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はじめてのFRP 液晶ポリマー( liquid crystal polymer )とは

2018-11-08

今日のはじめてのFRPでは、高耐熱性のマトリックス樹脂の一つとして注目される 液晶ポリマー( liquid crystal polymer )についてご紹介してみたいと思います。

 

 

ポリマーの固体状態

液晶ポリマーの話に入る前に、少しだけ関連する高分子の話をしてみたいと思います。

ポリマー( Polymer )というのは日本語でいうと高分子です。
樹脂というのは高分子の一種であり、
室温近辺での状態が固体のものを指します。

因みに、室温状態で柔らかいものはゴムと認識されます。

 

ポリマーの固体状態というのは固体の高分子ということなので、
言ってしまえばFRPのマトリックスでもある、

「樹脂」

ということを暗に指しているという理解で大きな問題はありません。

 

高分子というのは高温状態になっても、
長く連なったその分子構造故、
気体状態を取ることができずに液体状態になります。

これはFRPを扱う方にも何となく理解できることだと思います。

FRPはどれだけ加熱してもマトリックス樹脂は気体状態になるのではなく、
最後は酸化分解してしまうはずです(空気中の場合)。

逆に低温における高分子は外観上はただの固体ですが、
内部ではいろいろなことが起こっています。

最も興味深いものの一つは 結晶性高分子 ではないでしょうか。

FRPのマトリックスでいうとポリアミド(PA、ナイロン)、PEEKといった熱可塑性マトリックス樹脂として馴染みのある方も居ると思います。

この結晶性高分子の熱容量は温度依存性を示すことが知られており、
極低温では三次元分子振動による振る舞いを示し、
ある程度高温になると高分子の主鎖による振動を主とする、
一次元的分子内振動をするということが理論的に確かめられています。

Debye 理論による式は以下のように示されます。
温度の3次式で表される場合は三次元分子振動であり、
1次式の場合は高分子の主鎖による振動を主とすることを示唆しています。

※極低温域の高分子の熱容量

 

※上記より高温域における高分子の熱容量

※参照:EINSTEIN-DEBYE FUNCTION AND TARASOV MODEL
http://polymerdatabase.com/polymer%20physics/EinsteinFunction.html

 

上記で言いたいことは高分子というのは固体の状態であっても、
主鎖による分子振動が主なのか、側鎖も含めた3次元での振る舞いなのか、
といった違いがある、ということです。

このような前提を踏まえたうえで、液晶ポリマーの話に行きたいと思います。

 

液晶ポリマー の基本構造

液晶ポリマーの基本構造とは何でしょうか。

言ってしまえば、剛直な棒状分子が規則性をもって配列している、
というイメージで大きな問題は無いでしょう。

より具体的には3つのパターンがあり、

– スメクチック液晶( Smectic )

– ネマチック液晶( Nematic )

– コレステリック液晶( Cholesteric )

と呼ばれています。

それぞれがどのようなものなのかは以下のようなイメージ図を参照いただくといいと思います。

( The image above is referred from https://www.slideshare.net/ShreyasKulkarni44/liquid-crystals-shreyas

スメクチック液晶は層状構造をもち、各層で一方向に配向している構造であり、
最も規則性が高いものです。

ネマチック液晶は分子の配向は一方向ですが、
各分子の位置がずれています。

コレステリック液晶は各層が特定の方向に配向しているものです。

身の回りの液晶ディスプレイはこのコレステリック液晶の構造を、
半ば強制的に作ったものになります。

参照URL:http://www.sharp.co.jp/products/lcd/tech/s2_1.html

また、ネマチック液晶は電圧をかけると粘度が高くなるということを利用し、ERF(electro rheological fluid)としての応用を研究している例もあります。これは電圧を印加した際に、ネマチック液晶が誘電分極して電界方向に配向することを踏まえ、元々の流体の流れと垂直方向に電圧をかけることで流れに逆らうように液晶分子を配向させるということがそのコンセプトです。この粘度変化はアクチュエーターとしての応用が期待されています。

 

このような配向規則性を持たせるためには、
当然ながら分子構造にも特徴があります。

固体状態の高分子は冒頭説明した通り、
主鎖による影響と側鎖による影響の2つがあります。

液晶ポリマーの特徴的な構造を実現するには、

「分子構造が平面上の異方性を有し、双極子モーメントや分極される官能基(主に側鎖)を有する」

という特徴が不可欠となります。

このような特徴を有する化学構造は

「メソゲン( mesogen )」

と呼ばれていて、2つの6員環(ベンゼン環、ヘテロ6員環:C以外が構造に入っているもの、シクロヘキサン)が直接、または官能基(主にはエステル基)で結合しているというのが一般的です。

このメソゲンを主鎖、または側鎖に導入することにより液晶ポリマーとなります。

より詳しくは、以下のようなところでも見ることができます。

※高分子学会
http://main.spsj.or.jp/c5/kobunshi/polywords/polywordsMA.html
(ページ中ほどに説明があります)

