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送電線コア材のCFRP化による送電能力向上

2026-07-21

今回はFRPのインフラへの適用の例として、送電線コア材のCFRP化による送電能力向上について述べてみたいと思います。

送電線コア材のCFRP化による送電能力向上は新たなインフラ技術になりつつある

 

電力需要の増加は送電線の効率向上要求につながっている

昨今は電子データのやり取りのボリュームが桁違いに大きくなっているイメージです。

近年の電力需要の増加に大きな影響を与えていると考えられるものの一つが、
データセンターの増加と言われています。

2019年まで消費電力は概ね200TWhだったものが、
2024年までに400TWh程度まで急増すると2020年時点で予測されていました。

 

※参考情報

IEEJ Outlook 2026, 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

 

実績では2025年で270TWhとなっており、
当時の予測よりは数値は低いものの増加傾向にあることが裏付けられています。

 

※参考情報

世界のエネルギー・気候統計 – 年鑑2026 / Enerdata

 

 

本潮流において計算の軸となる半導体の性能向上が求められることは想像に難くありませんが、
そもそも計算すべきデータ量が増えればそれに対応するデータセンターを増やすことは避けられないと考えられます。

このような状況では、限られた発電施設から大量の電力を離れた複数施設に送電する必要があります。

そして送電時にポイントとなるのは、

「送電能力向上」

です。

今回は送電線の送電能力向上にFRPが関係していることについて、
近年の技術トレンドも含めご紹介したいと思います。

 

 

FRPが送電線に使われる用途はコア材

参考にしたのは以下の記事です。

Ginger Gardiner, Composite conductor cores boost capacity, cut cost to help power grids meet AI demand, 2026 July, Composite World

実際にFRPが使われるのは、送電線の心材である”コア材”と呼ばれる部分のようです。

FRPを使うことにより送電線の送電能力を倍にする一方で、
送電時のロスを最大50%抑制できるとの記述があります。

 

FRPの役割は送電への貢献ではなく、送電線の剛性向上

FRPの強化繊維を炭素繊維にすればそのまま導線にも使えるのではないか、
と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、
はっきり言ってしまうとCFRPは金属と比べれば”絶縁材料”に違いありません。

参考にした記事の送電線で主として用いられるアルミを例にすると、
0℃の環境で2.5×10-8Ωm(出展:理科年表 令和8度版)です。

それに対し、炭素繊維は概ね100倍から1000倍(10-6から10-5Ωm)程度です。

この辺りは過去のコラムでも触れたことがあります。

 

※関連コラム

はじめてのFRP-炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の 導電性 について

 

 

炭素繊維単体でこの数値ですので、
樹脂と一体化してCFRPの状態にすればその抵抗値はさらに上がります。

このようにCFRPを送電線中の導線に使用するのはメリットがあるとは言い難いのが実情です。

では何故FRPが送電線に用いられるのかというと、

「剛性の高さ」

にあります。

送電線の剛性を高めればたるみにくくなることから、
従来よりも支える支柱間の距離を長くする、
送電線の断面積を大きくするといったことが可能になります。

 

 

アルミ合金とCFRPの引張弾性率の比較

剛性の違いを数値で見ていきます。

記事で引用されている導線がアルミニウムの場合、
A1000番台の様な工業用アルミニウムで69GPa、
超々ジェラルミン(A7075)でも72GPaです(出展:理科年表 令和8度版)。

これに対して炭素繊維は例としてTorayのT700で引張弾性率は240GPa、
Vf60%に換算したCFRPで同特性は約140GPaなのでアルミニウムやその合金と比べ2倍です。

CFRPを送電線のコア材に導入することによりたれにくくなり、
またCFRP自体が軽量で高剛性のため送電線というコンポーネントとしての剛性を高めやすく、
結果として断面積を大きくする、つまり太くして送電能力を高めるアプローチも可能となります。

なお、FRPが使われる前はSUSがコア材として使われていました。
同一体積の場合、CFRPにすることで当該重量を75%削減できます(Vf60%設定の場合)。

 

 

送電線へのCFRP適用の歴史

前出の参考情報によると2002年に東京製綱インターナショナルが一般送配電事業者(transmission system operator (TSO))として、世界で初めて送電線へのCFRP適用を実行したとのこと。

