰り返すAと比較し、
正と負の過大荷重をかけたB、さらには正の過大荷重だけを定期的にかけたCでは、
亀裂進展が抑制される傾向にあることが示されます。

これが「き裂閉口」という破壊力学で解明されている現象で、
上記のコメット機では空中分解の原因といわれている窓枠の角Rにおいて、
過大負荷荷重がかかると塑性変形が起こることで、
その周りの弾性変形域から圧縮応力がかかる状態のことを指しています。

結果としてこれが亀裂を閉じようという力になるため、
亀裂の進展が抑制されます。

このイメージ図は以下で見ることができます。

(The image above was referred from http://www.shippai.org/fkd/mf/MB0071012_06.jpg

つまり、地上での試験ではこのような過大荷重によるき裂閉口が発生していたため、
実際よりも疲労寿命が長く算出されていたということになります。

これらのことについては以下のサイトで詳しく述べられています。
破壊力学の世界では著名な小林先生が執筆されていることもあり、
大変わかりやすいです。

http://www.shippai.org/fkd/cf/CB0071012.html

 

FRPの破壊力学に関連する試験

以上の通り破壊力学は様々なものの破壊の原因とその進展を理解し、
構造設計、材料選択、成形加工で許容される初期欠陥等の要件を決める知見とも言えます。

FRPについては、主に Mode I、IIについて層間破壊靭性試験という名称での試験規格があります。

Mode I というのは開口、Mode II というのは面内せん断です。

JISだと JIS K7086 が該当します。

炭素繊維強化プラスチックの層間破壊じん(靱)性試験方法 という名称です。

このJISでは Mode I、IIが両方とも含まれています。

一方でアメリカの代表的な試験規格である ASTM では、
Mode I は ASTM D5528、Mode IIは ASTM D7905 です。

・ASTM D5528
Standard Test Method for Mode I Interlaminar Fracture Toughness of
Unidirectional Fiber-Reinforced Polymer Matrix Composites

https://www.astm.org/Standards/D5528

・ASTM D7905
Standard Test Method for Determination of
the Mode II Interlaminar Fracture Toughness of
Unidirectional Fiber-Reinforced Polymer Matrix Composites

https://www.astm.org/Standards/D7905.htm

JISは炭素繊維強化プラスチックと書かれていますが、
剛性がある程度担保されるようなUD材(一方向材)であれば基本的にはFRPの評価には適用できます。

ここでいくつかのポイントを述べてみたいと思います。

 

1. 破壊靭性試験では亀裂開口変位の補正方法がポイント

例えば Mode I を例に、JISとASTMの違いを見てみます。

JISではCOD (Crack Opening Displacement) 、つまり亀裂開口変位を用いた方法として、
1種類のみが指定されています。

その一方で、ASTMでは亀裂開口変位の算出方法として

・ MBT (modified beam theory)
・ CC (Compliance Calibration)
・ MCC(Modified Compliance Calibration)

という3つの補正方法が示されており、
ラウンドロビン試験手法に基づき、
MBT、CC、MCCという異なる3つの手法で開口変位の評価を行い、
3手法での差異が3.1%以下になる必要がある、と書かれています。

JISに該当する補正方法はASTMでは MCC ですが、
MBT が最も保守的な結果が出る傾向があるため、ASTMでは MBT を推奨しています。

どのくらい開口させた際、実際の変位(汎用試験機で開口させる際の試験機クロスヘッドの変位)はどのくらいになるのか、
という観点がこの手の試験では重要です。

2. JISやASTMで見ようとしているのはあくまでエネルギー開放率

JISやASTMで述べられているのは G と呼ばれるエネルギー開放率です。

エネルギー開放率では、亀裂が仮に進展したとする場合、
亀裂進展辺りの位置エネルギの増加と弾性ひずみエネルギの開放量が、
亀裂表面の有する表面エネルギの増加を上回った時に実際の進展が始まる、
という指標であるということは以下のコラムでも述べたことがあります。

