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プリプレグのタック性評価規格 ASTM D8336 と試験治具

2022-07-11

試験治具の設計、製造、販売を行う Wyoming Test Fixtures が、
FRPの中間基材であるプリプレグ(繊維に樹脂を含浸させたシート材)について、
タック性評価向け試験治具を発表しました。

以下のページで概要を見ることができます。

プリプレグタック試験用治具(ASTM D8336)

この評価の概要について述べたいと思います。

 

 

 

プリプレグのタック性評価の必要性

プリプレグというのは、特定の形態を有するFRP材料のことをいいます。

熱硬化性樹脂であれば未硬化の樹脂を、
熱可塑性であればそれを一旦溶融させたうえで、
それぞれ強化繊維に含浸させたシート材料です。

主にはロールに巻き付けられたシート材で、
外観としてはトイレットペーパーを思い浮かべると近いかもしれません。

実際のプリプレグ材料は炭素繊維やガラス繊維などの高剛性繊維がある程度の目付で入っているため、
トイレットペーパーに比べると厚く、硬いイメージとなります。

目付については以下のコラムをご覧ください。

はじめてのFRP 材料仕様を示す 目付 、 Vf そして RC

そして、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、
上記の通り樹脂は未硬化の状態にあります。

硬化反応があまり進んでいない熱硬化性樹脂は、
ベタベタとする、いわゆる粘着性を有しています。

この粘着性の事を「タック性」といいます。

 

タック性は積層作業を手助けする

タック性は、プリプレグの状態から必要な形状にカットし、
それを積み重ねるという積層工程において大変重要な役割を果たします。

材料自身にタック性があれば、
この積層時に材料同士、または金型にくっつくことで、
仮固定ができるからです。

平面積層の場合はそれほどそのメリットを感じないかもしれません。

しかし、三次元形状を有するようなものへの積層においては、
タック性が無いと材料が剥がれ落ちてしまうため作業性が悪くなります。

 

因みに既に分子の重合が終わっている熱可塑性樹脂をマトリックスとしたプリプレグは、
このタック性が無いため、積層時に”半田ごて”で点付けするといった仮止め作業が必須となります。

熱可塑性樹脂をマトリックスとしたFRPは、
このように積層工程が難しいということも、
長繊維や連続繊維の熱可塑性FRPがあまり一般に浸透していない一因といえます。

 

逆にいうと熱硬化性FRPのタック性評価は、
この積層時のタックがどのくらいあるのか、
という定量的指標を得るという観点から重要といえます。

 

自動積層ではタック性が工程安定化に向けたキーパラメータとなる

特に人の手ではなくロボットなどで積層を行う自動積層では、
このタック性が安定した工程実現に不可欠です。

時間、押し付け圧力、温度といったパラメータによって、
材料のタック力がどう変動するのかがわからないと、
自動積層の工程を組み立てられないからです。

自動積層は様々なタイプがあります。
代表的なものについては、過去にも取り上げたことがあります。

MTorres のFRPの 自動積層

 

 

 

熱硬化性FRPのタック性は冷凍保存していても刻々と変化する

硬化剤や硬化促進剤が添加された熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂としたプリプレグは、
冷凍保存が基本です。

これは、低温にして化学反応進行を抑制することが目的になります。

しかし産業向け冷凍庫で多い-20℃程度では、
徐々に硬化反応が進行します。

分子運動の原理原則を考えれば、
-273.15℃(絶対0℃)まで下げないと理屈の上では反応が止まりません。

より正確には量子論の不確定性原理、
つまり運動量と位置を同時に確定した状態は取れないという理論上では、
絶対0℃でも分子運動は止まらないということになるようです。

いずれにしても熱可塑性樹脂の反応は冷凍保存中でも進行するため、
材料の多くには Shelf Life という使用期限が設けられています。

上記の冷凍保管中の硬化反応進行は、
加熱成形工程中の樹脂の流れに加え、
タック性の低下にもつながります。

タック性評価というのは、材料の変質を捉えるという観点でも重要といえます。

この辺りは以下の記事でも触れられています。

Composite prepreg tack testing

 

 

 

プリプレグタック性評価治具の概要

結論から先に言うと、この治具はよく考えられていると感じました。

素材は17-4PHで複数のベアリングローラと押し付け力を制御するスプリングの付いた本体、
引張試験機側に取り付けるジョイントという2つの部品から構成されています。

冒頭紹介した Wyoming Test Fixtures のHPによると、
このローラの直径は25mmで、試験治具正面から見て前側と後ろ側に1対、
すなわち4本のローラから構成されています。

