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FRP製風力発電ブレードの最外層に使用する HexPly XF Vol.170

2021-04-05

最外層 にゲルコートではなく HexPly XF を使うことで、目付の管理が楽になる

現政権になってから掲げた日本におけるグリーン成長戦略。

ここで述べられる重点分野の一つにFRPが使われると考えられる洋上風力発電があります。

風力発電は大型である上に回転によって遠心力がかかることから、
比剛性、比強度の高いFRPを適用する動機付けが明確なアプリケーションの一つです。

風力発電に関連することは過去にも何度か述べたことがあります。

※ 洋上風力発電 向け大型FRP翼の寿命予想シミュレーション

※ Vestas が2040年までに廃棄物ゼロの風力発電ブレードをリリースすることを発表

※ 中国華能集団が 洋上風力発電 を本格的に開始

 

風力発電向けのFRPの多くはガラス繊維を強化繊維とする GFRP です。

GFRP では塗装の下地を主な役割とした「ゲルコート」という層が最外層として存在します。

ゲルコートについては以下のコラムでも述べたことがあります。

※ GFRP積層に用いる ゲルコート

このゲルコートに該当する層に使えるシート材料というのが、
今回ご紹介する HexPly XF (R)です。

ゲルコートの振り返りからはじめ、 HexPly XF (R)の概要についてみていきたいと思います。

 

 

ゲルコートの概要

過去のコラムでもご紹介していますが、
以下の動画が最もわかりやすいです。

型表面に離型剤を塗布した上で、
主剤と硬化剤を混ぜたゲルコート層をその上に塗っているのがわかるかと思います。

この動画中で述べられている要点を抜粋して述べると以下のようになります。

・主剤と硬化剤(硬化触媒を含む)はそれぞれ正確に軽量し、一度混ぜたら12から18分以内に使い切る。

・膜厚は500μmを狙う。公差は±100μm。均一に塗布すること。

・ゲルコートは外観不良が起こりにくいなどの観点から色付きのものが望ましい。

・スチレンが含有されているため、換気をよくすること。

このようなゲルコートを塗布して硬化させた後、
GFRPをレイアップしていきます。

典型的なハンドレイアップの一例は以下の動画の冒頭で描かれています。

ガラスマットを適当な大きさに切り出した後、
硬化剤を混錬済みのマトリックス樹脂(動画のものは不飽和ポリエステル)をガラスマット一枚ずつローラーで含浸させ、
ゲルコート塗布済みの型の上に脱泡ローラーで気泡を抜きながら積層します。

積層のポイントは GFRP のハンドレイアップでも、
CFRPのプリプレグを用いたファイバープレースメントでも概ね同じであることがわかります。

一枚一枚樹脂を含浸させるのがプリプレグ製造工程に該当し、
脱泡ローラーによる脱泡と積層がファイバープレースメントのコンパクションローラーにあたります。

FRPの工程の原理原則はほとんど変わっていないということがお分かりになるかと思います。

 

 

最外層に適用する HexPly XF (R) とは

まずはこちらの動画を見ていただくと良いかもしれません。

風力発電ブレードの製造工程を一例に、
ゲルコートと HexPly XF (R)との比較がなされています。

この風力発電ブレードの成形方法は infusion です。
メス型に材料を積層し、上からバックをして減圧することで差圧を発生させ、
この圧力差で外からマトリックス樹脂を流し込む工法です。
VaRTM ともいいます。

ゲルコートだと硬化させるのに時間がかかる一方で、
HexPly XF (R) だとすでにシート材なのでそのまま使えるため、
工程短縮の効果があると描かれています。

またゲルコートは低粘度化を目的に希釈剤として一般的にスチレンが使われていますが、
HexPly XF (R) ではそのような揮発性物質は無いという描写もあります。

HexPly XF (R) の上に直接プリプレグやNCF、強化繊維の位置維持と樹脂流動を助長するGRID材(格子材)、
エッジ先端と末端を補強する一方向材、翼の剛性を高める炭素繊維の一方向材、
表裏のシェルを結合する+45/-45°積層の積層体、金属ブッシュとFRPを一体化させる接着剤等、
多くの材料が使用されているのがわかります。

 

次に HexPly XF (R) の紹介ページを見てみたいと思います。
こちらのページから見ることができます。

カタログは以下のページにあります。

https://www.hexcel.com/user_area/content_media/raw/HexPlyXFUserGuide_2020.pdf

基本的には上記の動画と同じことが書かれていますが、
追加のポイントとして以下のようなものが挙げられます。

・マトリックス樹脂はエポキシ。キャリアーは不織布。

・infusion 成形で一体成形が可能。

・すでにシート材であるため、目付が安定している。

・室温での保管期限は6週間。
→低温保管にすることで保管期限を延長することは可能。

・材料に表と裏がある
→自己接着性のある材料積層側と塗装の下地という役割を担う外層側がある。
前者は non surface side、後者は surface side という文言で表現。
surface side は成形に用いられる金型の表面状態によって光沢面にも梨地面にもなる。

・基本的には塗装前に処理は必要ないが、離型剤と硬化工程中に反応する(一体化する)可能性を考慮した前処理が推奨される。
→HexPly XF (R) の表層をサンディングなどで少量除去する等の対応が必要な場合もある。
#220程度のサンドペーパーを推奨。ただし、削りすぎないように注意。

・複数枚の HexPly XF (R) を使う場合はオーバーラップさせる。
→下地であるFRPが表面に出ないようにする。

・表面に凹凸などが出た場合は、ウレタン、エポキシ等をマトリックスとしたパテなどで補修する。

 

上記以上の詳細のデータは公開されていませんが、
特徴がわかる内容となっています。

 

 

HexPly XF (R)のリリースを踏まえて考えるべきこと

今回ご紹介した HexPly XF (R) という製品で着眼すべきは

「FRPの最外層専用のシート材料である」

ということでしょう。

FRPの表層が重要になることは多々あります。

風力発電でいえば、

「凹凸が無いこと」

でしょう。

 

ここでいう凹凸は外観という話ではありません。

風を切って回転するFRP翼の空力損失を最小化するというのがその狙いにあります。

凹凸による段差は空気の流れを乱し、それが空力損失に直結します。

最外層をシートにし、しかもキャリアーを適用することで目付(厚み)を一定化させることで、
塗装の下地としての表面状態を均一にし、
塗装のムラによる凹凸を回避するということがかなり重要な観点です。

 

FRPの最外層をシート形態の材料で覆うという考えは、
私も自分で製品を開発していた時に検討していた技術の一つです。

そしてこの表面の薄層一層で成形体としての性能が大きく変化するというのも事実なのです。

 

そして課題もあります。

熱硬化性樹脂のエポキシをベースとしているため、室温ライフが長いといっても6週間。海外から輸入するとこのライフの多くを消費する等の問題が生じます。

また空輸や冷凍輸送となると輸送費が大変高くなってしまうため、この辺りのバランスへの考慮も必要です。

見方を変えると、室温輸送や保管が可能であるというのは材料の観点から強みになるのです。

 

 

 

FRPの活躍が期待される風力発電。

特に大型である洋上風力発電においてFRPの適用は不可避といえます。

 

このようなアプリケーションに適した材料を一つひとつ選定していく、
ということは技術的な観点で大変重要であるということに疑いの余地はないと思います。

 

今回の情報も洋上風力発電に関わる方々にとってご参考になれば幸いです。

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