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洋上風力発電 向け大型FRP翼の寿命予想シミュレーション Vol.154

2020-08-24

洋上風力発電 のような大型のFRP翼に対する寿命予想ニーズは高まっている

FRPが古くから適用されてきたアプリケーションの一つに風力発電があります。

そしてその風力発電の中で日本でも注目されているのが、

「 洋上風力発電 」

です。

2000年代から成長しており、イギリスが今のところ先頭を走っているようです。日本でもNEDOがその実証研究を進めていることは知られていることだと思います。

https://www.nedo.go.jp/fuusha/haikei.html

また、過去に洋上風力発電については、以下のようなコラムを書いたことがあります。

※ 中国華能集団が 洋上風力発電 を本格的に開始

FRPが風力発電に使われるのは高強度、高剛性、高耐水性という3つの性能が主な技術的背景です。
しかし、このような特性は未来永劫継続するわけではなく、
紫外線、冷熱サイクル、多方向から吹く風による繰り返し荷重といったものにより、
徐々に破壊が進展し、最後は構造材としての機能を失うという限界があるのも事実です。

その上、洋上風力発電のように大型でかつ、海上にある構造物の保守点検は簡単な事ではありません。

そのような事実を念頭に、大型の風力発電ブレードの劣化、または破壊進展状態を、
シミュレーションにより予測し、補修や交換のタイミングを予想しよう、
という試みが行われています。

つまり、寿命予想シミュレーションを行おうというのが、
今回ご紹介する技術になります。

 

 

大型FRP翼の寿命予想シミュレーション

寿命予想シミュレーションのコンセプトを発表したのは、
Technical University of Denmark の研究者です。

以下の通り大学のHPでも、その概要が紹介されています。

https://www.vindenergi.dtu.dk/english/research/research-projects/blade-defect-forecasting

また以下には動画もあります。
この大学が風力発電という技術に注目していると同時に、
それを産業に育てていこうという意思、
そして、トータルで産業として成立させていくためには幅広い専門家が、
幅広い技術について一緒に検証していかなければならない、
といったことが述べれれています。

今回ご紹介するのは FASTIGUE というFRP製風力発電ブレードの寿命予想シミュレーションシステムです。
以下の記事を参考に中身を見ていきます。

https://cw.mydigitalpublication.com/publication/?m=59263&i=667219&p=14

 

ご紹介する寿命予想シミュレーションのコンセプトは、

「破壊解析を pre-processing で行う一方、亀裂進展解析を別のモジュールで行う」

というもののようです。

上記コンセプトの目的は、

「亀裂進展とそれによる破壊という予測計算精度をできるだけ犠牲にせずに、計算速度を上げる」

ということにあります。

 

 

一般的な寿命予想シミュレーションの課題

現行の寿命予想シミュレーションで最も大きい課題は、考慮すべきパラメータが多すぎる故に、
計算負荷が非常に大きいということにあるようです。

見かけの確率予想に基づく荷重計算、複雑な形状に加え、
異方性と非線形を示す材料構成等が計算負荷を高める要因に直結しているとのこと。

さらにFRPの寿命予想に必須ともいえる亀裂進展や破壊解析は、
小さなスケール(マイクロスケール)では効率的に計算できる一方、
それを大型構造物へスケールアップする際、
このスケール由来の問題が様々に生じます。

一番大きいのは、

「外的荷重による変形」

のようです。大型モデルになると変形を広範囲にわたって考慮しなければならず、
これがマイクロスケールでの表現を大型構造物に適用するにあたって大きな障害となるようです。

また、破壊解析においては大きなスケールであっても、
一軸などのシンプルな応力負荷状況であればそれなりの精度で破壊予想が可能である一方、
個別の亀裂進展に関するモデルを入れ込みながら、細かいメッシングを行う必要があり、
計算に大変な負荷がかかります。

さらに、実際に計算を走らせてそのアウトプットを確認し、
拘束条件や境界条件、メッシングを修正するという「 update and return 」というアプローチが必要になり、
結果的に予測に大変な労力がかかるということがわかっています。

さらに、上記の計算は各サイクル数(N数:繰り返し疲労)に対して行わなければならない、
ということを考えれば、いかに大変な作業かということがわかると思います。

 

