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FRPにも適用できる光ファイバ センシング の最新研究動向

2019-06-17

FRPという材料が本当の意味で市場での信頼を獲得するポイントの一つと考えるのが

 

「長期にわたって安全に使用できるのか」

 

という長期信頼性に関する考え方です。

 

このような考え方を実現するために必要なアプローチは2つあります。

まずは、それぞれについて述べた後、本題である光ファイバの センシング の話に進みたいと思います。

 

 

統計学を用いた確率的予測

一つは

「統計学を用いた破壊予測」

です。

 

FRP設計者の中には設計的な考え方をする方が増えてきているという印象です。

 

確率的なモデルとして何が最適なのか、
ということについては現段階でも明確な答えは出ていませんが、
私の考えるポイントは、

– 「FRPの破壊予想について現段階で確率密度関数として正規分布、Weibull(ワイブル)や対数正規分布でも破壊モデルとして不適切という結果は出ていない」
(どのモデルを用いても問題ない)

– 「材料そのものの製造ばらつきを考慮する」

という2点です。

 

あまりFRPの設計経験のない方の中には、

「ワイブル分布でないと意味がない」

といった決めつけてきな考え方の方もいますが、
ワイブルでなければいけないという結果は、現段階では理論的には導き出されてはいません

(もし、そのような証拠が論文にて示されているようでしたらこちらのページからご教示いただければ幸いです。今後の研究テーマの一つにさせていただきたいと思います)。

 

また成形方法や形状のばらつきを考慮する方はいても、
意外にも材料そのもののもつばらつきを考慮している方は少ないという印象です。

 

これは設計者の多くが化学的な観点を持ちにくいというのが一因かもしれません。

この辺りはセミナーでも良くお話しする内容です。

以下のコラムでも概要は述べたことがありますので、
合わせてご覧ください。

※FRPの静的材料データの ばらつき 考慮に向けた統計的考え方

※CFRP、GFRPの設計に重要な 疲労限度線図

 

 

センシング によるモニタリング

もう一つが、

「実運用状況でのデータをセンシングにより収集/モニタリングする」

です。

 

そしてそのセンシング技術の中でFRPでも検証実績があるのが、

「光ファイバセンシング」

です。

 

今日のコラムではこの光ファイバセンシングの最新研究動向について、
私が所属する応用物理学会の光波センシング技術研究会での発表も踏まえながら、
技術のポイントとFRPへの適用について考えてみたいと思います。

 

 

光ファイバセンシングは大きく分けて「多点型」と「分布型」がある

FRPの光ファイバのセンシングについてご存知な方であれば、
光ファイバセンシングは今更何かあるのか、
と思うかもしれません。

過去、FRPの光ファイバのセンシングについて検証が行われてきたのは、基本的に

Fiber Bragg Gratings (ファイバ・ブラッグ・グレーティング)

いわゆるFBGセンサーが主体です。

FBGでは、光ファイバに回折格子を埋め込みます。
このファイバーは光が外に漏れないよう屈折率の異なる材料を組み合わせており、
そのコア側に光を通した際に、ひずみや曲げが生じると、
反射光や透過光に変化が生じるということを捉えます。

 

概要理解については例えば以下のようなものが参考になります。

※FBGはどのような原理でセンサとして使用できるのですか

また、過去に弊社のコラムにてトンネルの天井崩落を題材にセンシングについて少し述べたこともあります。

※トンネル の天井崩落対策へのFRP活用

 

FBG の技術はいわゆる「多点型」になります。

 

多点型は計測スピードが速いといったメリットがある一方、
歪や温度がどこの位置のことを示しているのかということを知ることができません。

 

一方で、もう一つの光ファイバセンシング形態である「分布型」は、温度や歪がどの位置のことを言っているのか、
ということを条件設定をすれば知ることができます。

そのため長手方向(光ファイバ方向)のセンシングをする目的に対しては、
分布型を選択することが多いようです。

※参考:どのように光ファイバセンサを選択したら良いか(光ファイバセンシング振興協会)

今回は、分布型の技術について学術業界における研究動向について書いてみたいと思います。

 

 

 

分布型の光ファイバセンシングの研究トレンドは ブルリアン散乱

積極的に取り組まれている光ファイバセンシングの基礎技術のトレンドは、

「ブルリアン散乱(ブリユアン散乱)」

であるというのが私の印象です。

 

ブルリアン散乱を理化学辞典で調べてみると以下のように書かれています。

————-
超音波によって光の振動数がわずかにずれて散乱される現象。
液体または固体の媒質の屈折率が熱振動の超音波、すなわちフォノンによって変化し、
光に対して一種の回折格子となるため、入射光に対する散乱校の異相が強め合う方向
(ただしブラッグ条件を満たす方向)に著しく散乱される。
この際、光波は音波によってドップラー効果を受けるので、
散乱光の振動数(周波数)が変わる。
(以下省略/一部省略)
————-
※引用元:理化学辞典 第5版

