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ガラス繊維強化/フェノール樹脂製の耐熱性と難燃性を有するハニカム

2022-12-12

2022年に The Gill Corporation が高耐熱のガラス繊維強化/フェノール樹脂製のハニカムをリリースしました。

以下のサイトでリリース記事を見ることができます。

The Gill Corporation Announces New Gillcore(R) HF Fiberglass Honeycomb Core

このリリース記事も参考に、ハニカムというものについてご紹介したいと思います。

ハニカムはFRPと組み合わせてハニカムサンドイッチ構造として用いられることが多い。

ハニカムはFRPと組み合わせた軽量高強度構造でコアを担う鉄板材料

最初にハニカムというものについて簡単に触れたいと思います。

Understanding Honeycomb Panel and Honeycomb Composite Structuresという動画はその特徴がうまく紹介されています。

ハニカムはその名の通りハチの巣構造をしています。
この形状はハチの巣の穴に対して「平行な力」に対しては極めて”弱い”一方、
当該穴に対する「垂直方向の力」には高い強度と剛性を発揮します。

後述しますが、面内せん断特性も荷重負荷方向によって大きく異なる数値を示します。

FRP以上に異方性の強い材料ともいえるでしょう。

そして上記動画で紹介されていますが、穴に対する垂直方向に対しての比強度が大変高く、
加工しやすいという特徴があるのも忘れてはいけません。

ただし、ハニカムはそれ自体だけで使うわけではなく、ハニカムの上下を薄い材料で挟む

「ハニカムサンドイッチ構造」

という形態で使用されるのが一般的です。

 

上下で挟み込む薄い材料である”スキン材”をFRP、特に炭素繊維強化プラスチックであるCFRPにしたものは、航空宇宙の業界でよく使われています。

スキン材に対し、真中で挟み込まれる材料の事を”コア材”といいます。

ハニカムサンドイッチ構造の一例は、以下の動画をご参照ください。
動画中のハニカムは、代表的な素材であるアルミニウムです。

ハニカムについては、過去にも以下のようなコラムで取り上げたことがあります。

 

・関連コラム

PP Honeycomb のライセンス製造を行う ThermHex

熱可塑性樹脂の Honeycomb からみる 企業戦略

 

Gillcore(R) HF5035 Honeycombは航空機向けの耐熱性と難燃性に優れる

冒頭で紹介したGillcore(R) HF5035 Honeycombについてみていきたいと思います。

基本特性は以下のページで見ることができます。

Gillcore(R) HF5035 Honeycomb product data sheet

上記でも述べられていますが、この材料の特徴は耐熱性と難燃性です。
ベースとなる強化繊維がガラス繊維でフェノール樹脂との組み合わせですので、耐熱性は高めです。

尚、強化繊維であるガラス繊維はEガラスの織物です。

また、マトリックス樹脂がフェノール樹脂であるため、
177℃程度の耐熱要件を満たせるとのこと。

フェノール樹脂最大の特徴である難燃性は言うまでもありません。
フェノール樹脂はそれ自体の限界酸素指数(LOI:Limited Oxygen Index)で29%、
UL94の規格でV-1を実現する高い難燃性能を有しています。

用途が航空機の内装材やエンジンのナセル(エンジン回りのケース)向けの用途であれば難燃性は必須です。

 

・関連コラム/参照情報

難燃性を有する熱硬化性プリプレグ GMS EP-540(UL94について)

熱硬化性樹脂の難燃化

 

寸法と密度

引張るとハニカムの穴が閉じる長手方向(Ribbon dimensionと呼ぶようです)は代表値1219mmで最大1651mm、その垂直方向は代表値2438mmから3658mm、厚み584.2mm、六角穴一辺は0.375mmです。

軽量材料の指標である密度は72.08kg/m3(0.07208g/cm3)です。

 

基本物性

引張、圧縮、せん断について強度と弾性率が示されています。

それぞれの試験方法については、それぞれ動画を見るとイメージしやすいかと思います。

・ASTM C297:引張

厚み方向への引張試験の事をFlatwiseといいます。
以下の動画では、実際に引張試験を行う様子が紹介されています。

HF5035の強度特性について、
ドライ環境だと、低温環境から120℃くらいまで概ね7.5から8.6MPa程度の数値を示しています。
177℃になると6.2MPa程度に低下することから高温環境だと2割程度の引張特性低下は不可避です。

またWet環境(70±5℃、湿度環境95±5%RHで750時間暴露)の特性は、
概ね2割から5割くらい低下しており吸湿による特性低下が起こっています。

 

・ASTM C365:圧縮

ハニカムサンドイッチ構造は床材にもよく用いられることを考えれば、
圧縮は大変重要な特性になると思います。

こちらは実際の試験の動画ではありませんが、
ポイントが紹介されています。

HF5035はドライの場合、環境温度の上昇により強度が5.5から3.1MPa程度まで低下しますが、
同Wet環境の特性低下率がドライ環境のそれと比べて1割程度に収まっているのは意外でした。

Wet環境などによるFRPの特性低下は圧縮で最も顕著にみられるはずだからです。

そういう意味では、ハニカム形状自体が特性維持に効果があったと推測されます。

 

