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射出成形シミュレーションソフト Moldex3D をRTM向けに適用

2021-10-05

台湾に本社を構える Moldex3D 。
1995年設立のある程度歴史ある企業です。

日本語対応可能なHPもあります。
https://jp.moldex3d.com

主力製品の概要については、以下の動画がわかりやすいです。

 

射出成形における樹脂流れを予測するというのは、
台湾がお得意とする通信機器を中心とした電気製品の筐体の成形等の領域に高いニーズがあると予想され、
この旺盛なニーズがこの企業の成長を支えてきたものと推測します。

台湾はもちろん、中国、ベトナム、北米などにも支社があるようです。

 

この樹脂の流れの予測を得意とする Moldex3D が、
FRPの成形法の一つであるRTM向けの製品を展開するというのが、今回取り上げるテーマです。

 

 

RTMの成形シミュレーション精度向上には強化繊維配向予測が不可欠

今回 Moldex3D がターゲットとするのは、
FRP成形手法の一つである、

「RTM(Resin Transfer Molding)」

です。

RTMは型内に樹脂を含浸させていない強化繊維を積層したうえで型を閉じ、
その状態で後からマトリックス樹脂を注入してFRPとして成形するという手法です。

樹脂を型内に注入する様子は、
高圧をかける射出成型のそれとは別物ですが、
樹脂を流すという行為自体は類似する点があります。

 

しかしながらFRPの場合、ここで立ちはだかるのが、

「強化繊維の配向」

です。

一般的な射出成形で用いられる1mmを下回るような強化繊維であれば、
配向という概念はそこまで大きくありませんが、
FRPはものによっては何十メートルという距離にわたって繊維が連続的に配向するというケースもあります。

このような状況の中で樹脂を注入すると、
樹脂は当然ながら繊維の配向方向に流れやすくなります。

連続繊維はその一本当たりの直径は数十ミクロンから、細いものでは5ミクロン程度であるため、
これらが数千本や数万本という束になっています。

 

ガラス繊維の場合はロービング、炭素繊維の場合はストランドと呼ばれますが、
このような束が並行に並ぶ場合、

「毛細管現象(capillarity)によって繊維配向に樹脂が流れやすくなる」

という事象が起こります。

さらに、NCF等のストランドやロービングが配向を維持したまま整列した場合、
これらの間に「チャンネル」と呼ばれる空間が生じ、
ここが樹脂の通り道となることが知られています。

 

上記の通り繊維の配向は樹脂の流れ方に大きな影響を与えますが、
Moldex3D が直面したのは、

「どうすれば3D形状成形後の繊維配向を予測できるのか」

という課題だったようです。

 

そこで目を付けたのが、熱可塑性プリプレグをベースとしたFRP成形シミュレーションで実績のあった Aniform だったのです。

 

 

Moldex3D と Aniform の協業

2社の協業については「Moldex3D RTMシミュレーションにAniFormの複合材解析を統合することで繊維配向の正確な予測が可能に」というプレスリリースが出されています。

どのような内容かを理解するには、以下のJECのリリースが良いと思います。

AniForm and Moldex3D collaborate to offer superior RTM analysis
https://www.jeccomposites.com/news/aniform-and-moldex3d-collaborate-to-offer-superior-rtm-analysis/

 

詳細は記事をご覧いただければと思いますが、
理解すべき要点は以下になります。

・Aniformで予測された3D形状賦形による繊維配向の変化に関するデータをExport
(今回はWovenつまり織物が一つの事例として紹介されています)

・上記データをMoldex3Dにインポートの上で樹脂の含浸予測を行うことによって、高精度のRTMシミュレーションを実現

・賦形によって繊維配向が変化している様子をAniformで捉えていることを紹介(Fig. 5)

・繊維配向を考慮した場合とそうでない場合で、RTMにおける樹脂の流れが変化したという比較結果が判明(Fig. 6)

手順として、まず強化繊維の配向変化「だけ」をAniformで先に予測し、
その繊維配向予測結果をMoldex3Dに取り入れることで、
樹脂の流れの予測精度を高めています。

尚、Aniformについては過去のコラムでも取り上げたことがあります。

FRTPの変形を予想するシミュレーションソフト Aniform

 

今回の話を踏まえて考えるべきポイントについて述べてみます。

 

 

強化繊維配向の樹脂流れに対する影響は大きく、重力や硬化反応も無視できない

まず2D→3D賦形予測の得意な企業と、
樹脂の流れの予測を得意とする2つの異なる企業が強みを持ち寄り、
FRP成形においてポイントとなる繊維配向についての予測データを取り入れ、
RTM成形予測精度を上げたというコンセプトの着眼点が大変良いと思いました。

技術的にいえば繊維配向がRTM成形における大きな要因の一つであることに疑いの余地はありませんが、
普通のシミュレーションソフトメーカであれば、そこを無視するか、逆にここも自力でやり切ろうと考えるはずです。

しかし繊維の配向予想、すなわちドレープシミュレーションは大変複雑な機構を理解する必要があり、
強化繊維の曲げ、面内移動、せん断、ロッキング(繊維基材の形態により、ある程度の角度以上の変形はできない)を理解の上、
パラメータとして取り入れなくてはいけません。

ここを得意とする企業の技術を取り入れるということは、
個人的にはかなりの英断だと感じました。

 

その一方で、今回盲点となっているのは重力の影響です。

一般的な射出成形と異なり、FRPではHP-RTM等の特殊なケースを除き、
樹脂の注入圧力はそれほど高くありません。

そのため、低粘度で注入された樹脂は重力の影響を受け、
下へ下へと移動していきます。

これをMoldex3Dがどのように考えたのかは興味深いところです。

さらに熱硬化の樹脂を用いる場合、
硬化の進行に伴って粘度が変化する(上昇する)ということに対する理解は不可欠です。

 

 

必ず実測データとの比較を行い、シミュレーション精度確認を行う

シミュレーションは試作を減らすという観点からも、
研究開発スピード向上に大変重要なものとなりつつあります。

しかし、シミュレーションはあくまで「予測」でしかありません。

このシミュレーションの結果を鵜呑みにして、
実験をベースとした実測データを軽視する、
例えばn=1ですべてを語る、最悪は実験さえしない、
ということは避けなくてはいけません。

この辺りは当社の技術者育成事業でも取り上げたことがあります。

CAEによるシミュレーションを行う際の技術業務の本質
https://engineer-development.jp/column-2/cae-simulation-key-points

 

ただし、上記のコラムでも書いたように、
シミュレーションは抜け漏れを無くすというメリットがあるのも事実です。

本観点も理解の上、バランスをとりながらシミュレーションを取り入れていく、
という姿勢が必要なのだと思います。

 

 

最近は従来のエポキシに加え、
ウレタンやアクリル等の低粘度樹脂が登場し、
RTMやインフュージョン成形(RTMのような上下型ではなく、下型だけを用い、上からバックする成形法)に適用が始まっています。

以下はその一例です。

FRP製マンホール蓋向けの ウレタンアクリレート 樹脂の適用拡大
https://www.frp-consultant.com/2020/09/21/composite-manhole-urethane-acrylate/

 

樹脂の選択肢が増えたことで、
用途や成形物サイズによっては、今後RTMがさらに増えていく可能性もあります。

 

RTM成形に対するシミュレーションを導入することで、
予め型設計や樹脂の注入方法等を検討するということが、
今以上に一般的になっていくのかもしれません。

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