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2023年 FRP業界最新ニュース総集編

2024-01-08

2023年 FRP業界最新ニュース総集編という題目にて、昨年発行したメルマガを抜粋して概要を述べてみたいと思います。

 

以下の項目名が該当するページへのリンクとなっています。

 

 

宇宙産業向け天然素材由来高Tg熱硬化性樹脂のFRPへの適用

天然素材であるphloroglucinol(フロログルシノール)を骨格に採用することで、
ビスフェノールAと同等の耐熱性を発現する主剤の化学構造を目指したのがポイントです。

DMAでのTgは210℃を示し、室温での引張弾性率は3 GPaを超えています。

FRPとしてはHexForce G0947 3Kを強化繊維として-100から+100℃の冷熱サイクル試験、
並びにoutgasに関する評価をECSS-Q-ST-70-02Cに準拠して実施しています。

リサイクルが難しいというイメージの強い熱硬化性樹脂について、
天然素材を用いるという切り口で今後の展開を考える一例といえるでしょう。

また、アプリケーションが宇宙産業のため、
一般的な構造部材とは異なる評価指標が課せられています。

 

 

FRP成形における離型のポイントと表面自由エネルギー

Contact angle calculation formula

FRPを最終的な形状物にするためには、離型という観点が大変重要です。

感覚論で語られがちな離型を、表面自由エネルギーの考え方を取り入れながら考察しました。
物質の状態において「固体と気体の間」で界面を形成しやすいほど、
接触角が大きくなるという挙動はご存じなかった方がいるかもしれません。

離型においてはその前処理として下地を均一にすること、
その上で極薄膜を均一に生成させることが重要であることも解説しています。

Siを含まない離型剤が増えている動向の背景にあるのは、
離型膜を生成する際に加熱が不要であること、
残留する油分が少ないことである、という点について知っておいて損はないと思います。

 

 

硬化中のFRP強化繊維の変形を計測するマルチコア光ファイバセンサ

マルチコア光ファイバを基本としたセンシングでFRPの強化繊維の変形を計測

FRPの成形加工工程で生じる硬化反応を継続的にモニタリングする技術です。

硬化中のFRPをモニタリングする従来方法も複数あります。

シミュレーションでは細かい材料データが必要で、それらを取得するのは言うほど簡単ではなく、
X線CTでは見える範囲に限界があり、そもそも一般的な設備ではありません。
光ファイバだと硬化中の低粘度状態において光ファイバ自体が動いてしまう、
といったように、それぞれ課題があったといえます。

ここで紹介した技術は光ファイバを基本としていますが、
当該ファイバ自体を予めFRPと同一材料で被覆し、
薄層材料として一体化したものになります。

一体化できれば、光ファイバの従来課題である光ファイバのFRP材料からの離脱が防げるというロジックです。

「垂直断面は、変形後も部材軸に対して垂直」という仮定をするBernoulli-Euler beam theory を適用し、
変形による変位を定量計測できるとのことです。

FRPの硬化中事象を捉えることができた、大変興味深い技術と言えます。

 

 

FRPのマトリックス樹脂に用いられる金属触媒

FRPの材料という観点でいうと、一番知見が不足している可能性のあるテーマを選びました。

GFRPの代表的なマトリックス樹脂である不飽和ポリエステルの硬化促進剤に使用されるナフテン酸コバルトをはじめ、金属触媒は化学反応に欠かせないものです。

ただコバルト含有成分を減らしたいという時代の流れもあり、
新しい金属種触媒が出てきたというのが今回ご紹介する動機です。

例えば、カリウム原子を構造内に有する化合物は不飽和ポリエステルの着色抑制の機能があり、
同亜鉛系であれば反応速度抑制による重合反応(硬化反応)均一化に効果があります。

同様にカルシウム系化合物も反応遅延剤として機能するものがあるようです。
このあたりはgel-time driftという事象を一事例として、
その意義を紹介しています。

 

 

Grid形状のFRPを用いたデータセンター向け建築材

データセンターの壁材にはGrit形状のFRPが用いられることがある

情報化社会を支えるデータセンターの建築材にFRPが使われているということをご紹介しました。

建築材というのは具体的には外層がコンクリートの壁材ですが、
中間層に有機物のスチレンを断熱と水分の遮断目的で入れ、
コンクリートとスチレンの”層間”をグリット形状のCFRPで補強するという興味深い設計となっています。

CFRPによって層間強度が向上して複数層で形成される壁材が、
より均一化され、比強度、比剛性、断熱性が高まるのが技術的な強みです。

比強度、比剛性が高まれば必要な壁材の板厚が減るため、
より広い空間が確保できます。これこそデータセンターとして求められる機能性です。
できるだけ空間体積を高めることで、限られたスペースにサーバーを多く設置することができます。

情報化社会を支える建築材の補助として、
FRPが本格的に適用され始めたのかもしれません。

 

 

SAFを用いたUltraFanの初回エンジン試験を実施

昨今の環境に関する関心の高まりを受け、
航空機業界でもその取り組みが本格化しています。

Rolls RoyceがSAF(Sustainable Aviation Fuel)を用いたUltra Fanという新型エンジン試験を行った、というのが趣旨になります。

Ultra Fanはコンセプトの公開が2014年と比較的古いのですが、
まだ市場運用は始まっていません。

Pratt & WhitneyやGEAEといった大手航空機エンジンメーカが先行する中、
FRP製のFan(エンジンの一番前にある回転翼)をまだ採用できていないRolls Royceにとって、
FRP製のFanを搭載したエンジンを上市させることは悲願なのではないかと想像します。

