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Milled Fiber を積層方向に配向させた機能性シート材 Vol.172

2021-05-03

Milled Fiber を積層方向に配向させた機能性シート材 ということについて述べてみたいと思います。

 

北米にある Boston Materials という Northeastern University からスピンアウトした企業が、

「Milled Fiber を積層方向に配向させた機能性シート材を用いた強化繊維やプリプレグ」

をリリースしました(リリース自体は2020年のようです)。

 

CNT等のナノスケールよりは大きい 0.05~0.2 mmの milled fiber がその主役ですが、
様々な機能性発現が期待されているようです。

 

 

 Milled Fiber を積層方向に配向させた Supercomp(R)

Milled Fiber というのは繊維を粉状に粉砕したようなイメージの材料になります。

以下のページに掲載されている画像を見ると、
それがどのような外観かを理解できるかもしれません。

https://www.elgcf.com/products/carbiso-milled-fibre

FRPにおける強化繊維では、マトリックス樹脂からせん断モードを主体に荷重が伝達すると考えられており、
それを Shear Lag Model といいます。

そして最大荷重を繊維に対して伝達するに必要な下限繊維長があり、
そこまでは繊維長を短くしてもFRPの性能発現について、
理論的には大きな問題は無いと考えられています。

このような性質を応用して繊維と樹脂の界面接着特性を評価するのがフラグメンテーション法であり、
過去には以下のコラムでご紹介したこともあります。

※ はじめてのFRP 界面接着評価 フラグメンテーション法 とは

このようなFRPにおけるマトリックス樹脂から繊維への荷重伝達メカニズムを考慮し、
Shear Lag Model における下限値付近の繊維長でもFRPとしての性能が発現すると期待して用途が検証されているのが、
Milled Fiber といえます。

今回ご紹介するのは Boston Materials の Supercomp(R) という材料です。
Boston Materials のHPは以下で見ることができます。

https://bostonmaterials.co/

上記のページには Supercomp(R) の価格も書かれていますね。

材料形態としては PET フィルムの上に、
Milled Fiber が積層方向(厚み方向、Z方向)に配向したというシート材になるとのこと。

 

この材料の概要を見ていきます。

 

 

Supercomp(R) のつくり方

この辺りは以下の Composite World の記事でわかりやすく述べられています。

Z-direction composite properties on an affordable, industrial scale
https://www.compositesworld.com/articles/z-direction-composite-properties-on-an-affordable-industrial-scale

材料外観は 60 inch(約150cm)幅のロールシート材料です。
寸法は一例かと思います。

Milled Fiber はPET製のフィルムの上に「生える」状態となっており、
このシートが通常のプリプレグの中間層に入っているイメージです。

Milled Fiber を分散させた水溶液中にPETフィルムを通し、
その際に磁場をかけるとPETフィルム上に Milled Fiber が配向して、
厚み方向に直立する状態になるようです。

当然ながら炭素繊維は磁性体ではないので不思議な状況ですが、

「this alignment is the trick」

と述べられているにとどまり、詳細は明らかにされていません。

 

CNTのように「基材上に成長させる」という必要性が無いため、
プロセススピードもそれなりに高いようです。

最終的には溶媒である水は除去されることで、
乾燥した基材となります。

この Milled Fiber を担持したフィルム基材は

「ZRT」

という名称がつけられています。

ZRTと一般的な連続繊維強化のプリプレグを組み合わせたものが、
Supercomp(R) となります。

ZRT は以下の動画で見る限りドレープ性も高く、
取り扱い性も良好な印象です。

よってZRTを用いているSupercomp(R)も一般的なプリプレグと同等の使い心地かと思われます。

また、使用している Milled Fiber の材料はリサイクルされた炭素繊維とのことで、
価格も抑えられているという風に述べられています。

個人的な印象として、一般的にリサイクルの炭素繊維が本当に安いかは不明です。

ただ、リサイクルの炭素繊維を用いているということで、
地球環境にやさしいという「イメージ」を発信することは可能かと思います。

 

 

Milled Fiber を積層方向に配向させたことによって発現する効果

次にこの材料を用いてどのような効果が出るのか、
ということについて述べてみたいと思います。

まずSupercomp(R)が示す特性として、

– 層間強度

が挙げられています。

層間強度については少なくとも、通常の平織のFRP積層体に比べ、
層間引張強度が50%向上したと書かれています。

細かいデータは参照した Composite World の記事には書かれていませんが、
積層したFRP表面にナット(もしくはヘリサート)を埋め込み、
この部分をボルト締結して層間方向に引張るという試験が一例として述べられています。

