風力発電ブレード基本構造と廃棄されるFRP製風力発電ブレードの筏(いかだ)へ再利用
インドのAkvotransiro Techという企業が、廃棄されるFRP製風力発電ブレードの新たな再利用法を提言しました。
それが船の一種である”いかだ(筏)”への適用です。
今回はFRP製風力発電ブレードの概況と基本構造に触れた後、
筏への再利用について述べます。
風力発電の新規設置はここ数年100GW/年を超える
最近発行されたJEC Compositesの特集号において、
近年新設された風力発電設備による発電量の増加は、
2023、2024の両年においてそれぞれ100GW/年を超えていることが示されています。
2020から2022年まで中国の減速により発電量の縮小が進んでいましたが、
2023年から反転しています。
※参照情報
中国以外の地域では35GW/年程度の増加がここ数年維持されており、
全世界的に見ても風力発電の新規設置への取り組みは継続している印象です。
風力発電は事業性の観点では課題も
増加に目がいきがちですが、洋上風力発電をはじめとした風力発電事業は、
長期で見た際の事業性に課題があることもわかってきています。
日系の大手商社が当該事業から撤退したのはその一例だと思います。
風力発電事業撤退が経営の追い風になったという事例も出始めていることは加筆しておきます。
これも今後のFRP製風力発電ブレードの廃棄をはじめとした、
廃棄処理に暗い影を落とす可能性を感じています。
FRP製風力発電ブレードの設計や製作に関する知見を有する企業の寡占化が進み、
リサイクルや再利用に必要な技術的知見が偏ることで、
これらの取り組みが停滞する可能性があるからです。
後述の通りリサイクルはもちろん、
再利用にはその製品が生み出された設計部分を含む幅広い技術情報が不可欠です。
FRP製風力発電ブレードの廃棄物の激増については10年近く前から触れていた
FRP製の風力発電ブレードの廃棄物量が増えること自体は、
既に10年近く前から本コラムでも取り上げてきました。
いきなり生じた問題というよりは、顕在化が予想されていた問題の一つと言えます。
※関連コラム
その廃棄量については様々な算出法がありますが、
過去のコラムで取り上げたものだと2039年には最悪6,521,900tonという、
とてつもないFRP製風力発電ブレードが廃棄物になる予測もあります。
※関連コラム
FRP製風力発電ブレード驚きの廃棄量予想と求められる取り組み
正直これはかなり厳しめの予想ではありますが、
多くの予測値で数十万から数百万tonのFRP製風力発電ブレードの廃棄物が生じる、
という予想を示しています。
風力発電機はFRPだけでなく様々な材質のものから構成される
風力発電機の廃棄を理解するにあたり、FRP製のブレード以外にも目を向ける必要があります。
当該発電機の構成材料を説明する情報例の一つは以下のような論文です。
※参照情報
上記の情報によると2MWの風力発電機(総重量 221.2ton)を一例にすると、
以下のような材料構成(重量比率)とのことです。
- tower (65%)
- nacelle (1%)
- hub (6%)
- blades (9%)
- converter (2%)
- generator (3%)
- gearbox (7%)
- bed frame (5%)
- the main shaft (2%)
すなわち、風力発電機全体でいえばFRP製風力発電ブレードの重量は1割に満たないことが分かります。
重量比率は大きいもののリサイクルしやすい金属
風力発電機全体の半分以上を占めるtower(塔)などは、
金属製のためリサイクルが容易とのこと。
同様にコンクリート製の基礎などもリサイクルしやすいようです。
その一方で、風力発電ブレードはリサイクルがしにくいという記述が参照情報にも認められます。
その理由を知るにはFRP製風力発電ブレードが、
どのような構成になっているかを知る必要があるかもしれません。
FRP製風力発電ブレードの基本構成
リサイクルしにくいと言われるFRP製風力発電ブレードの基本構成を見てみます。
FRPは外殻とスパー(桁)、スパーキャップ等に用いられる
風力発電ブレードは小型のものを中心にガラス繊維を強化繊維としたGFRPを使用するのが一般的です。
ただし洋上風力など、近年直径が300mを超えるような巨大な風力発電ブレードには、
炭素繊維を強化繊維としたCFRPも多く用いられます。