 

新しく提案されたFRP疲労寿命予想システム

上述のような課題を解決するために提案されたのが、
Technical University of Denmark の発表した FASTIGUE というシステムです。

「破壊解析を pre-processing で行う一方、亀裂進展解析を別のモジュールで行う」

というコンセプトによって計算精度を犠牲にせずに、
計算速度を上げるということを目指しています。

対象物はFRP製の洋上風力発電翼を含む、大型構造物です。

基本的には従来の破壊解析と類似していますが、その基本にある

「亀裂進展予想」

に経験値を踏まえたパラメータを導入し、しかもこの計算を Crack growth analysis module という、
破壊解析を行う系と異なるところで計算をさせることで、
負荷を分散させるというのがポイントのようです。

上記の Composite World の図1にコンセプト図が見られます。

亀裂進展を予測するため、

・応力拡大係数
・主な荷重モード
・応力比
・亀裂進展量

といったものを算出し、
実際に評価している範囲(水平方向距離)について、亀裂が進展するか否か、
または実際に亀裂進展するサイクル数が設計要件で求められるサイクル数に到達するか否か、
によって亀裂進展による破壊が止まるのか、進行するのかを都度判断するイメージだと思います。

この計算は亀裂の左側と右側という両側について行います。

上記の考えはすべて破壊力学を基本としています。

破壊力学については以下のコラムでも述べたことがあります。

※ FRP層間破壊靭性特性評価の現状と 破壊力学

一方で pre-processing で行う破壊解析としては、
形状モデル/外的荷重/初期欠陥(初期破壊)という情報から、
エネルギー開放率と応力拡大係数を算出し、それをモデルに合わせ込み(surface fitting)ます。

このようにして算出されるのがKa1,a2とのことです。

そこに、経験則を踏まえた亀裂進展のパラメーターを考慮した上で、
亀裂進展を予想したモジュールにモデルとパラメータをインプットし、
実際に亀裂が進展するか否か、どこまで進展するのか、それは何サイクルで到達するのか、
または亀裂進展は止まるのかといった判断する、
というのが大まかな流れのようです。

破壊進展を連続的に予想するため亀裂進展予想は各サイクルに対して行う必要はありますが、
破壊解析の解析の大部分はpre-processingという別の所で行っているため再計算の必要はなく、
トータルとしての計算負荷は大きく下げられると述べられています。

さらに、任意の位置に初期破壊や初期欠陥等の亀裂発生があった場合でも、
新たに破壊解析のモデリングは必要はありません。

亀裂進展予想の結果をその任意の位置に当てはめ、
初期条件だけ合わせ込めれば新たにモデルの修正等は必要ないことから、
汎用性も高いようです。

 

 

洋上風力発電翼への具体的な適用例

実際に洋上風力発電翼に対し、FASTIGUE を適用した事例もあるようです。

Trading Edgeと呼ばれる翼の回転方向に対して後ろ側に来るエッジは、
破壊の進展が比較的シンプルで予想しやすいことから選ばれたようです。

この辺りは Composite World の図2にも書かれています。

実情との合わせ込み結果などは特に述べられていませんが
以下のような論文も出されていることから、
もう少し詳細の結果が出ているかもしれません。

FASTIGUE: A computationally efficient approach
for simulating discrete fatigue crack growth in large-scale structures

Engineering Fracture Mechanics
Volume 233, 15 June 2020

Martin Alexander Eder / Xiao Chen

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0013794419315565

一度論文を取り寄せて中身を読んでみたいと思います。

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

FRPの構造体の寿命予想においても、
破壊力学が常識的になりつつあり、
またシミュレーションも徐々に出てきていると感じています。

今回の予想においては経験則によるパラメータを用いている、
そしてシミュレーション結果と実物の結果の比較が述べられていないため、
なかなかその妥当性を判断できるところまではいきませんが、
アプローチそのものは大変興味深いと思います。

長期寿命に対する予測ニーズはこれからどんどん高まると思います。
既に運用が始まっているFRPの製品がいつまでもつかを理解しておくことは、
計画的な補修や改修、そして更新につながるからです。

 

ご参考になれば幸いです。

 

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