本企業については過去のコラムでも取り上げたことがあります。

ここでは炭素繊維ケーブル(CFCC (R))について概要を述べました。

 

※関連コラム

炭素繊維のケーブルへの適用

 

 

使用する炭素繊維種

基本的には高強度タイプ(HS)が多いとのことです。

ただ川幅の広い川に架線する、氷結して重くなるといった、
より剛性が求められる場合は中弾性タイプ(IM)を使うこともあるとのことです。

IMの炭素繊維は航空機の一次構造材にも使用することもある、
高い特性を有する繊維種になります。

参考にした記事中では近年、中国産の安い炭素繊維も市場に出回り始めているとのこと。

インフラの一部である送電線に適用するためTorayやHyosungといった実績ある企業の繊維を使いたい、
というHexcelの関係者のインタビューも掲載されています。

ただこのようなコストダウンの動きが炭素繊維価格の低下圧力になっていることに違いなく、
それ自身は否定するものではないと述べられています。

 

 

CFRPコアは引き抜き成型で製作

EpsilonやExcel Compositesが送電線向けのCFRP製コア材を製作するにあたっては、
引き抜き成型を採用していると書かれています。

また引き抜き成型してすぐに巻き取っています。

マトリックス樹脂についての考察は後述します。

 

 

FRPコアを有する送電線の近年の技術トレンド

本点についてはいくつかに分けて述べてみたいと思います。

 

アルミの断面積を台形に変更

円形という限られた空間にできるだけ無駄なく複数の金属導線を仕込むには、
そのものが円形よりも台形の方が望ましい。

この原理に基づき、近年の送電線の導線断面積は円形ではなく台形のものが増えているようです。

 

FRPコアを複数にする

初期のころはCFRPのコア材は一本でした。

近年はコア材の耐久性向上の観点から、
一本の送電線に複数のCFRPロッドをコア材として適用しているようです。

これにより、仮に品質のばらつきや外的要因によりCFRPコア材が一本壊れても、
他の同コア材で送電線の剛性を維持することがその狙いにあるようです。

 

光ファイバによるモニタリング

超長尺である送電線は例えば仮に一か所が破損してしまうと、
場合によっては何百、何千メートルにわたる再設置などの作業対応が必要になる可能性があります。

このようなリスク抑制のため、
製造時の不要な過荷重や大変形がかかっていないかをモニタリングする、
という取り組みが始まっているようです。

イタリアのDe Angeli Prodottiでは3本の光ファイバをコア外周付近に導入し、
過剰な曲げ変形の有無をモニタリングするシステムを導入したとのことです。

これにより設置後の送電線内のコア材等の初期損傷を架線前に検知することが可能となるようです。

 

設置中、設置後のモニタリング

光ファイバにモニタリングを使うことについて、
製造時だけでなく、設置中や設置後を想定して運用するケースも出てきています。

参考にした記事ではDe Angeli Prodottiの光ファイバモニタリングを、
送電線設置中にどう活用するかが述べられています。

巻き付け、引き出し、Capstanによるテンション、プーリーまでの間の移動といった各位置のひずみを光ファイバを用いてモニタリングし、
架線中の損傷や異常の有無を調べられるとのことです。

上記の各状態で異なる信号強度が出ることを応用しており、
その強度の関係は以下のようになっています。

引き出し < プーリーまでの間の移動 < 巻き付け < Capstanによるテンション

異常が生じれば、これらの上下関係の変動や信号形状の異常が出ると考えられます。

 

またCTC Globalは2026年2月にひずみだけでなく、温度や振動を計測できる光ファイバラインを導入したと発表しています。

ここでは分布型の一種であるBrillouin Optical Corerelation Domain Analysisの様なものが行われていると考えられます。
この技術は光ファイバ中を通過する連続光の散乱光の周波数シフトを、
温度やひずみに換算するものです。

この辺りのお話は過去のコラムでも述べました。

 

※関連コラム

FRPにも適用できる光ファイバ センシング の最新研究動向

 

 