マトリックス樹脂は強度や剛性もさることながら、
硬化収縮抑制の観点からエポキシが用いられることが多いとの理解です。
風力発電ブレードを中間位置あたりで切断した断面には、
多くのブレードにおいて1から2本の厚み方向への柱があります。
これがスパー(桁)です。
色々な種類があるようですが、最も一般的なものはフォームコア構造で、
内部がPVC等の樹脂の発泡材、外側がFRPです。
このスパーは接着剤で外殻のシェル材と接着されており、
それをスパーキャップと呼ばれるFRPで押さえつけます。
外殻は上記の通りシェルであり、ここに最も多くのFRPが使われます。
通常シェルはNCF等の連続繊維に樹脂をインフュージョン成型法などで含浸させたものが多いとの理解です。
NCFは補修材の強化繊維基材として使用されるケースがあることを、
過去にも取り上げました。
※関連コラム
非加熱硬化プリプレグGF-NCF/UV-cure-resinによる補修
シェルやダウンコンダクタの周辺にはハニカムや発泡材を用いることも多い
シェルはFRP単体というよりも、ハニカムや発泡材をコアとしたサンドイッチ構造を有することが多いです。
同様に落雷対応で敷設されている銅線(Down Conductor)の基礎には発泡材を用いることが多く、
樹脂系のものだけでなく、バルサなどの天然材料が使用されることもあります。
ブレードの先端に落雷した際、
その近辺に設置されたレセプターを通じて雷由来の電流を設置線まで誘導する役割を果たすのがDown Conductorです。
実運用においては必ずしも先端付近に被雷するとは限らず、
翼面に損傷が出る場合もあるようです。
Pressure/Suctionの両シェルは接着剤で接着し、外層は塗装する
風力発電ブレードのFRPシェル部分は表側と裏側、
ブレードでいうPressure/Suctionの2つの大きな部品を前端(Leading Edge)と後端(Trailing Edge)で接着させます。
その後、外層を塗装するのが一般的です。
以上の通り、FRP製風力発電ブレードといっても様々な材料が混在しており、
このことがリサイクルを難しくしている最大要因です。
このようなことを背景にリサイクルではなくリユース、すなわち再利用の選択肢を選んだのが、
インドのAkvotransiro Techという企業です。
風力発電ブレードの再利用として筏を選択
今回参考にしたのは以下の記事です。
※参考情報
The Wind2Water catamaran, upcycled from end-of-life wind blades / JEC COMPOSITES
これまでも風力発電ブレードをそのまま使おうという取り組みはありました。
自転車置き場の屋根や橋、公園の遊具はその一例です。
今回ご紹介するのは陸上で使うものではなく、水上で使うというところに斬新さがあります。
具体的には筏ですが、どのようなものかは以下のような動画を見るとイメージがわくかもしれません。
筏の両側面についている部品がFRP製風力発電ブレードの再利用部分になるようです。
また動画中の船の梁に当たる部分には天然素材である竹を用いており、
廃棄材料再利用に加え、できる限り自然のものを使うという配慮が見られます。
スパーに合わせて切断し、端部を水面に向くようにすることで水の抵抗を抑制
もう少し具体的な加工法を理解するには、
Akvotransiro TechのHPを見るのが良いかもしれません。
※参考情報
A Growing Problem Of Green Energy / Akvotransiro Tech
上記のページの中ほどにBlade Derived Modular Hullsという見出しがあると思います。
その右側に、風力発電ブレードをどのように加工して再利用するかのイメージ図が書かれています。
主にはスパーが上面(または下面)になるようにスパン方向(長手方向)に切断し、
筏の浮きの形状にしていることがわかります。
6分割した風力発電ブレードのTrailing Edgeと、
別の分割された同ブレードのTrailing Edgeを組み合わせて一つの浮きにする、
根元の円柱形状をそのまま浮きにするといった工夫も認められます。
船体に用いる前に目視による検査を実施し、必要に応じた補修を行う
廃棄されるFRP製風力発電ブレードである以上、
様々な箇所での劣化は不可避といえます。
そのため目視検査し、必要であれば補修を行うと書かれています。
