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日本繊維機械 学会 の秋季セミナーの発表、聴講を経て1

2016-12-26

このHPで報告しよう、報告しようとして遅れ遅れになってしまいましたが、日本繊維機械 学会 の秋季セミナーの発表と聴講を踏まえた記事を書いてみたいと思います。

※上記の写真ですが、予稿集と発表者に配られる赤い花を写しています。

まずは私が聴講した講演(抜粋)に関する感想です。

量がある程度あるので複数日で分けてみました。

 

新たな日本のものづくり変革

副題として素材による価値実現のために、という元東レの田中千秋先生による発表でした。

途中からの聴講でしたが(電車の時間の関係上)なかなか興味深いものでした。

お話をいただいた内容を項目として抜粋すると以下のようになります。
(抜粋になっているため、田中先生の発表意図と異なる部分があるかもしれませんがご了承ください)

a 再生資源は必要な技術ではあるが、副生成物が出るなど弊害もある

b CNF(セルロースナノファイバー)は新素材として注目されるが課題が多い

c これからものづくりで求められるものとして、製品設計、材料設計、製法設計のような業種間連携と融合が必要

d 東レはカスタマーであるユーザーと製品企画から関わるようにした(例としてBoeingやUNIQLOなど)

e 日本のものづくり産業ではIoTで出遅れている印象が強い

f 日本製品は品質の劣化が見られ、高付加価値という細いマーケットに逃げる傾向有

g 品質経営→すべてに対して品質を第一とする戦略が大切

ざっと書くとこのような内容です。

上記を踏まえ、共感できるところも多く、これからのFRP業界にも必要とされる部分が述べられていると思いました。

まず、業種間連携と融合が必要、という点です。

これは私はもう何年も前からこちらのコラムでもセミナーや講演でも繰り返し述べていることです。

野球に例えると攻、走、守が揃っています、というのはある意味前提として、
守るとしても内野に限らず外野や、必要に応じてピッチャーやキャッチャーもできる。

そしていざという時にはベンチで監督として選手に指示を出す。

このような中心的プレーヤー、つまり本当の意味での設計者が求められています。

ところが、

私は材料しかわかりません。

私はFEMしかやりません。

私はCATIAを使うだけです。

私は単体テストしかやりません。

私は製造検討のところしかやりません。

といったように、自分の業務に垣根を作る個人が非常に多く、これが結果として組織間、つまり業種間の壁となってしまいます。

当然ながら自分の主軸は持っていなくてはいけません。

ただ、他の部門のことも理解し、歩み寄るという姿勢で話を進めていかないと、
FRPのような材料、設計、製造、解析、品質といったつながりがとても強いものに対しては形にできないのです。

そしてもう一つが「品質の大切さ」です。

田中先生もおっしゃっていましたが、品質経営というやつですね。

FRP、特にCFRP業界を見ていて非常に奇妙だと思うのが、

「きちんと設計ができていない段階で、いかに安く早く作るかという所に注意が向きがちである」

ということです。

これは本当に不思議な事象です。
恐らく同じ感想を持っている方は他業種の方を中心に多いのではないでしょうか。

自動化や高速化を進め、単位時間当たりの製品を作るためにはどうするか、
という製法に関する検討の重要性に疑いの余地はありません。

しかし、

「そもそもFRPを使用する動機は何ですか」

という設計の根本に関する議論を始めると、明確に応えられる設計者は極めて少数です。

つまり、設計コンセプトに基づいた材料の適材適所の適用という設計初期段階の検討が極めてあやふやなのです。

このあやふやな状態で、いかに早く、安く作るか、といった議論に行くのはあまりにも稚拙と言わざるを得ません。

製法というのはあくまでコンセプトの具現化の一部であり、
タクトタイムだけを追い求めるものではありません。

ここで改めて考えなくてはいけないのが品質、つまり作ったものの信頼性です。

作る量に関わらず、ほとんど検査をせずに出荷すること前提で設計から販売まで話を進めてしまう企業が後を絶ちません。

形を作ることは手先が器用な日本企業では難は少ないかもしれません。

しかし、作ったものが本当に購入したお客様に対し危険はないのか、
という所に対し注意がほとんど向いていないケースが非常に多いのです。

金属のように材料の規格(スペック)と製法の規格が熟成されているのであれば問題ないでしょう。

”長年の経験”