 

フォノンという言葉が出てきいますね。
フォノンについては以下でも述べたことがありますので、
こちらも合わせてご覧ください。

※FRP学術業界動向 高分子の中での フォノン とは

光ファイバセンシングという観点で、
ブルリアン散乱について最も大切なポイントは、
上記最後の部分にある、

「散乱光の振動数(周波数)が変わる」

という部分です。

光ファイバセンシングに関する研究発表を聴いていて、
ほぼ共通するのが

「光の周波数特性の違いを、取得するパラメータへの解釈に置き換える」

という考え方です。

そのため、センシング系の要素研究では、

「光の周波数を変える/異なる周波数を干渉させるためにはどのようなメカニズムが必要か」

ということが重要なトピックスとなっている、
というのが実際に研究発表を聴いたり、
論文集を読んだ印象です。

 

いくつか代表的な研究例をご紹介します。

 

 

入力光のスペクトルを調整することにより配向光雑音を低減する

Brillouin Optical Corerelation Domain Analysis (ブルリアン光相領域解析法:BOCDA法)という分布型光ファイバセンシング方式があります。

これは、連続光の干渉特性を制御して光ファイバに発生する散乱(ブリルアン散乱)を分布測定する技術とのことです。
この散乱光が温度やひずみに比例して周波数シフトするという特性を活用します(ブリルアン周波数シフト:BFSと呼ばれる特性です)。

 

現状では1.6mm程度の分解能と5000点/秒の高速測定は実現しているとのことです。

※本情報参照元
Brillouin Optical Correlation-Domain Technologies Based on Synthesis of Optical Coherence Function as Fiber Optic Nerve Systems for Structural Health Monitoring

 

 

レーザーによる出力光をポンプ光とプローブ光と呼ばれる2つの経路に分岐させ、
光ファイバ中で対向伝搬させます。

この際、プローブ光の周波数を変調器で下げるのがポイントとのこと。

ポンプ光とプローブ光が干渉したとき、
両方の光の周波数が時間変動する個所とそうでない個所が発生します。
周波数が時間変動する個所では時間と周波数の相関が高いことから、

「相関ピーク」

と呼ばれるピークが周期的に立ち上がり、またこれはプローブ光の変調周波数に反比例するそうです。

この特性を応用し、測定領域に一つだけ相関ピークが出現するようにプローブ光の周波数を調整することで、その位置において上述の散乱信号を抽出することができます。

これを連続的に行うことで、任意の位置における散乱スペクトルを取得し、
歪や温度の分布を把握します。

上記のメカニズムについては、
以下のページにより詳しく書かれていますのでそちらもご覧ください。

http://www.jfe-21st-cf.or.jp/furtherance/pdf_hokoku/2014/24.pdf

 

本測定形式の現段階での課題は、

「出力スペクトラムに背景光雑音が大きい」

ということのようです。

雑音が大きい上、光ファイバにひずみがかかると、
出力スペクトラムのトップピークがシフトと同時に低下することから、
背景光が大きいと、測定できるひずみの範囲(測定可能レンジ)が狭まるということになります。

(ひずみ由来の相関ピークが背景光に埋もれてしまう)

この課題に対する対策として、行われている研究アプローチの一つが、

「光源周波数変調波形最適化」

のようです。

これは横軸を周波数、縦軸を強度とした際、
スペクトラムの両端に出るサイドローブと呼ばれるピークを低減させるのが主な方向性です。

 

既存技術との定量的な比較は確認できていませんが、
光ファイバに4000μst程度のひずみがかかったとしても、
それを出力光の周波数シフトとしてとらえられた、
と発表がありました。

 

 

片側光入射による測定を実現するブルリアン光相関領域反射計(BOCDR)

もう一つ注目できる要素技術が、

「ブルリアン光相関領域反射計(BOCDR)」

というものです。

上述のBOCDA(ブルリアン光相領域解析法)とことなり、

片側からの光入射で動作する

という実用上の特徴があるそうです。

基本的な原理としてはBOCDAと同様、
歪や温度と線形関係にあるブリルアン周波数シフト(BFS)を取得します。

そしてBOCDRの場合、入射光に周波数変調させる際、
光源の駆動電流に正弦波変調を印加するという、
直接変調方式が一般的とのこと。

しかしながら、レーザー光の選択に制限がある(速度や深い変調ができる等)、
変調振幅が変調周波数に依存する等の課題もあるようです。

これらの解決への取り組みとして、
電気工学変調器を用いてレーザー光を変調する、
外部変調方式を研究する、
というのが一つのアプローチとのこと。

これにより正弦波変調に限らず、任意波形への変調を可能にしたい、
という狙いがあります。

こちらの研究でも課題の一つといえるのが、背景光雑音です。
これを低減させながら、分解能と測定幅(測定レンジ)を高めるという、
トレードオフの関係にあるパラメータ(NR = dm/Δz (Δz:分解能、dm:測定幅))を最適化しよう、
という取り組みです。

