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CFRP関連技術で売り上げを急伸させた Quickstep 社

2015-09-09

FRP業界で景気の良いお話です。

 

オーストラリアをベースに、軍需/民需航空機、自動車をターゲットにFRP業界での存在感を増しつつある Quickstep 社の売り上げに関するプレスリリースが発表されました。Quickstep 社については、以前Vector composites とのユニークな協力体制に関し、本コラムでもご紹介しました。記事はこちらです。


リリース内容は以下の所にあります。


http://clients2.weblink.com.au/news/pdf_1%5C01655672.pdf

見出しにもあるように、2014年度は売上229%アップの3950万ドル(日本円で47億4千万円、 $1 = \120 換算)を達成したとのこと。


C-130J輸送機、自動車カスタマイズ会社 PRESCHE project への spray transfer 技術採用(主要自動車メーカーは Audi )などが売り上げ上昇に大きな貢献をしているようです。

※「C-130J輸送機」、「PRESCHE」についてはそれぞれ以下のURL参照。

C-130J輸送機
https://ja.wikipedia.org/wiki/C-130J_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)

PRESCHE project の概要
http://www.quickstep.com.au/files/files/166_QHL_221111.pdf

PRESCHE
http://www.presche.de/


FRP業界における上述の事業形態は欧米の成功例の典型です。
業界参入を目指す企業の方にとって、その中身は何なのか気になるところではないでしょうか。

 

HPに出ている情報をベースに Quickstep の中を見てみたいと思います。

 

技術的な所で行くと、以下の2つが主な屋台骨となっています。


1.FRP向け積層、成形設備

裁断、成形、積層、検査という必要なものがほとんどそろっているという印象です。

大型の設備投資が必要なクリーンルーム、オートクレーブ、CMM、Quickstepの強みであるFRP塗装設備といったものも備え付けられています。


初期検討段階にある顧客の要望に柔軟に対応できる体制といえます。

http://www.quickstep.com.au/Capabilities/Composites-Manufacturing

ただ、これだけでは上述したような巨額な売り上げを実現することは難しいと思います。

あくまで、顧客を引き付けるための入り口と、
航空機のような少量多品種生産への対応を盤石にしているのだと考えます。


2.低圧、低エネルギー成形

高速成形のベースとなる、低圧低エネルギーという基礎の部分を前面に押し出している技術です。

http://www.quickstep.com.au/files/files/113_306_Quickstep_Process_Introduction.pdf


売り上げに関するプレスリリースでは大量精算を目指した、
自動車向けの Resin Spray Transfer という自動積層と上述の低圧・低エネルギー生産技術、
そして外観を Class-A に仕上げるという塗装技術を組み合わせて自動車スケールの製造スピードに対応していくと述べています。

http://www.quickstep.com.au/Capabilities/Resin-Spray-Transfer-for-Automotive-Manufacturing


国からの資金支援も得て、上述した PRESCHE project を皮切りに本格量産へと移ろうとしている模様です。

売り上げ増大に大きな貢献をしているのは、2.の低圧低エネルギー+塗装技術という自動車向けのプロジェクトも一部あると思いますが、やはり現段階では軍需を中心とした航空機が主要因であると考えます。

 

自動車は航空機と比較するとまだまだ量産というフェーズに移るのが難しく、PRESCHE project で Quickstep とかかわりのある Audi であってもまだそこまで量産車にFRPを載せられる状況にはないと思います。

どれだけ色々な技術を擁しても、FRPの売上を確保するのはやはり航空機が中心であるという現状を感じ取ることができます。


ただし、 Light Technology をスローガンに掲げる Audi が BMW に対抗する意味でも Quickstep とともに前に進もうとしているのは事実であり、ここ数年で自動車向けのFRP拡大が大きく進むと予想されます。


これに関連する話として、自動車に限っていうと日本の自動車メーカーは欧州自動車企業に比べるとやや商品単価が低いため、FRPを本格展開するには欧州とは別の戦略が必要となるかもしれません。

 


ここまで見てきて、 Quickstep のプレスリリースから学べることは何でしょうか。


まず第一に、上でも述べましたがFRP業界の売上大部分、特に炭素繊維のFRP(CFRP)は多くが航空機向けであるというここ20年変わらない事実です。

当然ながらこの20年でCFRPの使い方に関する知見が上がってきたことから、 Quickstep社を初めとした各社が、自動車のようなより身近な製品へのCFRP展開を目指していくと思います。

この流れは日本企業の多くが気がついており、危機感を募らせている状況であるという実感があります。

 

そして、国が積極的に予算を使っているということ。

Quickstepのあるオーストラリアは Resin Spray Transfer 等の技術開発にも国の予算をつけ、今回の PRESCHE project へつなげたと述べられています。

民間企業で技術開発に多額の資金を用意することは通常難しく、内部留保のある大手企業も先行き不透明な将来に向けてお金を取っておきたいという心理状態にあります。

このような時、国が大型予算をつけて技術開発を後押しするというのは望ましい姿勢ではないでしょうか。

 

だから日本でも政府がお金を出して、というほど単純な話ではありませんが、民間企業であっても民間企業どうしで共同開発してお互いの強みを組み合わせながら資金的リスクを低減させるなどの取り組みが今後より重要になるのかもしれません。

 


最後に見るべきポイント。


今回のプレスリリースには” 利益 ”が明確にかかれていないという事実です。

 

補助金や減税を含めた利益は132%増になったと書いていますが、これではビジネスとしての成立性について盤石かは判断できない数値です。

補助金や減税はどちらかというと企業努力以外のボーナス的要素が強いもの。

このような非定常的な追い風ではなく、実際の定常事業運営によってどのくらいの利益が確保できるのかは明確に書かれていないのです。


売り上げが上がったとしても利益を生み出せないのであれば事業として健全とは言えません。


欧米の景気の良い話をそのまま読み取るのではなく、本当にビジネスが成り立つのかというある程度シビアな観点で見ていく客観的な視点が大切かもしれません。

 


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