というもので品質が担保されているからです。

しかしFRPは製法はおろか、材料に関する規格さえ一部を除き世界で存在しません。

このような状況に目をつぶって品質を考えずに販売してしまうのはあまりにも危険ですし、
何よりお客様に対する目線がなさすぎなのではないでしょうか。

もちろんもう一つの考え方として、歩留まりを品質と考える見方もあります。

どれだけ高速で作ったとしても、出てくるものに外観不良が頻発してしまっては製品の出荷が間に合いません。
そして不合格品の連発により製品単価も上がっていくことになります。

このような観点も含め品質を改めて考えてみる必要があります。

業種間の垣根を低くする、品質に対する意識を高めるという2点について私の意見を述べてみました。

FRP業界に限らないお話なのかもしれません。

 

価値創出を指向したものづくりへの動き

こちらはかなり勉強になりました。

大阪大学と神戸大学の名誉教授である岩田一明先生の講演です。

同じく内容について箇条書き(一部抜粋)で述べてみたいと思います。

a 価値観というものは何か→一人ひとりによって価値というものがそもそも違う(非常に多様性がある)

b 現在の価値観の実質的標準として Schwarz価値というものがある

c 価値を分類するときの基軸は「自己本位か社会本位か」と「現在中心か未来中心か」
→日本では社会本位で現在中心、つまり身近な人たちと和やかな毎日を送るという所に価値を求める傾向がある

d 近年注目される価値の分類として「実用価値」と「精神価値」というものがある

e 消費者対象価値と社会環境対象価値の事例紹介

f Industries 4.0 の課題

g IoTの意義とは

h 新事業のデザイン思考

i レジリエンス・エンジニアリングというリスクヘッジ

j 近未来のものづくり→日常生活や社会からの無駄の排除がメインだが、有用な無駄もあるのでは

前述の通りかなり勉強になり、また感銘を受けた講演だったのですが、
かなり範囲が広かったため特に印象に残ったところについて述べてみたいと思います。

まず最初に感銘を受けたのがdの「実用価値」と「精神価値」というものです。

岩田先生が述べられていたのはそれぞれについて以下の点です。

実用価値:
性能、機能、便宜、感覚等

精神価値:
コスト、貴重、期待、願望等

FRPの話とは少し離れてしまいますが、
世の中のコンサルタントと言及する方の多くが「精神価値」に主軸を置いたものになります。

例えば、精神的苦痛を取り除いてほしい(和らげてほしい)、
人間関係の問題を解決したい、お金の問題を解決したい、などなどです。

それに対し、エンジニアリングの多くは実用価値に主軸が置かれる傾向があります。

もちろんすべてではありませんが、精神価値は評価そのものが定性的になりがちであるため、
とても難しいのです。

これを少しでも定量化しようということで Design of Engineering (DOE)などの技術もありますが、
個人的には精神価値に主軸を置いた経営や製品開発には経営トップがその精神価値に強い思い入れや、
共感を持てる場合を除き困難であると思っています。

そういう意味ではFRPの製品開発に精神価値を取り入れることで新たな訴求性が生まれるのであれば、
事業性としては一つ前進といえるかもしれません。

尚、少しだけ経営的な話をするとこのような議論は会議室にこもってやればいいわけではありません。

どちらかというとリラックスした状態で他のことを考えた時にふと思い浮かぶケースが多いようです。

色々な顧問先でも似たような議論(新規事業開発)はありますが、会議室にこもって時間を使うのはできる限り回避したいものですね。

もう一つ感銘を受けたのがfの Industries 4.0 の課題 という項目です。

私も関連の業界紙で別の連載を持っていますが、私から見てもやや危惧する点があるのも事実です。

まず岩田先生がおっしゃっていた Industries 4.0 の課題に関する議論は、

– 技術者による機械主義、生産指向的なアプローチに偏っており、ヒトの視点が考慮されていない

– 標準化に時間がかかる
→米国によるIT主導のアプローチにより先を越される可能性(常に後塵を拝す状態)

