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風力発電機のFRP製ブレード材のヘルスモニタリング

2022-01-24

Composite Worldの記事で、エネルギー・産業・公共インフラ等を中心に、
資源保護に向けたソリューションを展開する Mistras が、
Sensoria という企業の風力発電ブレードのヘルスモニタリンスシステムとそのセンサーに関する、
米国の特許を取得するというニュースが出ていました。

Mistras receives patent for Sensoria wind blade monitoring technology

今日はこのニュースも参考にしながら、FRPが多く使われる風力発電ブレードのヘルスモニタリングについて触れてみたいと思います。

 

 

ヘルスモニタリングとは

ヘルスモニタリングは一日24時間、365日状態を監視すること

(Photographed byKevin Ku )

ヘルスモニタリングとは、1日二十四時間、365日状態を監視し、
異常があれば知らせるというセンシングシステムのことを指します。

例えばFRPのヘルスモニタリングの技術としては、

– 光ファイバー

– AE(アコースティックエミッション)

– 超音波

等があります。

例えば光ファイバーですが、大きく分けて「多点型」と「分布型」があり、
歪み位置を特定できる分布型が望ましく、
この領域の研究のトレンドはブルリアン散乱(ブリユアン散乱)であるということについて、
以下のコラムでも述べたことがあります。

FRPにも適用できる光ファイバ センシング の最新研究動向

またアコースティックエミッションについては、
以下のようなコラムやメルマガを書いたことがあります。

アコースティックエミッションを TypeIV の高圧タンク品質管理に採用

カイザー効果 をベースにした AE によるCFRP健全性評価検討

特にカイザー効果は知っておいて損はありません。

カイザー効果 というのは一度かけた荷重を除荷し、
その後再度負荷をかけた時に供試体が健全であれば先行荷重に至るまではAEがほとんど検出されないという、
事実上の許容損傷のような挙動を示す現象です。

上記のコラムでも記載した「重心周波数帯の低周波シフト」の有無によって、
後述する風力発電ブレードの損傷有無を判断している可能性もあります。

このように言葉だけでなく、定量指標を持っておくことは、
設計者としても大切なことだと思います。

 

超音波についてはヘルスモニタリングとして取り上げたことはありませんが、
以下のようなコラムで取り上げたことがあります。

はじめてのFRP- 非破壊検査 2

超音波は検査機器が小型化可能で、
薄肉というFRP積層工程に由来する欠陥形状に対する検知精度が高いことから、
FRPの主たる非破壊検査技術として浸透しています。

ただし、複雑な形状の検査は苦手であること、
検査精度と検査可能深さが反比例の関係にあることなどに注意が必要です。

また、最終的にはA-scope画像という最も基本的な画像を見ながら、
超音波が「きず」として検出したエコーを丁寧に調べる等、
職人的なスキルもある程度は必要です。

 

 

Sensoria が得意とするのはAE

冒頭ご紹介したニュースに登場していた Sensoria のHPはこちらで見ることができます。

これを見ると、Sensoriaのヘルスモニタリング技術の基本はアコースティックエミッションであることがわかります。

Damages that can be detected include cracking & delaminations, active leading-edge erosion,
high energy impacts, lightning strikes, and blade skin ruptures and perforations.

と書かれていることから、
損傷検知ができるのはクラックや剥離、
リーディングエッジ(前縁)の摩耗、衝撃、落雷、
そして表層の傷の検知が可能のようです。

Different kinds of damages result in different kinds of acoustic signals,
enabling AE technology to characterize the damage type, severity, and location down to a single blade.

と書かれていることからも、要は風力発電ブレードの表層に何かしらの損傷が出た場合、
その損傷のタイプによって異なる振動応答が得られる、
という特徴を活用しているようです。

ただ、過去に何度かコラムでも述べている通りAEによる損傷タイプの分解はそれほど簡単ではありません。

この辺りは、生じたAEによるイベントの振動応答の解析を行うための手法をかなり発展させたものと考えられます。

詳細は不明であるものの、HPに記載されている情報からは、
異常が生じた場合はリアルタイムで警告を発信するといった、
ヘルスモニタリングとしての最低限の機能はほぼ網羅しているという印象です。

情報発信対象媒体にスマホが示されているあたりが、今の時代らしいと思います。

 

 

FRP製風力発電ブレードのヘルスモニタリングの他技術である超音波と外観検査

アコースティックエミッションは設備が比較的シンプルで、
センサー自体も圧電素子を使うというかなりシンプルなものであるため故障が少ないことが、
FRP製風力発電ブレードのヘルスモニタリングに用いられる動機になっている印象です。

 

超音波を活用したヘルスモニタリング技術例

イギリスのTWI(接合・溶接研究所)は接合、材料、NDT、構造物健全性評価等の研究を進める研究機関であり、
拡散接合(FSW:Friction Stir Welding)等の得意な技術で有名ですが、
ここではAEに加え超音波を使ったヘルスモニタリングを行っています。

以下の動画が参考になるかと思います。

WinTur project

ここで使われている超音波の技術は、

「Long Range Ultrasonics Guided waves (LRU) 」

というものです。

この技術の概要は以下のページで述べられています。

Long Range Ultrasonic Testing (LRUT)

