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振動機構を有するダブルベルトプレスによるプリプレグ製造

2026-05-25

強化繊維にマトリックス樹脂を予め含浸させたFRP材料であるプリプレグの製造に関し、振動機構を有するダブルベルトプレスを使用するという技術についてご紹介します。

 

 

強化繊維への樹脂の含浸はFRP業界全体でいえば手作業が今でも基本

FRPはもともとハンドレイアップ(ハンドレーともいう)という含浸、積層、成型(成形)技術を基本に発展してきました。

ハンドレイアップというのは既定のカットパターンに裁断された強化繊維を木や金属の平板等の平面上に置き、
マトリックス樹脂をそこに垂らした後に脱泡ローラで樹脂を含浸させます。

そして、この樹脂含浸済みの強化繊維を型や既設構造材の上に積層します。

上記一連の工程がハンドレイアップです。

FRP業界の大部分を占めるガラス繊維を強化繊維としたGFRPの世界でいうと、
今でも手作業を主としたハンドレイアップが含浸、積層、成型技術の基本です。

 

含浸工程の簡略化と繊維体積含有率/目付の安定を目的にプリプレグが登場

従来の強化繊維への手作業による含浸には職人技術が必要です。

気候によるマトリックス樹脂の選定や粘度調整、
脱泡ローラの押し付け力の加減による目付の調整などは、
FRP業界の基本を担ってきた方々が築いた基礎技術といえます。

しかしながら航空機をはじめとした高い信頼性と安定性が求められる世界になると、
人に依存する要因をできる限り除外する材料設計戦略が求められます。

上記のような背景から登場したのが、
強化繊維にマトリックス樹脂を”予め含浸”させたプリプレグです。

ハンドレイアップというとこのプリプレグを積層する部分だけを意図する方も多いですが、
本来は含浸構成を含めた作業のことを指します。

プリプレグは比較的高度な中間基材という意味で、
当該材料を用いる業界の方々はFRP業界全体でいえばハイエンドなカテゴリーに属しているといっても過言ではありません。

 

 

プリプレグ製造においては強化繊維に樹脂を安定的に含浸させる機構が必須

既述の通り、プリプレグは本来手作業で行う必要のあるマトリックス樹脂の強化繊維への含浸を、
予め行うことで工程を簡略化させたことがポイントになります。

よって技術的ポイントはずばり、

「マトリックス樹脂の安定的な含浸」

となります。

 

この樹脂含浸法には細かいものも含めていくつかありますが、
代表的なものの一つが今回ご紹介する”ダブルベルトプレス”です。

 

強化繊維に樹脂を含浸させる際、金属製のベルトを使用する

ダブルベルトのイメージは以下のHPのFigure 1の画像を見ていただくとわかりやすいかもしれません。

 

※参考情報

vibration-assisted continuous production of composite sheets on double belt presses

画像中には上下にローラを備えた設備が映っています。

当該設備の画像中左側から開繊(繊維束を広げること)した強化繊維と、
目付を一定にさせるため熱硬化や熱可塑のフィルムを強化繊維を上下ローラが合わさる部分に同時挿入し、
加熱されたローラで押し付けながら同右側に材料を送りつつ、強化繊維に樹脂を含浸させます。

含浸させた後は冷却し、シート状態のプリプレグとしてロール形態で回収する連続工程となります。

このローラと材料の間に金属製(金属以外の場合もあります)のベルトを用いるのがダブルベルトプレスです。

ダブルベルトプレスに限らずプリプレグを製作するいわゆるプリプレグマシンは、
強化繊維の開繊機構、複数水準での加熱や加圧条件の設定、
ローラの圧力や金属ベルトのテンションや左右位置変動管理など、
細かい制御や特殊な機構が必要な設備といえます。

ダブルベルトプレスのプリプレグマシンをモジュールとして販売する企業もあるようです。
概要は以下の動画で見ることができます。

 

