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3D printingを想定したComposite Materials Handbook-17のVolume 7のリリース

2026-02-16

FRPを含む複合材料の中で、技術的な観点で最も本質的な内容をまとめたものの一つであるComposite Materials Handbook-17(CMH-17)。

源流は軍需関係の規格であるMIL-17から来ています。

その流れをくみながら、FAA(Federal Aviation Administration)が管理を引き継ぎ、
Composite Material Organizationが実務を遂行しているようです。

Handbook発行は航空機や自動車など、
乗り物に関連する技術教育や規格開発などに関する活動を行う非営利団体のSAE Internationalが担っています。

 

※参考情報

About SAE International

 

 

今回はCMH-17で新たに発行することが決まった、
3D printingを主としたAdditive Manufacturingを対象としたVolume 7のリリースについて取り上げます。

 

 

 

CMH-17とは

CMH-17をご存じない方もいると思いますので、
概要を先にご説明します。

以下のようなサイトが参考になります。

Composite Materials Handbook-17

 

一言でいうと複合材料の使用に関する指南書といったところでしょう。

複合材料なのでFRPはもちろん、金属をマトリックスとするMMC、
セラミックスをマトリックスとするCMC、後述する3D printingなど広範の材料と関連技術がその対象です。

試験や試験数の削減、そして複合材料の特性を報告することに関する、
技術データ蓄積手法を標準化することが主目的であると書かれています。

FRPを含む複合材料は評価方法や評価結果の解釈、
並びにそれらの解析や当該材料を用いた設計について、
ある意味特異な知見が必要となります。

この辺りを包括的に理解できるようにまとめたものという理解で大きな問題はないでしょう。

そして当然ながら材料、評価、設計、製造などの各領域において技術的な進展があるため、
適宜改訂されていくのが特徴です。

2025から2027年にかけてCMH-17の改定とその計画があり、
2026年はその真っただ中といえるでしょう。

 

CMH-17の改訂作業には学術、産業、行政から国を問わない参加が求められている

CMH-17で記述されている内容は、
読者がそれを”鵜呑み”ではなく

「背景理論や実践経験も踏まえて正確に技術的内容を理解できる」

という前提はありますが、大変役立つ細かいノウハウまで記述されています。

このような詳細は通常隠したくなるのが一般的な感覚です。

しかし閉鎖的な空間では技術的な進歩や進展、ましてや創造が望めないのは、
今多くの研究者や技術者、そして企業や研究機関が直面している現実でしょう。

これに対し、CMH-17はMIL-17の時代から非常にオープンです。

各専門領域に分かれたWG(ワーキンググループ)が不定期に議論を重ねています。

日系のFRP関連材料メーカであるTorayやTeijinも本取り組みに参加している、
という記述もあります。

2026年でいうと、2026年5月11日から15日にも春の会合があるようです。

 

※参照情報

2026 CMH-17 Spring Joint Coordination Meeting

 

この会合の計画を見ると、今回新たに発行予定のVolume 7関連のAdditive Manufacturingについての議論も散見されます。

 

改訂には外部の意見を参照した上での承認が必要

改訂工程もオープンです。
例えばCMH-17の内容について加筆修正を行おうとした場合、
Yellow Pagesと呼ばれるリスト掲載の組織に送られ改定内容に関する技術的なコメントを求められます。

返信されたコメントをCMH-17の事務局(WGの上位組織のようです)が取りまとめ、
懸念点などがあればその解決に取り組むとのこと。

その上で再度前出のメンバーと調整の上、
最終的な技術コメントを会合で提示して決裁を試みます。

合意されれば改訂、拒否されればWGに戻されるようです。

公開型の技術議論が徹底されているのがお分かりになるかと思います。

なお、Yellow Pagesというのは航空機業界ではサプライヤリストのことを指します。
上記でいうものとこれが同一かはわかっていません。

 

CMH-17の内容は多岐にわたる

CMH-17と一言で言ってもその範囲は広いといっていいでしょう。

この辺りを俯瞰して見るための参考情報の一つとして、
以下のような資料があります。

 