このローラの間に材料を通して挟み込み、
後ろ側から出てきた材料を引張試験機でつかんで垂直上方向に引張ることで、
材料を剥離させるという力学的負荷を与えてタック性を定量数値として評価します。

剥離されるイメージは、冒頭紹介したHPの図2、及び図4を見るとわかりやすいと思います。

 

ローラによる押し付け力はジャッキスクリューの回転数で管理

前側、後ろ側のローラはそれぞれ材料の位置ずれを防ぐ、材料同士を押し付けるという役割があり、
後者の押し付け力はローラ側面にあるばねが装着された部分のジャッキスクリューの回転数で決まるとのこと。

このジャッキスクリューによる押し付け力がいくつになるのかについては、
同冒頭の Wyoming Test Fixtures のHPの図3にある、
L字型の金属製ブラケットを使って計測します。

ブラケットを治具本体に取り付けた上で、
本ブラケットを引張試験機と保持治具を経由して連結させることで荷重を計測できるようにします。

この状態でジャッキスクリューの締め付けを行うと、
ブラケットは引張試験機のつかみ部に対して引張られるため、
締め付け時の回転数と引張荷重から実際にローラによって付加される圧縮荷重を算出する、
ということが可能になるようです。

このような評価においては、
ブラケット自体が十分な剛性を有し、変形しないということが前提となります。

 

 

 

計測するタック性はプリプレグ間の Mode I と 金属/プリプレグ間の Mode II

プリプレグの上にプリプレグを積層したときのタック性である「プリプレグ間の粘着力」を計測する Mode Iと、
プリプレグを金型やマンドレルに積層する際の「プリプレグ/金属間の粘着力」を計測する Mode II が定義されています。

破壊靭性等の評価に用いる Mode I、Mode IIとは意味が違うことにご注意ください。

どちらも測定データとしては重要です。

 

一番最初にプリプレグを積層するのは、
量産が前提であれば基本的には金属(金型)表面ですし、
2層目以降はプリプレグの上にプリプレグを積層することになるからです。

尚、室温硬化の熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂としたFRPで、
かつ試作である場合は、樹脂や木型の可能性もあります。

 

 

 

得られるデータは荷重/変位線図

今回の評価で得られるのは、引張荷重と変位の線図になります。

Modeの違いを述べた時に参照した図2を見ると、
Protective Film、つまりプリプレグ材料が不必要に他の材料と粘着しない様に挟んであるフィルム(離型台紙含む)が最初にあり、
その後プリプレグ間、もしくはプリプレグ/金属を剥離させるという状態が示されています。

Protective Filmとプリプレグ間の粘着性は殆ど無いのが一般的であるため、
この部分の剥離で得られる引張荷重は、
タック性とは無関係の抗力、例えば材料の変形、治具の抵抗等になります。

つまり純粋なタック性に対する荷重は、
Protective Film/プリプレグ間の剥離評価で得られた荷重Aを、
プリプレグ間やプリプレグ/金属間で得られた荷重Bから差し引く事によって得られます。

このような手順も含め、よく考えられている印象です。

 

 

 

試験規格は ASTM D8336-21 としてリリース済み

今回の試験規格は、ASTM D8336-21 としてリリースされ、
以下のHPにて購入も可能です。

ASTM D8336-21
Standard Test Method for Characterizing Tack of Prepregs Using a Continuous Application-and-Peel Procedure

2021年5月に発行されたようです。

正式にリリースされている上、
ASTMなのでかなり詳細な手順まで記載されていると考えられます。

 

 

 

タック性評価の活用方法

今回紹介したタック性評価を、実際の現場でどのように使うのか、
ということについて考えてみたいと思います。

一つ可能性として考えられるのが、

「材料の品質保証評価の一指標として材料規格(Material Spec)に記載」

というものです。

つまり、タックによる剥離力が○○N/mm以上あること、といった要件を、
ASTM D8336を引用の上で規定するというものです。

このようにすることで、FT-IRや動的粘弾性とはまた異なる観点から、
マトリックス樹脂の変質を捉えられる可能性があります。

上記の通りマトリックス樹脂の硬化や劣化が進行することで、
タック性が低下するためです。

材料規格で規定できれば、
受け入れ時に品質保証的に問題ないかの判断もできるうえ、
場合によっては材料の保管寿命が過ぎても使いたい、
というケースにおける使用可否の判断にも使えるかもしれません。

 

 

今日は新しく規格化されたプリプレグのタック性評価というものについてご紹介しました。

 

ご参考になれば幸いです。

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