※シンプルに定義している例
https://www.mpikg.mpg.de/886863/Liquid_Crystals.pdf

(1.3 Mesogens Mesogens – the subunits subunits of liquid of liquid crystalsの項の中でメソゲンの定義がかかれています)

 

このメソゲンをどのような構造にするのか、
またメソゲンを側鎖に導入する場合、主鎖との間のスペーサーをどのように設定するのか、
といった分子設計により機械特性、物理特性が変化します。

 

メソゲン(液晶ポリマー)に関しては過去に以下のようなコラムを書いたことがあります。ご興味ある方はそちらもご覧ください。

FRP学術業界動向 高分子の中での フォノン とは

 

 

FRPに適用される液晶ポリマー

液晶ポリマーは以下の大きく2種類に分けられます。

– サーモトロピック液晶: 1成分からなり、温度変化によって液晶特性を示す

– リオトロピック液晶: 2成分以上の濃厚溶液からなる

ウィキペディアで液晶ポリマーと調べると上記の2種類の液晶が出てきますが、
若干説明が違っていますね。

 

FRPのマトリックスは樹脂ですので、
タイプとしてはサーモトロピック液晶になります。

温度を上げていくと、スメクチック液晶からネマチック液晶へ相転移をする一方で、
逆の相転移は無いことがわかっています。

その一方で側鎖型(側鎖にメソゲンがある場合)の液晶ポリマーの場合、
メソゲンと主鎖のスペーサが長くなるほどスメクチック液晶構造に安定化しやすいといわれています。

 

では実際に市販されている液晶ポリマーはどのようなものなのでしょうか。

参考までに以下のHPを見てみます。

https://www.kda1969.com/materials/pla_mate_lcp.htm

 

これを見ると液晶ポリマーを固体部品として用いる場合、
市販品ではメソゲンを主鎖に入れたものが基本となっていることがわかります。

上記のURLによると耐熱性によって3つのグレードがあり、
当然ながらベンゼン環の多く入っている剛直分子のものが、
最も耐熱性が高いということが示されています。

では特性はどうでしょうか。

参考までに上記のURLに掲載されたもののうち、
最も耐熱性の高いタイプIについて見てみたいと思います。

比重は1.35で、一般的な樹脂の中では若干大きいという印象。

引張強さ、曲げ強さ、それぞれの弾性率については、
スーパーエンプラクラスで高めとなっています。

部品にも十分使える値となっています。

そして驚くべきは荷重たわみ温度。

347℃程度となっています。

これは熱可塑性樹脂の中ではずば抜けた値であり、
高耐熱の熱硬化性樹脂に見劣りしない値となっています。

参考までにですが、FRPの高耐熱の熱可塑性マトリックス樹脂として有名なPEEKの熱たわみ温度は150から160℃程度です。かなりの耐熱性を有するPEEKとは異次元の高さにあることからいかに液晶ポリマーが特殊かお分かりになると思います。

 

その一方で要注意な特性もあります。

引張の破断伸びです。

熱可塑性樹脂であれば最低でも数十%は示す破断伸びにあって、1.3%程度と示されています。

この値は剛直な高分子としてFRPで最も一般的といわれるエポキシ樹脂以下であり、
かなり脆い材料であることを強く示唆しています。

実際、上記のURLの中でも液晶ポリマーは耐衝撃性が低いということも述べられています。

言い方によっては液晶ポリマーは良くも悪くも熱硬化性樹脂と類似した特性を示す、
といってもいいかもしれません。

恐らく液晶ポリマーをFRPに適用したい、という動機は

– 耐熱性があるから

– 耐熱性を考慮した場合、粘度が低いから

という2点に集約されると思います。

ただし、耐熱性を高めるといことはどうしても分子構造が剛直になります。

液晶ポリマーの分子構造は一般的な高分子と比較し、
規則性がある故、粘度特性も異なりますが、
最終的な固体状態のポリマーは、耐熱性を求めると概ね類似した特性を示すことになります。

熱可塑性樹脂最大の特徴の一つが

「高靭性」

であることを考えると、色々考える部分も多いのではないでしょうか。

とはいえ実際にFRPのマトリックスとして少しずつ使われ始めているのも事実です。

以下のメールマガジンでは液晶ポリマーと考えられる ULTEM 9085 (TM) をマトリックスとし、
3D プリンティング で作製した音響機器もご紹介しました。

 FRPのプロが注目する「業界最新ニュース」Vol.107 2018/11/5
「 ASKJA Audio が 3D プリンティングで作製した音響機器を発表 」

 

上記では、耐熱性ではなく音振動に対する減衰や剛性変化による共振点の変化が材料選定の動機として述べられていました。

逆にいうと液晶ポリマーに対して「機能性」を見出すことができれば、
積極的に液晶ポリマーを使う理由にもなるのだと思います。

 

いかがでしたでしょうか。

今日は液晶ポリマーについてご紹介しました。

液晶ポリマーをFRPに適用するということはまだあまり一般的ではありませんが、
分子構造が特殊な規則性を有する故、様々な特性を発現するポテンシャルも有しています。

今後、この辺りの検証が進められるものと考えます。

ご参考になれば幸いです。

 

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