※参考情報(pdf資料のダウンロードページに移動します)

Advances in CMH-17 content for PMC – EASA

 

この資料の9ページ目がCMH-17の主たる項目の全体像になります。

Volume 1-6の各題名は以下の通りです。

  • Volume 1 Polymer Matrix Composites: Guidelines for Characterization of Structural Materials
  • Volume 2 Polymer Matrix Composites: Material Properties
  • Volume 3 Polymer Matrix Composites: Materials Usages, Design, and Analysis
  • Volume 4 Metal Matrix Composites
  • Volume 5 Ceramic Matrix Composites
  • Volume 6 Structural Sandwich Composites

Volume 7は冒頭述べた通りAdditive Manufacturingになると思います。

このタイトルを念頭に置いて上記の資料9ページ目を見ると、
何となく内容がイメージできるかもしれません。

過去、私が連載記事として書いた以下の記事はCMH-17でいうとVolume 3の一部に該当します。

 

※過去の連載

「 機械設計 」連載 第二十四回 分散分析モデルによるFRP静的材料データからの設計許容値算出法

 

次に今回の主題であるVolume 7のリリースについて述べます。

 

 

Additive Manufacturingを対象にしたVolume 7の概要

CMH-17のVolume 7については、以下の記事を参考にしました。

 

※参照情報

CMH-17 updates composites data, will publish new Volume 7 on additive manufacturing / Composites World

 

この記事の中ほどにある”Volume 7 – Additive Manufacturing”というところからが、
主題に関する内容となります。

 

活動開始とリリース時期

2018年からWGとしての活動を開始したとのこと。
Volume 7の発行は2026年末と書かれています。

 

記述対象となるもの

積層方法としては、Fused Filament Fabricationを主とすると書かれています。

パウダー状の樹脂にレーザーを当てて溶融させながら積層していくイメージです。
昔はRapid Prototypingといえば、金属粉末にレーザを当てて焼結させていました。
それに近いですね。

Fused Filament Fabricationは繊維形態のフィラメントを溶融させていくイメージに対し、
Fused Deposition Modelingは粉末形態のものを溶融させるという記述もあります。

一方でFused Deposition ModelingからくるFDMという名称は商標であるという記載も認められます。

細かいところの解釈はこの辺りの専門家の方々に譲ろうと思いますが、
ようは3D printingを主とした一般的なAdditive Manufacturingを対象にしている、
ということだと思います。

 

材料と積層工程を中心に一気通貫で解説

Additive Manufacturingも知財として保護されている情報が多いため、
系統立てて情報を取ることは容易ではないのが現状とのこと。

CMH-17ではこのような課題を解決するため、
材料と積層工程を中心に一気通貫での解説を行う構成にしているようです。

 

対象となる材料は樹脂単体、もしくは短繊維含有したもの

記述対象となる材料は樹脂単体、または短繊維を含有したFRPになるとのこと。

短繊維はより具体的にはチョップ材やミルド材とのことです。
前者は繊維を短く切断した者後者は繊維をすりつぶしたイメージの粉体材料になります。

具体的なマトリックス樹脂として、PEKKやPEIが含まれるという記述もあります。

 

※関連コラム

Milled Fiber を積層方向に配向させた機能性シート材

レーザー焼結法向けの PEKK をマトリックスとした導電性CFRTP

 

積層方法や統計学的解析に関する考察も掲載

様々な積層方法を比較することに加え、
積層体の特性ばらつきについて統計学を用いて解説する等、
技術的な考察も行っていると書かれています。

これらの情報はこれからの航空機の型式証明にも活用できる部分があり、
その足掛かりとして活用してほしいという趣旨の記述もあります。

ここでいうこれからの航空機とは、AAMやeVTOLなどを指しているものと考えます。

 

 

Volume 7以外にも改訂が行われる

既に改定が行われたVolume 3に加え、
ここから続々と改訂版が出るようです。

改訂が予定されているVolumeとその概要について触れておきます。

 

