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日本板硝子が高強度ガラス繊維をリリース

2022-02-15

日本板硝子がFRP向けのガラス繊維に再参入し、MAGNAVI(R)という高強度タイプのガラス繊維をリリースしたというニュースが発表されました。

以下のようなプレスリリースが出されており、複数のメディアでも取り上げられています。

高弾性・高強度ガラスファイバー「MAGNAVIマグナビ(R)」を新開発

 

今日はこのリリースを中心に、その背景から技術的なポイントについて触れてみたいと思います。

 

 

耐熱性、電波透過性等のガラス繊維の特性を維持して、弾性率と強度を向上

耐熱性や電波透過性といった、従来ガラス繊維が有している強みを維持しつつ、弾性率と強度の向上を実現する、というのがこの製品のコンセプトのようです。

尚、プレスリリースでは剛性と書かれていますが、繊維単体の特性を言いたいのであれば弾性率という表現の方が正しいです。剛性は様々な方向に対する力に対して、形が変化しやすいか否かという判断に使われる言葉で、繊維のように特定の方向しか特性を発現しない場合には使いません。

MAGNAVI(R)のデータシートには、この製品のベースとなる考え方について、また別の観点から書かれています。

そこに書かれているのは、

環境負荷の小さい原料選定、生産時のエネルギー使用/CO2排出量削減

という言葉。つまり、材料が生まれるまでの工程含め、環境負荷の低減を意識した、ということが書かれているのです。

今の時代に即した姿勢であるとは思いますが、原料選定や製造工程にこのような意識をしているというのが、今の時代では常識になっていることを強く感じます。株主からの強い要望があるのかもしれません。

日本板硝子の決算情報を見ると、過去2年はかなり苦戦を強いられていたことが見て取れます。自己資本率低下を上回るスピードで利益が低下したことでROE(自己資本利益率)も大きく低下し、キャッシュフローを見ても現金の流出が今年度も続いていることがわかります。自社の株価を上げ、資金を調達すること目指すにあたっては、上記のような環境配慮の姿勢は必須となっているものと想像します。

また、今年度は昨年度よりも大幅な財務状況の改善が見込めることもあり、攻めに転じた、ということも今回のリリースの背景の一つにあるのかもしれません。

環境を意識せずには企業存在価値の評価を得られない、守るだけでは先が無い、という企業の危機感を感じます。

 

 

MAGNAVI(R)の特性

上記のデータシートの中には、MAGNAVI(R)と一般的なEガラス、または炭素繊維、アラミド繊維との繊維特性比較、並びにMAGNAVI(R)と炭素繊維と強化したPA66(ポリアミド66)を一例に、比較表が掲載されています。樹脂との複合材の評価に関しては、どれも強化繊維は20wt%添加したものと記載があります。

繊維のタイプは撚りの無いロービングと、撚りがあるヤーンの2種類。繊維径はロービングで7から11μmとガラス繊維としては比較的細めの繊維も含まれています。サイジング剤としては、スターチ系とエポキシ系と書かれており、スターチは繊維束を固めるバインダー、エポキシはマトリックス樹脂との濡れ性や接着性を担保するために使われていると考えられます。

ヤーンはフィラメント径が7から9μmと細めで、texは22.5、34、68の3ラインナップがあります。

 

繊維単体の特性

繊維単体の特性としては、引張弾性率、引張強度、耐熱性の3指標が示されています。

MAGNAVI(R)は末番に、M、U、Kと書かれた3グレードがあり、強度と弾性率はこの順番に低くなっています(Mが最も高い)。耐熱性はUが一番高く、残りの2グレードは同程度です。

まず引張弾性率はEガラスと比べて明らかに高い数値を示しています。M、U、Kでそれぞれ90、85、80GPaで一般的なEガラスの70よりも最大30%程度高い。さらに引張強度はEガラスが2.5GPa程度なのに対し、4から4.5GPa程度を示し、明らかな優位性があります。

繊維の耐熱性という評価は個人的には経験が無いのでイメージできなかったのですが、例えば高温環境にさらすことによって繊維の変形が起こる、脆くなるといったことなのかもしれません。試験方法や適用した試験規格が記載されていると理解しやすいですね。

 

FRTP(繊維強化熱可塑性樹脂)の特性

引張強度、曲げ強度、シャルピー衝撃強さの3つのデータについて比較が示されています。

特性は恐らくガラス繊維の含有されたペレットを射出成形して試験片を成形し、それを用いた評価結果だと考えます。

ガラス繊維を使ってどのようにペレットにするかについて、LFT(Long Fiber Thermoplastics)という材料を一例に、その作り方の動画を以下にご紹介します。

この動画はLFTという少し特殊なペレット材料ですが、繊維と樹脂を一体化しようというコンセプトは概ね同じです。LFTは強化繊維の長手方向の繊維長をできる限り維持することで、射出成型後のFRPとしての特性を従来材より向上させようということがその狙いにあります。そのため、ペレットの長手方向の長さは最大15mmに達すると上記動画にも記載されています。

