JEC World 2026概要とInnovation Award Winnersから見る近年の技術動向
2026年は3月10から12日の予定で開催されるJEC World。
場所は今年もPARIS-NORD VILLEPINTEです。
例年この時期にJEC Worldの概要とInnovation Awardについてお伝えしています。
今回はJEC Worldについて2025の実績と2026の見込み、
そして今年のInnovation Award受賞企業を抜粋してお伝えし、
技術動向を考察したいと思います。
JEC Worldについて
JEC Worldについてはご存じな方も多いと思いますが、
一言でいうと複合材料に関する世界最大の展示会です。
複合材料なので決してFRP限定というわけではありませんが、
結果的にはFRP、またはそれに関するものがほとんどである、
というのが実情です。
JEC World 2025の実績と同2024との比較、JEC World 2026の見込み
昨年の情報については、以下のコラムとJECのサイトを参照します。
※関連コラム/関連情報
JEC World 2025概要とInnovation Award Finalistから見る近年の技術動向
JEC World 2025の実績と同2024との比較をしてみましょう。
JEC World 2024
入場者数:43500人以上
展示:1300以上
出展/参加国: 100以上
JEC World 2025
入場者数:45000人以上
展示:1350以上
出展/参加国: 100以上
入場者数、展示数ともに若干ですが増加したようです。
そしてJEC World 2026の見込みとして、同様に以下のように見込まれています。
JEC World 2026
入場者数:46000人以上
展示:1400以上
出展/参加国: 100以上
あくまで見込みですが、2026年も若干の増加が見込まれるようです。
JEC World 2026の概要
出典カテゴリーは以下の5つで、例年と大きな違いはありません。
- Automotive & Road Transportation
- Aerospace
- Renewable Energy
- Sports, Leisure & Recreation(Medicalも含まれるようです)
- Building & Civil Engineering
出展企業は国籍別でいうとドイツ、フランス、中国、イタリア、アメリカがTop 5で、
出展内容は設備関連、中間基材をはじめとした材料、成型加工といったものが多いようです。
こちらもあまり変化が無いと感じています。
中国からの出展が多いのはここ数年で見られる一つの傾向ではあります。
昨年も述べた通り、設計に関する内容は少ないと考えられ、
目に見える分かりやすいものば重宝されるのは変わっていないと感じます。
技術の本質が展示会で評価されるのは、
恐らく今後も難しいでしょう。
JEC World 2026から感じた変化
昨年は配管や水処理といったインフラに関する注目度が高まったとお伝えしましたが、
JEC World 2026に関するHP上の文言を確認した範囲で行くと、
- 医療材料
- センシング材料
の2点が注目すべき点だと思います。
医療材料については生体適合性材料を用いた、例えば人工関節、
センシング材料でいえば光ファイバ等のセンシング材を組み合わせた複合材が一例です。
もちろん具体的にはどのような出展があるのかは現地で確認すべきですが、
上記のような内容をJECの紹介ページで述べられているのは注目に値します。
なお、このような技術や製品については過去のコラムでも取り上げたことがあります。
※関連コラム
続いて、Innovation Awardについてみていきます。
JEC Innovation Awards 2026の概要

154の申請に対し、予選通過が33、そのうち11のテーマがInnovation Awardを受賞したようです。
受賞したカテゴリーは以下のものになります。
- Aerospace – Parts
- Aerospace – Process
- Automotive & Road Transportation – Parts
- Automotive & Road Transportation – Process
- Circularity & Recycling
- Digital, AI & Data
- Maritime Transportation & Shipbuilding
- Pipes, Tanks & Hydrogen
- Railway Vehicles & Infrastructure
- Renewable Energies
- Sports, Leisure & Recreation
以下のページを参考に、Innovation Awardを受賞したテーマを抜粋してご紹介します。
※参考情報
JEC Innovation Awards 2026: discover the 11 winners!
