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FRPも適用される英国次世代戦闘機 Tempest

2022-07-25

TempestにはFRPが適用されると想定される

いつの時代も、軍事技術が技術的発展を促すという皮肉な現実があります。

GPS、携帯電話、集積回路、光ファイバ等、
軍事技術が身近なものとして転用されたものが多く挙げられることを考えれば納得しやすいかもしれません。

今は経済規模の大きな国が関連する地理学的不安定性上昇が注目されているとあって、
ますます軍事技術が注目されているように感じることもあります。

今回はFRPの適用が確実視されている英国次世代戦闘機 Tempest (テンペスト)を題材に、
最近の戦闘機に関連する軍事技術概要と当該アプリケーションに対するFRPを含む複合材料の適用について、
技術的観点から述べたいと思います。

・戦闘機に関連する過去のコラム

Eurofighter 向け towed decoy への CFRP 適用

 

 

Tempestは英国主導の戦闘機開発計画で日本も参画

Tempest(テンペスト)というのは英国の航空宇宙防衛大手企業のBAE Systemsが主体となって進めているプロジェクトです。

ユーロファイター タイフーンの次の世代にあたる、
新世代戦闘機を具現化するというのがそのコンセプトにあります。

 

本プロジェクトは2018年にスタートし、2035年に運用開始することを目指しています。

プロジェクトの概要は以下のサイトで見ることができます。

TEAM TEMPEST/Royal Air Force

BAE Systems は日本法人を設立していることからも、
日本が一つの重要なパートナー企業となっていることを示唆しています。

日本からは機体関連に三菱重工が、エンジン関係はIHIが参画し、
それぞれの主導企業はBAE SystemsとRolls Royceのようです。

この辺りは以下の動画でも触れられています。

The United Kingdom and Japan have announced plans to jointly develop a prototype fighter jet engine

 

それ以外にも、メインパートナーとしてはセンサや通信等の技術を有する LEONARDO、
ミサイルシステム技術を有するMBDAが主なパートナー企業として登録されています。

・Tempestプロジェクト参画企業HP

LEONARDO

MBDA

 

日本でもF2の次の世代の戦闘機の開発が必要になっており、
従来の流れでは北米との連携が想定されていました。

しかし今回のケースでは英国主導ということで、
今までとは異なる戦略が背景にあるようです。

この理由として北米の新世代戦闘機の時間軸が揃わなかったという話から、
既に戦闘機のコンセプトが無人機に変化し始めている、
はたまたF2の開発時は日本側が思った通りの技術開発ができず、
北米依存の技術に終始したため後継機開発は自国も主導権を持ってやりたいという話までいろいろありますが、
本当のところはよくわかりません。

しかし、少なくとも今までの北米依存路線とは変わりつつあるという一例になっている、
というのは事実といえます。

 

 

戦闘機の技術的トレンドは多機能化

戦闘機というと激しい空中戦といったイメージを持っている方がいるかもしれません。

しかし、実際の戦闘機の技術的トレンドは一言で言うと

「多機能化」

というべきでしょう。

 

一機で何役もこなすセンサ・インフュージョン

例えば運用中の戦闘機の中で世代の新しいF-35(ライトニングII)。

F-35最大の特徴といえる機能は「センサ・フュージョン」だといわれています。

従来は電子戦機が行う相手方の探知や妨害といった対レーダ、電波向け作戦と、
地上の目標を破壊する攻撃機の役割を、
F-35では単独で行うことができるようになっています。

複数種のレーダ、カメラ、センサ等を搭載し、
それらの複雑かつ大量のデータをパイロットが全方位で理解できる情報として、
コンピュータで整理の上でパイロットに伝達するイメージのようです。

さらに電子戦機としての役割を担う際は、
他の軍用機(航空機、車両、船舶等)、軍事衛星、軍事基地などとネットワークを構築して連携が必須で、
複雑な通信もできる設計となっています。