端部についても何かしらの形でカバーをすると書かれており、
FRP製風力発電ブレードの基本構造を念頭にした対応がなされている印象です。
筏へのFRP製風力発電ブレード再利用はアップサイクルに該当すると主張
記事中で繰り返し主張しているのが、
筏へのFRP製風力発電ブレードの再利用は”アップサイクル”であるという点です。
その理由として低コスト、低炭素、地域適合性の3点を挙げています。
このうち低炭素については定量的な評価をしており、
FRP製風力発電ブレード1つを再利用することで、
1.5から3トンの二酸化炭素排出、
並びに10から25トンのFRPを含む複合材廃棄物の削減を実現できるとのこと。
さらに新たに船を造る場合と比較し、
FRP製、鉄鋼製、アルミニウム製の船と比べて各最大60%、80%、90%の製造消費エネルギー削減を実現できる、
との主張もあります。
このようなアセスメントを正確にやろうとするとかなり大変ではありますが、
主張を支持する一指標としたいようです。
より大型の電動フェリーを作るための協業者を探索
今後は12から13mという今より大きいフェリーの様な船を作り、実証実験を行いたいとのこと。
動力は電動とし、実際に水上で使用する許認可を取得するため、
認証機関や政府とも協業したいと書かれています。
また、実証を行うのは風力発電機設置場所からあまり遠くない沿岸部が好ましく、
インドだけでなく、ベトナムやバルト三国のリトアニアやラトビアを想定しているようです。
全世界で300億ドル(約4兆8000億円)というフェリー市場への参入も期待でき、
そのうち小型フェリーカテゴリーのうち15から30憶ドル(約2400から4800億円)という市場を形成するポテンシャルがあるとの記述があります。
元々埋め立て廃棄するしかなかったFRP製風力発電ブレードが、
このような製品に生まれ変わることは夢があるともいえるかもしれません。
この内容を踏まえ、理解しておきたい点を述べます。
本格的な事業化には技術的にも課題が多い
既述の内容を踏まえるとあたかもうまくいきそうではありますが課題もあります。
廃棄されたFRP製風力発電ブレードのモデルは無く、感覚論で進めているため効率が低い可能性も
感覚的にはイメージできるかもしれませんが、
風力発電ブレードは空力性能が重要となるため、
複雑な三次元形状をしています。
これを図面で再現することは不可能なため、3Dモデルで表現します。
しかしAkvotransiro Techはこのようなモデルを用いることなく、
いきなり切断し、それらをエポキシ接着剤で接着し、
動画にあるような小型の筏を作ったというのが実情のようです。
端的に言えば”感覚論”で形だけ作ったというところでしょう。
水中移動の際の流体抵抗が大きくなるリスク
このような感覚論で作ったものは、
水の上を動く際に想定外の流体抵抗が生じることもあるでしょう。
しかも出口戦略の一つとして示されるようなフェリーは手漕ぎの筏と異なりある程度高速移動するため、
当該抵抗による問題がより生じやすい。
さらに言えば気体中を移動することを想定された風力発電ブレードと比べ、
水中を移動するものは媒体が液体となるため粘度も桁違いに大きくなる、
つまり抵抗による力が大きくなります。
気体中を移動することを想定して設計された風力発電ブレードが、
高粘度の液体による流体抵抗に耐えられるのかは疑問があります。
廃棄予定のブレードについて、形状を理解できるモデルなどの情報は極めて少ない
問題をさらに大きくするのが、形状に関する情報の不足です。
前出の通り図面があっても、3D形状の情報はそこから読み解くことはできず正確な形はわかりません。
このような形状に関する情報が無ければ流体力学を使ったシミュレーションもできず、
結局のところ船体にFRP製風力発電ブレードを使った場合、
どのような現象が起こるか皆目わからないのです。
動画にあったようなゆっくりとした移動だけを想定するのであればいいですが、
前出の通り小型とはいえフェリーまで想定するのであれば、
風力発電ブレードの形状を出発点とした形状設計は必要でしょう。
風力発電ブレードの加工方法や船体への設置方向や位置、
場合によっては形状に修正を加えるといったことが必要になるかもしれません。
流体力学に関連するナビエ・ストークス方程式や、
乱れの指標の一つであるレイノルズ数についてはコラムで取り上げたことがあります。
