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繊維の偏光特性を活用した高精度画像検査装置

2022-12-26

Schmidt & Heinzmann という企業が、繊維の偏光特性を活用した高精度画像検査装置でAVK Innovation Awardを受賞しました。

以下のようなプレスリリースも出されています。

Camera system of Schmidt & Heinzmann wins AVK Innovation Award

Schmidt & Heinzmannは偏光特性を応用した光学検査機器をリリースした

 

Schmidt & Heinzmann とは

基本的には設備メーカーのようです。

概要はこちらのページで見ることができます。

FRPを含む複合材料向けの装置が多く、例えばガラスロービングの裁断とランダム方向への飛散と積層を行う ROVING CUTTER が一例です。
その事業と並列に工場や治具設計などの事業も展開しているようです。

会社案内を見るとSMCの製造には自信があるようで、
その領域ではトップであるという表現をしています。

 

主としては複合材料のうちFRPの強化繊維の加工に関する設備技術が柱となっている印象です。
SMCを作るためには繊維を規定長さに裁断の上、樹脂に含浸させるということを考えれば上記の技術は重要だと感じます。

 

尚、SMCについては過去にも何度か取り上げています。

・関連コラム

根強いニーズのあるSMC/BMCと今後の課題

Mercedes SL Roadster のラゲージドアへの SMC 採用

 

 

検査の狙い概要と従来の検査機器の課題

今回リリースされた新しい検査設備の話に行く前に、
そもそも検査設備というのはどのようなものを想定しているのか、
そしてどのような課題があるのかについて述べたいと思います。

ここでいう検査機器というのは、主に光学技術を用いた非接触検査技術を用いたものを指すとします。

 

検査機器を用いた検査の目的は主に3点を調べることにあります。

1. カットされた繊維の輪郭形状

2. 繊維配向

3. 異物の有無

 

Schmidt & Heinzmannが今回リリースした検査機器で対象としているのは、
樹脂を含浸する”前”の強化繊維となることも合わせてご理解ください。

 

それぞれについて課題を見てみたいと思います。

 

1. カットされた繊維の輪郭形状

FRPにする場合、基本的に強化繊維はシート形状になります。

このシート形状の状態から複数形状で裁断し、
それを積層することで任意の三次元形状に成形するのがFRP成形の基本です。

様々な形状のシートを用意しないと、積層によって重ね合わせた際に欲しい三次元形状ができないことを考えればイメージできるかもしれません。

 

複数の形状に裁断する際、その形状はカットパターンと呼ばれます。

 

このカットパターンに対し、できる限り精度よく加工し、その形状の妥当性を判断するには精度の良い「目」が必要というわけです。

 

既存の検査機器の計測精度は±4mm程度(Schmidt & Heinzmannの情報による)であり、
より高精度のものが必要と考えられています。

大型のFRP成形体を想定している場合はともかく小型の同成形体の場合、
カットパターンに対する実際の積層材料精度は大変重要となります。

 

2. 繊維配向

FRPというのは異方性のある材料です。

この異方性は強化繊維の配向で支配されることから、
実際に裁断をする際、繊維の配向がどうなっているのかについて把握することが重要です。

しかし、一部の特殊な検査機器を除き、多くの既存検査機器では繊維配向を捉えることは難しいのが現状です。

 

3. 異物の有無

FRPは材料を積層することによってつくるため、
その材料自体に異物が入っているとそれはそのまま層間に存在する欠陥となります。

層間に存在する欠陥は層間剝離を発生させる破壊の起点となる可能性が高いため、
絶対に中に入れないという厳重警戒の姿勢が必要です。

FRPの裁断や積層が一般的な作業空間と仕切られることが多いのはこのためです。

 

異物検査についてはAIの進化による画像認識能力の高まりによって大きく進展しつつありますが、
検査精度とスピードという観点で更なる改善が求められています。

今回Schmidt & Heinzmannがリリースした検査機器に関し、
異物の検知は触れられていないため検知が難しい、
もしくは対象としていないのかもしれません。

ただし、光学技術による非接触検査であれば異物の検知というのは不可避であることは知っておいて損はないと思います。

 

Schmidt & Heinzmannのプレスリリースでは、
既存の検査機器である光照射とレーザーのタイプを示しており、
前者は大きな被検査体の場合に全体を照らすのは難しいこと、
レーザーだと一般的にはシート形態の材料の端部のみを計測することが想定しているため、
シートの端部が直線でなく振れがあると計測が困難になることに加え、
繊維配向や輪郭形状を計測するのには向いていないと述べられています。

実際にはそのような課題を踏まえて提案されている検査技術もあるため、
なかなか上記のように言いきれない部分はありますが主張として言いたいことは理解できるかと思います。

 

 

繊維表面で生じる偏光を検査技術に応用

上記のような課題を踏まえ、Schmidt & Heinzmannは繊維の「偏光」に着眼した検査機器を開発したとのこと。

詳細は述べられていませんが照射光(恐らく偏光)を変化させながら、
偏光特性を取得することで偏光特性を示す箇所とそうでない個所をソフトウェアによる解析で分離し、
表面の凹凸や形状を±0.38mmで計測できるとのこと。

この技術は詳細が述べられていないため、
私自身もどのようなものなのかはわかっていません。

推測ではありますが、偏光解析(エリプソメトリー)を行っているのかもしれません。

偏光解析は特定方向に振動する光、いわゆる偏光を照射し、
その反射光と照射した偏光との違いから膜厚の厚さや屈折率を調べる技術です。

この変化は材料の光学特性や膜厚に依存することから、
強化繊維の有無、そして方向というものも反射光の変化率(例:楕円偏光)によって、
強化繊維の配向を含む位置特定が可能になると考えています。

これに似たものとして偏光解析による表面粗さ計もあります。

 

少なくとも偏光解析は高精度であるため、上記のような計測精度が達成できたのかと思います。

 

プレスリリースではこの精度によってシート形状の材料の本当の端付近までカットパターンを設定できることで、
材料の廃棄量も減らせることから環境にも優しいという主張もしています。

加えてニアネットでのカットパターン実現により、
FRPとしての成形後のトリミング(成形後に過剰な材料としてはみ出たものを加工除去すること)も減らせるのではないかとのこと。

こちらも言うほど単純な話ではなく、
むしろ端部まで繊維と樹脂が充填されるためには多少の繊維と樹脂のはみだしが必要です。

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

高精度で加工ができるための「眼」が新たに提案されたというのは大きな一歩だと感じます。

形を作ることだけに注力するのではなく、
その妥当性を常に検査技術で監視するというぶれない姿勢が、
本当の意味での量産品質実現には不可欠です。

FRPに関連する新たな検査技術の一つとしてご参考になれば幸いです。

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