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The Museum of the Future の被覆材に用いられた難燃性熱硬化FRP Vol.165

2021-01-25

オイルマネーで繁栄をしてきた都市の一つであるドバイ。

UAEのような原油に依存してきた国々は、
昨今の急激な脱化石燃料の流れに強い危機感があり、
様々な取り組みを進めています。

新たな一手の一つとして対外的にもアピールしているのがスマートシティー化でしょう。

ドバイを例としたスマートシティーへの取り組みの事例は以下のような記事でも紹介されています。

※ アラブ首長国連邦・ドバイ――あらゆる市民生活をスマート化
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/080200047/051400039/?P=1

自動運転EVバス「pods」、ドローンを搭載した自動運転車「O-R3」によるパトカー、
減圧したチューブ内を車両が空中浮上して時速1220kmで進む「Hyperloop」といったものが紹介されています。

上記の記事の中でも登場するVolocopter製の空中タクシーについては、
以下のコラムで述べたこともあります。

※ 世界初の電動 Multicopter が飛行試験を実施

今日は上記のような取り組みが進むドバイにある the Museum of the Future の建造物に用いられた難燃性熱硬化FRP、
ということについて述べてみたいと思います。

 

The Museum of the Future とは

the Museum of the Future

( The image above was referred from https://museumofthefuture.ae/ )

博物館の概要はこちらのHPで見ることができます。

設計は地元設計企業の Killa Design がになったとのこと。

Killa Design のHPはこちらから見ることができます。
素人目にも大変美しい建築物をデザインしている印象です。

大きく分けて6つの展示フロアから形成されているようです。

4フロアは以下のようなコンセプトで展示が行われています。

– outer space resource development
– ecosystems and bioengineering
– health / wellness
– spirituality

個人的には地球外での資源開発、並びに宗教的なカテゴリーが気になります。

もう一つのフロアについては、以下のようなコンセプトと紹介されています。

near future technologies which will transform our world by addressing challenges in areas such as health,
water, food, transportation, and energy

近未来に対する様々な技術紹介と言ったところでしょうか。
領域はかなり広いですね。

そして最後のフロアは以下のようなコンセプトとのことです。

give children with their own world to explore, and challenges to complete, on their way to becoming “future heroes”

やはり、若い方の力は世の中を変えるのに必要だというのは万国共通なのでしょう。

以下のような動画が展示例の一つです。

※ HUMANS 2.0

 

 難燃性熱硬化FRPが用いられたのは被覆材

難燃性FRPが用いられたのは、博物館の被覆材になります。

この辺りについては、材料を供給した Notus Composites のプレスリリースにも書かれています。

https://www.notuscomposites.com/news/notus-composites-completes-final-shipment-for-dubai-museum-of-the-future

 

以下のページに表示されているつくり途中の博物館の画像を見るとイメージがわくかもしれません。

https://www.middleeastarchitect.com/41970-phil-handforth-reveals-under-construction-images-of-dubais-museum-of-the-future-by-killa-design

完成形である博物館のHP画像と比較すると、かなりの量のFRPが使われているということがわかります。

 

上記のHPによると、使用されたのは EPFR-609 というプリプレグです。
その量は 600,000 sqm です。

2年の建設期間を経て、今年2021年に全面公開となるようです。

 被覆材の成形や組み立てへの取り組み

成形や組み立てに取り組んだのは Affan Innovative Structures という企業です。
HPも無い企業ですが、UAE国内のFRP成形や必要な設計などの業務を請け負っているものと想像します。

以下のような動画は存在しました。

FRP成形加工と組み立ての一部(これもやはり建物の被覆材のようです)が映っていますが、
率直に言うと昔ながらのFRP屋さんという感じです。

Affan Innovative Structures が、
どのようにして the Museum of the Future の設計、製造、加工、組み立てに関わったのか、
ということについては以下の記事を読むとよくわかります。

