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CAEソフトメーカーAltairは何故材料データベースを重視するのか

2021-10-19

FRPに限らず設計開発業務にいまや欠かせないツールとなっている computer-aided engineering (CAE)。
試作の回数をできる限り減らし、設計の最適化を行おうとする流れは、
PCをはじめとした情報処理媒体の進化を考えれば当たり前とも言えます。

このような中、アメリカに本社のある Altair が、
Altair Material Data Center (AMDC) と呼ばれる材料データベースの強化に向け、
コンソーシアムを立ち上げたというニュースが入ってきました。

何故ソフトウェアの企業が材料データを重要視するのか、
ということを疑問に思う方もいるかもしれません。

今回の発表内容の概要の説明の後、
CAEと材料データの結びつき、
並びに材料データにおける留意点を解説します。

 

 

材料物性値というインプットパラメータの重要性に重きを置くAltair

Altairは元々材料データの重要性を述べてきたソフトウェアメーカーの1社です。

2020年10月にはプラスチックを中心とした材料データベースと材料情報システムを提供している、
M-Base Engineering + Software社を買収しています。

本件については以下のようなページも合わせてご覧ください。

※ Altair、プラスチック材料データとテクノロジーの分野を牽引するM-Base Engineering + Software社を買収
※ M-Base Engineering + Software

上記のリリース記事を読んでいただくとわかるかと思いますが、
Altairは CAMPUS(Computer Aided Material Preselection by Uniform Standards)を有する、
M-Base Engineering + Software の技術とノウハウを高く評価しており、
”適切な”材料データ有無がCAEの成功可否に大きな影響を与えるという、
信念を貫いているようにも感じます。

上記はあくまでプラスチック材料(高分子材料)についてである一方、
実際の構造解析にはプラスチックだけでなく、金属材料やFRPをはじめとした複合材料についても、
同様に信頼ある材料データが不可欠であると考え、
Altairは関連する企業が集まるコンソーシアムを立ち上げています。

これについてはJECやComposite Worldのリリース記事でも発表されています。

※ Altair launches consortium to accelerate world-class Altair Material Data Center for engineers and designers

このコンソーシアムには Nikola Motors や the National Institute for Aviation Research も迎え入れ、
自動車や航空といった様々な潜在的ユーザーともつながりながら実経験を取り入れ、
材料データベースの強化と最適化を狙うという役割が期待されているようです。

材料データの取り扱いについて、自動車業界は各社でノウハウを構築する傾向があり、
航空業界も同様ですが統計学などの古典理論を応用した基本を重視する傾向にあります。

どちらも材料データベース強化には不可欠な要素といえます。

クラウドを使いながら多くの技術者や設計者をつなぎ、
CAEの適正利用に向けた後押しをしたい、と述べられており、
単に材料データベースを強化したいというよりも、
これを一つの土台として Altair の本業であるCAEの浸透につなげたい、
という狙いがあるのは明白です。

 

 

CAEの成功可否は条件として入力する材料データに大きく依存する

CAEはかなり幅広い表現になります。
例えば構造部材の代表的なCAEの一つである応力解析にスポットを当ててみます。

CAEは主に3つの役割を担うソフトで構成されます。

実際のCAEを行う順番に、

・プリプロセッサー(ソルバー向けのインプットデータを準備)

・ソルバー(計算を行う)

・ポストプロセッサー(計算結果を表示)

と呼ばれます。( )内は主な役割です。

最近のソフトウェアはこれらが一体化しているものも多く、
例えばプリプロセッサーとポストプロセッサーが組み合わさっているものは、
プリポスト(正式にはプリポストプロセッサー)と略称で呼ばれることもあります。

プリプロセッサーはソルバーに入力するインプットデータを整えるのが役割です。
応力解析であれば有限要素法による計算を行うためのメッシングはもちろん、
結果に影響を与える境界条件、拘束条件、外部荷重を設定します。

そして、材料データという条件もこのプリプロセッサーに入力します。

ソルバーというのは「計算をする」ということが役割です。
応力解析でよくみられるような青や赤といったカラーコンターを使った表示をすることはせず、
純粋に計算だけを黙々と行います。町工場の現場のおじさんのような印象でしょうか。

ポストプロセッサーは一般的によく目にするグラフィックを表示するものです。
ソルバーの結果を見やすく示すのがその役割です。
本当は応力解析も結局のところ行列計算という数学が基本ですが、
数字だけ見せられても結果のイメージが付きにくいだろう、
ということでモデル形状にコンター図を入れる、局所的な応力ひずみ線図をグラフとして表示する、
拘束条件や境界条件を色分けして表示するといった事を行います。

 

上記の通り、CAEで業務を行う場合、
その条件設定のパラメータのひとつである材料データはプリプロセッサーに入力します。

尚、以下のAltairのページでは、材料データベースは直接ソルバーに接続されると書かれていますが、
これはソルバーに材料データベースの材料データをインポートするという意図だと考えます。

※ Altair(R) Material Data Center (TM)