このFRPにおいて Supercomp(R) と平織強化繊維のみの場合と比較し、
上述した通り50%の層間引張強度向上が認められ、
また周辺材料の破壊による金属締結部の浮きが Supercomp(R) を併用した場合には生じたとのことです。

 

Milled Fiber が担持されたPETフィルムであるZRTについては追加として、

– 熱的特性

– 電気特性

– 振動特性

という観点も述べられています。

尚、収率50%以上でPPS、 PEEK、PEI、PA-6、PA-12、bio-PA等のフィルムへの再担持も可能と書かれています。

 

熱的特性については熱伝導率の向上が示されています。

一般的な炭素繊維(連続繊維)の場合、15~20 W/mK程度の熱伝導率がありますが、
これがFRPの強化繊維として用いられると、層間方向の同特性は最大で10分の1(0.2 W/mK)くらいになります。

厚み方向における強化繊維間に存在するマトリックス樹脂層が絶縁層になるためです。

ここでZRTが中間層として入るとその値は10 W/mKになるとのこと。

上記の値は炭素繊維がPAN系のものである場合であり、
もしPitch系のものを用いると600~900 W/mKになると書かれています。

本特性を利用して考えられているのが「熱交換機」としての活用です。

FRPのマトリックスは樹脂なので複雑形状にも成形できるということをポイントとして、
熱交換機の試作品も上記で紹介した Composite World の記事で紹介されています。

試作品ではアルミ材料のものと同等の熱交換効率を実現したと述べられており、
熱電同特性は金属に近くなっているようです。

 

電気特性としては、熱伝導率と同様、電気伝導率が向上するという効果です。

CFRP母材表層をZRTで被覆すると、落雷試験でも母材に損傷が生じない、
という試験が述べられています。

これは、落雷対応としてFRPに金属メッシュを埋め込む必要のある、
航空機の外板材料への新たな展開材料として、
注目されているようです。

金属メッシュなどの重量増や追加工程無しに、
熱伝導率をFRP材料自身で維持できるからです。

金属メッシュを埋め込んだFRP等については、過去に以下のコラムでも述べたことがあります。

※ FRPと金属、塗装 複層構造 の熱変形シミュレーション
※ FRPの 落雷 対策を考慮した 自動積層

 

振動減衰としては固有値解析の結果が示されています。

ZRTが用いられたことで同一形状の成形体について固有値が低下しており、
これが減衰特性の向上と直結するとのことです。

私個人的には固有値の値というよりは、
減衰特性であれば半値幅法等で振動応答波形から減衰比を算出しなくては何も言えないと考えていますが、
同一形状で同一重量であるという前提であれば、
固有値が弾性率の平方根に比例するという特性から固有値の低下=減衰特性向上、と言いたいと想像しています。

この背景を少し述べてみたいと思います。
系が加振される際、その系には強制振動と自由振動という2つの挙動が生じます。
このうち、後者は系内部での自発的な現象であるため、この自由振動と同じ振動数で系が加振されると、
当該加振によって得られるエネルギーを吸収して振幅が時間に比例して直線的に増大し、「共振」という状態になります。

このときの周波数のことを固有値(固有振動数)と言います。

1自由度力学モデルでの不減衰系における固有値は

であり、ここでいうkが弾性率であるのが、上記で述べた理由です。

FRPのマトリックス樹脂である高分子は粘弾性材料であることから、
弾性率が低下するということは粘性項がより支配的になる、
ということと同等と考えているのかもしれません。

ただ、普通に考えればここは振動応答をFFTで見るのは必須と考えます。

 

 

 

Milled Fiber は上記でも述べられていたように、
炭素繊維のリサイクルという観点から見ると興味深い材料といえます。

繊維粉砕というダウングレード(元の材料よりも性能や特性が落ちること)に値するため、
マテリアルリサイクルを実現する選択肢になりうるからです。

また、配向を制御することで機械特性はもちろん、
電気特性、熱特性、振動特性などにも影響がでていることから、
FRPを新たな機能材料として適用するにあたってブレークスルーになるかもしれません。

今後が楽しみな材料の一つといえそうです。

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