※ Building the Museum of the Future
https://www.compositesworld.com/articles/building-the-museum-of-the-future

ポイントとして、以下の点を抜粋してあげておきます。

– FRPが主な素材として選ばれたのは、他の金属材料等では外観を設計通りに表現できなかったから。

– FRP単体だけでは技術的にも外見的にも設計図通りのものを実現できないため、複数種の材料を組み合わせにすることとした。

– パネルにはめられるガラスは湾曲している上、形状もまちまちであるため、窓枠のエッジ形状が一定ではない。

– パネルごとに発泡ウレタンをCNC加工した型を使用した。加圧は減圧によるバギング。加熱は120℃で6時間。

– パネルには最大で450kg/sqmの風圧がかかるが、これに耐えながらもできる限り軽くするため積層枚数は9から13プライとした。

– 積層枚数の妥当性判断においては Composite Technology Center、CFK Valley ec等の第三者機関の確認を仰いだ。

– 被覆材の内側に水などが入らない様、cassette system と呼ばれる組み立て形式(接合形式)を採用。

– 被覆材を取り付ける金属の線膨張等による変形を考慮し、被覆材間にはクリアランスを設定し、接触時に損傷しない様、被覆材間に緩衝材を採用。

– 強化繊維の基本はガラス繊維。ただし、部分的に変形が起こる部分には炭素繊維を採用。

– 真夏には最高80℃まで被覆材の温度が上がるため、ガラス転移温度は120℃クラスのものを採用。

– 難燃性特性が落ちるため、発泡性のコア材は一切使用しない。

– 被覆材の表面には形状追従性の高い六角形の金属板を接着剤で接着し、さらに脱落しない様、機械的に締結。

– 難燃性を確保するには樹脂層を厚くしたい。NE11FRという難燃性フィルムを併用している。

ポイントとなるのは組み立てだと思います。

パネル間にクリアランスを持たせ、またFRP同士が干渉しても損傷しにくいよう、
緩衝材を挟むというのはFRPの設計者としては知っておくべき技術の一つです。

また、第三者機関に自らの考え方の妥当性を確認する、
という技術的な客観視点の導入も大変重要です。

機密という言葉を盾に抱え込むことで、不適切な設計や製造方法で物事が進むことが多々ある昨今、
参考にすべき取り組み方法だと思います。

 

使用された材料は Notus EPFR-609

次に材料についてみていきます。

材料のデータシートは以下のページから見ることができます。

https://www.notuscomposites.com/assets/datasheets/Notus-DS-EPFR-609-v3.pdf

まず見るべきは難燃性でしょう。

EPFR-609 complying with FAR 25.853 and NFPA 285 as well as ASTM E84 Class A and UL94 V0

と書かれています。

いわゆる、航空機の内装材にも使える難燃性ということです。
難燃性については過去に何度か述べたことがありますので、
以下のコラムも合わせてご覧ください。

※ PPS をマトリックスとした Toray Cetex(R) TC1100 と FAR 25.853 難燃性評価
https://www.frp-consultant.com/2020/01/03/pps-cetex-tc1100-far25-fire-resistance/

※ 難燃性を有する熱硬化性プリプレグ GMS EP-540
https://www.frp-consultant.com/2019/11/18/flame-retardant-gms-ep-540/

※ EN45545-2 で高い難燃性を示した PFA Composite
https://www.frp-consultant.com/2019/04/01/en45545-2-fire-resistance-pfa-composite/

※ PC( ポリカーボネート )をマトリックスとしたGFRPの高靭性化と難燃化
https://www.frp-consultant.com/2020/11/12/polycarbonate-gfrp-flame-retardancy/

データシートにきちんと述べられているのは、
上記のうち ASTM E84です。

ASTM E84は、建築物の表層材料燃焼に関する評価規格になります。

この試験のやり方については以下の動画がわかりやすいです。

約600mm X 7300mm にカットして試験片とします。

この試験片を管理された温湿度環境にさらした後、
空気の流れているチャンバー内に入れて片側の端部2か所をガスバーナーであぶって89kWの熱量をそれぞれ提供し、
ガスバーナー側から逆側に対して気流を起こし、火が試験片全体に回るようにします。