Volume 3 / Polymer Matrix Composites: Materials Usages, Design, and Analysis

大きな情報の加筆は”接着/接合”に関するもののようです。

接着だけでなく、機械締結による接合について、
損傷許容や信頼性に関する情報、
さらには補修についての情報も加わったとのことです。

そして宇宙向け、並びにエンジンに関するChapterが追加されたと書かれています。

 

Volume 5 / Ceramic Matrix Composites

酸化物セラミックスであるOx/Oxに関する複合材料の材料データが初めて掲載されるとのこと。

繊維の特性やクリープに関する評価方法、
そして耐環境性コーティングとも呼ばれるEnvironmental Barrier Coatings (EBC)の情報も含まれるようです。

 

※関連コラム

FRP自動積層を応用した新しいCMC製造法

高耐熱複合材料の CMC ( Ceramics Matrix Composites )

 

Volume 2 / Polymer Matrix Composites: Material Properties

材料データ追加が主たる改定内容ですが、
従来の織物やUD(一方向材)に加え、
ハンドレイアップ、プレス、AFP(Automated Fiber Placement)とい異なる工程で積層した材料のデータ(こちらは、掲載すると断言はされていませんがニュアンスとして掲載されると理解)や、
織物の強化繊維に熱可塑性マトリックス樹脂を合わせた熱可塑性プリプレグ、
いわゆるOrganosheet、さらには樹脂が強化繊維に完全含浸していないSemipregについてもデータが掲載されるようです。

 

Volume 6 / Structural Sandwich Composites

コア材に注目した改訂を行うようです。

主にはハニカムの材料であり、アラミド材料を用いたNomex、
従来の金属製のハニカムとフィリングコンパウンドを組み合わせたコア材、
さらには曲率変形を可能にするflex coreに関するデータも掲載を考えているようです。

かなりのデータ追加が予定されているようで、ページ数は改訂によって倍に増加するだろう、
という記述も認められます。

なお、flex coreについては以下のようなサイトで概要を見ることができます。
六角形でないため、面外方向への変形が可能となっています。

 

※参考情報

アルミニウム製ハニカム Flex-Core(R)

 

 

最後にこれらの情報を念頭に理解しておくべきポイントについて述べます。

 

 

 

書籍の情報はあくまで机上の情報であることを忘れない

ここまでご紹介した内容を踏まえると、
CMH-17を手に入れればすべてを手中に収めたと感じる方がいるかもしれません。

ただ研究開発、試作、そして最終的には量産まで最前線で試行錯誤してきた私が言えることとしては、
それほど現実は甘くないということです。

特に3D形状を持った最終部品を量産する川下での最終出口だと想定外のことが多く起こります。

CMH-17の作成に関わる方々は当然ながら専門家ではありますが、
個々人の実践経験にはかなりの幅があるはずで、
百戦錬磨の方から現場から遠く離れたところで理論を研究されている方までいると思います。

実践経験と理論、どちらも重要です。

もっと重要なのはこの両方を兼ね備えつつ、
不測の事態が当たり前に起こるだろう、
ということを想定できる慎重さと謙虚さです。

CMH-17はあくまで技術的な理論を補填し、
量産前の研究開発段階で将来的に起こり得るであろう課題を想定するためヒントを提供することこそが、
その役割なのです。

CMH-17に書いてあることが絶対正義だ、
といった妄信も大変危険であることは言うまでもありません。

 

 

自分なりに解釈し、より前進する試みを忘れない

CMH-17で書かれていることは、相応に深掘りされているものが多いです。

しかしこれらの情報はあくまで出発点です。

当社の顧問先にも類似のことを話していますが、

「手に入ったものを土台にしながらも、実験や試験、市場問題などの実践経験を取り入れながら、
その技術的理論を磨く姿勢が不可欠」

です。

 

特に量産の様な後が無い状態で試行錯誤で前進したという自らの体感こそが、
”技術の本質”です。

これは本当に貴重なものです。

 

しかしながらそのようなことは言語化が難しいこともあり、
CMH-17には記載されていないのです。

 

CMH-17をじっくり読もうという時間があるのであれば、
一刻も早く量産フェーズに移れるよう、
目の前の業務に邁進することに時間を優先的に使う姿勢が重要です。

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