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粘着、接着における高分子の 界面 について

2016-12-19

今日の FRP 学術動向 のコラムでは、FRPを考えるにあたって必須の粘着、接着に関し、高分子(Polymer)の 世界からマクロ的視点で見てみたいと思います。


今回のコラムに関連した記事として、2016年10月号 高分子学会誌の神戸大学の西野 孝先生の
「高分子の表面・ 界面 と粘・接着:Interphase」をベースにFRPとの関連なども考えてみたいと思います。

 

粘着、接着と接合との違い

ここは西野先生が非常に興味深いことを述べられています。

一般的には安全性では抜群といわれるリベット、ボルト締結のような接合と比較し、
粘着、接着は2つのものをくっつけるという作業に対しては有利であるとのこと。

理由として、接合では点や線をベースにした物理的な状態がベースとなる「接合」と比較し、
粘着や接着は接着や粘着の単位が Pa ( N/m) で表される二次元界面を利用するというのは、
2つのものをつけるということに対しては有利である、というのがその理由とのことです。

尚、学会誌では述べられていませんでしたが、
ここでいう単位はあくまでせん断接着(粘着)強度のことを言っており、
開発の現場で粘着、接着強度評価でよく用いられる剥離(Peel)では N/m のように線での評価となります。


ただし、2つのものがくっつくという事象については記事で述べられている通り、
粘着、接着では界面( Interphase )での現象であることに間違いはありません。


西野先生の記事では、この粘着、接着の界面という考えについて従来の2次元にとどまらず、
3次元で考えるべきではないか、というところから本格的な内容への言及が始まります。

 

徐々に明らかになる高分子の界面状態


高分子のミクロ評価として用いられる評価手法として、
薄膜についてはX線、中性子反射率エリプソメトリー
厚膜については粘弾性顕微鏡などを用いることにより、
その表面状態が徐々に明らかになってきているとのことです。

ここで一つの事例として紹介されているのが結晶性ポリマーの

「経時的自着現象」

というものです。

つまり、時間が経過すると勝手に貼りついてしまう、といった現象のことです。

身近でもプラスチック製品やゴム製品などをずっと同じところに置いておくと、
べたつく、貼りつくといった経験があるかしれません。


この現象の一因として、表面のガラス転移温度(Tg)が低下するという現象が考えられるとのこと。


ガラス転移温度低下の深さ方向への影響は数十nm程度といわれ、
高分子の塊の大きさと同スケールといわれています。

その一方で構造緩和(β分散)と呼ばれる現状でとらえたところ、
250nm程度の深さまで現象が生じていたそうです。
Tgの低下という事象と比較しかなり深いところまで影響が出ていることがわかってきています。


PEとPPのオレフィン同士の接着が一例として紹介されています。

一般的にPEとPPは接着しませんが、メタロセン触媒で合成したPEとPPはよく接着したようです。
本事象はメタロセン触媒で合成されたPEでは絡み合いを残して分子鎖が折りたたまれてラメラとして結晶化し、
この絡み合いがアンカーとして寄与すると考えられているようです。

本事象の妥当性はX線の結晶回折プロファイルを見ることで確認されています。


Weld line のような同種材料の界面分析もPPが一例として紹介されています。

ここでは片側のPPを重水素にすることで、水素と重水素のコントラストをラマン分光による分光分析、
そして水素と重水素で熱伝導率が変化することを利用した走査型サーマル顕微鏡(SThM)で分析する例などが述べられています。

同種接着の場合、熱処理により接着層の厚みが増加し、剥離強度が増加するといったケースも報告されているようで、
異種材料接着と異なる振る舞いが見られるなど、興味深い事象が次々と明らかになっているそうです。

上述のように高分子の界面状況が接着や粘着という事象に大きな影響を与えているということが明らかになりつつあります。

 

FRPと高分子の粘着、接着

複合材料はそのものが接着という事象で成立している特殊なものと言えます。

既に20年以上も前に R. W. Venderbosch らは科学誌 Polymer に、

「マトリックス樹脂の特定成分を繊維近傍に偏在化させることで強靭性の向上と、残留応力の低減させる」

という研究を発表しているようです。

今現在でもガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)に関わらず不飽和ポリエステルやエポキシといった熱硬化性樹脂を用いたFRPが市場の大半を占めています。

その一方で、リサイクル性、高靭性、再賦形性といった観点から長繊維と熱可塑性樹脂を用いたFRPを使おう、という事例が徐々に増えつつあります。


ただ何も考えずに従来の繊維にそのまま熱可塑性樹脂を含浸させても、
含浸性が非常に悪いことに加え、繊維と樹脂の界面接着性が低く、
FRPとして成立しない、というケースが多くみられるようです。


特に炭素繊維はオレフィン(PP、PEなど)のような不活の熱可塑性樹脂との接着性が低いようです。
(従来のエポキシ系のサイジング剤ベースの場合)


これに対応するため、炭素繊維メーカーの中には熱可塑性樹脂に対応したサイジング剤を開発し、
熱可塑性マトリックス樹脂に対応する炭素繊維の販売を始めているところもあります。


これらの事象も結局のところマクロで見ていけば上記で紹介した

「高分子の界面」

という原理原則に行きつくことになります。


やはりどのような現象事象も突き詰めていくとサイエンスに行く着くということを感じる方もいらっしゃるかもしれません。


熱硬化に限らず熱可塑も含め、マトリックス樹脂の多様化が始まった昨今。

こういう時こそ一度ミクロに立ち返るという冷静な姿勢が必要なのかもしれません。

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