(動画によると手動ですが)延焼の様子と、センサーで発生する煙(ガス)を記録し、
延焼スピードから Flame spread index を、発生する煙の量から Smoke developed index を記録します。

Notus EPFR-609 の評価結果は以下の通りです。

ASTM E84 test result class: Class A
Flame spread index: 5
Smoke developed index: 200

※ ただし、「 NE11FR film 」と組みあせた場合とのことです。

このデータの解釈の参考になるものの一つが以下のページにあります。

https://blog.starcsystems.com/blog/astm-e-84-fire-rating-your-questions-answered

これを見ると、ASTM E84の中で最も高い Class A に該当するということになります。

具体的にどのくらい違うのか、というのは以下のような動画を見るとイメージがわくかもしれません。

 

尚、難燃性を担保しているのは aluminum trihydrate であるということが、
上記で紹介した Composite World の記事にも書かれていました。

脱水反応後の吸熱反応を示すという性能を応用している、
というのが難燃性機能の基本にあります。

※参照URL
https://www.tomo-e.co.jp/chemical/products/detail.php?page=1&category=IndustrialMaterials&id=25QU028

 

硬化システムに関しては、以下のように書かれています。

Minimum cure temperature (degree C) 90 DSC
Cure time (hours:mins) at min temperature 6:00 DSC
Glass transition temp, Tg (degree C) 98 DSC

DSCによって最低硬化温度を調査した、
というのは恐らくDSCチャートで出現する硬化反応由来の発熱ピークの立ち上げりの温度を言っていると思います。

同様に硬化時間は上記の発熱ピークが無くなるまでに必要な時間のことを意味しているのでしょう。

 

推奨としては、二段階加熱が示されており、
80℃まで加熱後、30分保持し、
その後120℃まで上昇させ60分保持するとのこと。

昔ながらの熱硬化性プリプレグよりは硬化が早い一方、
高速硬化というわけではなさそうです。

 

樹脂単体の特性は以下のように書かれています。

Tensile Strength (MPa) 57 ISO 527
Tensile Modulus (GPa) 4.5 ISO 527
Flexural strength (MPa) 98 ISO 178
Flexural Modulus (GPa) 5.3 ISO 178
Density (g/cc) 1.46 ASTM D 792
Glass Transition Temp(°C) 111 DSC

まず見るべきポイントは引張弾性率ではないでしょうか。
難燃性を実現するには一般的に様々な添加剤を入れるため、
弾性率は低下する傾向にあります。

その中にあって4.5GPaを維持していることは注目すべきことです。

 

UDのガラス繊維強化FRPについてみてみます。

Tensile strength (MPa) ISO 527 / 1022
Tensile modulus (GPa) ISO 527 / 48
Flexural strength (MPa) ISO 14125 / 1164
Flexural modulus (GPa) ISO 14125 / 47
Compression strength (MPa) ISO 14126 / 977
Compression modulus (GPa) ISO 14126 / 39
Inter laminar shear strength (MPa) ISO 14130 / 53

この特性だけ見てもなかなかイメージがわきにくいかもしれませんので、
ガラス繊維強化のFRPでエポキシ樹脂をマトリックス樹脂とする別の材料との比較を見てみたいと思います。

Hexcel社の8552という構造材向けのエポキシ樹脂をマトリックスとしたものになります。
データシートは以下のサイトで見ることができます。

https://pdf.directindustry.com/pdf/hexcel-corporation/hexply-8552-epoxy-matrix/37685-593200.html

