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炭素材料表面の昇温離脱による官能基分析

2022-01-17

FRPは強化繊維とマトリックス樹脂を組み合わせた複合材料です。

複合材料は繊維とマトリックス樹脂間の応力伝達が効率的に行われる、つまり一体化することが重要であるというのが基本的なコンセプトになります。

そのため、強化繊維の表面状態を知りたいというニーズは高く、例えば昨今増加傾向にある熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした場合、その強化繊維側のサイジング剤、つまり表面処理剤の組成も変更させるというのは繊維メーカーが力を入れる取り組みの一つといえます。

強化繊維と樹脂の間は「界面」と表現され、粘着、接着における高分子の 界面 について、といった題目でコラムを書いたこともあります。

このような中、炭素材料の表面を昇温時の離脱成分を解析することにより、その表面状態を調べようという取り組みが出てきています。今日はこの技術の概要について解説します。

 

昇温離脱分析/TPD分析とは

昇温離脱は Temperature Programmed Desorption (TPD)とよばれ、測定試料を不活性雰囲気(例:HeやN2等の安定した気体で満たされた環境の事)で加熱させ、表面の含酸官能基(酸素を含む化学的特性を示す構造式単位)を分離、脱離させた上で、放出されたCOやCO2を定量分析することで、試料表面の構造を調べるという技術です。この技術を用いた分析を、TPD分析といいます。

このTPD分析を炭素材料、その一例として炭素繊維の表面分析に用いるという研究例もあります。

例えば松村博士らが報告した、熱処理により構造変化する炭素材料の昇温、離脱、昇温還元、昇温酸化による解析では、PAN系、Pitch系の炭素繊維に対し、TPD分析を行った研究結果について報告しています。

本研究では、TPD分析に加え、TPR分析というものが用いられています。TPRはTemperature Programmed Reductionという昇温還元のことで、昇温環境に充填される気体として不活性ガスではなく、H2を用いています。還元反応をさせることがその狙いにあります。TPD、TPR共に石英反応管中で1100℃まで炭素繊維を加熱させ、それぞれHeとH2を流して試料からの離脱ガスを含む気体をマイクロガスクロマトグラフで計測することで、COやCO2の放出挙動を捉えています。これらの挙動はガウス関数(正規分布の確率密度関数もガウス関数の一種です。過去に月刊誌機械設計にて、正規分布の確率密度関数適合度検定をご紹介したこともあります。)を用いることで波形分離できるとのこと。この辺りは Modification of the surface chemistry of activated carbons といった文献にて概要が説明されています。

詳細は引用文献をご覧いただければと思いますが、TPR分析だと試料の構造変化(炭素六角網面の成長、当該網面の融合、積層構造への発達等)が抑制される一方、この抑制故に官能基の分解挙動が抑えられることから表面分析には不適切であり、分析にはTPRよりもTPDの方が望ましいという結言が述べられています。

 

TPD分析のFRPへの適用のメリット

試料加熱時に放出したCOやCO2の離脱温度により、試料表面に存在する官能基が酸無水物(R-CO-O-CO-R’)、エーテル(R-O-R’)、ヒドロキシル(R-OH)、ラクトン(R-CO-O-R’)、カルボキシル(R-CO-OH)、カルボニル(R-CO-R’)が含まれるかを知ることができるのが、TPD分析最大の強みといえます。

例えばRTM等の樹脂未含浸の強化繊維を購入し、他のマトリックス樹脂と組み合わせてFRP成形体を得たい場合、マトリックス樹脂と強化繊維の界面接着性についてフラグメンテーション法、マイクロドロップレット法またはプッシュアウト法等で評価するというのも一案です。しかし、強化繊維は選択肢が限られることも多いのが実情です。そこで、強化繊維側の官能基を定量的に評価し、その官能基と化学的な結合を形成すると期待される官能基を有する、または濡れ性の良いマトリックス樹脂を選択するというのが一案です。

 

その他、留意することは何でしょうか。

 

他の繊維でも評価が可能か

まず考えるべきは炭素繊維以外のFRP向け強化繊維の分析は可能かという観点です。

まず加熱温度が1000℃を超えるため、有機繊維は難しいでしょう。

その一方でガラス繊維は融点が1400℃程度で評価できる可能性があります。しかしながら、環境温度的に既に軟化が始まっているため、表面処理剤として離脱する化合物が軟化したガラス繊維中に取り込まれる、放出されるガスの濃度が変化する、といった可能性もゼロではありません。

とはいえ、FRPで用いられている強化繊維のほとんどはガラス繊維ですから、加熱温度の低下を含む評価条件見直しも考慮しながら、このような繊維が評価可能かについて検討することは興味深いアプローチかと思います。

 

昇温時に表面処理に用いられた有機物の組成変化は無いのか、有機物以外の評価は

冒頭に紹介した研究結果の中では、一度TPD分析やTPR分析を行った後は、同等の温度(1000℃以上)をかけても、それ以上離脱ガスが生じなかったということは確認されています。当然より高温域で離脱する物もあるかもしれませんが、今評価したいものが有機物由来のガスであるという想定であれば、それ以上高温域での評価にこだわる必要はないような気がします。

一点気になるのはそもそもこのような高温にさらすことで、表面に存在する化合物の組成が変化してしまうのではないかということです。そもそも昇温過程で想定されない副反応が生じて、COやCO2の放出挙動から捉えられる官能基とは異なる化学構造(例えば官能基を起点として重合が進み、複雑な三次元網の目構造を形成する等)になる可能性もゼロではありません。

また、FRP強化繊維の表面のサイジング剤には有機物だけでなく、濡れ性や密着性を高めるためのシランカップリング剤や、当該特性を有する有機金属化合物等が含有されている可能性もあります。例えば有機金属化合物は、金属種によっては加熱によりルチル構造(正方晶構造の一種で、化学式AX2で示される結晶構造。Aは陽性元素、Xは陰性元素。参照:理化学辞典第5版)等の結晶構造を構成し、ガスとしては離脱しないと考えられます。今回の評価対象としている官能基だけでは、強化繊維の表面状態理解には不十分である可能性もあります。この場合はTPD分析後の試料について、金属酸化物を分析できる別の手法で再分析するといったアプローチが必要になるかもしれません。

 

 

TPD分析や関連する各種分析を行うにあたっては、外部委託を行うのが一つの選択肢になります。

例えば株式会社UBE科学分析センターは、TPD分析に関する紹介ページを公開しています。このような設備と知見を有する企業と相談しながら、評価計画を検討するというのが妥当だと考えます。

 

強化繊維の表面状態分析手法の一つとしてご参考になれば幸いです。

 

 

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