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プリプレグを用いたFRP成形にポイントとなる裁断

2021-11-29

アメリカのフロリダに本社を構えるRapid Composites。

UAV(Unmanned Aerial Vehicle)つまり、ドローンをはじめとした無人飛行を行う航空機を製造する企業です。

Rapid Composites が Eastman Machine Company という設備メーカーの高速裁断機を導入し、
FRP製の製品製造の効率化に効果を発揮しているという記事が出ていました。

該当する記事は以下のものです。

Precision Cutting Enables High Speed Composites Molding Process

今回はこの記事を参考に、FRPの裁断について、
その役割、概要、そしてその留意点について述べてみたいと思います。

 

 

FRPは繊維産業の流れをくんでいる

FRPは強化繊維とマトリックス樹脂を組み合わせた複合材料です。

そのため、FRPの成形加工という一連工程において、
強化繊維の源流ともいえる「繊維産業」を感じることが多くあります。

その代表例が、

「裁断」

という工程です。

以下、「FRP材料」は強化繊維に既に樹脂が含浸されているプリプレグを想定しているとします。

FRPを用いた成形体を得る場合、
薄いFRP材料を何枚も重ね合わせる、いわゆる積層という作業を行います。

積層を行わないと成形物で必要な厚みが得られないからです。

当然ながら裁断されたFRPは平面形状です。

それをプリフォーム型や成形型という、三次元形状を有する型の上にに積層していきます。

 

平面形状の材料を用いて三次元形状のものを作るのは、
実は結構難しい作業です。

厚み方向に材料を変形させようとすると、
材料の形状追従が難しくなるにつれ、
しわ、つっぱり等が生じます。

そのため、FRP材料を裁断するにあたっては、
三次元形状を純粋に投影した画像というよりも、
成形後の三次元形状になった際、材料ができる限り形状が追従しやすいよう、
裁断する形状を設計することが求められます。

尚、裁断するFRP材料形状の事を、

「カットパターン」

ということが多いので、覚えておいて損はありません。

以下は積層前の裁断済みFRP材料の形状を指すのに、この言葉を使いたいと思います。

 

 

Eastman Machine Company の裁断機の特徴

冒頭に紹介した記事に登場した裁断機を一例として、技術的なポイントを見てみます。

設備名称はEastman S125 cutting tableと書かれています。

カットスピードは最速で 60 inches per second (152.4 cm/sec)。

裁断公差は約+0.5mm、-0.25mm。

刃物はX-Y方向に動くタイプです。

稼働中に2、3の異なる形状の刃物で裁断できるよう設備に設定されており、
使える刃物は60種類になるとのこと。

刃物の素材は六方晶系結晶である炭化タングステン、つまり超硬材。
硬度に加え、強度と弾性率を高めることを最優先にしており、刃物向けとしては妥当な選定です。

使われている刃物はDrag Knifeと呼ばれる、先端が斜めになった刃物。
鋭く厚み方向に差し込まれ、刃物を引くようなイメージでFRPを裁断します。
刃物の角度は30、45、55°と3種類用意されているようです。

 

ここまでを見る限り、何か特筆して性能が高い(低い)ということは無さそうです。

 

 

特に書かれていませんが、恐らく材料を載せるテーブルは減圧ができるような機構となっており、
上から薄いフィルムをかぶせるなどして減圧することで押さえつけ、
裁断中に材料が動かないようにすることは可能と想像します。

 

このような裁断機を入れることで、手作業による裁断が無くなり、
手のまめができるような状況を回避できると前述のリリース記事に書かれています。

かくいう私も比較的厚めのFRP材料(プリプレグ)を手切りしていた際、
良くまめができたため、この意味はよくわかります。

 

 

カットパターンを設計するソフトウェア

裁断機に実装されるのが、 patternPRO Design & Nesting Software というソフトです。

やはり一番のポイントは「3D Flattener (3D to 2D)」、
つまり3次元形状から2次元図への展開です。

これにより3次元形状に適したカットパターンを決めることができます。

厚みが場所により異なる場合は、
輪郭全体を埋める形状のものに加え、
厚みを持たせたい部分に局所的に適用する小さなカットパターンがいくつか存在する可能性もあります。

