FRP業界での活躍を目指す企業のコンサルティングパートナー

高分子のニューラルネットワークとFRPへの展開の可能性

2021-08-30

今日はここ数年トレンドになっている人工知能AIの一部である機械学習に関し、応用物理学会の学会誌で紹介されていた「学習する有機材料」という研究紹介の一部をスタートとして、FRPへの展開について考えてみたいと思います。

機械学習による高分子の挙動はFRPの新たな性能発現の可能性につながる

機械学習とは

詳しい解説は機械学習の事を紹介しているサイトや書籍(例:機械学習入門 ボルツマン機械学習から深層学習まで)に譲りますが、機械学習というのは上述の通り人工知能AIの一部であり、入力データに対し、何らかの解析を行うことで、判断や予測をすることであると認識されています。

機械学習は入力データに対し、実際の出力データが両方ともそろっている場合を教師あり学習、入力データのみで出力データが無いものは教師無し学習と言われています。

そして機械学習は大きく分けて、

・数値予想

・クラス識別

・クラスタリング

・次元削減

の4つの機能があると考えられているようです。

数値予想はその名の通り、予測値との違いの誤差関数を最小化するということによって回帰分析を行うイメージに近いです。こちらは教師あり学習です。

クラス識別は教師ありが基本です。カテゴリー分け(グループ分け)をすることになります。文字認識が一例です。

クラスタリングは教師無しの状態で、カテゴリー分けをすることのものを言います。ECサイトのリコメンドが一例です。

次元削減は高次元のデータから本質を抽出し、より低次元に落とし込むことを言います。

今回ご紹介する研究論文は最初の数値予想に該当するもののようです。

 

 

導電性ポリマーニューラルネットワーク

冒頭にご紹介した「学習する有機材料」の論文の中に、導電性ポリマーニューラルネットワークという項があります。

ここでは、EDOT(3,4-エチレンジオキシチオフェン)のモノマー溶液(重合前の化合物)を高周波の矩形波高電圧を印加することで、導電性ポリマーであるPEDOT(EDOTの高分子):PSS(ポリスチレンスルホン酸)がワイヤ状に成長するという現象に関して述べられています。

ここでは、入力電圧から出力電流を算出させ、その後、得られた結果からコンダクタンスをニューラルネットワークにおける「重み」として学習させるということを行っているとのこと。

ニューラルネットワークというのは脳の神経細胞の結合を模擬したモデルで、入力値をインプットする入力層、最終的に得られる出力層、両者の中間にある中間層から形成されています。

中間層は複数層(多くは2層以上)で形成されており、複数の計算を行う活性化関数を有する人工ニューロンが無数につながっている状態にあります。

この入力層から中間層を経て、最終的に到達する出力層までの道筋において、もっとも期待値に近い出力を生み出すつながりを太くすることを「重みづけする」といい、上記でいう「重み」に該当します。つまり重みを最適化することで、予測精度を上げるということになります。

尚、入力層から出力層に向けて深くなると表現されることから、中間層が2層以上存在するような機械学習は深層学習と呼ばれることもあります。

 

話が機械学習にそれてしまったので元に戻します。ここで重要なのは、

「電圧印加によって成長した導電性ポリマーが無駄な配線をせずに機能を最大限に発現した」

という事象です。

これはどのようなことを示唆しており、FRPへどのような展開が期待されているのでしょうか。

 

 

FRPへの展開の可能性

上記の研究紹介で重要なのは、

「人がコンダクタンスを考えながら、どのように配線すればいいかということに関与せず、無駄な配線なしに回路が完成した」

ということです。

そこには明確な理論があるというよりも、電圧という自然の入力パラメータに対して反応した高分子の自然な成長がその答えを示したということです。

 

つまり、従来の知見である構造設計やFRP材料設計という枠組みではなく、材料がFRPとして最も性能を発現する強化繊維の基材設計、マトリックス樹脂の特性に加え、FRPの異方性を活用した形状の検証というものを、機械学習に基づいて行うことで、

「人が気が付かなかった新たな自然のルール」

が導かれるかもしれないと考えられます。

 

当然ながら機械学習の精度向上には、入力層と出力層の設定、すなわちインプットとアウトプットの設定が適切であることが最重要です。

機械学習以前に人の条件設定がおかしければ、機械設計はうまくいきません。これはどのような分析、解析でも同じことです。

 

また機械学習は単純な線形近似が不得意なアルゴリズムが多いといわれており、極めてシンプルな事象であれば、最も単純な線形回帰分析が最も適切であるという可能性もあります。

 

更には機械学習はその判断に至る途中経過がブラックボックス化しやすいというデメリットも忘れてはいけません。途中経過のわからない計算程、恐ろしいものは有りません。応用が利かない上、少しでも予測がずれると破綻するといった危ういものが出てくる可能性もあります。

 

しかしながら、上記の課題やリスクも理解した上で機械学習を今後のFRP材料設計や構造設計、更にはFRP材料の機能化といった検証に適用していくことは、今後も求められることと考えます。

 

今日は機械学習という分野に絡めて述べました。

 

何かしらのご参考になれば幸いです。

 

 

 

 

Copyright(c) 2024 FRP consultant corporation All Rights Reserved.
-->