しかし、ハードウェアに加えソフトウェアも複雑になっているためソフトの継続的な修正は不可欠で、
新しい機能を付与するにはソフトウェアそのものの更新も必要になる等、
運用中も常に進化させるという姿勢が必要と考えられています。

多機能化は運用後の負担も増大するという課題もあるのです。

 

戦闘のフィールドはネットワーク構築に貢献する衛星を対象とした宇宙へ

F-35はもちろん、今回冒頭で触れたTempest等の戦闘機をはじめ、
多くの軍事向け装備はネットワークで情報をやり取りするのが当たり前になっています。

そして、このやりとりの鍵といわれているのが「衛星」です。

高度100から1000km付近を周回する偵察衛星に加え、
最高高度3万km以上の静止軌道に存在する通信衛星、早期警戒衛星等、
軍事目的にも適用できる衛星がすでに多く存在します。

この衛星が遠距離からの高精度の誘導や位置特定を含む情報のやり取りの中継基地となっているため、
有事には衛星を攻撃対象にするという戦略が当たり前の時代となっています。

衛星は攻撃も防御もできないものが殆どである一方、
ネットワーク破壊による多大な影響を与えられると考えれば自然の流れかもしれません。

地上からミサイル(ASAT)攻撃をするタイプからレーザ照射をするもの、
更には電波妨害やマイクロ波による電子回路無効化に加え、
キラー衛星というロボットアーム等を用いた衛星への攻撃などがあるとのこと。

既に宇宙衛星を打ち上げている複数の国で不審な動き(異常接近、衛星破壊訓練等)は始まっており、
火種は存在しているのが残念ながら実情のようです。

一例ですが北米のトランプ前政権がNASAには予算を拡充し、宇宙軍を組織した理由もここにあると感じます。

日本も内閣府に宇宙開発戦略推進事務局を設置の上、
2021年に自衛隊内に宇宙領域企画班を立ち上げ宇宙空間の安全保障に関する各議論や検証を始めています。

まずは宇宙状況監視(Space SItuational Awareness:SSA)が主たる活動になっているとのこと。

この辺りは、以下の防衛白書に概要が書かれています。

宇宙・サイバー・電磁波の領域での対応

 

一部で異議が学術論文で主張されているものの、
一般相対性理論の予測とよく一致する「いて座A」のブラックホールの観測を実現した、
複数国の研究機関と研究者が共同で進めるイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)。

宇宙誕生間もない130億年前の銀河の姿を捉えたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。

科学的観点ではどちらも素晴らしい成果である一方、
これらの技術も上記の軍事的観点と全く無縁ということは無さそうだと個人的には感じています。

・関連サイト

Event Horizon Telescope Japan

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の高解像度画像と観測データの数々

 

戦闘機の生存確率向上に直結するステルス性能

話を戦闘機の機能化に戻します。

もう一つの代表的な機能が「ステルス性能」です。

これは相手方に発見されにくいという性能のことを言います。

望遠鏡や双眼鏡などを用いた光学的検知はもちろんですが、
より遠距離検知に用いられるレーダ等による電波的な検知が主な狙いにあります。

一番重要なのが機体の形状。
入射した電波を強く反射するほど遠くから検知されます。

この反射のしやすさを示す一つの指標はRadar Cross Section (RCS)と呼ばれています。
概要については以下のような動画を見るとイメージが浮かぶかもしれません。

Basic Concepts of Radar Cross Section (RCS)

上記の動画中でも述べられていますが、
形状だけでなく材質もRCSに影響を与えます。

 

 

ステルス性能を高めるにはレーダを吸収する複合材料が重要

ステルス性能を発現させるメカニズムで最も一般的なのは、
吸収材料を組み合わせた複合材料を採用することです。

radar absorbing structures (RAS)と呼ばれることもあります。

カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化鉄、炭化ケイ素等をフィラーとして添加することで、
比較的広範囲の周波数帯にて電波吸収特性を発現することが知られています。

