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建築物のFRPによる補修後の検査方法に関する新しい規格 ASTM WK74694

2022-02-21

建築物への適用も着実に進むFRP。
比剛性や比強度、すなわち重量当たりの剛性や強度が高いFRPは、
建築のように長い時間重量の大きなものを支えなくてはいけない一方、
その中の空間を広くしたいというコンセプトに合致する材料の一つです。

比剛性と比強度が高ければ、同じ重量を支えるのに必要な材料を削減できるため、
その内側、つまり室内空間を大きくするという設計が可能となり可能性が高まるからです。

日本でも古くから異方性はあるものの、複合材料である木材を建築資材として用いてきた、
という歴史がその事実を支持しています。

 

過去のコラムでもFRPと建築の関係は何度か取り上げたことがあります。

FRP業界における 建築 への適用現状

CFRPを用いた 建築物 の地震倒壊回避

そのような中、ASTMが建築向けの補修後の検査方法に関する規格を立案した、
というニュースが飛び込んできました。

ASTM International to develop proposed standard for inspection of FRP building repairs

今回はこのニュースも参考に考えてみたいと思います。

 

 

FRPは補修に適した材料の一つ

建築物のFRPによる補修はこれからのインフラの長寿命化の切り札

Photographed by Olga Lioncat

最初に理解しておかなくてはいけないこととしてFRPは新規構造部材を新たに作るというだけでなく、
どちらかというと「今ある構造物を補修する」ということに向いている材料であるということです。

FRPは様々な形に追従する形状柔軟性が高い上、
必要なサイズに切断して必要量だけ使うといった利用法が可能なことから、
多種多様な形態や形状が求められる補修作業に適しています。

FRPを用いた補修ということについては、
以下のコラムでも述べたことがあります。

社会資本の老朽化対策としてのFRP適用

GKN Aerospace による GE製 CF6 FAN 補修 ビジネス

Quickstep社の進める MRO 機能の拡大

 

損傷個所にそのままFRP強化繊維を新たに積層の上、
マトリックス樹脂を含浸させるいわゆるオーバーレイはその代表例です。

損傷個所をチャンファーをつけて除去するスカーフ加工も、
補修という工程を理解するには不可欠な工程です。

 

損傷個所に新たに積層されたFRPはその場で硬化が進行し、
元々あった構造物と一体化します。

 

 

補修の際に注意すべきは繊維の連続性が失われているという事実

溶接は材料の連続性が失われにくい

ただし、金属の溶接やFSWのような拡散接合と異なり、
FRPの補修で避けられない事実が一つあります。

それは、

「補修箇所では元々あった構造物と補修に用いた材料の間で繊維の連続性が失われている」

ということです。補修のために使われる材料はあくまで「後付け」だからです。

FRPは強化繊維とマトリックス樹脂を組み合わせてできる複合材料です。

複合材料として最重要なのは、FRPに外から加えられた荷重を、
強度を担う強化繊維にいかにして効率よく伝達させるかということ。

しかし肝心かなめの強化繊維の連続性が、
補修を行った箇所については補修材と被補修材の間で失われているのです。

つまり、複合材料としての機能を果たすための最低要件である、

「荷重のかかった強化繊維がその荷重に耐える」

ということに対する性能を大きく低下させている状態にあります。

 

もちろん、FRPによる補修でもこの辺りを担保すべく、
補修方法は慎重に決められなくてはならず、
また今回ご紹介するような補修後の検査についても入念に行われることが必須といえます。

 

航空機業界では明確に異なる Rework と Repair

この事実の大きさから私もかつて在籍した航空機業界では、
日本語で言う補修についてReworkとRepairで明確に区別しています。

前者はまさに補修で、FRPの強化繊維の連続性に影響を与えない、
外観補修等を主としたものになります。

しかし、Repairになると上記で例として紹介した繊維の連続性が失われるような補修や、
形状が変化してしまうような補修の意味合いとなります。

当然ながら後者の補修であるRepairは一般的な図面で許容することは許されず、
補修を行ったことを部品のシリアル番号で区別するといった、
極めて慎重な運用が必須となります。

