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イギリスにおけるFRP製の低コスト化 ホイール の開発 vol.131

2019-10-10

「 イギリスにおけるFRP製の低コスト化 ホイール の開発 」

ということについて述べてみたいと思います。

 

UKコンソーシアムで取り組む FRP 製 ホイール の開発

自動車の足元で車重を支えるのに大きな役割を果たすホイール。

比較的大型部品ということもあり、
日本はもちろん、世界中のOEMやTier1が軽量化のアプローチの一つとして、
FRP化を目指して研究開発を進めているという情報は私の所にも入ってきています。

以下はそのような情報の一つです。車が好きな方であればご存知かもしれないケーニグセグ・レゲーラのホイールです。

こちらは後述するような色々なFRPを使うというよりも、綾織りを主体としたオーソドックスな材料を用い、FRPによる軽量化メリットを活用しながらスポークデザインを見直した、といったことが述べられています。

 

そんな中、イギリスのコンソーシアムのプロジェクトの一つである、

All Composite Reduced Inertia Modular Wheels (ACRIM) wheel project

というプロジェクトが、135,500ポンド(約1780万円)の助成金を獲得したとのことです。

額は決して大きくはありませんが、期待の高さは感じますね。

プレスリリースはこちらのURLから見ることができます。

 

ターゲットとしているのは無人運転車、近距離輸送車、道路清掃車、次世代農耕車用のホイールです。

構成の一例は15インチで 4kg(比較対象材は不明ですが従来品と比較し半分の重さとのことです)。
これにより、5%の燃費改善と5%の二酸化炭素排出量削減を実現できると述べられています。

環境問題への関心の高い欧州ならではの観点ですね。

材料構成も興味深く、単一材料ではないとのこと。

強化繊維形態をみても

NCF( Noncrimp fabrics )、
Tailored Fiber Placement (TFP: ミシンのようなもので材料を規定方向に規定量固定する技術です)、
Sheet Molding Compound( SMC )

といったものを組み合わせるとのことです。

※参考:
– NCFについて
FORMAX が Advanced Engineering UK で NCF 基材を発表

– SMCについて
Mercedes SL Roadster のラゲージドアへの SMC 採用

プロジェクトの主力企業は、

ThreeSixty (Wiltshire, U.K.)
Far UK (Nottingham, U.K.)
Bitrez Ltd. (Wigan, U.K.)

の3社です。

その中で Bitrez Ltd. (Wigan, U.K.) はマトリックス樹脂の開発を、
Far UK (Nottingham, U.K.)は試作製造を、
ThreeSixty (Wiltshire, U.K.)は設計と製造を担う、
といった役割分担のようです。

それぞれの企業のHPは以下から見ることができます。

ThreeSixty (Wiltshire, U.K.)
https://www.carbonthreesixty.com/

Far UK (Nottingham, U.K.)
http://www.far-uk.com/

Bitrez Ltd. (Wigan, U.K.)
http://www.bitrez.com/

 

ホイールデザインを生業とする ThreeSixty

特に ThreeSixty という企業は面白いですね。
ホイールの設計開発を生業としているようです。

設計をやっている方であればわかると思いますが、
回転体の設計は難しいです。

構造体にかかる荷重形態がリアルタイムで変化することに加え、
運用される回転数で発生する固有振動に伴う共振荷重など、
多くのことを考える必要があります。

この辺りはホイールの設計開発経験がある ThreeSixty が居ることで乗り越えられるかもしれません。

 

回転体設計に不可避なFRPの 異方性 という考え方

その一方でFRPを用いる場合、極めて重要な注意点があります。

それが、

「異方性」

です。

本点は金属で設計経験が豊富な方ほど要注意です。

FRPは方向によって全く別特性を示す異方性を有することが知られており、
特に力のかかる構造物の場合、重要なファクターとなります。

具体的には今や設計の常識となっているCAE(シミュレーション)を行う際、
入力する物理定数を方向によってきちんと定義するというのが第一歩です。

当然ながらそれらのデータを取得するためには、
的確な材料試験を実施することが必要不可欠であり、
当社のセミナーでもよく述べることです。

尚、異方性については以下の連載でも述べています。

※「 機械設計 」連載 第三回 「 異方性 」FRPの最重要特性

そしてFRPを使う上で問題となるのがやはりコスト。

ここについては約246ドル程度をターゲットにすると述べています。

既に Microcab をはじめとした OEM でも評価を開始しており、
技術的課題と事業的課題の抽出と解決に向けた取り組みを開始しているとのことです。

※ Microcab のHP
http://www.microcab.co.uk/the-new-h2ev/

複数社がコンソーシアムを形成し、
各社の強みを基準とした製品開発に取り組むことは、
FRPのように幅広い技術知見が必要な素材を扱う場合は必須といえます。

 

上記のような取り組みは日本でも始まっており、
今後のさらなる発展が期待されます。

その一方で大切なのは技術の本質を見失わないこと。

異方性をきちんと考慮しながら、
着実に技術を固める。

そして並行して、低コスト化というよりも、

「そもそも市場にニーズがあるのか」

という事業的観点で、事業性判断をするという考えが大切になると思います。

市場ニーズをとらえるには機密最重視で情報を閉じ込めるのではなく、技術情報の発信を中心とした

「情報発信型マーケティング」

が鉄則です。

このような流れが今以上に出てくれば、
FRP業界も盛り上がっていくに違いありません。

 

 

<お知らせ> ━━━━━━━━━━━━━━━━

今後の登壇予定のセミナーを以下の通りご紹介させていただきます。
合わせて参加をご検討ください。

– 2019年11月29日(金)10:30-16:30

会場:日刊工業新聞社 東京本社 セミナールーム(東京・日本橋)

CFRP/GFRP材料規格(Material Spec)の中身とその作成に必要な材料試験実施法

https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/3109

– 2020年1月23日(木)10:30-16:30

会場:日刊工業新聞社 東京本社 セミナールーム(東京・日本橋)

日刊工業新聞社からセミナー登壇の依頼をいただいています。
詳細決まりましたら再度告知します。

https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/3257

– 月刊誌「 機械設計 」連載:2019年10月号発売中

2019年10月号の連載では、FRP製品製造の安定化と、
最重要である市場問題発生時の原因究明の迅速化、
という役割を担う工程規格について述べています。

※題目 将来にわたる最低限の品質確保に必須のFRP工程規格
http://pub.nikkan.co.jp/magazines/detail/00000894

 

– JEC Composite Magazine #131への英語記事掲載

2019年11月発行予定の JEC Composite Magazine #131に、
英語記事が掲載される予定です。
内容は材料規格に関するものです。

http://www.jeccomposites.com/knowledge/jec-composites-magazine

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