Aerospace – Parts / Highly Loaded TP Wing Rib
フランスのDaherのテーマで、熱可塑性のCF/UDプリプレグのリブ成型(断面がT字になるような形状成型)に関する技術です。
使用している材料はVICTREX LMPAEK(TM) UD tape、積層にはFiber Placementを用いているようです。
Daherは2021年からWelded Rib projectを進めており、
熱可塑性樹脂をマトリックスとした複合材の研究開発を行うCetimも巻き込みながら、
Rib成型手法開発に取り組んだ模様です。
リブ成型に用いるのはIR加熱で、マトリックス樹脂を溶融させながら、
最大10mm厚みまでRib成型ができるとの記述があります。
この成型技術はDirect Stamping(R) LISTと呼称されています。
なお当該材料のマトリックス樹脂はPAEKで、
高耐熱かつ低融点という特徴を持つことは過去のコラムでもご紹介したことがあります。
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Ribを直接成型できるのはボルトなどの部品を減らすといった効果が望めるのはHP上の主張の通りですが、一次構造材などに用いるには融着だけでは不安があります。
やはり強化繊維を面外方向に配向させる、
例えば溶融と同時にステッチイングを行うといった、
強化繊維による補強が望ましいというのが私の考えです。
もしくは最外層に追加の積層を行い、
Rib形状の融着部が受ける面外引張や面外せん断荷重に対し、
それを背負える別の連続繊維を強化繊維としたFRPを追加するというのも、
複合材料の構造設計では欲しい発想です。
Automotive & Road Transportation – Parts / BMW M NATURAL FIBRE COMPOSITES
これは今後”社会的意義”から注目度が増すと想定されるテーマだと思います。
BMWがM seriesの外装や内装部品に天然繊維(亜麻/flax)を強化繊維とした再生可能なFRPを用い、
結果として当該部品のライフサイクルに関する二酸化炭素排出量を40%削減する、
というのが取り組みの概要です。
吸湿や紫外線劣化といった耐候性に関する課題もある程度、克服できたようです。
発表ではマトリックス樹脂については”新しい樹脂”としか書かれておらず、
その詳細は不明です。
天然繊維を用いたFRP(NFC:Natural Fiber Composites)の最大手といっていいBcompが、
やはりパートナーとして名を連ねています。
興味深いのはここにタイのCobraが居ることでしょう。
元々はサーフボード製作の大手ですが、実現に向け何かしらの技術や知見供与をしたものと推測されます。
もしくは、サーフボード等の既存製品への展開を模索しているのかもしれません。
これは技術的というよりも、前述の通り社会的に求められるテーマといえます。
従来は成型体の外観が課題でしたが、
微細な凹凸模様を表面に付与することでその課題も改善しているように見えます。
天然材料は供給不安や品質のばらつきといった課題はつきないものの、
企業イメージという観点でこの手のテーマはこれから増加すると考えています。
BcompやCobraは過去にもコラムで取り上げたことがあります。
※関連コラム
Bcompの天然繊維強化FRPがQuintessenza(R)のコンセプト電動車に採用
また、MのHPでも本件に関するリリースが出ていました。
FROM MOTORSPORT TO SERIES PRODUCTION.
Digital, AI & Data / Digital Thread Innovations for Aerospace & Defence
これは以下のコラムでご紹介したテーマです。
詳細についてはこのコラムをご覧いただければと思います。
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FRPのRepairに注目するiLAuNCH Trailblazer programと当該工程の要点
このテーマでポイントとなるのは検査へのAIの応用にあると思います。
個人的には検査とAIは相性がいいと思っています。
何故ならば、検査で重要なのは”抜けもれなく確認する”ことにあり、
丁寧な”確認作業”が重要だからです。
作業系においてAIは力を発揮しやすいと感じており、
適切な学習を行わせれば人が見逃してしまうかもしれない欠陥や損傷の発見、
そしてそれを理解しやすく画像化するといったことに活用できると考えています。
大規模視覚言語モデル(VLM)はその一例かと思います。
当然、適切な学習を行わせるには当人が技術的に妥当な知見と経験を有しているのが前提であり、
AIはあくまで支援ツールであることは忘れてはいけないでしょう。
この手の検査技術が進化した結果、FRPのRepairの技術も向上し、
現段階では航空業界に概ね限られるRepairの考え方が、
他産業においてもより身近なものとして急激に浸透するかもしれません。
Maritime Transportation & Shipbuilding / CoPropel – How to Minimise Fuel Consumption
FRP製水中プロペラに関するテーマです。
ポイントとなるのは可変ピッチと強化繊維の配向の最適化により、
効率を上げることにあるとのこと。
成型方法はRTMでセンシングを目的とした光ファイバを翼中に埋め込み、
またひずみゲージも併用しながらリアルタイムのモニタリングをすると書かれています。