 

上記の材料データをプリプロセッサーに入力するということについて見方を変えると、

「CAEによる計算結果は、最初に入力した材料データによって変化する」

ということがお分かりになるかと思います。

 

つまり、得られた結果の良し悪しは、拘束条件、境界条件、メッシングといったものに加え、

「材料データが結果に大きな影響を与える」

ということになるのです。

 

これが Altair が材料データベースの重要性を訴えている背景であり、
私が繰り返し、以下のようなコラムで材料データの重要性と、
技術雑誌の連載で材料データ分析に必須の回帰分析を解説する理由なのです。

※ FRPの静的材料データの ばらつき 考慮に向けた統計的考え方

 

今回の話を踏まえ、考えるべきことについて述べてみます。

 

 

物理特性と機械特性の違いを理解する

多くの方が誤解しているのがここです。

上記で紹介した「Altair(R) Material Data Center (TM)」というページには、
扱う材料データとして、

A common database of structural, fatigue, fluid/thermal,
and electromagnetic properties including manufacturing process specific data.

と書かれています。基本的な構造設計に使うデータに加え、
疲労、流体、熱、電気などの特性をプロセスデータとの関連も含め格納されているということです。

 

実は上記のデータには大分類として、物理特性と機械特性が混在しているのですがおわかりになるでしょうか。

物理特性は、流体、熱、電気などの特性です。

物理特性はその材料が有する固有の特性なので、
材料の物理定数とも呼ばれます。つまり定数なのです(もちろん、温度などの外的要因による変動はあります)。

それに比べ、破壊強度、疲労強度(振幅強度と疲労破壊サイクル数の関係から算出)は機械特性です。

機械特性は物理特性と異なり、基本的には高ければ高いほど良いというのが基本の考えです。
材料の定数という考えではないのです。

そのため、材料仕様や技術要件を記載する材料規格等には○○MPa以上と書きます。
下限値を設定するのです。

 

ここで一番誤解が多いのが弾性率です。
弾性率は材料の仕様によって支配される「物理特性」です。

物理特性だからこそ、複合側が成立するのです。
(強度でも複合側を使う例もありますが、弾性率に対して使うのがより一般的です)

弾性率の要求値に下限値のみを設定するケースも見受けられますが、これは間違いです。
物理特性は上記の通り定数なので、上限値と下限値による範囲で指定するのが正解です。
(尚、明確に弾性率がいくつ以上でなければならないという設計要件があるのであれば、その限りではありません)

よって、機械特性については回帰分析等を応用した非破壊確率予測によって、
下限値を設定するのが設計の鉄則である一方(破壊しないように設計するのが基本であるため)、
物理特性については真の平均値である「母平均」が知りたいので、信頼性区間を算出するのが一般的です。

 

そしてもう一つ知っておいていただきたいこととして、

「強度等の機械特性を応力解析のCAEに使うことはほとんどない」

ということです。

構造解析で使う材料特性は基本的に、

・弾性率

・ポアソン比

・密度

・SS線図(非線形解析の場合)

等です。

外部から荷重がかかった時にどのような変形をし、どのくらいの力がかかるのか、
ということを知りたいと考えれば自然のことかもしれません。

上記のAltairの材料特性もそのようなことを理解の上で保管されているはずですので、
材料データを取り扱う側の技術者や設計者は、
上記の前提を理解しておくことは必須といえるでしょう。

 

FRPは強い異方性があるため、個別データ取得が必須

最後にFRPに関するお話をしておきます。

今回のAltairが何故材料データベースを構築したのかについての答えに近いかもしれませんが、

「異方性のあるFRPは実測データのみでしか正確なCAE実施は不可能」

ということです。

計算をするだけであれば、今の市販ソフトでも用意されているFRPのデータでもできるでしょう。

しかし、実測と比較した場合、ほとんど合わないと思います。

 

これはFRPの材料特性が、強化繊維の基材構成、配向、目付、そしてマトリックス樹脂の種類、目付、
更には成形時の繊維配向の変化等によって変化するからです。

成形時に繊維配向が変化することについては、最近のコラムでも述べています。

※ 射出成形シミュレーションソフト Moldex3D をRTM向けに適用

 

そのため、

「異方性のあるFRPでは、材料そのものによる実測の材料試験でしかCAEに耐えられる材料データは得られない」

ということになります。

 

上記の考えから、Altairは種類は限られるものの材料データをデータベース化したのです。
FRPの材料データは単純なものを除き、予測できないからです。

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自社のCAEソフトウェアを適切に使ってほしい。
だからこそ、その精度に大きな影響を与える土台ともいえる正確な材料データを取り入れる。
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Altairが言いたいことは上記なのかもしれません。

 

 

FRPでCAEを行いたいのであれば、カタログデータなどに依存せず、
上記のようなデータベースを活用するか、
無ければ面内と層間、せん断、引張、圧縮などの各特性を、
実測として取得することは不可避と理解しておくことが肝要です。

 

 

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