 

ローラを振動させることでマトリックス樹脂の含浸を促進させる

ダブルベルトプレスによるプリプレグ製造について、
新しい機構が導入され、それが含浸に好影響を与えることが分かってきたとのこと。

それが”ローラの振動”です。

以下の情報を参考に要点を抜粋して述べます。
前出の参考情報と関連しています。

 

※参考情報

Double-belt press process supports natural fiber impregnation in VIBRIO project

 

振動機構のコンセプト

大きく分けて2つあるようです。

一つはローラの回転支持部付近に加振モータを取り付け、
最大84Hzで振動させられるタイプ。
これをConcept 1と呼んでいます。

もう一つのConcept 2は振動振幅を30から140μmで制御でき、
周波数を最大244Hzまで上げられるタイプで、
加振機構はローラの中に装着されるタイプとのこと。

どちらもローラの幅は350mmです。

 

含浸状態評価に用いた強化繊維とマトリックス樹脂

ダブルベルトプレスによるマトリックス樹脂含浸に対し、
ローラの振動がどのような影響を与えるかを確認しています。

その対象になっているのは、以下の材料です。

  • 強化繊維:平織ガラス繊維
  • マトリックス樹脂:PP

織物の強化繊維と熱可塑性樹脂を組み合わせたFRPであるため、
当該構成材料を示す名称として浸透しつつあるorganosheetという単語が参考情報中でも使われています。

 

加圧は5つの領域に分類

含浸時の加圧についてLow Pressure Profile、High Pressure Profileという、
2つの条件で設定したとのこと。

5つの領域について、それぞれ以下の設定にしたと書かれています。

  • Low Pressure Profile: 2 – 4 – 0.5 – 6 – 2 [bar]
  • High Pressure Profile: 2 – 4 – 6 – 6 – 2 [bar]

個人的には最大圧力値は極端に高いわけではないと感じています。

 

 

加振なしの条件も含め、含浸させたGFRPの曲げ強度を評価

各条件で含浸させたGFRPについて曲げ強度をみています。
これにより含浸状態を数値で評価する意図のようです。

参考情報中のFigure 3をみると、縦軸に曲げ強度が、
横軸に加振設定を示しています。

加振していない条件をReferenceとし、
周波数を上げたもの、上記のConcept違い、Pressure Profile違いでそれぞれ比較しています。

結果だけを見ると、Concept 2による加振条件下で含浸させたGFRPは他と比べて明らかに曲げ強度が上がっていることが分かります。

より具体的には振動が無い条件で含浸させたGFRPの曲げ強度の平均値が145MPaであるのに対し、
Concept 2では最大で同484MPaを示したと書かれています。

 

また、Pressure ProfileでいえばHigh Pressure ProfileのほうがLow Pressure Profileよりも当該値が高い傾向にあります。

周波数については高いほうが引張強度が高いようにも見えますが、
エラーバーとして示されている(恐らく)標準偏差を考慮すれば、
有意差はないだろうと個人的には考えています。

Figure 3の横軸に2、4、6 barという記述がありますが、
こちらの示す数値の意味をわかっていません。

本文中には”振動圧力である”と書かれていますが、
現段階では理解できるようで理解できていないというのが正直なところです。
(参考情報中の記述例:at 6 bar vibration pressure and with a high-pressure profile)

もしかすると、Pressure Profileで記述の有った1番目、2番目、4番目のローラの周波数を、
それぞれ異なる条件として設定したということを意味しているのかもしれません。
(Low/High Pressure Profileに関わらず、1番目、2番目、4番目のローラの押し付け圧力は2、4、6 barで一定であるため)

曲げ強度を示すグラフは、右に行くほど高周波になる趣旨の記載が認められます。

 

いずれにしても振動という現象が含浸に影響を与えたことが定量的に示されたことは興味深いといえます。

 

 

次に今回の内容から考察したいことについて述べます。

 