※ はじめてのFRP 靭性評価で扱う エネルギー開放率 とは

しかしこのエネルギー開放率そのものだけでは、
相対比較はできるものの、実際の設計に使うのは困難です。

何故ならばこの指標から、

「実際にFRP構造物に許容できる初期欠陥サイズはどのくらいなのか」

という値は、

「FRPの層間における表面エネルギーがわからないと算出できない

からです。

設計として欲しいのはあくまで、

「破壊靭性という特性によって、結局のところ亀裂が進展しない初期欠陥はどのくらいなのか」

だと思います。

つまりGではなく、応力拡大係数と呼ばれる K がわからないと指標になりません。

Mode I の場合、 Kc=√EGc という式があり、
引張弾性率であるEを用いてKcを算出するのがポイントになります。

尚、σ√πa>Kc という関係式を用いて、ここでいうaが許容できる初期欠陥寸法という考え方も可能です。

3. FRPで重要なのは Mode I より Mode II

FRPにおける破壊靭性を考える際の荷重モードは、
開口モードである Mode I よりも、
面内せん断である Mode II といえます。

何故ならば、FRPを用いた構造物に対し、
FRPの層間方向に引張り荷重がかかるという使い方はあまりないからです。

FRPの荷重伝達が Shear lag model で解釈できることを考えても、
やはりFRPで注意すべきは Mode II であるというのが私の考えです。

Shear lag modelについては以下のコラムも合わせてご覧ください。

※ はじめてのFRP 界面接着評価 プッシュアウト法 とは

※ はじめてのFRP 界面接着評価 フラグメンテーション法 とは
https://www.frp-consultant.com/2019/02/04/fragmentation_method_interfacial_stress/

 

FRP層間破壊靭性試験の現状

最後に、最近検討が進むハニカムサンドイッチの層間破壊靭性評価についてご紹介したいと思います。

先月の Composite World にて

The Single Cantilever
Beam test for sandwich
composites

という興味深い記事が紹介されていました。

以下のURLで見ることができます。
https://cw.mydigitalpublication.com/publication/?m=59263&i=654839&p=10

これは、ハニカムサンドイッチのスキン材とハニカムの間での開口破壊靭性を求めるという試験について、
Single Cantilever Beam という試験形態で評価が進められているという内容です。

Single Cantilever Beam ではハニカムを水平に固定し、
スキン材に取り付けられたピアノヒンジを垂直上方向に引張る、
という試験になります(下図参照)。

(The image above was referred from https://cw.mydigitalpublication.com/publication/?m=59263&i=654839&p=10

 

スキン材の厚みによって剛性が変化し、
Mode I の破壊靭性値は当該厚み増加に応じて大きくなる上、
FEMによる解析によると亀裂先端では開口の Mode I に加え、
せん断である Mode II が発生してこの荷重モードがスキン材の厚みに大きな影響を受ける等、
複雑な破壊挙動を示しているようです。

そのため、この試験は 「 Mode I が”支配的”な試験」という位置づけになると述べられています。

 

また、上記の FIG.3 を見ると、荷重と完全除荷を繰り返すやり方で評価することを想定していることもわかります。

亀裂開口変位の補正がやはりポイントのようですが、
詳細は述べられていません。

 

ただいずれにしても ASTM による規格化を目指しているようで、
近いうちハニカムサンドイッチの層間破壊靭性評価試験手法が提案されるかと思います。

規格化の議論がされるのは ASTM D30 という会議で、
以下にサイトもあります。

https://www.astm.org/COMMITTEE/D30.htm

 

 

 

今日は破壊力学に関する内容をベースにFRPに関する破壊靭性評価と留意点、
並びに昨今の取り組みについてご紹介しました。

 

材料力学においても異方性の理解など、
まだまだ技術的に知見が不足している昨今ではありますが、
最終的に形にするにはやはり破壊力学の知見は不可欠です。

FRPに関する破壊力学はまだわかっていない部分もあります。
繊維の配向や構成、マトリックス樹脂によってもその特性が大きく変化してしまうからです。

 

また、本格適用が進みつつある熱可塑性のFRPについても、
データの蓄積が今後進められることで、
熱硬化性FRPに加え、熱可塑性FRPが極めて優れた特性を有している、
ということもわかるようになるかと思います。

 

破壊力学という視点からFRPにアプローチする一つのご参考になれば幸いです。

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