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FRP学術業界動向 高分子の中での フォノン とは

2016-02-29

今日のFRP学術業界動向では、高分子の フォノン ( 音子 )についてお話をしてみたいと思います。

(以下、高分子という言葉が多く出てきますが、FRPのマトリックス樹脂も高分子の一部であるという理解で読み進んでいただければと思います)


この話は高分子学会誌2月号(2016)の特集である高分子配向の道しるべという中で、日立化成の 竹澤 由高 博士が「 高分子の熱伝導に関与するフォノン 」という題目で記事を書かれています。


非常に興味深い記事であるのと同時に、FRPにも関連するお話ですのでここでご紹介します。

 

まず竹澤博士も述べられていますが、高分子というのは固体物理学的には「 無秩序構造体 」であるという前提があります。

 

FRPのマトリックス樹脂も高分子ですのでこの辺りのイメージはつきにくい方が多いようです。

化学系メーカーの方であればイメージを持っていただけるようですが、それ以外の業種の企業の方に熱硬化と熱可塑の高分子の分子構造とは(熱硬化は三次元網の目構造、熱可塑は長い紐が絡まったような構造)という概念的な話をしても、


「わからないでもないが、完全に腑に落ちない」


といった応答をもらうことが多いです。

 

これは致し方ないことだと個人的には考えています。


というのも、目で見られるといった多くの物理現象と異なり、本当はどうなっているのかという視覚化が困難な高分子の話をしてもわかりにくいからです。

しかしながら高分子そもそもの性質を理解することはFRP業界に関わる方々には必須の知見であり、裏を返すとFRP業界にいらっしゃる方々全体に不足している考えでもあります。


これは日本に限らず世界的に共通のことであるという印象を持っています。


高分子に関する知見が無いと、熱硬化性樹脂の硬化反応の意味合いや、熱可塑性樹脂の相転移や溶融、結晶性と非晶性の違いといったことの意味がわからず、成形加工工程の設計はもちろん、そもそも製品の設計ができないのではないでしょうか。

FRP業界ではほぼ9割近くの方が成形加工(特に成形部分)に注力する傾向があります。


この理由をいろいろ考えたのですが、恐らく実体の見えにくいFRPでものを作れるのだということを実感できる「成形工程」に注視してみることで安心したいという人間の深層心理に由来しているのではないか、というのが私の持論です。


全体を見ることができれば成形加工は全体の本の一部の話をしているにすぎず、大事なことは他にあるとわかるようになるのですが、そのような深いところを見るにはそれ相応の経験が必要なのでしょう。

 


さて話はずれてしまいましたがフォノンの話に戻ります。


フォノンというのは

「物質の振動(弾性波)を量子化したもので絶縁体の熱エネルギーの伝達媒体として取り扱われる」

と書かれています。


よくわからないですよね。


量子化というのは、古典力学(ニュートン力学)で説明できないミクロの現象を説明するために導入された量子力学で説明し直すことであると私は理解しています。


宇宙の誕生の初期を説明するためには量子力学で説明しなくてはならず、これが宇宙誕生直後の状態を理解するのに必要だといわれる一方、古典力学と量子力学の間に壁があり、両方をつなげないとすべてが説明できず、世界中の研究者が研究に日々励んでいる、とどこかで読んだことがあります。

もしかすると細かい理解は違っているかもしれませんが、専門外ですのでご容赦いただければと思います。


つまり、量子力学の観点から物質が振動するときに伝わる熱を伝えるものをフォノンと名付けたということです。

 

このフォノンには光学フォノンや音響フォノンといったものがあり、それぞれ高分子では一般的に用いられるラマン分光(ラマン散乱)、微弱な大気光の観測に用いるファブリ・ペロー型干渉計(ブリルアン散乱を観測)などがあります。


ラマン分光は赤外分光と似ていますが光の非弾性散乱により入射光と異なる振動数で光が散乱するというラマン散乱を測定するものです。

一例として、水溶液中での分析にはラマン分光が威力を発揮するということは良く知られています。


水分子は赤外吸収が非常に強いため水分子中にある溶解物をとらえることは難しいのですが、ラマン分光は入射光の波長をターゲットとする分子の吸収帯に近づけると、その吸収帯の発色団のラマンバンドが強くなり測定が可能になります。

またファブリ・ペロー型干渉計は熱圏鉛直風や電離圏と熱圏相互作用の研究、オーロラ近傍の鉛直風分布の観測などに用いられています。
http://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/kihou-vol48no2/toku0404.pdf


このように様々な観測技術として広く知られている一方で、

「熱振動に関与する音響フォノン(室温で励起されるフォノンの大部分)のような直接的に議論される」

ということはこれまで少なかったようです。


あくまでフォノンはわき役ということですね。


そうではなく、


「フォノンに注目しながら分子配向とフォノンについて高分子の熱伝導現象について概論を述べる」


というのが竹澤博士の記事です。


順にご紹介していきます。

 

1.高分子の熱伝導を決める因子とは

 

