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硬化中のFRP強化繊維の変形を計測するマルチコア光ファイバセンサ

2023-03-20

FRPは強化繊維とマトリックス樹脂から構成される複合材料です。

そしてマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合はもちろんの事、
熱硬化性樹脂であっても硬化収縮という現象によってひずみが生じます。

薄いFRP板を成形する際、強化繊維の配向の影響も受けながら”ねじれ”をはじめとした変形をするのを目撃するとその意味が分かるかもしれません。

加えて成形時は樹脂が熱によって一旦低粘度化して、熱硬化性樹脂がマトリックス樹脂であれば硬化が進んで硬くなる、同熱可塑性樹脂であれば冷却することで固化します。

この一連の工程において強化繊維が移動して配向や位置が積層時と異なるといったことも生じます。

強化繊維の位置や配向の変化が複合材料としての特性も変化させることを考慮すれば、
これらの状況をモニタリングすることは適した積層構成や成形工程、そして金型設計を検討するにあたり重要な情報を提供すると考えられます。

今回は上記のような強化繊維の移動や配向変動といった変化を、変形を主パラメータとしてセンサで捉えようという取り組みを以下の記事を参考にご紹介します。

Measuring ply-wise deformation during consolidation using embedded sensors

尚、上記は東京大学の水口 周先生という方の解説記事をComposite Wolrdが掲載したものになります。

※参照情報
東京大学 水口研究室HP

 

 

硬化工程中の強化繊維の状況を捉える候補技術には課題がある

議論の対象となっているFRPは熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂としたFRPとのことです。

まず、硬化工程中の強化繊維の状況を捉える現行手法として3つほど紹介されています。

一つ目がCAE(シミュレーション)。
繊維配向や位置を予測する技術があるもののその多くが硬化後の状況であり、
硬化”中”にどのような変化が生じるのかについて予測するソフトはあまりないとのことでした。

概ね内容としてはその通りですが、最近この辺りも予測しようという取り組みが始まっています。
予測精度のほどはよくわかりませんが、成形に伴う強化繊維の配向移動を見ようという着眼点はあるとみて問題ないでしょう。

※関連コラム
Aniform と Digimat を組み合わせた工程から成形体までのシミュレーション

 

このような強化繊維の移動や変形には強化繊維の引張に加え、曲げとせん断に関する情報を非線形特性を含む連続データとして入力する必要があり、評価前の強化繊維の特性データ取得が最重要であると言っても過言ではありません。

例えばピクチャーフレーム試験という試験を聴いたこともないという方が恐らく多いと考えれば、
強化繊維単体の特性評価はまだまだ一般的でないと感じます。

 

二つ目はX線CTによる評価です。
これは記事でも述べられているように産業界でそこまで一般的な検査設備でない上、
細かく見ようとすればするほど視野が狭くなるという問題もあります。

設備自体は安価なものも登場してきているため、FRPの非破壊検査技術として身近なものになりつつあると思います。

ただし結局のところ被ばく防止のため遮蔽する必要性を考えれば計測できるサイズにそもそも限界があり、遮蔽室内でFRPに熱をかけながら状態を見るというはあまり現実的とは言えなそうです。

3つ目が光ファイバによるセンシング。

多点型のFiber Bragg Gratings(FGB)等はその一例です。
ブルリアン散乱現象を応用した分布型は温度や歪みの位置まで特定できるなど、確実に実績を上げている技術の一つとも言えます。

※関連コラム
FRPにも適用できる光ファイバ センシング の最新研究動向

 

光ファイバ1本を使ったモニタリングだと、硬化工程において粘度が低下した際に光ファイバが材料との密着が弱くなり当該材料の変形に追従できないとのこと。
この状態になると、光ファイバはある程度自由に動ける状態に近くなるため、本来見たい変形を見ることは難しくなると考えます。
これは私にとって盲点でした。

この3つ目の技術の課題を踏まえて新たに提案されたのが今回の技術のようです。

 

 

in-situ consolidation monitoringのコンセプト

マルチコア光ファイバを基本としたセンシングでFRPの強化繊維の変形を計測

今回紹介されている技術はin-situ consolidation monitoringと表記されており、光ファイバがセンシング技術の基本です。

FRPとして強化繊維とマトリックス樹脂がどのような変形を経由して一体化、
つまり複合材料になるのかについて「強化繊維の変形」を基軸としたセンシング技術といえるでしょう。