そのためカットパターンを決めるにあたってはこのような小さいカットパターンを組み合わせながら、
材料の無駄、つまり材料の廃棄ができる限り少なくなるよう、
カットパターンを詰めていくということも大切な観点です。

 

このようにカットパターン設計にソフトウェアを使うことで、
2次元から3次元に成形した際の問題を最小化しつつ、
材料を無駄を最小化するというのは鉄板のアプローチといえます。

 

今回のような裁断について留意すべきことについて述べたいと思います。

 

 

カットパターン設計では材料配向を考慮の上で材料の無駄をなくす

カットパターン設計では、材料の無駄が無いようレイアウトすることで、
廃棄材料を最小化するということについて触れました。

しかし、ここで忘れてはいけないのは、

「FRP材料は異方性材料であるため、材料の配向を無視できない」

ということです。つまり、純粋に材料の無駄が無いようにカットパターンを決めるというよりも、

「積層設計に基づいた材料の配向を維持しながら、材料の無駄が無いようカットパターンを決める」

というアプローチが必要となります。

多少の廃棄材料が出たとしても、必要な材料の配向、
つまり強化繊維の配向を維持できるようカットパターンをレイアウトすることが不可避です。

 

 

厚手のFRP材料はなかなか切れない

前述のリリース記事で一つ注意しなくてはいけないのは、

「The nominal thickness of the material is anywhere from 0.04” to 0.09”. 」

という文章です。

要は1mmから2.3mmくらいのものを裁断できると書かれています。

恐らく一般的なプリプレグ形態のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の場合、
2mmを超えるような厚みの材料をDrag knifeで裁断するのはかなり難しいと思います。

多少の切れ込みを入れることはできるかもしれませんが、
手作業による裁断が不可欠だと思います。

ランダム配向のSMC(Sheet Molding Compound)はさらに厄介です。
厚手である上に繊維があちらこちらに配向しているため刃物が入りにくく、
またマトリックス樹脂の存在によって粘りが生じるからです。

裁断機でこのような厚物を裁断したいのであれば、
長い刃物が必須です。

当然長くなるので剛性を維持するため刃物自体も広幅になり、
さらに刃物を上下運動させる可能性もあることから、
設備自体も大型になる可能性もあります。

もしかするとオプションでそのような刃物やアタッチメント機構もあるのかもしれません。

いずれにしても、厚いFRPは切ることが難しいことを知っておくといいかもしれません。

 

 

アラミドは簡単には裁断できない

冒頭ご紹介したリリース記事では、
アラミド繊維やそのプリプレグも裁断できると書かれていました。

刃物の選定や裁断パラメータ設定によっては本当に可能であるのかもしれませんが、恐らくかなり難しいでしょう。

アラミド繊維は防弾チョッキにも使われるような繊維なので、なかなか切れません。

しかも裁断できないだけならいいのですが、刃物に引張られ、材料自身が動くと最悪です。

アラミドを強化繊維としたFRPは素晴らしい性能も示すのですが、
その性能故のこの切りにくいというところが私自身の苦い思い出につながっています。

 

 

過去に裁断機についてコラムで取り上げたこともあります。

こちらも合わせてご覧ください。

Zund が裁断工程高効率を実現する裁断機を発表

 

 

FRP成形加工で盲点かつ比較的難しい裁断という工程。

複雑形状、大型形状、厚み変化がある形状といった場合、
カットパターンが多くなるなど、様々なノウハウが必要な工程といえます。

しかし裁断については、この技術で先行している衣料業界の存在により、
技術の流用が可能な部分があるというのはFRP業界にとってメリットであると考えて間違いは無いでしょう。

ただしFRPは構造部材に使われることもあるため、材料の配向、
つまり強化繊維の方向性を考慮しながらカットパターンを決めるということが求められます。

 

ご参考になれば幸いです。

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