これを読むとわかるように、
元々は配管の検査に用いられていた技術のようです。

配管の腐食や摩耗を検知できる上、
その検査が遠隔で実施可能と書かれています。

この辺りは動画を見ると少しイメージがしやすいかもしれません。

Long Range Ultrasonic Testing (LRUT) – Dacon Inspection Services

上記で示した遠隔での検査という観点でいうと、
上記の動画で紹介されている検査技術は60m先まで遠隔で調べられるようです。

また検査可能な円管の直径は50mm程度から1200mm程度までと幅も広いです。
接合部も含めて検査可能で、温度環境も120℃まで大丈夫とのこと。

動画を見ると、最初に単眼のA-scanにて超音波探傷のゲイン調整を含めたキャリブレーションを行っています。
材質や温度によって音速が変化する上、配管の厚みに応じて超音波プローブの周波数変更を行わなくてはいけないためです。

音速が変わればどの位置に損傷があるのかといった計測精度が低下し、
また超音波の周波数を上げれば、超音波でいう「きず」すなわち損傷検知感度が上がる一方で減衰しやすくなるため、
遠くまでまた深くまで超音波を届かせるには低周波を選びながら、
精度との兼ね合いでどの周波数にするのかという検討が不可欠です。

LRUTの説明ページでは、

「A ring of transducers is fitted around the pipeline and the transducers generate and receive low frequency ultrasonic guided waves along the pipe. 」

と書かれていることから、超音波の減衰を押え遠くまで届くようにするため、
低周波のものを選んでいることがわかります。

実際動画中でも腹巻のように配管の周りに装置を巻き付けている画像があります。

これが超音波の送受信機(tranceducer)です。

超音波を発信し、また戻ってきたエコー(反射波)を受け取る受信機が一体化されているもので、
反射法と呼ばれる超音波検査で用いられるタイプと同じものです。

エコーを分析することで、送受信機を取り付けた位置からどのくらいの位置に、
腐食や損傷の可能性とみられるエコーがあるかをPCで分析しています。

複数位相でエコーが見られるタイプのようです。
これは、円管断面の位相ごとに異なる送受信機を使っているために可能となっています。

動画ではある特定の位相についての検査結果が示されています。
これはA-scopeと呼ばれる画像になります。

真中が最も高いエコーが出ており、それを中心に左右にいくつかのエコーが示されています。
中心部の高いエコーがいわゆる表面波、つまり送受信機の位置になります。

そこから左右に広がるに従い、中央付近からなだらかに低下する曲線が示されており、
それぞれが何かしらの閾値を示していると想像しています。

例えば破線と緑の線の間のエコーがあればDent(へこみ)、
緑と赤の間は配管接合部等です。

尚、一般的には音圧であるdB(デシベル)値が、
きずが全くない場合に生じるであろうエコー高さに対し、半分になる6dB(≒20log100.5)低下した高さを閾値と決める場合が多いです。
ただし、上記ではエコー発生(反射波の発生)の事象が、
何に起因するのかによって閾値を変化させているのかと想像します。

 

ヘルスモニタリングでは、超音波の送受信機をブレードの内部に貼り付け、
超音波のエコーである受信データをレシーバーで受け取るという仕組みのようです。

初期の頃に比べ、何か異常があれば、エコー高さに変化が生じるという仕組みだと考えます。

上記の円管検査技術を、同じく内部が隔壁があるものの中空である風力発電ブレードに、
うまく応用したといえるでしょう。

 

AIを活用した画像解析による外観検査技術例

またこれ以外にも外観検査という技術もあります。

ただ、もちろん人が外からみるわけではありません。

AIを用いた外観検査技術です。
以下に動画があります。

Wind turbine damage detection

外観写真をAIで検証した上で、
損傷等の異常領域と認識される恐れのある個所をクローズアップするという技術です。

クラックや摩耗等、状況による区別もできています。

最終的な確認は人が行うようですが、
人による確認では抜け漏れが生じるかもしれない、
というリスク低減には効果のあるアプローチです。

AI発展の基礎ともいえる機械学習については、以下のコラムで取り上げたこともあります。

高分子のニューラルネットワークとFRPへの展開の可能性

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

風力発電ブレードに対するヘルスモニタリングは、今後ますますニーズが高まると考えられます。

その理由の筆頭ともいえるのが、

「洋上風力発電の拡大」

です。

海上の風力発電ブレードは、陸上のそれと比べ遥かにメンテナンスがやりにくい。

そのため、ヘルスモニタリングで常に状況を監視し、
何かの損傷が生じた、またはその可能性がある場合に加え、
メンテナンスのタイミングを知ることで、
発電をできる限り絶え間なく行うための土台を構築する役割が重要になります。

再生可能エネルギー最大の欠点ともいえるのが発電の不安定さです。

自然現象からエネルギーを得ることを前提とすれば、
発電量に凹凸が生じるのは避けられません。

しかし、設備側の問題で発電ができないという状況だけは何とか回避したい。

そのような戦略が根底にあることを読み解くことがポイントといえそうです。

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