これは樹脂単体で引張弾性率は4.6GPaですので、EPFR-609と同等です。

プリプレグとしての比較は、S2GLと書かれているものと比較します。

これは、S2 Glass という AGY社のガラス繊維のことで、
以下のサイトで特性を見ることができます。

http://www.matweb.com/search/DataSheet.aspx?MatGUID=881df8cd9bde4344820202eb6d1e7a39&ckck=1

これを見ると、Sガラスに該当することがわかります。繊維の名称のSはそれを示していますね。

8552/S2GLを見てみると、以下のようになります(単位はpsiからpaに変更しています)。

Tensile strength (MPa) / 1731
Tensile modulus (GPa) / 45
Flexural strength (MPa) / 1606
Flexural modulus (GPa) ISO / 44
Compression strength (MPa) / 1497
Compression modulus (GPa) / 45
Short beam (MPa) / 97

これを見ると、弾性率は同等である一方、引張や圧縮強度は50から70%程度 EPFR-609 の方が低いということがわかります。
その一方で曲げ強度は40%程度 EPFR-609 の方が高くなっています。

Short beamは簡易的には層間せん断強度を見ていることになりますが、
破壊形態によって強度の意味が異なってくるのでここでの比較はあまり意味がないので細かく見ませんが、
こちらも EPFR-609 の方が高くなっています。
(EPFR-609 を評価した ISO 14130もShort beam法です)

引張や圧縮の強度が違うのはVfに加え、繊維の種類が異なることに由来すると想像します。EPFR-609 は一般的なEガラスを用いているのでしょう。

そしてガラス繊維で強化したGFRPは、炭素繊維で強化したCFRPよりも圧縮強度が高い傾向にあるということも、設計者としては知っておいて損はありません。

後半の理由はよくわかりませんが、
一つ可能性があるのが、樹脂と繊維の接着性に加え、界面の靭性が高く破壊が進展しにくいということです。

ただ8552も高靭性のエポキシ樹脂であり、特性的にはかなり高いのが実情です。
Hexcelのデータシートの中で応力拡大係数 K1c を見ると1.475ksi√inであり、これは約2.0MPa√mなので、
エポキシ樹脂としてはかなり高いです(一般的なエポキシ樹脂は0.6から0.9程度)。

※(参照URL)FRP層間破壊靭性特性評価の現状と 破壊力学
https://www.frp-consultant.com/2020/05/18/fracture-mechanics-composite-evaluation/

もしかすると建築の外板に使う用途では、
曲げや層間せん断の強度が上がるような工夫が材料になされているのかもしれません。

 

もう一つ注目すべきは保管性です。

冷凍保管で18カ月、21℃環境でも60日の寿命があると述べられています。

特に室温寿命は比較的長い部類に入ります。

しかしながら、このような材料寿命はあくまで材料メーカーが自社指標で設定しているものであり、
実際にこの期間使えるか否かについてはユーザーがきちんと評価することが求められます。

用途によっては、保管期限をもう少しシビアにしないと品質が安定しない、
というのは良くある話です。

 

建築へのFRP適用の流れ

建築はFRPが今後活路を見出す新たな領域の一つであることに疑いの余地はありません。

そして、今回ご紹介したような話は、私の知る限りでも既に6年以上前から水面下で進んでいた話でした。

欧州や北米、日本のような先進国は建築法が障害となってしまい、
FRPを建築に用いるというハードルが極めて高い。

その状況を踏まえ、建築法が未整備、または柔軟性があり、
かつ資金の有る地域として中東は注目の的だったのです。

そのため、今回ご紹介したような成果は当然の流れとも言えます。

やはり何かしらの結果が出るには、前もっての調査と準備というものが大変重要である、
ということを常々感じます。

 

 

今後数年以上はCOVID-19による人の流れが制限されることから、
この状況を前提とした戦略が強く求められます。

情報を様々な武器の基本とし、
今では難しくなった人と人の出会いを制限に抵触しない範囲で活用し、
着実に物事を進める。

このような研究開発業務としての当たり前のことを、
当たり前に進められるか否かが勝負の分かれ目になると思います。

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