 

曲げ強度の評価は単層材料(1 Ply)で行われている可能性が高い

含浸状態を曲げ強度で評価するというのは、
ある意味妥当と感じました。

含浸状態が不十分であればマトリックス樹脂から強化繊維への荷重伝達が不足し、
強度特性が落ちることは想像に難くないからです。

曲げのように複合モードの評価は設計には使えませんが、
相対比較を行うにあたっては”評価試験片の寸法が同一”という”前提条件”が満たされていれば妥当な評価といえます。

 

※関連連載

「 機械設計 」連載 第四回 「 曲げ試験 」は意味がない?!

 

ただここで疑問に思ったのが、

「プリプレグの含浸状態を確認するためには積層体での評価は難しいのではないか」

ということです。

 

面外剛性の極端に低い材料の場合、面内せん断で強度特性を評価するのが一案

評価対象となったGFRPのマトリックス樹脂は熱可塑性樹脂であるPPのため、
プリプレグ化した直後の材料は既に弾性体としてのFRP特性を有しています。

だからこそいきなり曲げ試験を行うということも可能になっています。

一方でプリプレグ化するのはどちらかといえば薄物のシート状態であることが多く、
今回も平織のガラス一枚分の厚みのプリプレグを作ったと考えるのが妥当だと考えます。

仮に積層、成型して試験片(またはその元となる平板)を作ると、
ダブルベルトによる含浸とは別の加熱、加圧工程が加わることになり、
純粋なプリプレグ製造による違いは評価できません。

つまり参考情報中で示された結果は単層(1 Ply)での評価と推測できます。

含浸状態の比較ということだけを考えれば気にすることはないかもしれませんが、
圧縮系の曲げ試験を行うには単層のFRPでは面外変形に対する剛性が低すぎるため、
試験結果が大きくばらつくリスクがあります。

一つの考えとして薄い平板で曲げ試験をやるのではなく面内せん断で評価する、
というものがあります。

本来平織のFRPは経糸と横糸が絡み合うノッキングの影響を低減するためV-notchでの評価が望ましいですがこちらも圧縮系の試験になるため、
経糸と横糸の配向に対して45°方向に引張るという[+45/-45]の要領で面内せん断評価をすることも選択肢になります。

本手法であれば面外変形がないため、
より安定した評価が可能になると考えます。

 

 

加振が設備に与える影響を注視する

長い目線で考えたときの懸念を述べます。

ずばり、

「加振による疲労」

です。

金属は基本的には脆性材料に近いため、
振動による繰り返し疲労によってクラックなどが生じると、
それが進展して最終的には破損する可能性もあります。

加振しているローラは材料に対する加圧を行っているため、
自身にも相応の荷重がかかっている状態であり、
構造部材として比較的厳しい条件下にあるといえるでしょう。

加振させることはローラという構造物自体というよりも、
回転支持部などの応力が高くなりやすいところ、
または加振部に電力を供給する配線など強度などの機械特性が低い部分が破損するリスクを感じます。

力と振動が組み合わさることによる構造体の損傷リスクはきちんと評価の上、
量産開始後は定期的な検査が必要になると考えます。

 

 

最後に

FRP材料が相応の特性を発現するには、
強化繊維の配向や目付管理に加え、
適切なマトリックスの含浸が大変重要です。

プリプレグはこの含浸工程を材料メーカ側で完了させて川下の工程数を削減している意味で、
一種の発明品であると私は感じています。

ダブルベルトプレスでローラを振動させることで含浸を促進させる、
というのはなかなか面白い取り組みですが、
既にプリプレガーの中では常識的な取り組みなのかもしれません。

 

新たなプリプレガーも少しずつ増えていると感じます。

各社が技術を競い合うことで、
材料自身が特性ばらつきを持つことで有名なプリプレグの、
更なる品質安定につながることを期待したいと思います。

 

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