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燃料電池のガス拡散層を形成する炭素繊維複合材料

2022-10-17

燃料電池のガス拡散層には炭素繊維複合材料が適用されつつある

燃料電池は脱炭素の求められる近年、今まで以上に注目度が高まっています。

燃料電池向けに用いられる高圧水素タンクはFRPが用いられる代表的なアプリケーションの一つで、
過去にも以下のようなコラムで取り上げたことがあります。

・関連コラム

燃料電池向け、水素保管用のcomposite tankの研究

FRP製液体水素貯蔵タンクを搭載した水素動力航空機の試験飛行を決定

アコースティックエミッションを TypeIV の高圧タンク品質管理に採用

はじめてのFRP FRP製水素タンクの技術的なポイント

 

今回取り上げるのは高圧水素タンクではなく、
燃料電池そのものに適用される炭素繊維複合材料製のガス拡散層になります。

 

 

炭素繊維複合材料とは

炭素繊維複合材料というのは、炭素繊維と異なる材料を組み合わせて構成される複合材料という意味です。

この観点みれば炭素繊維強化プラスチック、いわゆるCFRPも炭素繊維複合材料の一種です。

今回取り上げるのも一部CFRPも含まれますが、
CFRPというと一般的な構造部材に用いられるような材料をイメージしてしまう恐れがあるため、
以下でもあえて炭素繊維複合材料という表現を使っています。

燃料電池に用いられるのはイメージされがちなCFRPとは異なるものになります。

 

 

燃料電池の概要

燃料電池はイギリスの科学者であるウィリアム・ロバート・グローブが19世紀に発明した歴史ある電池です。

負極と正極はそれぞれ燃料極、空気極と呼ばれており、
前者に水素が、後者には酸素(空気)が供給されることで、
水が生じるという化学反応を伴いながら電圧を発生させます。

以前取り上げたリチウムイオンと同様、
電気化学ポテンシャルを活用しています。

・関連コラム

リチウムイオンバッテリーエンクロージャーへのFRP適用

 

燃料電池のどこに炭素繊維複合材料が使われているのかを理解するには、
燃料電池の基本構造を理解することが不可欠です。

 

燃料電池の基本構造

燃料電池は燃焼極、空気極ともに3つの部材が積層した構成をしています。

その3つというのは外側から、

・セパレータ

・ガス拡散層

・触媒層

になります。

これとは別に、燃焼極と空気極のちょうど中間には電解質層があります。

セパレータというのは水素、または酸素(空気)を通過させ、
生じた電子を外部抵抗に流す導電媒体の役割を果たします。

触媒層というのは水素分子を電子2つと2つのプロトン(H+)に、
酸素分子とプロトン、並びに電子を結合させ水を生成させる、
という反応を促進する役割があります。

そして残ったガス拡散層が、
炭素繊維複合材料が使われるアプリケーションであり、
これは水素や酸素をできるだけ均一に触媒層に到達させるため、

「導入気体を拡散させる」

という役割があります。これが拡散層と呼ばれる所以です。

 

燃料電池の強みと課題

一番の強みは、熱エネルギーを経由せず直接電気化学ポテンシャルをエネルギーとして取り出すため、
効率がいいことだといわれています。

加えて昨今の温暖化抑止の観点から、
温室効果ガスの一つである炭素化合物を生み出さない、
ということもポイントだと思います。

その一方で課題もあります。

筆頭は「水素の作り方」です。

上記で紹介した関連コラムである「水素動力航空機」に関するところでも述べた通り、
水素を作る工程で化石燃料を消費するいわゆるグレー水素が今の段階では主流である、
ということが課題として認識されています。

再生エネルギーなどを用い、その製造工程で二酸化炭素の排出が全くないものをもって、
環境にやさしいグリーン水素と呼ぶことができるというのが一般的な考え方になります。

再生可能エネルギーで水を電気分解しながら水素を発生させるということが、
当該課題解決に向けた主たるアプローチの一つとなりつつあるようです。

 

もう一つは水素供給のインフラの不足になります。

この辺りも上記の関連コラムで触れていますので、
詳細はそちらをご覧ください。

加えて触媒として白金を多用することからコストが高いこと、
高効率化に向けた検討の余地があることなども課題といえるでしょう。

この辺りは触媒層における触媒の高分散、合金化、構造形態制御といったものがトレンドです。

例えば触媒の高性能化については固体高分子形燃料電池(PEFC)を対象にしたものですが、
触媒層を形成する炭素材料にイオンビームを照射することで欠陥構造を導入し、
この構造と白金の微粒子の相互作用によって白金の酸化が抑制され、
結果として酸素との結合エネルギーが低下したとのこと。