結果としては チャープ波形変調を基準とした場合(チャープ波形は時間とともに周波数変化が起こる波のため、複数種の正弦波が含まれていると解釈できるため任意の波形への変調と同等と考えられるとのこと)、時間経過とともに周波数の振れ幅を大きくしていくことにより背景光雑音を低減することに成功したとの研究発表もされています。
(ここでいうチャープ波は縦軸が周波数、横軸は経過時間の場合)

今後は空間分解能の精査やチャープ波形変調条件の最適化を行うとされています。

上記の研究は東工大の中村健太郎教授の研究室で行われています。

 

 

 

FRPへの実用化に向けた見通しについて

多点型のFBGは既にAirbusがA350において光ファイバセンシングシステムとして採用しています。

内容はFRPのひずみや損傷計測ではなく、
Bleed Air Overheat Detection System ということで、
純粋な温度センサーです。

https://saab.com/air/avionics-systems/control-and-actuation-systems/ohds/

 

Bleed Air というのはCabinの内圧を保つ、エンジン起動(タービンの回転起動)、エンジン回り(カウル)や翼先端の氷付着防止、トイレの排水吸引、使用する水の加圧、空調等に用いられる高圧エアのことです。

航空機エンジンのHPC(High pressure compressor )と呼ばれる多段高圧機構によって圧縮された高圧を分岐させることで導入します。

以下の動画ではBleed Airの基本に加え、課題も述べられていますね。

 

もう少し詳しく知りたい方は以下の動画が良いと思います。

Bleed AirがHPCの複数段の位置から取得されるケースがあること、左右別れたシステムでシステムを構築していること、窒素ガス発生装置、外気温計測システムにもBleed Airを用いるタイプの機体もある、最低でも18psi(1.2気圧程度:通常は42psi/2.9気圧程度)の圧力を保持する、254℃を超えるとオーバーヒートを検知してBleed Airを止める、といったことも述べられています(B737の場合)。

最後に書いたオーバーヒートを検知する、というのが上記のFBGセンサーが適用されたシステムになります。

コックピットの操作盤の画像を見るとイメージしやすいですね。

 

話を光ファイバセンシングに戻します。

自動車メーカーでもあるSaabがサプライヤですね。

 

これまでの電気信号と比較し、
システムが簡略化されるのが最大のメリットのようです。

そういう意味では光ファイバセンシングも今や身近なものになっていると考えます。

水面下では今回ご紹介した分布型の光ファイバセンシング含めて、
様々な適用が模索されていると考えます。

 

ここでもしFRPに適用しようとした場合はどうか、
ということについて考えてみたいと思います。

 

産業界での実適用を考え場合の最大の技術的課題は、

 

「光ファイバセンシングにおける歪みと温度の分離」

 

です。

 

今回参加した光波センシング技術研究会でも、
光源を強度変調することで実現しようという取り組みがありましたが、
まだ道半ばのようです。

 

実際に用いられる環境温度は様々であることに加え、
FRPはマトリックスが高分子のため温度による特性変化が起こります。

 

そのため、モニタリングする際の温度と歪みを分離することは極めて重要です。

 

本点が実現できればFRPに光ファイバセンシングを用いる動機付けが大きくなるでしょう。

 

センシングを実現するための光源、変調器、受信機等がどのくらいのサイズかによりますが、
特に長期間にわたってモニタリングが必要なインフラ、建築系、
並びに極めて高い安全性の求められる航空機業界等はニーズが高いものと考えられます。

 

 

 

10年以上前にFRPへの適用も積極的に検討された光ファイバセンシング。

 

当時主力だった多点型ではなく、分布型という選択肢が増えたことで、
さらなる適用領域を創出できる可能性が高まりつつあります。

 

そしてこのような時に必要なのは、

「異業種の要素技術への好奇心と基礎的な部分の理解」

だと思います。

 

どうしても企業や技術者個人は自らが得意な領域や分野にこだわってしまいがちですが、
これからの事態に必要なのは異業種の考え方だと思います。

 

一見関係のない業界同士が手を組むことによって新しいものを生み出す。

 

 

今回ご紹介したセンシング技術もその一つといえるかもしれません。

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