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Quickstep社の進める MRO 機能の拡大 Vol.161

2020-11-30

オーストラリアでFRPの成形加工を中心とした事業を展開する持ち株会社である Quickstep 。

HPはこちらのページにあります。

 

この企業が Boeing Australia Component Repairs を取得するというニュースリリースが出ていました。

 

今日はこのリリース記事を参考に、
FRPにおける maintenance, repair and overhaul ( MRO ) について、
考えてみたいと思います。

 

Quickstep社の取得した maintenance, repair and overhaul ( MRO )とは

Quickstep社はFRPを用いた、積層、成形、加工といった川中領域に関する技術を得意としています。

特徴的な技術の一つは Resin Spray Transfer technology ( RST ) です。

本技術については以下の動画で概要を見ることができます。

また、上記の事を含め、Quickstep社については何度か取り上げたことがあります。

※ 韓国 自動車市場をにらんだ Quick Step FRP 量産技術適用契約
※ CFRP関連技術で売り上げを急伸させた Quickstep 社

今回、QuickstepはFRPの成形加工技術ではなく、

「 maintenance, repair and overhaul ( MRO ) 」

について事業取得というアクションを起こしています。

Quickstepが獲得した Boeing Australia Component Repairs というのは、
その名の通り、定期的なメンテナンスや保守点検、必要に応じた部品交換や補修を行う機能であり、
主には F/A-18F Super Hornets、 C-130J Hercules、CH-47 Chinooks といった、
戦闘機、輸送機などを取り扱っている事業のようです。

Image above was referred from https://www.flightglobal.com/

F/A-18F Super Hornets

Image above was referred from https://besthqwallpapers.com/

C-130J Hercules

Image above was referred from https://www.publicdomainpictures.net/

CH-47 Chinooks

 

 

Quickstep社の狙いは市場に出回った製品の MRO という業務機能獲得

ここで考えるべきは何故Quickstepが Boeing Australia Component Repairs を取得したかということです。

Boeing側からみれば、B737MAXの運航停止(運航再開のめどが立ってきたようですが)、
COVID-19の感染拡大に伴う航空旅客数の激減という、
事業的に厳しい状況にあるBoeingの資金確保と固定費削減に向けた取り組みというのが主因でしょう。

ただ様々な企業が守りに入りたくなるこの状況において、
QuickstepがMROに目を付けたのがなかなかだと思います。

日本の第二次産業ではあまり注目されていませんが、

「航空機業界では保守点検が大変重要なビジネス業界である」

という紛れもない事実があります。

 

売る製品の製造・販売コストを徹底的に下げ、売値との差額から利益を稼ごう、
という小売りの一般的な考えよりも、

「安全性確保が最重要という航空機業界の文化を踏まえ、保守点検というアフターサービスで稼ぐ」

という所に目を向けているのです。

そして航空機業界のMROというのは、誰でも言えばできるわけではなく、

「認証が必要である」

という各国の囲い込み戦略が浸透しています。

この認証取得が大変労力がかかるということは知られており、
また、認証を取得するのが技術的な観点よりも、

「どのようにして認証に必要な情報やデータを先回りして集められるか」

という経験則がものをいうというところがポイントです。

実際、Quickstep社は今回のBoeing Australia Component Repairsの取得を皮切りに、
CASA、 FAA、 EASA、DASRといった認証機関の認証取得を狙う、
と書かれています。

※FAA: https://www.faa.gov/
※EASA: https://www.easa.europa.eu/
※DASR: https://www.defence.gov.au/DASP/

明言されていませんが、F-35のような現行モデルの戦闘機に加え、
民間機のMROもできるようになろうとしているようです。

 

MROは今世の中に飛行機が飛んでいる限り、
必ず必要な機能であるため、事業的には安定性が高いといわれています。

 

このようにしてハードルの高い認証取得も、
元々OEMとして認証を持っていた Boeing Australia Component Repairs を従業員含めて会社ごと取得できれば、
認証取得の工程もゼロから始めるよりは圧倒的に効率的だろう、
という戦略が見て取れます。

 

MROに関する関心は年々高まっており、最近もマレーシアで以下のような会議が開かれていました。

※ MRO MEETINGS ASIA
http://www.advbe.com/en/events/by-year/2020/314-mro-meetings-asia.html

 

MROにおける技術的なポイント

実際にMROを行うにはどのようなものが必要なのかについて、
技術的なポイントを少しだけ述べておきたいと思います。

まず、最初に理解しておかなくてはいけないのは、

「 Repair と Rework は違う」

ということです。

日本語だとどちらも補修といったイメージになるかもしれませんが、
英語だと全く意味が異なります。

Repair というのは製品図面とは異なる状態にしてしまうもの、
Rework は微小な異常を修正することで製品図面に合致させることです。

Rework ということを行うことを可能にするには、
製品図面に該当する工程を記載した

「工程規格の番号を参照させる」

ということで対応します。

 

工程規格については過去に何度も講演を行っています。

また、2019年には連載中の日刊工業新聞社発行の機械設計において、
工程規格について述べたこともあります。

※ 「 機械設計 」連載 第十回 将来にわたる最低限の品質確保に必須のFRP 工程規格
https://www.frp-consultant.com/2019/09/11/process-spec-mechanical-design/

工程規格のポイントとしては、

・何を使って

・どのように工程を行い

・工程後の確認・検査をどのようにするか

を一気通貫で述べることにつきます。

定性的ではなく、できるだけ定量的に、そして図表などを使ってわかりやすく記載するのがポイントです。

その一方で Repair というのはかなり大ごとだったため、
私も経験がありません。

FRPの場合は、内部損傷が発生すると補修は不可能であるうえ、
Reworkできる範囲は外観不良等限られているため、
Overhaul manual で交換と指定するのが一般的かと思います。

この辺りはOEMの考え方にもよるかと思います。
大型のFRP製品の場合は Repair ということを行うのかもしれません。
(実際に、Repairに関する手法について記載した工程規格は世の中に存在します)

 

Overhaul manual においても、
記載する内容は工程規格と類似の内容になるため、
結局のところ、MROをきちんと依頼する場合はこの手の書類をかけなくてはいけない上、
MROをやる側としてはこのような書類の意味と意義を理解し、
不適切な内容や不十分な記載については改善指摘をできる必要があるかと思います。

 

 

今日は Quickstep社のMRO事業買収を参考に、
MROという事業の特徴と、技術的なポイントを述べました。

航空機業界固有の考え方かもしれませんが、
見方によってはFRP業界にも応用できる考え方だと思います。

 

市場に出した後のアフターメンテナンスという事業で売り上げと利益を確保する。

 

そんな戦略を考える際の一助にしていただければと思います。

 

 

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