– 投資効果の正確な予測が困難
→生産性が30から40%上がるという予想の根拠が不明確

– クラウド管理されたデータに対するサイバーテロの可能性

といった点です。

上記についてはどれもなるほど、と感じる部分が多いですね。
特に米国や欧州の後追いする傾向の強い日本のものづくり業界では、
先陣を切った国や企業の「良い顧客」に陥る可能性が高いです。

そもそそもIndustries 4.0はドイツ発祥ですし、IT基軸というのも米国が主導権を握ろうとしています。

ここはFRP業界も同じですが、

なぜか「欧州や北米の情報(特に欧州) = 最新情報/正解」と捉える人が多いような気がします。

ご自身の主軸の考えがない人が多いのです。

このままでは日本は欧州などで開発された高額な設備などを入れ、試作をしたものの製品にならない、
という流れを絶つことが難しくなるでしょう。

今のFRPでも同じですが、Industries 4.0に関連して IoTなどでも同じ流れが出る可能性があります。

一つだけ加えておかなくてはいけないのは日本で多くの人が上記の傾向が強いですが、
欧州や北米も結局は同じで、彼らもほんの一握りの人の考えに同調して動いているにすぎません。

ただ日本が特徴的だと思うのは、組織でそれなりの上の立場の人でも主軸が無く、欧州や北米の情報に追従する傾向が高いことです。

欧州や北米では組織の上に行けば行くほどご自身の考えを強く持っている方が多いです。
彼らはひとからきいた話ではなく、自分の意思で話をしているということが本当によくわかります。
経験が豊富なのでしょうか。

日本はその逆で30代半ばから40前後の方が最も意思を持っていらっしゃるようです。

ただ、立場的になかなかその意思を前面に出す場面が少なく、やりにくいといった状況なのかもしれません。

そして組織の上の人は予算を確保するといった局面で自らの意思を押し殺しているのかもしれません。

いずれにしても自らの意思をもって前進するという考えを組織の上と中間層が共有していかないと、
FRP業界もIoTと同様、欧州や北米の良い顧客で終わってしまう恐れがあります。

もう一つがIoTの脆弱性です。

岩田先生はサイバーテロとおっしゃっていますが、
何よりIoTは電子データですので非常に電力に対する依存性が高く、そして有事に脆い。

私は顧問先でのデータ取得などに対して、必ずデジタルとアナログを併用するよう指導しています。

初めは違和感を感じるケースもあるようですが、アナログとの併用の重要性を感じるのは、

「本当に問題が起こった時」

です。

IoTは電力が安定的に供給されること前提で機能する技術です。

しかし、日本であっても電力が常に安定的に共有できない可能性がある、ということは東日本大震災で証明されました。

電力が失われることでデジタルデータはすべて失われる可能性もあります。

そのため顧問先経由でサプライヤ監査を行う時はほぼ間違いなく非常用電源の確認を行います。

これはデジタルに対する危機管理体制がどのレベルにあるのかを見るのに最も基本的な視点だからです。

ただどれだけ確実と思っても確実でないのがデジタルの弱点。

もちろんアナログも100点ではありませんが、デジタルとアナログは両方揃ってリスクヘッジになることを再認識したいところです。

 

いかがでしたでしょうか。

FRPの話だけでなく、もう少し広い観点で話をしてみました。

業界違えど、課題は似たものがあるということを感じていただけたかもしれません。

次回のコラムでは個人的に感銘を受けた講演をもう一つご紹介し、
合わせて私の発表に関するご報告をしたいと思います。

 

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