自由電子を持たない高分子では、熱伝導はフォノンが支配すると考えられているようです。
熱伝導率λは Debye の式で以下のように示されます。

λ=(1/3)Cv・v・l

Cvは単位体積当たりの熱容量、vはフォノン速度、lはフォノンの平均自由工程(フォノンが散乱されてから次に散乱されるまでの距離)とのこと。


いつも思うのですが、きちんとした理論式というのは本当にシンプルでわかりやすいですね。


たまに2、3行にわたる長く、そして複雑な式を組み立てているような方もいますが、私はそういう考え方はあまり支持できません。

現象をいかにシンプルにとらえるのかという大前提を忘れているからです。

今でも通用する理論式というのはどれも極めてシンプルです。


このような考え方は日々の研究開発業務でも心がけたいものです。

さて、竹澤博士は一例として熱伝導率が30W/(mK)のアルミナと0.2W/(mK)のエポキシ樹脂の違いがどの因子から来ているのか検証されています。

前提としてはアルミナもエポキシ樹脂も絶縁体ということです。


それぞれの熱容量、フォノンの速度、フォノンの平均自由工程をみてみると、フォノンの平均自由工程だけが著しく異なることがわかります。


アルミナは5.8nm、エポキシ樹脂は0.18nmです。nmはナノメートルのことで、10-9mのことをいいます。


つまりフォノンの平均自由工程を大きくすることで、高分子でも熱伝導率を高めることができることを示唆しています。


フォノンの平均自由工程はフォノンが散乱することにより短くなることから、フォノン同士の衝突による動的散乱と材料の幾何学構造不整(分子構造の乱雑さ)による静的散乱があるようです。

動的散乱は分子および格子振動の非調和性が原因で起こり、非調和性はファンデルワールス力では大きく、共有結合では小さいそうです。


静的散乱は材料の欠陥、非晶・結晶の境界といった非連続性が原因で起こることから、非晶性で欠陥も多い高分子では熱伝導率が低いということになるようです。


以上のことからフォノンの動的散乱を減らすために共有結合を増やし、静的散乱を減らすために結晶性や分子配向をそろえることで高分子の熱伝導性が高まることが予想されます。

 

2.フォノン散乱低減による高分子の高熱伝導化


フォノン散乱低減を目指した実際の取り組みが紹介されています。


まず熱可塑性高分子についてです。

熱可塑性高分子での高熱伝導化は「延伸」により実現しようという取り組みがあります。


ポリエチレンを例とした延伸による熱伝導率向上研究の結果、0.5W/(mK)程度だった熱伝導率が延伸倍率を30倍にしたところ15W/(mK)まで実に30倍近くに上昇するということが示されています。
また超延伸ナノファイバーにより100W/(mK)以上という金属並みの熱伝導率を実現したという報告もあります。

※参照元
Nat Nanotechnol. 2010 Apr;5(4):251-5. doi: 10.1038/nnano.2010.27. Epub 2010 Mar 7.
Polyethylene nanofibres with very high thermal conductivities.
Shen S1, Henry A, Tong J, Zheng R, Chen G.

 


この検証の中で、延伸方向と垂直方向では熱伝導率が低下していることから、分子や格子振動の非調和性がファンデルワールス力では大きく、共有結合では小さいということを裏付けています。

なぜならば熱可塑性高分子を延伸すると分子が延伸方向に配向し、延伸方向には共有結合がベースである分子が配列、その垂直方向には分子同士が直接はつながっていない分子間力、いわゆるファンデルワールス力が主として働くようになるからです。


熱可塑性高分子の中でも結晶性高分子については結晶化度を変化させること、つまり結晶性を高めることで熱伝導率が数倍に向上したという報告もあるようです。


その一方で熱硬化性樹脂についてはどうでしょうか。

FRPでも一般的に用いられる熱硬化性樹脂の硬化は極めて複雑に進行していきます。

そのため、分子の配向を制御するのは困難であるというのが一般的な解釈です。

この課題に取り組むために行われているのが液晶高分子の基本構成である「 メソゲン基 」を導入し、液晶高分子が棒状に配列するという特性を応用するというものです。

メソゲン基に関するようご説明は以下のURLを、代表的なメソゲン基の分子構造例を下図に示します。
http://main.spsj.or.jp/c5/kobunshi/polywords/polywordsMA.html

mesogen_liquid_crystal

( The image above is referred from here


また一例として液晶高分子が磁場により配列するイメージ図を以下に示します。
このように、メソゲン基導入により液晶としての性能が発現すると、外部刺激により分子配列をそろえることができます。

liquid_crystal_aligment


( The image above is referred from http://kuir.jm.kansai-u.ac.jp/dspace/bitstream/10112/5735/1/KU-1100-20080800-01.pdf

このような分子配列により熱伝導性は最大で数十W/(mK)まで上げることができたようです。


ただしメソゲン基は接着力低下、物性低下などのデメリットがあることも理解しておく必要があります。

合わせて架橋密度を上げる(架橋反応を起こす官能基の密度を上げる+硬化剤を増やすなど)ことも熱伝導率向上に効果があります。


ただし、分子を剛直にして動的フォノン散乱を低減するよりも、メソゲン基を導入するといった分子の規則性を高めることによる静的フォノン散乱の低減のほうが熱伝導率向上には効果があることは間違いないようです。

 


いかがでしたでしょうか。


今電機業界では、省エネに寄与するインバーターなどの大電流制御部品の小型化、普及にともない、加工性、絶縁性に優れる高分子材料をセラミック絶縁の代替として活用したいという要求は高まっているようです。

強度がより必要な場合はGFを入れたGFRPなどもこれらの適用の対象になりうるかもしれません。

FRPといったら航空機、自動車、バイク、船舶、風車、産業機械といった従来の考えにとらわれず、
異業種でも使われるのではないか、という観点が重要です。


その場合は、上記で紹介したような理論部分についても概要を理解し、顧客ニーズにあった材料の設計から行えるという戦略が重要になるに違いありません。

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