検査工程に関する画像も示されており、これによると恐らくX線CTだと思います。
全体通じて真新しさがあるわけではありませんが、
基礎技術を一つひとつ丁寧に積み上げているところが好印象でした。
このような推力を得る回転体にFRPを使うにあたっては、
可変ピッチのような駆動システムに加え、
上記のような複合材料ならではの積層配向による剛性設定を活用した変形制御、
そしてセンシングのマウントといった+αの技術搭載が求められていると考えます。
Pipes, Tanks & Hydrogen / LeiWaCo – Lightweight tank for liquid hydrogen
熱可塑性マトリックス樹脂の適用により、
-253℃の液体水素を保管しても損傷しにくいFRPタンクを開発した、
というのが趣旨となります。
ライナーレスで、タンク構造材の薄肉化を実現したことで、
線膨張や内部応力の発生を極低温環境下で抑制したのがポイントとのこと。
熱可塑性マトリックス樹脂を用いること自体は極低温下での靭性実現に効果があるとイメージできますが、
欠陥なく積層することは大変難しいものと推測されます。
ファイバープレースメントのヘッドの設計開発を生業とするAFPTがパートナーにいることも、
その難しさを示唆していると感じます。
さらに、元素の中で最もサイズの小さい水素の保持が難しいと考えます。
個人的には大変関心のあるテーマですが、
詳細は現段階のJECのページでは述べられていません。
どのような技術なのか興味深いですね。
なお、水素タンクについては過去のコラムで述べています。
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Railway Vehicles & Infrastructure / Composite Twin-Track Cantilever
これは今後、日本でも導入が進むかもしれないと感じているFRP用途例です。
電車の架線支柱にFRPを使うという技術で、
従来の炭素鋼を用いる場合と比べて、
トータルでの二酸化炭素排出量を最大90%抑制し、
また軽量で絶縁性が高いため作業者の安全性向上や負担低減に効果があると述べられています。
FRP製の架線支柱はその支柱に対して片持ち梁の構造であることから、
composite twin track cantilever (CTTC) と呼称されています。
使用しているFRP材料はガラス繊維とポリアミド6を組み合わせたもので、
画像によるとBraiding、すなわち組紐にて連続的に製造していることが分かります。
支柱は約8m高さで、幅は4.5mとのこと。
以下のCompsites UKの情報をみると、
軽量化効果は炭素鋼のそれと比べて83%に到達すること、
Braidingは連続工程で作れることから生産効率が高く、
また熱可塑性マトリックス樹脂を採用したことでリサイクルが可能であることから、
トータルとしての二酸化炭素排出量抑制につながっているといったことが書かれています。
※参考情報
Braidingはあくまで繊維を中空構造(中空でない形状も可能)を経糸を組んでいくことで連続的に作る技術であるため、FRPにするには後工程でマトリックス樹脂を含浸させたうえで、熱をかける必要があるはずです。
もしかするとコミングルのように、マトリックスは繊維形態で強化繊維と一緒に組んで、
後工程で例えば引き抜き成型の要領で熱と圧力をかけることで中空構造に成型しているのかもしれません。
Braidingは断面形状の周方向の繊維連続性が維持されている上、
当該形状を比較的自由に設定できることから、
剛性設計がやりやすい形態といえます。
またFRPは屋外に長期間さらされる用途に対する耐久性が高く、
強い風などでも塑性変形せず、
仮に損傷してもそれ自体が軽いため架線への影響が金属製のものよりも抑制できるといったことが期待されます。
このようなインフラ構造部材は連続的にある程度の量を製造する必要があることから、
Braidingのような均一断面であれば連続的に製造できる工程を採用できるのは、
妥当な用途検討戦略であると感じます。
海外に限らず、日本でもFRPをこの手の構造材の補強材に使い始めているようです。
台風や地震の多い日本におけるインフラの強靭化に、
今回ご紹介したような技術が今以上に採用されていくかもしれません。
※関連コラム
FRP製電柱の拡大と既設電柱のFRPによる補修・補強の重要性
Power pole / 電柱 へのFRP適用と ASTM D1036 による評価
まとめ
今回ご紹介したInnovation Award受賞テーマを念頭にした場合、
動向としては、ここ数年でガラス繊維、熱可塑性樹脂、インフラ、補修といったことに関連するテーマが増えたと感じます。
華やかな姿ではなく、FRP本来の黒子としての役割への回帰が続いているものと感じます。
FRP関連でこれから求められる技術を特定するのは難しいですが、
天然繊維を用いたNFCなど、社会的意義に対する期待と要求は高まると考えています。
個人的には生分解性の材料を使うといった話よりも、
FRP廃棄物を何かしらの形で再利用するという、
循環型の流れを作る取り組みが重要との理解です。
このような取り組みは事業性の観点で課題が多いのも事実です。
一方で廃棄物というのは既存製品が原料となるため、
日本の様な国土の狭い国であっても外部から新たな材料を輸入する必要はありません。
既に資源を有しているといえます。
廃棄物を資源に換えるという考え方が、
次に来るであろうトレンドを捉える、
基本思考の一つになるのではないでしょうか。
ご参考になれば幸いです。