この辺りの関連技術を示した論文を以下にご紹介します。

Design of Radar Absorbing Structure Using SiCf/Epoxy Composites for X Band Frequency Range

Polymer matrix composites as broadband radar absorbing structures for stealth aircrafts

 

 

戦闘機に用いられるFRPはスキン材が多い

少しずつFRPの話に入っていきます。

実際のところ、FRPは戦闘機のどの部分に使われることが多いのでしょうか。

結論から先に言うと、

「機体のスキン材として用いられることが多い」

となります。

 

一例として以下の情報をご覧ください。

Composites in Aerospace Applications

この資料の4ページ目にF-18を一例に、
材料構成が述べられています。

図中でピンクにて示されているのがCFRPが適用されている箇所です。

これを見ると主翼や尾翼の多くのスキン材に、
FRPが用いられていることがわかります。

 

 

FRPを戦闘機のスキン材に使うのは軽量化に加えて他の動機があると考えられる

FRPを使うのは当然ながら軽量化が最重要の狙いにあります。

機動力が命の戦闘機において軽量化は生命線です。

しかし、それ以外にも理由があるのではないかというのが私の考えです。

それは、

「構造部材そのものにステルス性を持たせようとしている」

ということです。

上記の通りステルス性を発現させるには、
レーダを吸収するフィラーを入れるのが一般的です。

 

そしてF-35をはじめステルス性を有する戦闘機は、
ステルス性を有する特殊な塗料で塗装されています。

ただ、音速を超える速度で飛行するのが一般的な戦闘機では、
空気等との摩擦や周辺気圧向上により表層が高温にさらされることで劣化や摩耗が激しく、
定期的に塗装を塗り直すといった対応が必要となります。

当然ながら適切な塗装状態に維持するメンテナンスは必要ですが、
場合によっては塗装が適正に維持されていない状態で飛行することが求められるかもしれません。

このような場合、もし機体のスキン材そのものがステルス塗料と同等までいかなくとも、
機体の構造部材そのものがステルス性能を有するとすれば、
相手方から検知されるリスクが低減できるのではないかと考えられます。

FRPは樹脂と繊維の複合材料であるため、
マトリックス樹脂側にステルス性能を有するフィラーを混錬させておけば、
スキン材そのものがステルス性を有することとなります。

戦闘機としてのステルス性能を高めると同時に、
上記のような塗装が劣化した際のステルス性能低下を抑制することにつながるかもしれません。

 

 

Tempestでは3Dプリンティングと高耐熱の複合材料が適用される見込み

詳細は不明ですが高温での運用を可能にする軽量かつ高性能の構成を実現するため
Tempestでは3Dプリンティングと新規の複合材料を開発すると述べられています。

TEAM TEMPEST/The tech

 

アプリケーションが戦闘機であり、かつ3次元形状物成形技術の3Dプリンティングが言及されていることから、
ここでいう複合材料には恐らくFRPが含まれていると考えられます。

また、高耐熱の複合材料ということを着眼した観点から見ると、
塗り直しのあまり必要ないステルス性を有する高耐熱塗料という可能性もあります。
耐熱性を高くすれば戦闘機の運用中における劣化が抑制されるというロジックです。

塗料が複合材料なのかと感じる方もいるかと思いますが、
高耐熱塗料にステルス性を有するフィラーなどの添加材を入れるという時点で立派な複合材料です。

 

軍事技術なので詳細が明らかになることは無いと思いますが、
どのような技術が適用されるのかは興味深いところです。

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

戦闘機というのはあまり身近なアプリケーションでは無い上、
詳細が明らかになることも無いためわかりにくいことが多いと思います。

しかし特定業界に偏ることなくどのような技術的トレンドがあるかに興味を持ち、
それに向けて具体的に何が動いているのかを理解するのは、
今後どのような戦略をもって技術開発を行うのかという検討の一助になるかもしれません。

 

ご参考になれば幸いです。

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