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熱可塑性FRP円筒の軸圧縮破壊における破壊力学パラメータ検証

2022-05-25

今日のコラムでは、熱可塑性FRP円筒の軸圧縮破壊における破壊力学パラメータ検証という題目にて、材料学会誌掲載の論文を参考に破壊を伴うFRPの解析ということについて考えてみたいと思います。

 

評価に用いたのはGFRTPの円筒形状物

今回参考にした論文は以下のものになります。

FRP円筒の軸圧縮破壊における層間の破壊力学パラメータの影響 小池 朝夫 氏他

 

評価対象とするFRPはマトリックス樹脂がPP(ポリプロピレン)、強化繊維がランダム配向のガラス繊維(ガラスマット材に近いものと推測)のいわゆるGFRTPです。

論文中ではスタンパブルシートと呼ばれています。この名称はJFEケミカルからきているものかもしれません。

繊維体積含有率(Vf)は40%、縦弾性率5570MPa、引張最大強度は87.4MPaとされています。

一般的な不飽和ポリエステル樹脂とガラスマットをハンドレイアップで積層したGFRPと比べ強度、弾性率共に半分程度のイメージです。

 

この理由ですが、本評価に用いられるGFRTPの役割が構造部材であると同時に、衝撃が加わった際に自らが破壊することでそのエネルギーを吸収する、衝撃吸収材としての役割が主であることに由来すると考えます。

 

 

評価形状は円筒形状で、上記のGFRTPを6層積層し、先端部分を斜め45°にカット(チャンファーのような形状)しています。

論文中にトリガー(きっかけ)と書かれていることから、衝撃が加わった時の初期破壊を先端から進めるため、応力集中させるのが目的と考えます。

 

 

接着要素を導入し、非線形特性を考慮したモデリング

今回の評価はあくまでGFRTPが破壊する際、どのようなパラメータを設定すべきか、という検証が主目的にあるようです。

そのため、一般的な剛体に対する線形解析ではなく、破壊を表現する必要があります。

 

モデルでは層間に接着要素を導入し、亀裂発生、亀裂進展、最終破壊の3段階を評価すべく、論文中のFig.5で示す Traction Separation Loading Curve (TSLC)というものを導入しています。

つまり、外的応力に応じて連続的に各要素の挙動が変化するということを計算によって示そうとしているのです。

一般的な解析と比べ、かなり複雑な挙動を捉えようとしている、ということがお分かりになるかと思います。

 

ここで円筒形状をそのままモデル化すると計算する量が大変多くなるため、周方向には基本的に破断しないという原則に基づき、円筒の任意断面を抽出し、厚さ方向を拘束したモデルを採用しています。

モデルは実際の積層枚数に基づき6層とし、各層に上述した接着要素を入れています。

材料の入力物性について弾性率は冒頭の数値と同じ、強度は引張最大強度ではなく、降伏強度(塑性変形を始める強度)を100MPaとして入力。密度は1.6g/cm3、ポアソン比は0.3です。

 

 

熱可塑性FRPの破壊に関する予測のためエネルギー開放率を導入

破壊を表現するために必須なもの。それが、エネルギー開放率です。

材料力学ではなく、いよいよ破壊力学が登場することになります。

 

・関連コラム

はじめてのFRP 靭性評価で扱う エネルギー開放率 とは

 

今回は開口モードのMode I についてGIc=3.0 J/m2、せん断モードのMode IIについてもGIIc=3.0 J/m2を採用しています。実測値が無いためどちらのモードも同じ値にしているとのことですが、マトリックス樹脂が熱硬化の場合はMode IIの方が大きな数値を表示しやすい傾向にあることは知っておいて損はないかもしれません。

これらのパラメータ設定を基本とした予備検証において、概ね実試験と同様の破壊モードを再現できている、と論文中では述べられています(Fig.7)。

 

 

外力は垂直応力とせん断応力の組み合わせで評価

今回想定されている(エネルギー開放率を設定した)破壊モードは開口モード、つまり層間方向(厚み方向)の引張と、せん断モードの2種類であるため、外力もこれらの組み合わせで複数水準決めています。

論文中では前者とT、後者をSとして示しています。

詳細はTable 3に記載されています。

 

 

外力のバランスにより破壊モードが変化

実際に複数の外力条件にて破壊をシミュレーションした結果がFig.9に示されています。

見てわかるようにS、またはTのどちらかが一定であっても、もう片方が変動することで破壊モードも変化することが示されています。

特にTを一定でSを変化させた場合の変化は大きく、破壊モードが外力のバランスによって大きく変わるという事実を示唆しているといえます。

 

そしてその破壊は層間破壊が進展する座屈が主体のモード(プログレッシブクラッシングと記載されています)と、円筒の側面が全体的に内面側に変形するという2つの傾向を示すことが明らかになっています。

詳細については論文中の5.1、5.2項をご覧ください。

 

 

どの位置のGFRTP層がエネルギー吸収に最も貢献しているか

この論文で最も興味深いのは本点の切り口です。

破壊を伴うシミュレーションで、各層の役割に踏み込んだ例はあまり見たことがありません。

シミュレーション上で初速のついた錘(おもり)をGFRTPの円筒先端部に衝突させるシミュレーションを行うことで、各層のエネルギー吸収特性を評価しています。

結論としては、6層のうち内面から3層目の層が最もエネルギー吸収に寄与すると述べられています。

当該層に応力ピークが重なるような条件で、最もエネルギー吸収が大きかったということからの判断となっています(Fig.12)。

 

 

 

FRPの衝撃吸収体としての適用を検討するには破壊シミュレーション不可欠

非線形解析は、インプットパラメータの精度にその結果が大きく左右されるため、シミュレーション(解析)そのものよりも、適した材料物性データを準備しにくいという観点で高度な業務です。

 

その一方で、今回のようにFRPを衝撃吸収体として検討することは妥当であることは間違いありません。

強化繊維とマトリックス樹脂という相容れない材料が共存することで存在する「界面」の存在は、破壊という挙動を複雑にします。

それ故に最終破壊までの時間が長く、その特殊な挙動によりエネルギーを吸収しやすいという機能を発現するのです。

 

これはFRPに見逃されがちな特性の一つといえるかもしれません。

 

その一方で今回のような破壊まで含めたシミュレーションを行うにあたっては、材料力学だけでなく破壊力学の知見が不可欠となり、構造設計スキルがグローバルに低下している現代ではますます難しくなっていく可能性があります。

 

今一度、このようなFRPを機械的観点から丁寧に検証するという地道な取り組みが復活し、本質的な研究開発が行われることを期待したいところです。

 

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