まずはコンセプトについて触れていきます。

 

強化繊維の変形をモニタリングするFRP材料と同一材料で光ファイバを被覆する

課題の一つとして上記で述べたのは、加熱に伴うマトリックス樹脂の低粘度化によって光ファイバが材料の変形に追従できないこと。

この対策として

「光ファイバを予め評価するFRPと同一薄層材料で被覆し、硬化まで終わらせる」

ということを行っています。

同一材料であればセンサを被覆した硬化済み材料ごと硬化したとしても、異物になりにくいというロジックのようです。
正確にいうと硬化物と未硬化物の間には明確な境界が存在するため、材料力学の観点から同一と言えるかは難しいところだと考えます。
(私が関わった航空機部品では、硬化物の未硬化物への混入は図面で異物として定義していました)

そして薄層であれば柔軟性があるため変形という状態を光ファイバに伝えることができます。
今回のセンサは厚さ0.15mm程度のようです。

この光ファイバを含む積層材の有無で、実際の成形体の変形に影響がなかったことが冒頭の引用記事のFig. 2で示されています。
つまり硬化物が含まれるセンサは材料の変形挙動に影響を与えないということです。

光ファイバを硬化物で被覆するというのは今まであるようでなかった考え方ではないでしょうか。
非常に興味深いアプローチです。

 

光ファイバを上層と下層に設置することでねじり変形しにくく、また曲げ変形による変位を計測可能に

センサは2本の光ファイバをFRPで被覆した幅6mmのスリット材の形態です。
光ファイバ自体は硬化物で囲まれている状態であることから、光ファイバ単体が外部環境の面外変形に伴うねじれ変形を起こしにくくなります。
精度の高いセンシングにはセンサ自体が不要な変形をしないことは前提であることを考えれば大きなポイントとなります。

また2本の光ファイバをセンシングの基本にすることで、曲げ変形が生じた際の変位を求められるようになるとのこと。

適用している理論は「垂直断面は、変形後も部材軸に対して垂直」という仮定をするBernoulli-Euler beam theory というもので、これについては以下のような動画も存在します。

梁として模擬した上記センサに曲げ変形が生じた際、
中立面から上層、下層それぞれの光ファイバの中心までの距離を用いることで曲率を求めることができるようです。

最終的に得られる曲率の数値を積分することで変位の算出が可能になるとのこと。

概要は以下の論文の2.1. Basic Conceptをご覧ください。

S. Minakuchi et al, Strip-Type Embeddable Shape Sensor Based on Fiber Optics for In Situ Composite Consolidation Monitoring,Sensors, 22, 17, 6604 (2022)

 

 

加熱に伴うマトリックス樹脂粘度低下が変形の緩和につながる様子を捉えることに成功

このセンサが実際に変形をモニタリングできるかを検証するため、
0/90の積層のFRPを使った評価について概要が述べられています。

その結果、加熱に伴うマトリックス樹脂粘度低下によって変形が緩和する状態を捉えられたと書かれています。
詳細は上記のSensorsの論文で述べられています。

このように硬化中における繊維の変形を捉えることは、
加熱成形中の加圧タイミングや温度プロファイルの検証に有効な情報となると述べられており私も概ね同意見です。

強化繊維の変形や移動が起こる前に圧力や温度を上げる、
そもそもそのような移動をさせない様パーティングラインを再設計する、
といった検討が可能になります。

もしかするとモニタリング結果をCAEにインポートすることで、強化繊維の変形をより高精度で予測できる可能性もあります。

今後は熱硬化だけでなく、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂としたFRPにも展開していきたいとのことでこれから更に技術が進歩するかもしれません。

 

 

FRPを構成するマトリックス樹脂は高分子です。

高分子の挙動を材料力学の考え方を土台に線形で捉えることは大変難しく、有機化学や高分子化学を土台にマクロ的な視点で概要を理解するという考え方が求められます。

この際に重要なのは切れ目なく状況を把握し、変化点を捉えるということ。

 

今回の技術は加熱硬化という化学反応の最中に、強化繊維がどのように変形するのかということを追い続けることを可能としており、FRPの成形工程の理解の一助になると考えられます。

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