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加熱修復が可能な熱硬化性FRP HealTech Vol.177

2021-07-12

FRPの長期利用の切り札ともいえる修復。

一般的にはライナーを外層に積層する、
損傷部分をスカーフ加工して積層し直すなどの、

「補修」

の手法が取られます。

このような補修方法はFRPとして一般的になってきており、
今後、製品の長寿命化という観点で、
損傷部分に何かしらの手を加えることを前提としたメンテナンスは、
持続可能な経済活動に向けた動きの観点からますます活発になっていくものと推測されます。

 

そのような中、追加工もライナー積層も不要な

「修復」

を可能とする、

「HealTech(TM)」

という材料がスイスのベンチャー企業 CompPair からリリースされました。

加熱により、GFRPの層間剝離を修復している様子。

(Image above was referred from https://comppair.ch/)

 

本材料をリリースした企業、
CompPairの概要から見ていきたいと思います。

 

 

 FRPの修復に注目するCompPairとは

この企業は本格的な企業活動が2020年からというスイスのベンチャー企業です。

どのような観点に着眼しているかについては、
以下のような動画を見るとわかりやすいかもしれません。

一言でいうと、今ますます注目が高まる持続可能な世界の実現に向け、
FRPという材料に関連するところでも何かできないか、
というのが企業理念の根底にあるという印象です。

A material that repairs itself
というのがスローガンからもその姿勢が示されています。

CompPairの企業ホームページもあります。

 

 

加熱修復が可能な HealTech

この材料の強化繊維はEガラス、もしくは炭素繊維だとT300-3K、T700-12Kの3種類のようです。
→T300、T700というのはToray製の炭素繊維品番、3K、12Kというのはストランド、
つまり繊維束一本あたりに含まれる炭素繊維フィラメントの数です(3K→3000本)

UD(一方向材)もしくは綾織りの製品があり、
強化繊維目付はガラス繊維で220~400g/m2、炭素繊維で200~415g/m2とのことです。

HealTech(TM)の概要を紹介している動画があります。
Webinar形式で紹介されており、わかりやすくまとめられています。

ガラス繊維、並びに炭素繊維で強化された HealTech(TM) を用いた平板にそれぞれ鉄球を落とし、
層間剝離を中心とした内部損傷を導入しています。

光を透過するGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)では、
裏側から光を当てることで内部に生じた層間剝離を確認できます。

この状態でヒートガンにて熱をかけ、
層間剝離が見かけ上、消滅する様子が示されています。

黒色のCFRPについては超音波探傷画面のA-Scan、並びにC-Scan画像を見せながら、
内部損傷を確認している様子も映っています。

一度に広範囲の画像が見えたことから単眼ではなく、フェーズドアレイを用いていることもわかります。

ただし、CFRPについては修復後に内部損傷がどうなったか、
について超音波で評価した結果は示されていないのが残念です。

 

その後、HealTechの特性について 2X2 の綾織りのCFRP構成(繊維品番は不明)で、
HealTechと一般的なエポキシマトリックス樹脂のものとの比較も示されています。

示されていたのは曲げ弾性率、引張弾性率、そして Mode I (開口モード)のエネルギー開放率です。

曲げ弾性率はHealTech(Vf:55%)の方が若干低いですが、概ね同等で50GPa強、
引張弾性率もHealTech(Vf:60%)が若干低いものの、概ね130GPa程度であるとのこと。

その一方で Mode I のエネルギー開放率G1cは、一般的なCFRPが1000J/m2程度である一方、
HealTech(TM)は1400J/m2であると示されています。

これは正直驚きました。

繊維配向をはじめとした基材設定が全く同じではないのでそのまま比較はできませんが、
例えば高靭性エポキシとしてリリースされている、
Toray(旧Tencate)のTC380は490J/m2です。

これが低いかというと、決してそういうわけではありません。

そもそも彼らの言う一般的なCFRPで2倍、
HealTech(TM)に至っては3倍近い値です。

言ってしまえばずば抜けた靭性を示しているということができるでしょう。

※ Tencate の高靭性材料 TC380 について

もう一つ面白いのが、繰り返し荷重試験です。

静的破壊荷重の90%水準で繰り返しの曲げ荷重を負荷した場合、
一般的なCFRPでは2サイクルで大きく弾性率が低下するという破壊挙動を示した一方、
HealTech(TM)ではサイクルごとに加熱による修復をしたことで、
10サイクルは弾性率を概ね維持し、破壊の修復が示唆されています。

当然ながらFRPの繰り返し疲労特性は、
異方性のあるFRPについては複合モードの曲げで評価するのは不適切であり、
また仮に圧縮や曲げで行うにしても、応力比や試験周波数の影響もありますが、
修復効果を示すという意味では確かにその結果が得られている可能性がある、
ということは言えそうです。

FRP動的疲労試験の試験周波数の影響については、
例えば以下のような連載で述べているので、ご参考にしていただければと思います。

※ FRP動的疲労試験に適した試験周波数は?

試験周波数についても、別の連載で述べています。

※ FRP動的疲労試験結果に与える応力比の影響

 

 

HealTech(TM)の性能発現はコアシェル、もしくは熱可塑性樹脂の存在が影響か

詳しい技術情報は公開されていないためあくまで推測ですが、
今回のHealTech(TM)の

・加熱による補修が可能

・高い破壊靭性

という特性は熱可塑性由来の材料、
もしくはコアシェル構造の添加材に由来しているのではないか、
と考えています。

熱可塑であれば熱をかければ溶融し、
架橋点を持たないという分子の絡み合い構造に由来する外的荷重に対する応答が、
靭性を発現することにつながることは一般的な事象として知られています。

コアシェル構造(コア材が内側、外殻をシェル材とした二重構造)の添加材を入れている可能性もあります。

コア材1として低分子量のモノマーやオリゴマー、コア材2として硬化剤を含有し、
シェルを高温で溶融する材料として二種類のコアシェル粒子が添加されており、
熱をかけると外側のシェルが溶融してモノマーなどの主剤が損傷部分に浸透する一方、
硬化剤と混ざることで重合が進み、損傷部分を補修するという考えです。

恐らくですがこのような重合形態(コアシェルの溶融による重合)では、
一般的なエポキシの重合形態では重合が進行しにくい可能性もあるため、
コア材にはビニル基を有する別の補修材を用い、
反応の早いラジカル重合で硬化させているという設計の可能性も考えられます。

そしてコアシェルという粒子の存在が、
開口破壊時の亀裂進展を物理的に抑止することも期待され、
破壊靭性も向上すると考えられます。

いずれにしても、熱をかけるだけというシンプルなコンセプトで修復を可能にした、
という考え方は興味深いアプローチといえるでしょう。

 

 

いかがでしたでしょうか。

今回の技術は、内部への熱伝達が難しい厚物は補修できるのか、
材料の補修機能発現期限はあるのか(補修が熱硬化性の重合で進行する場合に重合系が失活するかという意味)等、
技術的には確認しなければいけない点があるのは事実です。

しかしながら、今回提案された材料のコンセプトはFRPに対して、

「加熱のみで実現できる修復」

ということを可能にしたという意味では大変意義があり、
かつ大きな一歩であると考えます。

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