このような観点を取り入れずにある程度の速度で移動する船体を作ることは難しいだろう、
というのが私の考えです。
※関連コラム
FRP製風力発電ブレードの損傷は目視だけではわからない
FRP製風力発電ブレードを船体に再利用する際、
Akvotransiro Techは目視検査を行っていることを述べました。
FRPの損傷を議論するのであれば目視だけでは不十分で、
超音波探傷等の内部損傷に対する非破壊検査が絶対に必要です。
※関連コラム
FRPは何度も述べている通り、損傷形態が大変複雑です。
その複雑さの一要因が”損傷状況は外観からはわかりにくい”ことです。
風力発電ブレードのように高い強度と剛性が求められる用途では、
強化繊維は連続繊維の形態で使用されており、
主に長手方向に繊維は配向していると考えられます。
このような連続繊維を基本にして積層ごとに配向が異なる場合、
外的な衝撃によってトランスバースクラック(層間方向への損傷)が生じます。
その損傷が長い時間をかけて蓄積すると、
それは面内方向に広がっていきます。
こうして、外観上は微小な損傷でも中は大きく損傷しているということが生じるのです。
このリスクについては過去の連載でも述べています。
※関連連載
長期利用後の風力発電ブレードではスパーキャップとシェル間の剥離が起こりやすい
風力発電ブレードを再利用するのであれば知っておかなければなりません。
最も大きなリスクはシェルのあわせ面である端部の接着剥離ですが、
こちらは水漏れを想定し、Akvotransiro Techも対応していることを述べました。
しかしもう一つのリスクがスパーキャップ(桁の土台)とシェル間の剥離です。
この剥離は徐々に進行し、あるタイミングでスパーとシェル間の連結が外れる可能性があります。
フェリーなどにFRP製風力発電ブレードを再利用する場合、
スパーが船体の構造部材と何かしらの接合をしていることもあり得ます。
上記の脱落が起こった場合、浮きであるFRP製風力発電ブレードと、
その上に載っている船体が離脱してしまうことになるのです。
これが走行中に起こった場合の恐ろしさは想像に難くないでしょう。
使用中にスパーキャップの剥離がある場合に加え、
再利用前の加工中に剥離が生じてしまうことも考えられます。
超音波探傷によるスパーキャップとシェル接合部の非破壊検査は、
FRP製風力発電ブレード再利用の必要条件です。
そもそも廃棄物を出さない風力発電機への取り組みは続いている
一つの潮流として追加で理解しておきたいのは、
作る段階でそもそも廃棄物を出さない思想を取り入れるという考えです。
この取り組みを行っているVestasについては過去のコラムでも取り上げました。
※関連コラム
Vestas が2040年までに廃棄物ゼロの風力発電ブレードをリリースすることを発表
これを取り上げて6年以上が経過しましたが、
最近のVestasのHPの情報を見た限りでは、
本取り組みを継続しているようです。
※参考情報
Sustainability in Everything We Do / Vestas
上記ページの中ほどに”Zero-waste wind turbines by 2040”という見出しがありますが、
ここに現段階でも85から97%をリサイクルしているが、その割合を100%にする取り組みを続ける、
と書かれています。
やはりFRP製風力発電ブレードのリサイクルは難しいらしく、
2020年時点でその割合(恐らくwt%)は41%にとどまっているようです。
新しいリサイクル法の構築や、
製品の購買・製造・販売という一連の流れへの高付加価値化についての言及がVestasのページにありますが、
個人的に最重要と考えるのは”設計思想の変換”でしょう。
廃棄まで見据えた設計ができれば、
様々な可能性が見えてくるような気がします。
今回の船への再利用を想定するのであれば、
ブレードとしての空力特性を念頭に置きながらも、
別の用途にも使える折衷形状にするというのも一案になります。
最後に
FRP製風力発電ブレードの筏やフェリーへの再利用は、
事業的にはもちろん、技術的にも多くの課題がありそうですが、
取り組み自体は大変良いと感じています。
再利用によるFRP廃棄物の活用は、
FRPという材料の活用期間延長に向けた大きな一手と感じており、
リサイクルよりも優先して取り組むべき内容と考えられるためです。
今後もFRPについてはリサイクルではなく、
リユースに関する提案が多くなることを期待します。