電食が起きないよう、金属とCFRP間には絶縁層を設定

材料の電位の高い炭素と同電位の低い金属の間には電位差が生じるため、
電食、すなわちCalvanic Collosionが発生します。

これを防ぐため、コア材であるCFRPと導線であるアルミの間に、
GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)やアラミドの層を設置するとの記述があります。

 

 

10年以上の長期試験やアレニウス法による寿命評価

細かいデータが出ているわけではないので技術的考察は難しいですが、
複数本のCFRP製コア材を適用したAluminium Composite Conductor Multistrand (ACCM)について、
実に13年にもわたる寿命評価を行い、インフラ用途に対しても十分な耐久性を有することを示したとのこと。

それ以外にもアレニウス法による寿命評価を行うため高温試験も実施し、
ACCMの高温劣化が生じないことを示したと書かれています。

後述の通り保守的な業界だからこそ、
この辺りの評価には十二分な時間をかけた、
言い方を変えるとかけなければならなかったということ記事では示したいのかもしれません。

 

 

世界の電力需要対策

本コラムの冒頭でも書きましたが、
今や電力確保は国家戦略になりつつあります。

この取り組みに熱心な国の一つがインドのようです。

インドは2030年までに500GWhの再生可能エネルギー発電の実現を目指し、
260億ユーロ(約4兆8千億円/1ユーロ=186円換算)を発電網のインフラ構築に投資するとしています。

この取り組みの中心にいる企業の一社であるEpsilon Cableは既に複数のインドの州の電力網構築プロジェクトにインド系企業と参画しており、
今後、アフリカやアメリカ向けに関連する製品や技術の輸出に取り組むとされています。

 

 

今回ご紹介した内容について、技術的なポイントは何でしょうか。

 

 

コア材のCRRPに用いられるマトリックス樹脂の種類

既に述べた通りコア材は引き抜き成型が基本であり、
樹脂含浸したCFRPはすぐに巻き取られています。

これだけみればマトリックス樹脂は熱可塑かと思いますが、
参考にした記事中には一般的にはエポキシ樹脂であると書かれています。

通常のエポキシのイメージだと曲げ変形を加えると樹脂が割れる印象があります。

もしかするとエポキシといっても架橋点間距離の長い熱可塑性を示す樹脂である、
または熱可塑性樹脂を用いる場合もあるのかもしれません。

 

これに関連して炭素繊維は引張にはずば抜けた特性を示す一方で屈曲に対して非常に弱いため、
どの程度の変形をかけるのかといった点については留意する必要があります。

 

 

線膨張差の影響

参考にした記事中ではFRP適用のメリットとも書かれていましたが、
特に炭素繊維を強化繊維としたCFRPの繊維方向への線膨張係数は極めて小さいです。

ほぼゼロとみていいでしょう。

それに対して周りに使用された金属は一定の線膨張係数を示します。

例えばアルミニウムは25℃環境で23.1×10E-8/Kです。

CFRPの線膨張をゼロと仮定した場合、
長さ1000mの送電線に50℃の温度変化が生じると、
CFRPとアルミ間の寸法差は0.01155m、つまり11.55mmとなります。

寸法変化という意味ではわずかという見方もありますが、
送電線の実際の長さは数キロ以上にわたることもあるため、
その長さ分だけ伸び量は大きくなります。

このような線膨張係数差によって生じる内部応力がCFRPと金属間の絶縁層の破損につながり、
結果として電食が生じるといったリスクはゼロではありません。

対策として絶縁層にも柔軟性を持たせる、
今回紹介したような光ファイバ検査技術を用い、
変形をモニタリングするというのが一案です。

 

 

最後に

FRPが送電線に用いられており、
その主たる要因が剛性の向上にあることを述べました。

発電所から実際にそれを消費する場所までの送電時のロスは無視できないものであり、
今回の様な技術が本損失低減に貢献できると期待されます。

送電線はインフラの一部であることから、
その採用には(日本以外の国でも)慎重になるケースもあると、
参考にした記事に書かれていました。

日本も言うまでもなく同じだと思います。

どれだけいい技術でも法規が障害となって採用が見送られることはよくあることでしょう。

インフラに関して保守的になることすべてが悪ではありませんが、
本当に悪か否かを少量でもいいので一度試してみる。

そのような姿勢が世界中のインフラ業界に求められていることなのかもしれません。

 

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