これにより、酸素還元反応時に形成される酸素を含有する官能基の離脱を早め、
触媒活性の向上を促したと考えられているようです。

概要については以下のページをご参照ください。

燃料電池触媒の酸素還元反応活性を2倍以上向上させることに成功

 

 

炭素繊維複合材料の用いられるガス拡散層に求められる要求事項

この辺りは以下のページが良くまとまっていました。

ガス拡散層(GDL)の役割

上記によると腐食に強く、導電性を有し、気体を均一に拡散させ、
高い圧縮強度と、低圧縮クリープ性能、そして厚みの均一性が求められるとのことです。

そしてこのような要求事項も踏まえ、
実際に炭素繊維複合材料緒作っている企業の一社が、
AvCarbという企業です。

以下のページに燃料電池向けの炭素繊維複合材料製のガス拡散層に関することが述べられています。

Mechanically Robust, High Electrochemical Efficiency GDLs

 

GDLsというのが Gas Diffusion Layersで、ガス拡散層の意味になります。

この企業については、最近以下の記事で詳細が述べられていました。

Plant tour: AvCarb, Lowell, Mass., U.S.

以下、この記事を参考にして述べていきたいと思います。

 

 

AvCarbに関する記事の概要

企業の歩みに関する内容が多く述べられています。
オーナーが変わる、ファンドから投資了承を取り付ける等、
経営や金銭に関わる話もいくつか出てきています。

紆余曲折あった企業のようです。

技術的に炭素繊維複合材料に取り掛かり始めたきっかけは、
GM向けのtransmission flywheelだったとのこと。

マトリックス樹脂をフェノール樹脂としたCFRPを摩擦材として適用し、
これが炭素繊維複合材料への取り組みのきっかけとなっています。

 

その後は普段見かけることの少ない炭素繊維複合材料のつくり方の概要が、
画像付きで述べられています。

素材の基本はPAN系の炭素繊維。

それを自社で耐炎化、黒鉛化、並びにそれに該当する処理を行っているようです。

炭素繊維は孔のある不織布に加工され、
これを積層したものがガス拡散層に用いられる素材となります。

積層体製造に加え表面処理に高いノウハウが必要のようで、
polytetrafluoroethylene (PTFE) で表面処理後、熱処理することで疎水性にする、
バインダー(一般的に考えられるバインダーとは別物)を適用後に熱処理を行わずに出荷するのがポイントとのこと。
また、それ以外にも顧客要望に応じて、複数の材料で表層をコーティングする必要があると述べられています。

顧客によって、この表面処理後に焼結に近い熱処理を行う、
またはこれらの熱処理を行わずに顧客に提供する場合もあるようです。

ガス拡散性能はもちろんですが、プロトンの変換効率といった他の化学特性を制御する必要があり、
表面処理方法やその条件、層厚みなど複数のパラメータが関わっていると考えられます。

 

記事の最後のインタビューでAvCarbの社長が、
何をしているのかは絶対に後からではわからないので、
ノウハウ維持に絶対の自信があると述べています。

材料の形態と表面処理という2つの大きなパラメータを中心に、
性能を左右する工程のポイントがあると想像します。

尚、フェルト状の炭素繊維複合材料はフロー電池(レドックスフロー電池)に用いられます。

この電池は2種類の異なる電解液がタンクと2駅間をイオン交換膜で隔てた電池セルを循環する事で酸化還元反応を発生させ、電気エネルギーを取り出すというシステムになります。

上記のフェルトはこの膜に該当する材料(の一部)に用いられると考えられます。

 

AvCarbの材料については日本に代理店もあるようです。

燃料電池用ガス拡散層

 

 

径が細く導電性があるという性質が電気電子業界への適用を後押しする

炭素繊維は径が細いため、表面積が非常に大きい。

そして繊維であるため微細孔が存在し、
様々なものを通過させるということができる。

このような特性をうまく活用したのが、
燃料電池の拡散層への適用ではないでしょうか。

しかし単に繊維だけを適用するのでは必要な特性は発現せず、
様々な表面処理剤とそれに対する熱処理条件によって性能をコントロールするといった、
多くの技術的ノウハウが必要であることを感じていただけたと思います。

 

ここで理解いただきたいのは、上記の取り組みこそが

「複合材料というコンセプトの実現に直結している」

ということです。

 

炭素繊維だけでは実現できない。

だからこそ物理的に分離可能なもう一つの材料と組み合わせ、

「炭素繊維、または表面処理剤単独では実現できない性能である”適切なガス拡散性”の発現」

を実現しているのです。

 

CFRPやGFRPも元をただせば複合材料です。

 

今回ご紹介した燃料電池のガス拡散層への炭素繊維複合材料の適用という事例を踏まえ、
改めて複合材料としての特性を活かしてFRPを活用できているかを考えることが、
FRPの適切な利用に重要だと考えます。

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