いずれにしても上記のように繊維と熱可塑性樹脂を一体化させてペレットをまず作り、それを射出成形して試験片を製作するのがその前提にあることをご理解ください。

結果を見ると、EガラスとPA66の複合材料(強化繊維は重量分率で20%)の引張強度、曲げ強度、シャルピー衝撃強さの特性を100とした際、MAGNAVI(R)-Mのグレードで、140、120、120程度を示し、同炭素繊維で強化した複合材料が150、110、75を示しています。

つまりMAGNAVI(R)-Mで強化した複合材料、つまりFRPはEガラスのそれと比較し、上記特性ですべて上回り、炭素繊維で強化した同材料と比べても曲げとシャルピーで上回っていることがわかります。

 

このような特性を踏まえ、アプリケーションとしては電子機器向けの構造材や基盤、ドローンの筐体、高圧ガスシリンダー、内装材、高圧送電分野でのガイシ等が提案されています。

 

 

技術的留意点

今回の結果を踏まえ、結果から見えることについて考えてみます。

 

連続繊維や長繊維を基本とした設計思想の醸成が不可欠

繊維の特性としてEガラスよりは間違いなく特性は高いといえると思います。しかしこれはあくまで連続繊維としての特性ですので、一般的に用いられるような短繊維の有意差ではありません。したがって、ユーザー側がこのような弾性率や強度の高い繊維を使いこなすには、そもそも連続繊維、または最低でも10mmを超えるような長繊維でのFRP設計ができる、すなわち異方性を理解した設計ができることが最初の一歩になるかと思います。

 

繊維の耐熱性指標はFRPではあまり応用できない

繊維の耐熱性についてはFRPというアプリケーションを前提とした際、あまり意味のある指標に思えません。そもそもFRPはマトリックスが高分子である「樹脂」となるため、今回の耐熱性で評価されているような300℃を上回るような世界では、そもそもマトリックス樹脂がもたない(酸化分解する)ので、アプリケーションの範疇から外れるデータに見えます。もし、CMC等の超耐熱の複合材料であれば別ですが、こちらのフィールドは逆に1000℃以上、かつ長時間耐えることを求められるため、今回の評価では適用外となってしまいます。

 

炭素繊維強化よりもガラス繊維強化のFRTPの耐衝撃性が高いのは一般的性能

データとして炭素繊維強化のFRTPよりも1.6倍のシャルピー衝撃強さがあると書かれていますが、これはある意味普通の事です。データをご覧いただくと、普通のEガラスで強化した複合材料も炭素繊維強化のものより高いことがわかります。耐衝撃性が求められる部分にGFRPを使うのはFRP設計の世界では当たり前ですので、炭素繊維強化のものと比較するのはあまり妥当とは言えません。むしろ、一般的なガラス繊維であるEガラス強化のFRTPよりも20%程度高い、といった点について注目するという観点がユーザー側に必要かと思います。

更に本当に耐衝撃性を設計に応用したいのであれば、シャルピー衝撃強さではなく「カイザー効果」が発現する損傷サイズに有意差があるか、の方が大切です。FRPが変形や衝撃を受ける際には、微小損傷は不可避となります。この微小損傷が衝撃や変形に伴うエネルギーを吸収する現象だからです。問題はどこまでの損傷であれば、複合材料としての性能が影響を受けないか、ということです。この辺りを理解するにはカイザー効果を考慮した検証が不可避です。

 

FRPの特性比較では、繊維長、弾性率/ポアソン比が必須

FRPとしての特性についても、そもそも繊維長を合わせているのかがよくわかりません。上記でLFTをご紹介しましたが、繊維長によってFRPの特性は大きく変化します。Eガラス、炭素繊維は、今回評価したMAGNAVI(R)と同じなのか、といった観点をユーザー側はきちんと持ち、実際に使う場合はこの辺りも踏まえてよく考えることが求められます。

さらに、繊維長が異なれば異方性発現の程度も変化します。繊維長が長くなるほど樹脂の流れが変化するだけでなく、繊維長が長い方が異方性が出やすいということがその背景にあります。また、引張試験については破断伸びに加え、弾性率やポアソン比が述べられていないのもポイントです。設計に使うのは弾性率とポアソン比ですので、この辺りのデータが無いと本当にEガラスよりも有利な設計ができるのかについて実は判断ができません。さらに破断伸びが極端に変化するのであれば、使用できる弾性域、つまり塑性変形しない領域でのひずみ範囲が変わるため、本指標も設計者としては大変大きな判断基準となります。

よって、引張試験結果ではSS線図を載せることが最低ラインとして求められるといえます。

曲げ試験はそもそも設計には使用しないというのは何度も述べたことですので、割愛します。こちらについては、過去の連載でも述べた「曲げ試験は意味がない?」をご覧ください。

 

 

いかがでしたでしょうか。

基本的には新しい繊維が登場したということについて、大変前向きなニュースだと感じています。材料や素材の発展は、それを使用する産業の発展につながることが多いからです。

ただし、FRPはユーザー側に力量を求める特殊な材料です。やはりその基礎ともいえるFRP設計の知見を有さないと、仮に今回リリースされた材料が良いものであっても、日の目を見ることなく消えることさえあり得るのです。

コストというわかりやすい指標で思考停止するのではなく、どうすればユーザーは材料や素材の良さを引き出せるのかについて、常に真摯に向き合う姿勢が不可欠であるに違いありません。

 

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