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石炭由来の新規炭素繊維の開発

2022-03-21

石炭由来の新規炭素繊維の開発が北米で進む

The National Energy Technology Laboratory (NETL) とOak Ridge National Laboratory (ORNL)という、
どちらもアメリカ合衆国のエネルギー省の管轄下にある研究所において行われている、
より低コストの石炭由来の炭素繊維の開発ということについて述べたいと思います。

 

 

将来的な需要が細る可能性のある石炭

2022年1月にトンガで起こった海底火山の大噴火等、
長期視点でみれば地球の寒冷化の可能性もあるものの、
今のところ地球温暖化が進むだろうという考えが世界では主流です。

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そのため、温室効果ガスの一種である二酸化炭素排出は悪とされ、
いかにしてそれを回避するかについて議論が進んでいます。

長らく人類のエネルギー源として活躍してきた石炭ですが、
上記の温室効果ガス排出における元凶のひとつとみなされ、
発電に使用する量を減らそうという動きは今後も継続するものと考えられます。

このような中で、石炭をどのように活用していこうかという動きもあり、
その一つが今回ご紹介する「炭素繊維の原料への活用」となります。

 

 

現段階でも石炭はピッチ系炭素繊維の一原料

炭素繊維と一言で言っても、PAN系とピッチ系という2種類があることをご存知な方もいると思います。

PANというのはその名の通り、ポリアクリロニトリルを出発原料とした高強度を基軸にした材料で、
新藤昭男先生が開発されたということは業界の人には有名な話です。
私も一度だけですが、新藤昭男先生の講演を聴講したことがあります。

それに対し、ピッチ系炭素繊維は石炭の乾留によって得られるコールタールを原料とし、
強度以上に高弾性率という特性が前面に出る材料です。
(コールタール以外として、石油ピッチを原料にするものもあります)

卓越した弾性率に加え、優れた減衰特性、寸法安定性、熱伝導特性を示すことが知られています。

このピッチ系の炭素繊維は熱処理によってメソフェーズ化反応と呼ばれ、
分子が液晶構造を形成して配向することが知られており、
熱処理前の繊維を等方性ピッチ系炭素繊維、熱処理後のものをメソフェーズピッチ系炭素繊維といいます。

メソフェーズピッチ系炭素繊維は紡糸が難しい一方で高い弾性率、強度を示します。

このピッチ系炭素繊維も元々は群馬大学の大谷先生が開発しており、
炭素繊維が日本生まれといわれるのはこの辺りが一因ではないかと思います。

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NETLとORNLが狙うのは石炭由来の新規低コスト炭素繊維

これに対し、今回話題となっている炭素繊維は従来のピッチ系炭素繊維とは異なる、
新規の炭素繊維の確立を目指すとされています。

概要は以下のページに記載されています。

New Funding Awarded to Develop Coal-derived Carbon Fibres

2020年の記事ですので2年程前のものになりますが、
当時の情報では上述した先細りの石炭活用産業の創出の一つとして、
新規炭素繊維開発を研究テーマとし、これに対して1000万ドルが予算として計上されたと書かれています。

そしてまだどのような材料特性をターゲットとするかについて明確な記述はないものの、

「低コスト」

ということをコンセプトにしたいとのこと。

これに先立ち、パートナーである University of Kentucky がまず石炭から得られるコールタール、
そこから作られる炭素繊維の前駆体(プリカーサー)について、
狙いの材料特性に向けた改質と、最適化に向けた手法について検証するようです。

もう一つのパートナーである Pennsylvania State University は材料特性評価を担うということで、
研究機関と大学が連携して研究開発を進めていくという体制で進めていくことが書かれています。

 

この取り組みについて考えるべきことは何でしょうか。

 

 

低コスト、軽量化、高強度以外の機能性や存在価値を訴求できるかがFRP関連材料では分かれ道

 

まず考えるべきは、何のためにこの材料が存在するのかという理由です。

低コスト、軽量化、高強度というのは、
今のFRPでよくニーズとして捉えられる一方、
一般的過ぎてインパクトがありません。

それよりも、異方性、不均質材、一般的でない成形工程というFRP固有の特性が、
新たにFRPを適用しようとする際の重荷となり、
使わない理由を後押しするだけとなります。

特にわかりやすいのがコストで、
そもそも材料のコストだけで製品などの全体像を語ることはできるのか、
という話に加え競合となるのは、

「比較的軽量の非鉄金属や、ガラス短繊維を含有する熱可塑性樹脂」

となり、特にFRPの強化繊維が連続繊維で、ましてや強化繊維の種類が炭素繊維の場合、
多くの場合においてコストで太刀打ちできるわけがありません。

それよりも、

「FRPでしか実現できない機能性や存在価値」

という唯一無二に近い観点を見出せるかという方が重要です。

技術的な観点であれば、電気(電磁気)特性、振動特性、光学特性というのが一例であり、
存在価値という意味であれば製造エネルギー減少、原料の自給率向上といったものがあります。

特に原料の自給率向上は昨今の地政学的リスクを踏まえれば、
日本を含め様々な国において今まで以上に重要な観点といえます。

今回ご紹介した石炭を利用した炭素繊維製造法活用というのは、
NETLとORNLにおける様々なプロジェクトの一部のようです。

例えば最近のプロジェクトでいうと、
石炭を用いた軽量建築資材というのがトピックスのようです。

DOE INVESTS $2.2 MILLION TO DEVELOP HIGH-STRENGTH BUILDING MATERIALS, PROVIDING NEW, CLEAN USES FOR COAL WASTE

ORNLでは以下のような論文を発表しており、
例えば長期利用を見越しての酸化劣化や吸着材としての特性解析が見られます。
X線などを用いた結晶解析もいくつか見られることから、
分子レベルでの材料設計をしようとしていると考えられます。

Carbon and Composites Group / Publications

 

 

エネルギーの自給自足に向けた取り組みが急務

今回は、石炭を原料とした新規炭素繊維の開発ということについてご紹介しました。

特に最後に触れた原料の自給自足という考えは、
これから国を挙げて取り組むべき案件といえるかもしれません。

過去の当社のコラムでは日本でも自給自足が可能な石灰石を原料に、
水をほとんど使わずに紙を製造するという日本企業も紹介しています。

新しいものを創出するのも当然ながら大切ですが、
それぞれの国が自主自立するという事を支援する技術が大変重要である時代になっていると感じます。

 

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