今回は廃油由来の100%SAFのような従来と異なる燃料で不具合なく運転できるかを確認する試験だったと思います。

詳細結果について触れられていませんが、今後に向けた可能性と課題が見えたかもしれません。

いずれにしても今後の航空機では、
SAFで運用できるのは前提となっていくと考えます。

 

 

CF/PA12のCFRTP製パイプの天然ガスや二酸化炭素の海中輸送向けたDNV認証取得

 

水素社会と脱炭素社会を実現するには、原料などを輸送するインフラが不可欠です。

ご紹介したのは水素原料の天然ガスや排出される二酸化炭素の海中輸送を目的に、
炭素繊維とPA12を組み合わせたCFRTP製のパイプが認証を獲得したという話になります。

H2M Eemshavenという欧州複数国の共同での取り組みが背景にあり、
CF/PA12のパイプはその土台となる素材と考えます。

FRPは耐腐食性が極めて高く、長い時間にわたってインフラを支える素材となり得ます。

まずは欧州から、その後は他の国でも適用が進んでいくのかもしれません。

 

 

複合材料向け構造/マイクロメカニックモデリング

主に1mm以上のスケールでモデリングする構造モデリングと、
それより小さなオーダーをマイクロメカニックモデリングを分けることで、
高速化と精度向上を実現したというのが主たる内容になります。

一般的な有限要素法で行われるような接点間距離を短くする、
または節点間の変位を二次関数で表現する高次化ではないアプローチではなく、
上記のモデリングを分けるというやり方だけで、
高速化や正確性向上を実現した理由が、
私はあまりわかっていません。

技術的な要点詳細は公開されていないため不明点も多いのですが、
スケールの異なるモデリングにおいてその境界線が薄くなった、
ということがFRPのような複合材料の評価ではポイントになると思います。

 

 

潜水艇に用いられたFRPの技術的課題の考察

タイタニック深海旅行中に起こった小型深海潜水艇の爆縮事故を題材に、
技術的観点から議論を展開しました。

この潜水艇にはFRPが多く使われていたため特殊で、
さらに情報が少なかったこともありメディアでは誤解を招くような報道やコメンテーターの話もあったため、
同様の事故が起こらないこと願い、技術的観点のみに注力して私見を述べました。

耐圧殻に用いられたFRPが水圧で破壊したのは、
実際の材料特性を考慮すると一般的に言われる圧縮ではなく層間せん断である可能性が高いこと、
疲労限の無いFRPが示す特徴的な疲労特性を理解しておらず、
LCFとHCFの違いやカイザー効果を知らずに潜水ごとに破壊が進展した可能性があることを言及しました。

技術的なことは常に感情とは切り離された冷静な視点から考えるべき、
という私の信念で書いた文章でもありました。

 

 

高効率モータと期待される CFRP wrapped motor

最近注目を集める電動自動車をはじめ、
エレベータ、パソコン、家電、エスカレータ、ドローン等、
モータを動力としたものは世の中に多くあります。

モータのロータ外側をCFRPで巻き付け、
遠心力によってロータが外周方向に移動しないようにする、
というのが紹介した技術です。

CFRPは金属と比較すれば絶縁材となるため過電流等による熱損失を回避でき、
また線膨張係数が極めて小さいためロータが発熱しても、
外側への変形が抑えられることからモータ内でロータとステータの接触を防げる、
という強みがあるためモータ自体の小型化や最大回転数の向上等、
モータの付加価値向上を可能にすることをご紹介しました。

これは特定方向に強度が欲しいという観点で、
FRPの異方性をうまく活用したといえるでしょう。

またFRPの破壊形態がせん断から始まること、
評価指標として破壊靭性とクリープ特性、さらには疲労特性が不可欠である、
ということにも触れました。

モータ内部の見えないところでFRPが今後多く使われていくかもしれません。

 

 

Type VのFRP高圧タンクの登場

ライナーが無く、そして口金などの一部を除き、構造部材の大部分がFRPとなったType Vという、
新しいカテゴリーの高圧タンクが遂に誕生したことをご紹介しました。

最大の狙いは軽量化で、狙うアプリケーションは航空宇宙です。
軽量化のニーズがけた違いに高い業界であると考えれば当然とも言えます。

航空でいえば水素燃料で飛行するUAM(Urban Air Mobility)、
宇宙でいえば月面着陸機の燃料タンクが想定されています。

紹介した Infinite Compositesでは、
成形方法に設備投資額が大きくなるAFP(ファイバープレースメント)ではなく、
トウプレグ等を使ったFW(フィラメントワインディング)が主というのは興味深かったです。
宇宙空間での製造を念頭に3D printerを重視するというのも時代の変化を感じます。

マトリックス樹脂を Infinite Composites が自分たちでカスタマイズして粘度や硬化挙動を最適化し、
使いやすいものを採用するという指針に共感できました。

 

 

2023年はFRPの適用がより広い業界に波及した年でもありました。

そして、業界が広がるほど重要になるのが技術の基礎だと考えます。

技術の一つひとつを丁寧に積み重ねて基礎を固め、
その上で様々な用途に活用して新たな知見を獲得する。

結局のところ、このような泥臭く、地道な取り組みが技術の本質なのではないかと考えます。

 

本年も引き続き、FRPに関する様々な内容をお伝えしていきます。

 

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