Repairはそれを実施した後に、それ専用の工程規格を設定し(工程規格が必要なのはReworkも同じですが)、
検査要件も別に設定することが求められます。

そのくらい、FRPにおいて繊維の連続性が失われるというのは大きなことなのです。

 

 

ASTM WK74694は Work Item に該当する

今回ご紹介する ASTM WK74694 はASTMという規格をよくご覧になる方にとって不思議に思う部分があるはずです。

それが、WKという部分です。

これは Work Item と呼ばれるもので、今後新しく規格として設定されるべきと提案されたもの、
または既存の規格に対して改訂が提案されており、その議論の最中である、
という状態を示すもののようです。

つまり、ASTM WK74694 は規格として正式にリリースされたのではなく、
今後必要とされる規格として提案されたということになります。

この規格については以下のページで概要を見ることができます。

New Specification for Inspection of Wet Lay-Up Fiber-Reinforced Polymer (FRP) Systems and Application for Repairs and Strengthening of Civil Structures

ASTM WK74694 の要点

詳細はページの中身を見ていただければと思いますが、
要点としては以下になるかと思います。

– 弾性率が20GPa以上の強化繊維からなるFRPが対象

– この規格を今すぐ正式な規格としてリリースすることを目指しているのではなく、
建築に用いられる複合材料に関する規格を検討する小委員会で提案されたもの

※上記の小委員会は Subcommittee D30.10 と呼ばれているようです。

– ASTM WK74694 を一つの入口として、他のASTMの小委員会や他組織とも協業しながら、
検討が進められていく

– ASTM WK74694 の内容は建築物の補修にFRPを用いる場合、
その計画や検査を行う様々な専門家(技術者等)が参照することを念頭に置いている

 

冒頭紹介したComposite Worldの記事によると、
上記のASTMの規格は現存する関連規格、
例えばFRPを用いたコンクリート、金属のインフラ補修における補修状態(接着状態)の検査規格、
といったものが参照されているようです。

このような様々な情報を一度まとめることで、

「建築物のFRPによる補修後の検査方法」

の業務について、
その計画から実施という視点でより幅広いアプリケーションに適用できるような規格にしたい、
ということがその狙いにあるようです。

このような規格の必要性が議論された一因には、
国連が上下水道の整備に向けたインフラの発展を目指しているという背景もあるようです。

補修技術が進展すれば、インフラの寿命延長や維持コストの低下につながる、
という考えがその根底にあると考えます。

 

 

技術業務で最も大切なのは計画

今回ご紹介した記事で最も理解いただきたいのは

「計画の重要性」

です。

とりあえず始めてみる、とりあえずやってみる、
といった行き当たりばったりでは無く、

「何をどのようにまず行えばいいのかということを、できる限り想定の上で計画する」

ということです。

 

この辺りの計画が弱いのがFRPに限らず、
技術業界全体に言えることと感じています。

今回の規格でも「Plannning」という単語が出てきています。

最初に何をどのように評価し、
何をもって良し悪しを判断するのかという指標を予め考えることが重要なのです。

これは日々の技術業務で、技術評価計画が最重要であることと近い部分です。
このあたりは別の事業の記事でも触れたことがあります。

若手技術者の暴走や立ち止まり回避に効果的な 技術評価計画

 

ASTMは今回のFRPを用いた補修に関する規格で、
その計画を重視しているところが大変好印象です。

感覚論を無くし、事前にどこまで想定しておくのか。

このような事前準備がFRPによる補修の検査規格に限らず、
どのような業務でも大切なのだと思います。

 

 

今回の規格が今後正式にリリースされ、
FRPを用いた補修の一つの指標になることで、
FRPがより適切かつ的確に補修材料として用いられることを期待したいと思います。

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