・ASTM C273:せん断

面内せん断試験です。
こちらは伸び計を使って初期ひずみを取得し、弾性率を取得する様子が映っています。
最終破壊までは紹介されていません。

治具が層間方向に変形しないよう設計(せん断方向に長く、厚めの設定)がなされているのがわかると思います。

HF5035のせん断特性については、長手方向と幅方向でそれぞれ評価されており、
長手方向は幅方向のおよそ2倍の数値を示しています。

強度の数値自体はドライの場合、環境温度の上昇に伴って低下し、長手方向で1.3から3.1MPa程度、
幅方向で同0.9から1.9MPa程度を示しています。

Wet環境だとドライ環境のそれと比べて1割程度低下しています。

 

全体通じて環境温度上昇による物性低下度合いに試験の荷重モード(引張、圧縮、せん断)で顕著な異方性は認められず、ドライ環境と比べてWet環境での特性低下が抑制される傾向のある一方、長手方向と幅方向という形状の異方性はその特性に大きな影響を与えていることがわかります。

せん断に対するこの強い異方性は、実際の製品設計では大変重要な要素となります。

 

基本規格

この手の材料にはAMSの材料規格が適用されるようです。

AMS 3715という”CORE, HONEYCOMB, GLASS/PHENOLIC”という材料規格です。

概要は以下のページから見るとができます。

CORE, HONEYCOMB, GLASS/PHENOLIC AMS3715

最後にハニカムに関して考えるべきポイントとを考えます。

 

 

ハニカムは層間特性に特化し、層間方向の空間創出の役割を担う

形状を見るとわかるように、
ハニカムというのは層間の特性に特化した形態をしています。

層間方向への圧縮や引張が極めて高い比強度を示すことは、上記で紹介した材料特性から感じていただけたかもしれません。

そしてハニカムが有する大変重要な役割が、

「層間方向の空間創出」

です。

 

ハニカムとよく一緒に用いられるFRPは、
一般的にレイアップというシート状の材料を積み重ねる工程で成形されるため、
厚手のものを成形するのに用いられるのは不得意です。

しかしハニカムを活用することにより、層間方向に大きな空間を創出することができます。

こうすることで、スキン材であるFRP2層を距離を離して形成するということが可能となり、
FRPの構造部材としての特性も発揮しやすくなります。

 

また、ハニカムは空間が存在するためそこにフィリングコンパウンド等の発泡材料を入れることで、
断熱効果や遮音効果を持たせることも可能になります。

FRPが苦手な層間方向の空間創出が上記のような新たな機能性付与を可能にするのです。

 

フィリングコンパウンドについては、以下のようなコラムでもご紹介したことがあります。

 

・関連コラム

ViscoTec が Huntsman 製 Filling compound に使える混錬機を発表

 

 

フェノールの合成には難もあり、今でも研究開発が進む

フェノールはベンゼン環に水酸基が付いた大変シンプルな構造をしています。

しかし、この化合物の合成には複数の段階が必要であることが知られています。
より具体的には石油を原料としたベンゼンとPPをフリーデル・クラフツ反応と呼ばれる反応で付加反応をさせ、
イソプロピルベンゼン、いわゆるクメンを合成します。

このクメンを酸素存在下で高温環境環境にさらすことでラジカル機構によって、
ベンゼン環に直接結合している炭化水素の水素を過酸化物であるクメンヒドロペルオキシドに変化させます。

さらにこれを酸処理することで過酸化物の酸素部分にプロトン(H+)を付加させた後の脱水反応によって、
フェニル基の炭素から酸素への転移、つまりベンゼン環に結合する元素を炭素から酸素に変換させます。

この反応で得られたものに水を再度付加させるという反応によって、
ようやくフェノールとアセトンが得られるという流れです。

 

反応の細かい部分は別として、
複数段階での反応が必要であることを感じていただけたと思います。

反応が複数段階ということはそれだけ合成にエネルギーが必要で、収率も100%というわけではなく副生成物も生成されるなど、環境負荷の大きな合成法であるのが実情です。

 

このような課題解決に向け、今でもベンゼンから直接フェノールを合成する研究開発が進められています。

少し前ですが、ゼオライトに担持されたRe(レニウム)触媒はそのような取り組みに大きな進展をもたらせたことで有名です。

最近の研究だと酸化窒素(NO2)を介在させた転移反応において、150℃以上、50から200気圧が必要な反応を、ニッケル(Ni)にビピリジンが3つ配位した非対称構造のNi錯体を触媒として用いることで室温で1.5から2気圧程度で同様の反応を推進させ、結果として1段階でフェノール誘導体を合成する例も報告されています。

 

・参照情報

世界一のフェノール合成 Re 触媒の発見とその触媒活性構造の解明

Franck Le Vaillant et al, Catalytic synthesis of phenols with nitrous oxide, Nature, 604, 677 (2022)

 

このようにフェノール合成段階でいまだに多くの課題が存在することも、
材料の選定においては配慮すべきことだと考えます。

 

 

今回はフェノール樹脂とガラス繊維を組み合わせたハニカム材料についてご紹介しました。

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